子●「開け冥界のアナル!すぐにこの者を送ってやろう」
※注意:子三橋に優しくない
体育の授業が終わり、三橋と泉は倉庫に来ていた。
欠席した体育委員に代わって用具の片付けを最後まで手伝い、あとは戻るだけだ。
薄暗い倉庫の中、勝手に閉まってしまう重い引き戸を、三橋はずらして開けようとした。
「あっ、よけろ三橋!」
出口付近にあったバレーボールのネット支柱が傾き、大きな音を立てて床に倒れる。
そしてそれは、閉まったままの扉のつっかえ棒になってしまった。
「ふぉ あ、わ…」
「ちょ、大丈夫か」
頭に直撃でもしたら大惨事、だが三橋は自分の反射神経に救われ、床にぺったりと座ってガクガクしていた。
ほっとした泉が支柱に悪態をつく。
文句を言ったところで、放置して反対の戸のストッパーを外して開け、そのまま帰ってしまうわけにもいかない。
2人で倒れた重い棒を起こしにかかる。
しかしどうやら支柱の突き出た部分がどこかに噛んでしまったらしく、すんなり持ち上げることができなかった。
「しょーがねぇ、いったん戻って先生に…おわっ」
「ど、どうした のっ」
「あーただの虫。よく見えねぇけどせいぜいテントウムシぐらいのやつ、ツブした」
三橋は小さく声をあげて泉の手を取り、両手で挟んで軽く叩いた。
「へ?」
「うあ、ごっごめ、オレ」
「や、いいけど何?」
「あの、む むかし、蚊 とか、殺しちゃった とき」
話を聞くと、害虫を殺せない息子のために、過去の三橋家では妙な決まり事ができたらしい。
「殺さなかったこと に、したん だっ」
「で、殺した手、叩くのか?」
「う、うん。むいむい、と とんでけぇ、って…」
語尾がどんどん小さくなる。むいむいは虫の幼児語だ。