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鳴き声がしていた。朝からずっと、どこからか聞こえて来ていた。
月あかりの下で小さくなって震えていた。俺はもっと早くに何故見つけようとしなかったのか酷く後悔した。
やっと目覚めてくれた時には心底安心した。俺の顔を見るとにゃあと鳴いた。
済まない気持ちが一杯になった。先に温めて室温に冷ましたミルクを皿にいれて鼻先に出した。
ミルクは確か猫専用のじゃないとお腹壊すんだっけかな。始めはおずおずと、やがては物凄い勢いで皿を舐めた。
蜜柑色の毛はパサパサになっていて母猫からはぐれて随分経っている事が想像できる。
母猫に戻してあげるのが一番なんだが、一日鳴いて呼んでいても来なかったんだもんな。
知り合いに子猫の引き取り手の依頼をメールしまくったが、返事は芳しくない。
取り敢えず住んでいるアパートはペットを飼う事を禁じていないので、猫がここにいる事は何ら問題ないのだが。
いかんせん、仕事の関係で殆どアパートには寝に帰る様な状態だ。そんな俺の元じゃ猫が可哀相だよなあ。
次のミルクをねだる様に足元からにゃーっと鳴き声がした。お前、がっつくと腹を壊すぞ。
しょうがないな、冷たいから少し待っていろよ。俺は洗ったみたいに綺麗になった皿を取り上げた。
にゃあと短く鳴くと小さくクシャミをした。名前、何にするかな・・・夏の間は仕事多くないから引き取り手を急がなくてもいいよな。俺は段ボールにバスタオルを敷き詰めた。