俺「口の中に入れたとたんトロトロだぜ…」

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斜めになったポスターを直すと、酷く懐かしい気分に襲われた。
ついこの間までこのポスターの中にある高校球児のように野球やっていたんだよな。 
飲み物をいくら摂っても全部汗に出てしまっていたな。
コーラなんか飲んでも当時はちっとも太れなかった、今にしては羨ましい限り。もっともあんまり炭酸は飲まなかったけど。
嬉しい事ばかりではなかったけれど、思い出すといとおしい。野球が無ければ三橋に会う事も無かったんだもんな。
氷を砕く音が隣の台所から聞こえてくる、昼食はどうやら素麺らしい。麺を茹でる匂いと油揚げを軽くあぶった匂いが交錯する。
薄めの浸け汁が好みだからそれだけは自分でやら無いとな、三橋はいつまで経っても俺の好みを覚えてくれないしな。
「薬味はどうする の」三橋の声が聞こえてきた。「好き嫌いねーから任せるよ」俺は寝室のポスターを改めて見た。
球場を背にした球児達が笑っている。これは、高校生最後の夏大のを貰ったんだっけ。
ユニフォームが似ていたから部員皆が欲しがったんだよな。新聞社に無理言って人数分貰ったんだよな。
ウチに持って帰った記憶は定かなんだが俺のは何処に仕舞っちゃったんだろうな、寝室に貼ってあるのは三橋のだしな。
最近、実家に帰らずに三橋のところにばかりいるから、偶には家に帰るのもいいかもしれない。 
今ひとつな俺を支えてくれる三橋。ご飯を作ってくれる三橋。洗濯物をしてくれる三橋。まあ、掃除だけは俺がやるけど。
助けていると言うよりは助けてもらっている状態をずーと続けるのはいい事じゃないもんな。
先ずは俺の実家に連れて行くか?いや三橋の家に挨拶に行くか。
偶々始めた寝室の掃除で俺は1つ決心を固めた。
行くべきところに行ってけじめをつけよう。俺は三橋を失いたくないし、これからもずーっと一緒にいたい。
神に誓って言おう、俺は三橋を幸せにするぞ!こぶしを天井に向けて突き上げると台所から三橋の声がした。
いい加減、素麺、のびる よーっ