ある日の早朝、グラウンドに現れた三橋は帽子を目深にかぶり、いつもに増して挙動不審だった。
だが迎えた先着の野球部員3名はいろいろ慣れているので、隅の方でコソコソ着替えるその姿には突っ込まない。
「あっ」
小さく叫んだのは沖だった。
その視線を追って、集まっていた者の目が一斉に部室の入口へ向く。
「だよな…」
入ってきた巣山はテンション低く呟いた。
彼の頭には誰もが初めて見る丈夫そうな髪が、モヒカン状に黒々と繁っていた。
「切っても切っても、しまいにゃ剃っても、ガンガン生えてくんだよ!爪も伸びまくるんだよ!」
呆気にとられている者達の後ろで、今度は悲鳴が上がった。
「うあぁっ、また生えてきたー!」
取り乱す水谷の耳の後ろあたりからは、どう見ても羽毛にしか見えないものがはらはらと舞い落ちる。
茶色い自毛に白や黄色の羽毛が何本も突き刺さっている状況は、何かのカーニバルのようだといえば聞こえは良いが、要するにバカみたいだ。
「ちわっ。見て見て、オレ耳生えた!めちゃくちゃ聞こえる!」
大喜びで入室してきた田島の頭の左右には、髪と同じ黒い色をした獣の耳がぴんぴん揺れている。
騒然となる室内で、さらにカミングアウトが続いた。
「オレ…牙じみたものが…」
「西広、だから喋んなかったのか。大丈夫だよ、逆に多少かっけーよ!」
「ち、小さい、しっぽが…」
「おおっ、言われてみればケツ膨らんでる気がする!ウンコじゃなくてよかったな沖!」
わけのわからない慰め合いの最中、田島の携帯電話が鳴り、泉からメールが届いた。
花井に欠席連絡を入れたところ自分も休むというので、副部長の阿部と栄口にメールしたが、その2名も欠席だという。
「あいつらも、何か生えたのかなぁ…」
ぽつりと呟かれた言葉で、さらに雰囲気がどんよりと暗くなる。
「あ、うぁ う」
震える涙声に一瞬の沈黙が破られ、視線は部屋の隅っこに集中した。
「三橋?」