三橋「アンテナよし、地デジよし、オレ ミハシ!」

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82むいむい ◆3vY6c39Vys
>>81
「朝やるのも限界あるからオレらさっき分担した、けど原はともかく田島マジあてにならなすぎ」
向こうからは、息遣いと鼻をすする音に混じって車の通る音が聞こえる。
考えないようにしていた子供の三橋の泣き顔を思い出し、だんだんつらくなってくる。
「いっ、いず、びぐしゅっ」
「ぶは、何だそれ風邪?つかなに外出て余裕かましてんだ、今日そろそろ雨降んぞ」
名前とクシャミを混ぜられ、やっと多少笑えた。
「……あ、め」
「そーだよ、花井が言ってたろ。明日の朝練のこと」
「雨、が降った ら、濡れ る…。泉君、あっありがとう、オレもう行く、ね!」
通話が切れ、泉は返事をする間もなかった。
変な奴、と首を傾げてみたものの、なぜか急いでいたような切り際が異様に気になる。
「何だよもう行くって…、行く?」
どこへ?

泉は少なかった三橋の言葉を思い返してみる。
雨が降ると教えた途端、三橋の声は少しはっきりと聞こえた。
それまでは自分が一方的に喋り、相手は何やらふぐふぐ言っていたのだ。
聞き慣れてしまった泣き混じりの声は、メールの返信ができなかったことで余計な罪悪感を持ったせいだろうと思っていた。
アイツは取るに足らないことを気にしすぎるからと、話している間はあまり気にしなかった。
だが違和感がある。もうそんなことでは、多分三橋は泣かない。
ウジウジと鬱陶しい泣き虫が少しずつ変わっていくのを、自分は近くで見ていた。
もし泣いていたとしても、泣いてんのかと問われるのを恐れて電話ではなくメールで詫びてくる。そういう奴だ。

バタンと机に手をつき、立ち上がる。宿題を続ける気は失せた。
玄関から居間に向かってちょっと出てくると宣言し、小言が返ってくる前にドアを閉めた。

門を出てとりあえず学校へ向かう方面に自転車をこぎ出す。携帯を繰って三橋の番号を選ぶ。
「慣れる、わけねーだろクソが」
どこにいる。そんで、何やってんだ。

 (ここまで)