阿部「お前クサイんだよ!」

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709fusianasan
私達が崩落によって、バスごとトンネル内に閉じ込められて、どれ位の時間が経ったのか。
私は、野球部のみんなの目付きが変わってきたことに気付いた。
練習してるときのみんなの目はキラキラしてて子供みたいだった。
けれど、今は何かの得体の知れない欲望が潜んでいるよう感じだった。
そして、私はその欲望の正体に薄々感づいていた。
だけど、その正体を認めるのが私は堪らなく怖かった。
きっかけは、田島君の一言だった。

「童貞のまま死にたくねぇよ、俺」

事故後の暗い静寂を破る呟き。
みんなが田島君の方を見た。
そして、すぐ思い出したように、花井君が窘めた。

「馬鹿、篠岡もいるんだぞ!」

そして、今度は私の方にみんなの目がいく。
この瞬間、全員が同じことを想像したと思う。
つまり、童貞のまま死なない方法、をだ。
そのときからだった。
みんなの中に得体の知れないモノが宿ったのは。
少なくとも、私がそう感じ始めたのは。
顔を伏せて、みんなの方を見ないようにしていた。
けれど、視線を感じる。
誰かに見られてるような。
気が付くと、私は震えていた。
その音にみんなが私を見る。
みんなが近付いてくる。