阿部「夢と愛を連れて地球をひとっ飛び!」

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968金とひきかえに
呼び出しをうけた場所は、東京でも特に名門として名高い高級ホテルだった。
部屋は最上階で丁度類もどれも感じのよいものばかりで夜景は美しく壮観である。
恐ろしく高い部屋だろうということはわかったがが今はそれを楽しむ余裕はない。
部屋の光が跳ね返って窓ガラスに野球のユニフォームを着た自分の姿が映しだしている。
西浦のユニフォームを着て欲しい、これが相手からの要望だったからだ。


若年層の人口低下により県下では名門私立である三橋学園の経営も難しくなってきていたことは
あまりそうしたことに関ってこなかった三橋の耳にも入っていた。
我々には相応しくないのではないか…と感じつつも、リュウが新たな収入源を求めていくつかの
投資信託に手を広げていたことも反対することはできなかった。
だが、数日前に流から聞いた損失の金額は驚くほどのものだった。

25億円。

(…これでは学園が潰れてしまう)
決していい思い出ばかりではなかったがかつての在校生であり、父の仕事を引き継いだ後は運営を手伝い思い入れも愛着もある。
青年実業家のように自信満々だったリュウは姿は見る影もなく、今にも自殺しそうなほどの落ち込みようだ。
いや、自殺してしまうかもしれない。
969fusianasan:2009/06/26(金) 23:43:20
>>968
そんな折にあの男から連絡が入った。
何度か挨拶をする程度だったが会ったことはある。三橋が高校生の頃から「君のファンだ」と言って近づいてきた男だ。
試合に勝つたびに大きな花束が贈られてきて、どうしたらよいかわからず受け取っていたというだけの関係だった。
いつも高そうなスーツを着て、運転手がいるような車を乗り回しているような人だったから金持ちだとは思っていたが、
まさかこんな形ですがることになるなんて…。三橋は、窓ガラスに映った自分の姿を見ながら下唇を噛み締めた。

「来てくれて嬉しいよ」
何時の間に部屋に入ってきたのだろう。
男が現れて、鏡越しにその姿を映した。
一度見たら忘れないような男だ。鏡にはずんぐりと太って、背が低く、前歯がやたら大きなネズミ顔のあの男…
「お久しぶりです」
三橋は、振り返って頭を少し下げた。
仕事をするようになりいつの間にか知らない人にも自然に挨拶ができるようになり、わずかに微笑みさえ浮かべることができる。
「ああ!そのユニフォーム…俺のあこがれだった三橋たん…」
男の毛むくじゃらの指が伸びて三橋の胸を布越しに触った。
突然、触れられてびくりと三橋は体を震わせると男は楽しげに前歯を見せた。
「25億円分楽しませてもらうよ」
男は、そう言って笑うと目がさかさまの三日月のように歪んだ。

それは、ぞっとするような気味の悪い笑顔だった。
三橋は自分の筋肉が緊張で固まっていくのを感じる。その筋肉の上を男の太い指がなぞっていく。
恐ろしさのあまり三橋は、おしっこを漏らした。

おわり