やーさん「本当のワタシ、デビュー!」

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510むいむい ◆3vY6c39Vys
>>509
今のはあの小屋の記憶の続きに間違いない。
林道、ぽつりと置かれた地蔵、少し先に貯水池が見えた。
張られたフェンスの破れ目からこっそり入れば、池まで簡単に行くことができる。
自分と三橋、それにもう一人の子供。当時、まだ話したことのなかった一学年上の、今は多分よく知っている人物。
三人とも同じようについた汚れの色は、泥遊びを母親に叱られる類のものではなかった。
それより少し前も先も思い出せない、だが恐らく。

自分は池に、自ら落ちたのだ。

+ - + - + - +

いつもの帰り道、三橋はゆっくりと自転車をこいでいた。
時刻は午後8時半、今日は少し早く部活が終わっている。
いくつかの自販機が白い明かりを放つ前で、足を止めた。
自販機の所有者である小さな酒屋は、既に閉まっており中が暗い。
ちょっとだけ、のど渇いた、かな。
でもあんまり飲むと、よくない、かな。
自転車のカゴに突っ込んでいる大きな荷物を探るが、財布がなかなか見つからない。
うう、と小さく唸りながら、鮮やかな色の缶デザインを目で追っていると、横と後ろに人の気配がした。
振り向けば、三人組の若い男が立っている。酒の臭いが漂った。

男達は隣の酒類の自販機を眺めていたが、商品を買うことはなく、三橋に近づいて顔を覗き込む。
「う あ、の」
どうぞ、のひとことが言えずただ後ずさる三橋を、後ろの男が捕らえた。
「あー、のろい奴ってマジでイラつくよなぁ」
「酔い覚ましにジュース欲しいんですけどー、待たせ料で買ってくんねーかな」
蚊の鳴くような声でゴメンナサイと言い、三橋はやっと見つけた財布をバッグに押し戻した。
すぐに去ろうとするも、三人の男がそれぞれ三橋の腕と自転車のハンドルを掴んで離さない。
「きめーよこいつ、オカマ?声女じゃね?」

 (ここまで)