>>968 そんな折にあの男から連絡が入った。
何度か挨拶をする程度だったが会ったことはある。三橋が高校生の頃から「君のファンだ」と言って近づいてきた男だ。
試合に勝つたびに大きな花束が贈られてきて、どうしたらよいかわからず受け取っていたというだけの関係だった。
いつも高そうなスーツを着て、運転手がいるような車を乗り回しているような人だったから金持ちだとは思っていたが、
まさかこんな形ですがることになるなんて…。三橋は、窓ガラスに映った自分の姿を見ながら下唇を噛み締めた。
「来てくれて嬉しいよ」
何時の間に部屋に入ってきたのだろう。
男が現れて、鏡越しにその姿を映した。
一度見たら忘れないような男だ。鏡にはずんぐりと太って、背が低く、前歯がやたら大きなネズミ顔のあの男…
「お久しぶりです」
三橋は、振り返って頭を少し下げた。
仕事をするようになりいつの間にか知らない人にも自然に挨拶ができるようになり、わずかに微笑みさえ浮かべることができる。
「ああ!そのユニフォーム…俺のあこがれだった三橋たん…」
男の毛むくじゃらの指が伸びて三橋の胸を布越しに触った。
突然、触れられてびくりと三橋は体を震わせると男は楽しげに前歯を見せた。
「25億円分楽しませてもらうよ」
男は、そう言って笑うと目がさかさまの三日月のように歪んだ。
それは、ぞっとするような気味の悪い笑顔だった。
三橋は自分の筋肉が緊張で固まっていくのを感じる。その筋肉の上を男の太い指がなぞっていく。
恐ろしさのあまり三橋は、おしっこを漏らした。
おわり