>>622 俺は走った。
けたたましい音を立てて、階段を駆け降りる。
最後の数段なんて、ジャンプで飛び降りた。
そして、反対側のプラットフォームの階段を1段飛ばしで駆け上がる。
プラットフォームに上がると、先程の少年の後ろ姿が見えた。
「おい!」
大声で呼び掛けると、少年はゆっくりとこちらに振り向いた。
ポカンとした表情を浮かべて、こちらを見ている。
そこで、俺は自分がとんでもなくバカなことをしていることに気付いた。
三橋のはずがない。
なぜならば、俺は32な訳で。時の試練は皆に平等に課される訳で。
つまり、ここに昔のままの三橋がいて、俺と対峙するはずはない訳で。
少年は無言で、何かを考えているようだった。
きっと、目の前の、彼からみればオッサンであろう32歳の男の記憶を探しているのだろう。
不意に少年の表情が緩む。何か納得したような顔だ。
歩いてくる。
おそらく、酔っ払いだということで納得したんだろう。そして、俺を無視して、この場を去るという決断を下したのだろう。
当然の帰結だ。俺は罰の悪さを抱えながら、少年が去るのを待った。
しかし、足音は俺の傍で止まった。
「畠君だよね」