【Without a Trace】ダニー・テイラー萌え【小説】Vol.17
Super!drama TVで放送中の「Without a Trace FBI失踪者を追え!」
ダウンタウン出身ダニー・テイラーを元にしたエロネタ小説のスレ
現在、書き手1と書き手2にて創作中。
新しい書き手の参加も大歓迎です。
ダニー・テイラー役、Enrique Murciano HP
http://www.imdb.com/name/nm0006663/
[約束]
・このスレッドのURLをこのドラマの他の関連板に書くのは控えてください
・このスレッドの書き込みを他の関連板に貼り付ける事はしないでください
・このドラマの他の関連板に感想などを書くのは控えてください
・荒らしと叩きは相手にしないようにしてください
・アンチを見つけてもスルーしてください
[注意書き]
同性愛的要素、過激な描写を多く含みますので、不快を示す方は閲覧をお控え下さいますようお願いします。
これらを理解してストーリーを楽しんで下さる方のみ閲覧お願いします。
注意事項を守らず不快な思いをされてもこちらは一切責任を負いません。
あくまでも自己責任・自己判断でお願いします。
「あ、ヴァンスな、お前のスタジオで仕事してんのか?」
「いや、あいつ、自分のオフィスをミッドタウンのサービスオフィスに持ってて、
そこで仕事してるけど」
「俺、会いたいねんけどな」
「それじゃ、オフィスのアドレス教えるわ」
ダニーは住所を書きとめた。
「それじゃな」
「ダニー。本当にありがとな」
「解決してから礼は言ってくれ」
ダニーはパストラミサンドが来たので、食べ始めた。
8 :
書き手1:2009/01/12(月) 00:22:46
午後になり、ダニーはタレコミ屋とのアポだと偽って、
ヴァンスが使っているサービスオフィスのビルに出かけた。
立派なオフィスサービス会社だった。家賃も安くなかろう。
「ダニー・テイラーと言いますが、ヴァンス・ニールさんにお目にかかりたいんですが」
受付嬢に言うと、すぐに電話でヴァンスを呼び出してくれた。
「ダニー、びっくりしましたよ。何か進展でも?」
「お前のオフィスで話せないか?」
ヴァンスは一瞬躊躇した。
9 :
書き手1:2009/01/12(月) 00:24:02
「それより、ミーティングルームを使いませんか?」
「お前のオフィスがええねんけどな」
ヴァンスは観念したように、ダニーをオフィスに案内した。
オフィスといっても、部屋の中にヴァンスのデスクとミネラルウオーターマシンがあるだけの
質素な佇まいだった。
「へぇ、ここでサイトの管理してんのか」
「基本的にはPCさえあれば、どこでも出来る仕事ですからね」
ダニーがヴァンスのPCを覗くと、ウォールペーパーの画面になっていた。
10 :
書き手1:2009/01/12(月) 00:24:58
「今はサイトの監視してへんの?」
「あぁ、ご紹介頂いたアンディーと交代にしたんです。
それにしても、まさかあのアンディー・スミスがコンタクトしてくるとは思ってもみませんでしたよ」
「お前、アンディーを知ってるんか?」
「もちろんですよ、彼は有名人ですから」
「ヴァンスはニックのサイト以外の管理も請け負うてるん?」
11 :
書き手1:2009/01/12(月) 00:25:54
「はい、いくつかやらせて頂いてます。収入は少ないけど僕の専門分野ですしね」
「相手から接触ないんやて?」
「ええ、不思議なくらいですよ」
「ほな、また寄らせてもらうわ」
「はい、いつでもどうぞ」
受付までヴァンスが見送りに来た。
ダニーは何かがかみ合わないという勘が働いていた。
12 :
fusianasan:2009/01/12(月) 01:28:46
書き手1=おせち=メンヘルさん=チューハイ=鳩さぶれのやおいエロ小説っす。
Q.鳩さぶれってどんな人なの?
A.
ホモネタ大好きの腐女子、ねたばれも大好き、人の話を聞かない、
スレ違いはお構いなし、スルーしないで噛み付く、ああ言えばこう言う、
揚げ足取りの名人、連投・自演は当たり前、責任転嫁はお手の物、
人一倍書き込みミスが多いが、他人の書き込みミスを人一倍指摘する、
そして何より、鳩さぶれ本人が嫌われる事をしているという自覚がない。これが鳩さぶれクオリティ
鳩さぶれー
・FBI初代スレ、ダニー萌え腐女子としてダニー萌えとホモ妄想を垂れ流す
・ダニー萌えスレが立つが、ホモエロ小説を書いて叩かれ自演、自爆、別名自爆たん(名作その1)
PINK鯖に移るが、また自分のファンを装って自演、自爆(名作その2)
ホモエロ抜きダニー萌えスレが立つが、鳩さぶれしか書き込まず過疎化
相変わらず本スレで暴れるが、本スレにはいない設定
[ダニー萌え腐女子はもう本スレにいない][アンチウザ]
・初代から暴れていたダニー萌え腐女子=書き手1が鳩さぶれと発覚
チューハイ(地図に載っていない米軍施設の軍属、男性)、女子学生、
メンヘルさん(心療内科通院中)、鳩の知人等が擁護に来るがgdgdで自爆
・ダニー萌えのネカマ(自称ゲイ)が登場すると、「リアル隔離」「ダニマーの日本版」と
舞い上がって本スレでチャットし、ネカマの初体験話やセックス話に興奮する
・両親がいない孤独な正月に、有名料亭のおせちを頼んだことから「おせち」と名乗り始める
・鳩さぶれ≠おせち≠書き手1、お互い別人で面識が無い設定
おせちは書き手1の文才に憧れている
[鳩さぶれは2chにいない][書き手1/おせちさんは本スレにいない][アンチウザ]
・鳩さぶれ=おせち否定中
本スレにはいない設定
書き手1として毎日怠らずホモ小説更新中♪
鳩さぶれ自演キャラクターズ
ダニー萌え腐女子・書き手1・鳩さぶれ・おせち・女子学生・メンヘルさん・チューハイ・・・・
・ダニー・テイラー、エンリケ・ムルシアーノ萌え
・エンリケ・ムルシアーノはゲイでホモ
・繊細なゲイが大好物、ゲイは繊細っていうでしょ?
・メンヘルって思われて社会人の落伍者の刻印を押された気がして落ち込んだ
・外部サイトや隔離にグルメ情報を満載してるのにメンヘラだとか言われるのが気に入らない
・病気の人が管理人なんか出来るわけないし他人からも副管理人頼まれるわけない
・エンリケ情報日本一、WATの第一人者を自認
・自分が某外部サイトの管理人になってから住人が増えている
・自分が管理人やめたら、前の人がやってたような過疎サイトに戻るだけ
・要するに英ペラで外資で管理職が管理人やってるのが気に入らないんだと思う
・外部サイトの人は2chを見てない、2chを怖がってる
・今はまったく2chを気にしていません、支えてくださる強い味方ができたから、その方はペルーの人
・自作エロ小説は「文才がある」と自演キャラクターズに言わせる自信作
・この世知辛い世の中で、ダニーの存在だけが生きる支え。
鳩さぶれ名作その1
7779 :書いていた人:2005/07/01(金) 00:12:12 ID:nsRPx1UV
もうお好きにお書きください。
あちこちで規制されまくっているので、
2chから去ります。
一人の書き手を葬り去ったということを
お知らせします。
781 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:16:16 ID:???
なんか集団イジメみたいで2チャンの嫌な面を見た気がした。
自主規制も大切だろうが言論の自由も同時に大切なのでは?
みなで「書いていた人」をはじき出して、何が面白いのだろう。
なんだかかわいそうになってきた。
続きも読みたいし。
797 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:30:23 ID:???
こんどはいじめてた相手が
>何被害者ぶってるんだろう・・・
だってさ、偽善者!
804 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:34:49 ID:nsRPx1UV
>>802 ほらイジメ根性まるだし。
ここの住人ってタチ悪いね。
「書いてる人」がかわいそうになってきた。
807 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:36:07 ID:???
自演発覚キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
809 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:36:42 ID:???
ああ、自作自演しました。
すみません。
これが初めてっす。
814 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:41:30 ID:???
>>809 >これが初めてっす。
ウソつけ!!m9(^Д^)プギャーーーーー!!
816 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:44:18 ID:nsRPx1UV
これが初めてなのは本当です。
ROMってました。
自分にどれだけ読者がついているのか
どれだけたたかれるのか
見てみたかっただけです。
もう2チャンネルにはきませんの
皆さん、ご安心めされ。
だから、これ以上いじめないでください。
817 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:46:11 ID:nsRPx1UV
それこそ、2チャンネラーの良識を信じています。
お願いします。
818 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:46:52 ID:???
腐女子による擁護レスらしきものが一切消えたな。
やっぱり全部(ってわけでもなさそうだがほとんど)一人でやってたのかな?
819 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:46:58 ID:???
>>816と言いつつ、30分後にはまた自分擁護レスを書くに1000万ダニー
820 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:48:38 ID:???
>>816 今まで楽しみにしてました。本当におもしろかったです。
読者の一人としてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
海外ドラマ板ではスレ違いとのことで叩く人もいましたが、
もう書くのをやめたんですから、気に病むことないですよ。
821 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:48:50 ID:???
自演はショックだったけど、あの文才は楽しめました。
ぜひ、どこかで続編を公開くれますように〜。
824 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:49:56 ID:???
自演でも何でもいいじゃないですか。
読者の1人として、続きがぜひ読みたいです。
826 :820:2005/07/01(金) 00:50:41 ID:???
>>822 821さんじゃないですよ、何でも決め付けないで下さい。
827 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:51:10 ID:???
自演するなんて、信じられんな。
むなしくならんのだろうか。
828 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:51:12 ID:nsRPx1UV
>>820 真摯なご意見ありがとうございます。
どこかで公開したいと思っています。
まぁ、2chのどこかをお借りすることもあるかと思います。
ここより優しい場所で。
829 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:51:47 ID:???
書いていた人=このスレ立て
>>1=ERスレでも自作自演しまくってる=両ドラマのネタバレ厨
831 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:52:40 ID:nsRPx1UV
全てを自演と決め付ける冷たい場所なんですね。
ヒラテ打ちを沢山受けた思いでいますよ。
バンバンバーン。
833 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:53:38 ID:???
>もう2チャンネルにはきません
「女に二言はない」って言葉がなくて良かったなw
834 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:53:49 ID:nsRPx1UV
ERスレはグリーン先生あぼーん以来興味がないです。
今は惰性で見ているだけ。
836 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:54:48 ID:???
こんなとこで自分達の異常な性癖を一生懸命正当化してるなんて信じられん。
どういう神経してるんだろう?
837 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:54:59 ID:nsRPx1UV
2チャンネルしか場所が見つからないからです。
っていうか、いちいち揚げ足とって、周囲の人から
嫌がられていませんか?
838 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:55:19 ID:???
ID:nsRPx1UVがどんどん本性を現し始めてきた件
841 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:56:40 ID:???
ID:nsRPx1UVウザ
842 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:56:46 ID:nsRPx1UV
>>835 初めて建設的な意見をいただきました。
ありがとうございます。
女に二言も三言もあるのを知らないのは、
経験が少ない証拠ですね。
エロパロ板をたずねてみることにします。
ありがとうございました。
鳩844 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:58:18 ID:???
いじめて、反論してくるとウザーで片す
そういう態度って卑怯な気がしますが、
どうでしょう?
鳩846 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:59:23 ID:???
>>844 一方的に自分たちに否がないと思い込んでるのも卑怯な気がします!
847 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:59:31 ID:???
てかこいつ相当精神年齢低いんじゃねえの?
鳩848 :奥さまは名無しさん:2005/07/01(金) 00:59:53 ID:???
本当、これって集団いじめの縮図だと思う。
特に匿名だから悪質。
名乗ってから意見いえ。
鳩ぽっぽー
やっぱりプーのヒッキーがねたんで叩いてるっていうのが真実なんじゃないの?
どうやら、ヒッキーでプーで英語できない厨でフランス語できない厨が
叩いているらしいから。どんな顔下げて鳩に文句言いにいくのか、すごく知りたい。
いや、自分は今日ぐぐってみて印象ががらっと変わった。鳩はWATが好きで、
エンリケが好きなファンなんだって。
エロゲイ小説書いてるのが嫌いなのかな。そんな人いくらでもいるのに。
MarXXだって妄想劇場書いて一般公開してるじゃん。鳩は隔離スレでしょ。
違いは何?
確かに海外のファンフィクも面白いのが多い。
あと、日本でもひそかにWATのファンフィクやってる人がいて
それも面白い。
役者(マーティンの中の人)は「とんでもない内容のファンフィクがあったり
するから、読まないんだ」と言ってる。役者の見解はそんなもの。
おせち=鳩さぶれ自演自賛♪
鳩●699 :奥さまは名無しさん:2007/03/30(金) 01:07:17 ID:???
ネカマちゃん、こんばんわ、おせちです。
あっちがなくなってるのでこっちに来ました。
右腕の痛みはなくなりましたか?
鳩●703 :奥さまは名無しさん:2007/03/30(金) 01:11:33 ID:???
>>701 あの集中力がもっと生産的な事に活用されたらいいのにね。
私も鳩=書き手1=おせちと書かれてびっくりしました。
鳩さんとは違うと何度も言ってるのに信じてもらえないんだなぁと
悲しかったです。
書き手1さんみたいな文才は正直あったらいいなと思います。
鳩●707 :奥さまは名無しさん:2007/03/30(金) 01:15:50 ID:???
私も書き手1さんに間違われて嬉しかったです。
あんなイマジネーションあったらな!
だから隔離の設定が好きなの。♪
おせちです。今日は忙しかったの?
私も、今まで隔離にいたんだけど、今日は切なかったわ。
私の方は、隔離に載ってたチミチュリ・チキンを作ったりしたの。
ぐぐったらエシピが出てきたから。彼も喜んでくれたわ。
作るのに本当手がつりそうになったけど、肉食の彼は喜んでくれたわ。
私は隔離のマネしただけだから、お礼は書き手1さんにどうぞ。
今日、隔離読んでたら、ちょっと子供が欲しくなったの。
鳩♪293 :奥さまは名無しさん:2007/01/06(土) 01:37:02 ID:???
ネカマちゃん、元気してた?
昨日いなかったからすごく寂しかった。
鳩♪297 :奥さまは名無しさん:2007/01/06(土) 01:50:26 ID:???
隔離の読者なんだね。私もそうだけど。ダニー萌え〜。
鳩♪299 :奥さまは名無しさん:2007/01/06(土) 01:57:07 ID:???
ダニー、もてもてだものね。隔離の中だと年中恋愛してる。
WATでも恋愛してほしいのにな。セクシーなダニーを画面で見たいと
思わない?
鳩♪345 :奥さまは名無しさん:2007/01/06(土) 02:58:17 ID:???
ダニーちゃんてどうなんだろう。やっぱりバイなのかな?
鳩♪347 :奥さまは名無しさん:2007/01/06(土) 03:01:02 ID:???
だから隔離の設定が好きなの。もてもてですもんね。
ダニーちゃん本人もメトロセクシュアルで、犬好きだし、料理も出来るし
完璧な人って感じ。ロースクール行ってたしね。
書き手2
「801は初めて」、当直の暇つぶしにホモエロ小説を書き始める
毎日怠らず更新していたが、鳩さぶれ=書き手1発覚後、更新滞り中
>いつもの書いてる人とは別人なんですが、ちょっと書いてみました。
>キッチンからオリーブオイルを取ってくると、ダニーのアナルにそっと垂らした。
>やさしく出し入れしながらこねくり回すマーティン。
>「そんなにいいのかい?中指も入れてあげるよ」
>「あ、あっー、あふぅ、んん」
>801は初めてなので、おかしいところがあるかもしれません。
>当直の時は暇なのでちょっと書いてみました。ヘタなので恐縮なんですが。
>いつかまた続きを書けたら載せたいと思います。(当直って結構退屈なんで)
書き手2の初エロ
386 :名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 03:01:57 ID:???
いつもの書いてる人とは別人なんですが、ちょっと書いてみました。
つまらなかったら申し訳ないっす。
392 :名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 03:06:34 ID:???
キッチンからオリーブオイルを取ってくると、ダニーのアナルにそっと垂らした。
「なるべく痛くないようにするから」
「やめろや、マーティン。オレはイヤなんや」
マーティンはオリーブオイルをまぶした人指し指をそっと差し入れた。
「あぁー、うっうぅ」
やさしく出し入れしながらこねくり回すマーティン。
「そんなにいいのかい?中指も入れてあげるよ」
「あ、あっー、あふぅ、んん」
395 :名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 03:10:26 ID:???
801は初めてなので、おかしいところがあるかもしれません。
スレ汚しスマソ
403 :名無しさん@ピンキー:2005/07/10(日) 22:36:06 ID:???
>>397 こういうのは初めて書いたのでうまく書けたかわかりませんが
感想をいただけて嬉しいです。
当直の時は暇なのでちょっと書いてみました。ヘタなので恐縮なんですが。
いつかまた続きを書けたら載せたいと思います。(当直って結構退屈なんで)
174 :書き手1:2005/08/22(月) 23:57:23
マーティンは首輪プレーに突入していた。今日はお願いして痣がつかないように
タオルを巻いてもらった。これもダニーの目から隠すためだ。
「でもペニスには巻かないよ。」例の四つんばいの格好にさせられた。
後ろからスペインのエクストラバージンのオリーブオイルを塗りこまれる。
「あぁぁん、くぅ〜。」マーティンのペニスは立ち上がり、ひくついている。
エンリケも自分の屹立した浅黒いペニスにオイルを塗りこむとずぶっと
一突きした。「あああぁん、いい〜!!」ダニーより少し太く短いペニス。
短い分太さがマーティンのアヌスにずぶずぶと入り込んでくる。
「うはぁぁんん、いく〜。」「まだまだ。」
エンリケはペニスリングを絞った。「ああ、痛い!」「痛みがじきに喜びに
変わるよ。」エンリケは突くたびにペニスリングを絞り、マーティンを封じた。
「エンリケ、もういかせてよ。僕死んじゃうよ。」20分は続いただろうか
エンリケはマーティンのリングを取った。瞬間マーティンは精を思いっきり
放った。それを見たエンリケもマーティンのバックに思いっきり中出しした。
175 :書き手1:2005/08/23(火) 00:06:43
書き手2さんどうぞ!よろしくお願いします。
176 :書き手2:2005/08/23(火) 00:12:56
すみませんが、朝から実験が入っているので今夜は寝ます。
また明日、書きますね。
書き手2逆切れ
41 :書き手2:2005/08/12(金) 18:25:11 ID:???
急にレスが増えてますね。私自身、自演を疑われてるし。
前スレから何度も読み返してみたのですが、801のルール違反とのこと
ここにそんなルールがあるなんて知りませんでした。
しかし、それならなぜもっと早く指摘してもらえなかったのかなと。
書き手1さんと私が前スレに書いてるときに言ってもらえたらよかったと思います。
それと何もかもを疑ってかかる姿勢がすごく失礼だと思います。
このスレは書き手だけのために立っているのではないですよね?
ダニー・テイラー萌えのために立てられていて、海外テレビ板からも誘導されてしまいます。
勝手に立てたから1さんが悪いとは言い切れないんじゃないですか?
今までロムってただけの人が沸くようにでてきて、ここぞとばかりに人を叩く。
自分では何も行動しないのに、人のすることだけは槍玉にあげる、そんな雰囲気ですよ。
このPart3になってからのレスはひどいと思います。
自分が楽しめなくなったら書くのをやめると決めていました。
今まで読んでいただきありがとうございました。
私も夜中の当直が待ち遠しくなるほど楽しんでいたので残念です。
狂っぽー(^^)
823 :奥さまは名無しさん:2007/07/17(火) 16:52:30 ID:???
それは言いすぎだよ。
毎日隔離の更新を怠らずにつづけててえらいじゃん。
648 :奥さまは名無しさん:2008/03/13(木) 03:53:12 ID:???
637 :奥さまは名無しさん:2008/03/12(水) 07:09:42 ID:???
基本構ってちゃんだからな>鳩
そうは思わないけど。
静かに一人小説とコミュの方でがんばってるじゃん。
863 :奥さまは名無しさん:2008/04/09(水) 13:12:34 ID:???
鳩のどこが怖いのかまったくわからない。
ここに隔離を貼って喜んでいるほうが明らかに異常じゃん。大丈夫?
隔離を読んで勉強になることだってあるよ。
狂っぽー(^^)
810 :奥さまは名無しさん:2008/04/23(水) 19:26:38 ID:???
高卒の人とかいるのかなw
934 :奥さまは名無しさん:2006/07/27(木) 14:57:38 ID:???
>>928 明らかに反ブッシュだと思うが?
まともな学歴のある人間なら反ブッシュを匂わせるテーマに気づくはずなんだが
きみひょっとして高卒?
952 :奥さまは名無しさん:2006/07/27(木) 15:23:22 ID:???
学歴ネタになると、このスレってめちゃ荒れるよね。
誰か一人が暴れてるっていうか。
高卒の人とかいるのかなw
960 :奥さまは名無しさん:2006/07/27(木) 15:31:28 ID:???
いや、負い目があるんだよ。
こっちが高学歴でごめんね、高卒くんってさw
811 :奥さまは名無しさん:2008/04/23(水) 19:32:52 ID:???
いいんじゃね?
バカには書けない小説書いて楽しんでるんだからさ
891 :書き手1 :2008/04/12(土) 22:59:59
デクスターが兄ルディーを殺すシーンでは、マーティンが鼻をくすくす始めた。
「ほら」
ダニーはピザについてきたティッシュを渡した。
殺した後、放心状態で、壁にずるずると座り込むデクスターを見て、とうとうマーティンの目から涙があふれた。
「どうして、兄弟なのに殺さなければいけないんだろう」
「デクスターは妹のデボラを選んだんや。正常な生活をしたいんやろ。ルディーは奴をダークサイドに引きずり込もうとした。天罰や」
>デクスターのネタバレを見てしまって鬱
>まだ見てなかったのに
鳩さぶれ♪396 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 05:07:05 ID:???
>>394 鳩の弁護になるけど、デクスターなんて一挙放送も含めてもう3巡りしてる。
それにあっちのスレは海外ドラマ板じゃないんだから、読まなければいい。
自己防衛ですよ、自己防衛。
鳩さぶれ♪397 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 05:08:43 ID:???
何でも鳩のせいにすりゃいいってもんでもない。
鳩だってあそこにデクスターファンが集まってるとは思いもしてないと思うが。
鳩さぶれ♪405 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 05:25:34 ID:???
>>404 板違い・ドラマ違いでWATとデクスターのファンがかぶる確率なんて
微々たるもんじゃないの?
私は書いた人より、その中のよりにもよってその部分だけをここに
貼り付けた人の悪意をぷんぷん感じているが?
鳩さぶれ♪408 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 05:29:17 ID:???
あのーFox Crimeのデクスターのエピガイに全部書いてあることなんですけど
それでも、ネタバレを糾弾する人っているんですね。
鳩さぶれ♪441 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 06:24:09 ID:???
>>440 常識の定義は?
つーか、2chで番組スレでネタバレしてる奴らが多いのに、
何で別板(それも成人向け)のいちスレッドの書き込みにこれだけ
反応するかねー。
鳩いじめしたいだけじゃんか。
鳩さぶれ♪446 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 06:32:52 ID:???
つーか、重箱の隅つつくような攻撃はどうなんだ?
そりゃ、誰がいつスカパーに入るのなんか分かるはずないんだし、
すでに再放送・再々放送も済んでいるドラマのエピをバラすタイミングって
どこまで待てばいいんだろうよ。
放送後10年後とか?ww
なんで、こんなに大事になってるか、肝の部分がまったくわからない議論だな。
鳩さぶれ♪452 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 06:38:25 ID:???
結局、鳩が何をしても叩きたいという雰囲気は理解した。
鳩さぶれ♪461 :奥さまは名無しさん:2008/04/14(月) 06:55:32 ID:???
まさにモンスター・ペアレンツだよ。
「自分の出勤時間が迫ってるのでオムツ代えるのは保育園の義務でしょ」
「自分はまだエピ見ていないからネタバレ見たのは書いた人の責任」
ぽっぽー♪
隔離スレのどこがエログロなんだか分からない。
書き手になれなかった腹いせ?
職業の貴賎の話だけど、エロ書いてるのが恥ずかしいなんてバカげてる。
じゃ精肉業とか糞尿処理はどうなんだよ?
問題になるよ、これ。
ここに欧米のファンフィクションのえげつないのを貼ってもいいけど
読解力ないだろうからなー。日本のだけをなぜ目のカタキにするのが
分からない。限界なんだろうね。英語で抗議してごらんよ!
federalthreesomeもすごいし、dannyandmartinもきわどいよ。
日本版だけ取り締まるじゃなくて、みんなに警告流せばいいのに。
英語出来ないって本当に情けないね。
いつもの時間になっても、書き手さんたちが戻ってこない。
今後が不安。嫌らしいカキコミした人、反省して欲しい。
いっそうのこと、粘着さんが書き手さんたちを駆逐した責任を負って
続編を書くのはどう?書けるもんならさ。
鳩さぶれ
677 :KHP222227255043.ppp-bb.dion.ne.jp:2008/01/08(火) 02:16:09 ID:???
>>675 書き手1は私です。
673 :KHP222227255043.ppp-bb.dion.ne.jp:2008/01/08(火) 02:12:40 ID:???
自演していないですし、自爆もしていないです。
誰かが言い始めた、その二つのキーワードが私にまとわりついていて、
本当に迷惑しているのです。これまで何もいわずにおりましたが、
今回でカタをつけたいと思います。
676 :KHP222227255043.ppp-bb.dion.ne.jp:2008/01/08(火) 02:15:07 ID:???
違います。おせちさんがいなくなったのは私にも責任の一端があると思って
申し訳なく思っています。
689 :KHP222227255043.ppp-bb.dion.ne.jp:2008/01/08(火) 02:42:12 ID:???
ああ、やっとどなたかがいてくださったのだと、安心いたしました。
夜は、ピンクなんでも板に小説をUPしたらすぐ眠りにつくので、
夜中に、暴れている人がいるのを、翌日に知って、口ポカーンの状態でした。
690 :奥さまは名無しさん:2008/01/08(火) 02:52:31 ID:???
じゃあ暴れている人は何なの?
691 :KHP222227255043.ppp-bb.dion.ne.jp:2008/01/08(火) 02:53:53 ID:???
私を気に食わない人だけとしか、言えないというか分からないですね。
237 :奥さまは名無しさん:2007/09/01(土) 20:52:28 ID:???
ここの人って監視するくせにグルメ情報とか無視すんのな。
やっぱり妬み?
243 :奥さまは名無しさん:2007/09/01(土) 22:02:50 ID:???
例の人のサイト、グルメ情報満載じゃん。それ無視してメンヘラだとか
なんだとか。偏ってると思う。隔離も食べ物の話ばっかいだし。
!!!隔離=鳩さぶれ作オナニーエロ小説。グルメ情報満載!!!
夜になり、ダニーはニックに電話を入れた。
「何か分かったか?」
挨拶もなしの単刀直入の質問だった。
「少しずつだけどな。これから会えへんか?」
「あぁ・・今日はパーシャを晩飯に連れだす約束してるから、無理だ」
「そうか・・それがええな。パーシャを可愛がってやり」
「ああ、俺がバカだったよ。あいつの唯一の家族は俺なのにな」
「分かればええねん」
ダニーは心の一部にほっとした気持ちを感じて、席に戻り、帰り支度を始めた。
隣りを見るとマーティンがぐずぐずしていて、なかなか帰ろうとしない。
「おい、ボン、食事でもして帰ろうか」
「・・・そうだね・・そうしよう」
2人はフェデラルプラザを出た。
「どこに行く?」
「ミカさんとこでも行くか」
「そうだね」
2人はミッドタウン・イーストに移動して、「ソバトット」に入った。
相変わらずクリスがカウンターで飲んでいた。
「おう、MPU、捜査会議か?」
「そんなとこや。カウンターでええか?」
ダニーがマーティンに気を使って尋ねると「うん、いいよ」という答えが返ってきた。
38 :
書き手1:2009/01/13(火) 00:08:56
2人が座ると、厨房からコニシが出てきた。
「いらっしゃいませ。ようこそ、ソバトットへ」
かなり流暢な英語になっている。
「コニシさん、英語うまくなりましたね」
ダニーが言うと、ミカが「昼間、語学コースを取ってるんですよ。めきめき上達してます」と答えた。
コニシは会釈すると、厨房に戻って行った。
鶏わさや豆腐サラダ、ゴーヤーチャンプルに串焼きの盛り合わせを食べながら、2人は日本酒を飲んだ。
39 :
書き手1:2009/01/13(火) 00:10:11
「なぁ、昨日のこと、ごめんな」
「いいよ、もう忘れた」
「ほんまに?」
「ダニーは前からさ、一人がいい時ってあること気が付いてたし。
僕が干渉してもダニーの本質は変わらないじゃない?」
「うん、そうかもしれんな・・・」
「それにジョージと会ってたわけでもないしさ。浮気さえしてなければいいよ」
マーティンはクリスに聞こえそうな声で話をした。
幸い、クリスが相当出来あがっているので、こちらの話を聞いていない。
40 :
書き手1:2009/01/13(火) 00:11:23
「浮気やないから。それだけは信じてや」
「うん、信じるよ」
マーティンのまっ青な瞳がダニーをとらえた。
ダニーも目をそらさず、マーティンを見つめた。
「ダニーを信じるから」
「ほな乾杯や」
2人はガラスのおちょこをかちんと合わせた。
店を出て、マーティンが地下鉄の駅に歩き始めようとする腕を、ダニーはぎゅっと握った。
「何?」
「お前んとこ行こう」
「え?どうして?」
「どうしてもや」
「・・うん、それじゃタクシー拾おう」
41 :
書き手1:2009/01/13(火) 00:12:19
2人はドアマンのジョンに挨拶して、マーティンのアパートに入った。
ドアを後ろ手で閉めるなり、ダニーはマーティンの唇にキスを始めた。
「い、一体どうしたの?」
「お前、まだ俺のこと疑ってるんやろ。潔白を証明するわ」
キスを続けながら、マーティンのコートとジャケットを一気に脱がす。
マーティンは防戦一方だ。
ネクタイを取られ、Yシャツのボタンもはずされた。
42 :
書き手1:2009/01/13(火) 00:13:30
ダニーがマーティンのピンク色の乳首にそれぞれキスを始めると、
マーティンの口から甘い吐息が漏れた。
ダニーが下半身に手を触れると、すでにギンギンに固くなっている。
「ベッドルーム行こ」
「うん・・」
ダニーは、マーティンを乱暴にベッドに押し倒し、コートとジャケット、Yシャツをどんどん脱ぎ始めた。
マーティンも自分でベルトのバックルをはずし、パンツをトランクスと一緒に脱ぎ捨てた。
靴下も脱いで、ダニーの体を待っている。
43 :
書き手1:2009/01/13(火) 00:14:47
ダニーも全裸になり、マーティンの上に重なった。
キスをしながら、マーティンの乳首をつねったりはさんだりして愛撫を続ける。
ピンと立った乳首にダニーはまたキスを繰り返した。
ダニーの腹には大きくなったマーティンのペニスがひくひくと触れている。
「ああ、こすれて気持ちがいい・・・」
ダニーは思いがけない行動に出た。
コンドームを脱ぎ捨てたパンツのポケットから出すと、自分のいきり立ったペニスにはめたのだ。
「え、どうして?」
「ええから。な、ローション貸し」
44 :
書き手1:2009/01/13(火) 00:16:00
マーティンはヘビ印のローションを取り出した。
ダニーは自分のペニスを十分に濡らすと、次はマーティンの秘口に塗り始めた。
最初は周辺から、そして指を使って中まで十分に湿らせると、正常位のまま一気にマーティンの中に入った。
「あぁ〜!」
ダニーは容赦なく攻め立て、マーティンが自らの飛沫を腹で受け止めると同時に、
マーティンの中で果てた。
そっとペニスを抜き、コンドームをはずす。
中には濃厚な精液がたっぷりと溜まっていた。
「な、これが俺が浮気してない証拠や。まだイケるで」
ダニーはまたマーティンの体に覆いかぶさった。
激しいセックスを終えると、ダニーは脱ぎ散らかした服を身につけ始めた。
ベッドから起き上がり、マーティンが尋ねた。
「ダニー、泊まらないの?」
「あぁ、今日は家に戻るわ」
「・・わかった」
「お前はもう寝とき、また明日な」
「うん、ダニー、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ダニーがベッドルームのドアを閉めた。
マーティンは、ダニーの性急なセックスに、自分が使い捨てられたような気持ちになった。
こんな風に証明しなくてもいいのに。
体をタオルで拭き、マーティンはサイドライトを消して、目を閉じたが、とても眠れそうになかった。
46 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:26:04
翌朝、マーティンが早めに出勤すると、ダニーがすでにサンドウィッチを食べながらPCに向かっていた。
「おはよう、ダニー、熱心だね」
「ああ、気になる事件があるから」
またPCに集中する。
マーティンは肩をすくめると、コーヒーを取りにスナックコーナーに向かった。
夜中にアンディーからの連絡で、ヴァンスが1か月前に大金をパリに送金していることが分かったのだ。
47 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:27:06
彼のあのビジネス規模では、いくら何でも10万ドルの送金は大きすぎる。
相手はアンディーがフランスの銀行にハッキングした結果、
パリのアンティーク・ディーラーの口座だと分かった。
これでパーシャのパリ時代とヴァンスがつながりそうだ。
ダニーは今日もヴァンスのオフィスを訪ねることにし、昼休みを抜けて、
サービスオフィスの会社に出向いた。
48 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:28:09
昨日と同じ受付嬢が座っている。
「すみませんが、ヴァンス・ニールさんを・・」
「申し訳ございませんが、ニール氏は、昨日契約を解除されまして退去なさいました」
「は?もしかして、郵便物などの転送先をご存じでは?」
「貴方様はどちら様で?」
受付嬢が訝しげにダニーを見上げた。
「こういうもんです」
ダニーはFBIのIDを見せた。受付嬢は顔色を変えた。
「こちらのGMとお話して頂けませんか?」
ダニーは、このサービスオフィス会社の支店長と面談をした。
弁護士や医者よりも守秘義務の概念が薄いのだろう。
GMはすぐにヴァンス・ニールの未払い分の費用の請求先をダニーに教えた。
49 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:29:18
住所はコロンビア大学近くのモーニング・ハイツだった。
ダニーが車で急行すると、ちょうどアパートから段ボール箱を車に積んでいるヴァンスにはち合わせした。
「お急ぎのようですね、ヴァンス」
ヴァンスは思わず段ボールを落とし、北に向かって走り出した。
ダニーが追う。
PCオタクと違って、追跡には慣れているダニーだ。
すぐに追いつき、タックルしてヴァンスを取り押さえた。
「一体、どこに行くつもりやった!」
「いえ、あの・・不用品の整理に・・」
「ほな、ニックのスタジオに行こか」
ダニーは見えないようにコートの内側からヴァンスに拳銃をつきつけながら、車に載せた。
50 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:30:27
「手を前に」
ヴァンスに手錠をはめ、車をニックのスタジオにつけた。
ブザーを押し、ダニーの名前を言うとニックがすぐに開けてくれた。
「ダニー、ヴァンスも、一体どうした?進展があったのか?」
「それをこれからヴァンスにじっくり聞こうと思ってな」
ヴァンスをミーティングルームの椅子に座らせた。
拳銃の銃口はヴァンスを狙っている。
「おい、どういうことだよ、ダニー?」
「こいつが犯人やと思う」
「え、何だって?」
51 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:31:27
「な、ヴァンス、お前、フランス人からあの映像を買ったんやろ?」
「どうして僕が?」
「意外と安い買い物で、転売で儲けようとしたんだよな」
「ヴァンス、お前・・」
ニックの顔がたちまち厳しくなる。
「こいつ、わざとプログラムに穴あけて、外から侵入したように見せかけたんや。
でも、敏腕ハッカーのアンディーが捜査することになって、身動きがとれんようになっちまった。
さしずめサンフランシスコに戻って、ポルノ業界にでも売りに出そうとしてたんちゃう?」
52 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:32:27
ヴァンスは観念したようだった。
「僕はしがないサイトの管理人。ニックはどんどんビッグになっていく。
そんな時にニックのフィアンセのお宝映像が手に入ったんだから・・魔がさしただけですよ。
許して下さい!」
ヴァンスは泣きそうだった。
「どないする、ニック?」
ダニーが尋ねると、ニックは「殴り殺したい気分だよ」と吐き捨てるように言った。
「そやな。死体はハドソン川に遺棄するか」
「やめてくださいよ〜。お願いですから〜」
ヴァンスは泣きながら失禁していた。
度胸の座った極悪人とはとても思えない。
53 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:33:20
「お前、あの映像のデータを全部渡し。お前がもし外部に流出させたら、すぐに分かるで。
アンディーと仲間たちがお前が世界中のどこにいても、監視するからな」
「分かりましたよ・・全部渡します。そうしたら殺さないでくれますか?」
「流出させたら命はないで。分かってるやろな」
「分かりました!だからもう許してください!」
「あとお前のPCを全部初期化させてもらうわ」
「え?」
54 :
書き手1:2009/01/13(火) 23:34:03
「ええやろ?一からやり直しするにはもってこいやないか?」
「そうだな、お前にはリセットが必要だ」
ニックも同意した。
ダニーはアンディーの携帯に連絡を入れた。
「お前の推理、ビンゴやったわ。ありがとな。
それと、こっちでPCの完全初期化やってくれる奴知らへんか?」
ニックとダニーは、この前、ワシントンDCの帰りに一緒に行った「ギャビー・バー」で飲んでいた。
「お前ってさ、本当に仕事出来るんだな」
ニックがにやにやしながら尋ねた。
「当たり前やろ。だからFBIを首にならへんのやし」
ダニーもにやにや答えた。
56 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:09:11
が次の瞬間、ニックは神妙な顔になった。
「まじで、お前にどんな礼をしたらいいのか、考えもつかないよ。ダニー、俺・・・」
「そんなん、気にすんな。お前はパーシャを大切にすればええねん。2人の幸せが何よりの礼やから」
「本当にありがとな。俺、初めてマブダチが出来た気がしてるよ」
「そか?お前とは散々、色々あったのにな」
2人は笑いながら、グラスを合わせた。
57 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:10:37
「そうだ、坊主にお礼しなくちゃな。アンディー・スミス」
ニックがウイスキーグラスを動かしながらつぶやいた。
「そやね〜。その前にあいつに渡したメモリー・チップ返してもらわんとあかんのちゃう?」
「お、そうだ。あいつ、パーシャの映像持ってるんだよな・・「利用」してるだろうな、毎晩さ」
「まだゲイになって間もない奴やから、仕方無いやろな。あれは俺にもキツすぎたわ」
「俺も、自分のフィアンセじゃなかったら、まじで熱くなってたぜ。
パーシャさ、セックスがすげーんだよ。
ダンサーで体が柔軟な上にしなやかな筋肉がついてるだろ、
どんな体位でもOKなんだよな」
「おいおい、俺まで興奮させてどないすんねん」
ダニーはニックを小突いた。
58 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:11:39
「あ、悪い。でも、誰がパーシャをあんなに開発したのかは知りたくないよ。金輪際ご免だ」
「まったくや。俺もマーティンやジョージの過去、知りたくないもんな」
「あの気まじめな2人のことだから、大したことしてないと思うぜ」
「それもそや」
ダニーはジョージのバンコクでの日々の話は誰にもするまいと決めていた。
59 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:12:53
「お前はどうなんだよ?」
「え、俺か?」
「いつからバイになった?」
「俺、ガキの頃、栄養失調でチビでさ、兄貴の悪友たちに女扱いされててな」
「え、まじかよ?」
「でも、ずっとストレートでいたんやで。マーティンに会うまで」
「ほう?じゃ、マーティンが最初の相手なのか?」
「ああ、泊まりがけの出張の時に襲われた」
ニックはゲラゲラ笑いだした。
「あのマーティンがお前を襲ったのかよ!すげーな。あいつもやる時はやるんだ」
60 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:13:46
「マーティンと寝た時、不思議と嫌悪感がなくてな、それ以来やな。
まさかお前とこんな話が出来る仲になるとは思ってなかったわ」
「俺もだよ、ダニー。本当に感謝してるし、俺みたいなごくつぶしを友達と思ってくれてて、ありがたいよ」
「お前、今日飲みすぎやで。そんな言葉があのニック・ホロウェイから出るか?」
ダニーも大笑いした。
61 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:14:57
「そや、今日はパーシャは何してんの?」
「ああ、グラビア撮影で夜遅くなるってさ。昨日の食事で少し安心したみたいだったな」
「よかったな。あいつの心の中はお前への気持ちであふれてるで。受け止めてやり」
「俺には過ぎた相手だよ。正直、最初は体に溺れたけど、あいつの無垢で真っ白な心がさ、俺を浄化してくれるんだ」
「おーおー、ご馳走様!でも、ほんまにパーシャは可愛いよな」
62 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:16:10
するとニックの携帯が鳴り始めた。
「おう、パーシャ、仕事どうしたんだ?え、夜中過ぎまでかかるのか?俺、迎えに行こうか?
リムジン手配してもらった?OK。じゃ、寝ないで待ってるな。うん、世界中で一番愛してるぜ」
ダニーはニックの言葉の端々に、パーシャへの愛情を感じて、安心した。
この2人なら大丈夫かもしれへんな。
63 :
書き手1:2009/01/15(木) 00:17:06
「な、アンディー・スミスへのお礼は、やっぱり金か?」
ニックが尋ねた。
「あいつは金で動くとも思われへんしな。何がええやろか。本人に尋ねるのもなぁ。ちと考えてみるわ」
「ありがと。じゃ、そろそろ行くか」
ニックがメンバーズカードで支払を済ませて、2人して外に出た。
「じゃ、俺、地下鉄で帰るから」
「ダニー、本当にありがとう。この恩は一生忘れないぜ」
「照れくさいこというな、アホ」
2人はホテルの前で別れた。
翌日、ダニーが昼間、書類の整理をしていると携帯が鳴った。
ジョージと表示が出ている。
廊下に出てから電話に出た。
「よ、元気か?」
「うん、ね、ダニー、ニックと話してくれたんだね?」
「ああ、ちょっとバーで飲んで話した」
「ありがとう!すごく優しくなったってパーシャが喜んでる。それでね、出来たら4人で食事しないかって?」
「ええよ。いつ?」
65 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:38:21
「今晩だと急?」
「今、抱えてる事件ないから、大丈夫やと思う」
「それじゃ、場所と時間、メールする」
「お前は今日、何してんのん?」
「バーニーズで仕事」
「そか、無理すんな」
「分かってます。じゃあね」
「おお」
66 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:39:20
チャイヤの店のテイクアウトを買ってきたマーティンが戻ってきた。
「はい、ダニー。5ドルね」
「よっしゃ、サンキュウな」
ダニーは10ドル札をマーティンに渡した。
「え、多いよ」
「チップや」
「まあいいや、次回分でもらっとくね」
マーティンがデスクでランチボックスを食べていると携帯が震えた。
「はい、フィッツジェラルド。ああ、元気?うん、いいけど、分かった。それじゃ、今晩」
ダニーがちらっとマーティンを見た。
67 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:40:05
「ドムからだよ。食事しないかって」
マーティンは聞かれる前に自分から答えた。
「あいつ、元気なん?」
「うーん、ちょっと痩せた気がするけど、仕事が忙しいのかな?」
「美味いもん食わせてやり」
「そうだね、ね、ダニーも来ない?」
「あ、俺は先約ありや。ごめん」
「そうなんだ、分かった・・」
ちょっと気まずい雰囲気が流れたが、2人はまたランチボックスの食事に戻った。
68 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:41:08
定時が終わり、ダニーはジョージがメールしてきた「ロシアン・ティー・ルーム」に出かけた。
敷居の高い超高級レストランだ。
ダニーはダークスーツを着ていてよかったと思った。
店に着くと、すでに3人がテーブルで待っていた。
「ごめん、遅なった」
「こっちこそ、もう飲み始めてるよ」
「ああ、ええねん」
「今日はパーシャがメニューを選ぶって」
ジョージが言った。
パーシャはウェイターと話をしながらメニューを決めている。
ロシア語なのでさっぱりわからない。
3人はパーシャに一任して、ビールを飲み始めた。
69 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:42:07
メニューが決まったようだ。
「僕の好きなもんばっかりだけどいい?」
「ああ、もちろんだよ、お前の好きなのをみんなで食べようぜ」
ニックの表情がこの上なく優しい。
最初に山盛りのキャビアが届いた。
ニックはすかさずシャンパンをオーダーした。
キャビアをスプーンですくいながら待っていると、鮭の塩漬けや牛タンのヤズイック、
ニシンの酢漬けや野菜のピクルスが並ぶ。
わいわいと食べていると次には壺焼マッシュルームのクリーム煮、ピロシキ、ボルシチと続き、
子羊の串焼きのシャシリークでメインが終了だ。
70 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:43:32
「モスクワで食べるよりずっと美味しいね」
パーシャは終始上機嫌だった。
料理が終わり、デザートを待っていると、ニックがごそごそとジャケットの胸ポケットから封筒を取り出した。
「これな、お前に心配かけたお詫び」
パーシャに渡す。
「開けていいの?」
「ああ、開けてごらん」
中からカードが出てきた。
「わ、これってリッツ・カールトンのスパのメンバーズカードだ!」
パーシャが大喜びしている。
「ニック、ありがと!僕の一番好きなスパだよ、ここ!」
71 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:44:29
「知ってるよ、それくらい。で、お前、一人で行くの嫌だろう。だからジョージの分も用意した。お前からジョージにお願いしてみな」
ニックは封筒を渡した。
「ジョージ、僕と一緒にスパに行きませんか?」
「え、ニック、僕までいいの?」
「ああ、永久会員だから、好きなだけ使えよ。ていうかパーシャを頼む」
「了解。パーシャ、それじゃ一緒に行こうね」
ダニーには、リッツ・カールトンのスパの永久会員のメンバーシップがどれくらいするのか見当もつかなかった。
72 :
書き手1 :2009/01/16(金) 00:45:23
「僕は世界で一番ニックを愛してる!ありがと、ニック!」
パーシャは一目もはばからず、ニックに熱烈なキスをした。
ニックもそれに応えている。
「お二人さん、ストップ。先を続けると公然わいせつ罪に問われそうや」
「構わないさ、な、パーシャ」
「うん、僕のハズバンドはニックだから」
パーシャはハズバンドという言葉を使う時、恥ずかしそうな顔をした。
ジョージはそんな2人を見ながら、テーブルの下でダニーの手をぎゅっと握った。
ダニーは、成り行きでニックがチャーターしたリムジンに乗り込んでいた。
行先はトランプ・プレイスだ。
4人でセキュリティーのボブに挨拶をし、エレベーターに同乗した。
ニックとパーシャはすっかりヒートアップしていて、
目の前で今にも服を脱がせ合いそうだった。
「おい、カメラあるで」
ダニーが言うと、2人ははっと我に帰り、20階で手を振りながら降りて行った。
74 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:02:42
ジョージは2人になるとすぐにダニーの手を握った。
「今日、泊まってもええのか?」
「ダニーのおバカさん、ここまで来て帰るなんてありえないでしょ?」
ジョージは笑いながらダニーのあごを持ち上げて、唇に軽くキスをした。
部屋に入り、ジョージがキッチンで飲み物の用意をしている間、
ダニーはジョージが用意してくれている部屋着に着替えた。
スーツから解放されてやれやれだ。
75 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:03:32
ジョージがグラスにオレンジとピンクが混ざった色のジュースを入れて戻ってきた。
「何それ?カンパリか?」
「違うよ、ハイビスカスティー。クレオパトラも美容のために飲んでたんだって。
体の代謝機能を整えて、疲れも癒してくれるらしいよ」
「お前、そういうの詳しいねんな」
少し口をつけると嫌味のない酸っぱさが口の中に広がった。
「意外とイケる」
「そうでしょ?」
76 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:04:34
ジョージも着替えにウォーキングクローゼットに入って行った。
ダニーはふとテーブルの上の脚本の束に目を落とした。
こんなにたくさん来てるんか。
一つ一つ、ジョージが丁寧に読んでいるらしく、どの脚本にもページを折った跡があった。
「なぁ、ジョージ、気に入った台本あったんか?」
ダニーが尋ねるとジョージがNIKEのジャージを着て戻ってきた。
77 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:05:30
「何だか、どれもCMにインスパイヤされたみたいで、似たりよったりなんだよね」
「気に入ったのはなしか・・」
「それに僕、LAに住みたくないもん。連続ドラマ決まったら絶対に移住しないと無理でしょ?
ダニーと離れたくないよ」
「お前、それで後悔せいへん?」
「うん、僕、十分に幸せだから、全然後悔しない」
78 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:06:21
ジョージのグリーン・グレーの瞳がダニーをとらえた。
ダニーは吸い寄せられるようにジョージにキスを始めた。
2人ともジャージの部屋着がもどかしく、トップスを脱がせ合った。
お互いの乳首にキスを交互にしながら、下半身に手を伸ばす。
2人は眼を合わせた。
「ベッドルームに行こか?」
「うん・・」
79 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:07:23
ジョージはベッドに腰掛けるとパンツを脱ぎ捨てた。
巨大なペニスがダニーの目に入ってくる。
すでに先走りの液でてらてらと光っている。
「お前、もう大丈夫?」
ダニーが心配そうに尋ねると「こっちに早くきて」とジョージが手を広げた。
ダニーもパンツを脱ぎ、ジョージの上に体を重ねた。
キスを繰り返しながらジョージが囁いた。
「ごめんね、待たせたよね。僕に入れて、ダニー」
「ん・・・分かった」
80 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:08:28
ジョージは足元に膝立ちしているダニーのペニスを手で2、3回しごくと口に咥え愛撫をはじめた。
ジョージの口技もマーティン同様に、丁寧でエロティックだ。
根元まで飲みこんでは先っぽで止める行為を繰り返され、ダニーは思わず唸った。
「そんなんされると、俺、イっちまう」
ダニーはベッドから降り、床に膝立ちすると、ジョージの足を大きく開き、秘部をあからさまにした。
まだ指も挿入していないのに、妖しい動きでダニーを誘っている。
81 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:09:31
ジョージにローションを渡され、ダニーは指にたっぷり取ると、ジョージの中に差し入れた。
久し振りのセックスで、かなり窮屈な感じがする。
ダニーはじっくり時間をかけて、ジョージの準備を行った。
指が2本入った時点で、ジョージが甘く呻き始めた。
「ああ〜、早くダニーが欲しいよ」
「ん」
ダニーは自分のペニスにローションを塗りたくり、ジョージの両脚を肩に担ぎあげ、静かに体を進めた。
82 :
書き手1 :2009/01/17(土) 00:10:22
「ああ〜、ダニー、大きくて固い・・すごく気持ちがいい」
ダニーがゆっくり動き始めると、ジョージもダニーのリズムに合わせて腰を動かした。
「お前、こんなんじゃ、俺、もうギブアップや・・ええか?」
「うん、僕もイクから合わせて来て」
ジョージは自分のペニスを手でしごきながら、ダニーの動きに耐えた。
だんだんとスピードが上がり、ダニーは腰を強くジョージに打ち付けた。
83 :
書き手1 :2009/01/17(土) 01:36:41
「ああ、だめや、出る・・」
「来て、僕も、ああ〜!」
ダニーがジョージの飛沫を胸に受けるのと同時に、自分もジョージの中で勢いよく果てた。
ジョージの脚を降ろし、どさっとジョージの体の上に重なった。
「僕、すごく幸せだよ、ダニー」
「俺もや・・・お前、疲れてへん?」
「気持ちいい疲れだよ。ぐっすり眠れそう」
ダニーはジョージの体から降りた。
隣りに寝ころびながら、ジョージにキスをする。
84 :
書き手1 :2009/01/17(土) 01:37:34
「明日の予定は?」
「またバーニーズ」
「大変やな」
「でも古巣だから気が楽だよね」
セレブになってもこの仕事だけは続けたいという希望がかなったジョージは、心から満足しているようだった。
「じゃ、シャワーして寝ようか」
「うん」
2人はベッドから立ち上がり、手をつないで、バスルームへと消えた。
朝、ダニーが目を覚ますと、いつものようにジョージの姿がなかった。
キッチンから物音がしているので、朝食の用意だろう。
ダニーはシャワーをして、髭剃りと歯磨きを終え、ウォーキングクローゼットの中から茶系のスーツを取り出した。
ダニーの少し浅黒い肌に映える色合いだった。
ピンクのYシャツに茶のネクタイを合わせて、ダイニングに向かうと、
ジョージがハミングしながらジップロックのふたを閉めているところだった。
「ダニー、おはよう!今日はツナサラダとチーズとレタスのベーグルサンドにしたんだけど、いい?」
「ああ、うまそうやな」
「オフィスで食べるでしょ?」
「そうするわ」
「じゃあ、コーヒーとエナジー・ブースターね」
「何や、それ?」
「アマゾンで採れるアサイっていうフルーツのジュース。目を酷使する人にいいらしいよ。ダニー、PCワーク多いでしょ」
「ふうん、ありがとな」
ダニーはコーヒーとジュースを飲みほし、「ほな、出かけるわ」と言った。
ジョージが立ち上がってぎゅっとダニーを抱きしめた。
「行ってらっしゃい、僕のダニー」
「照れるな・・行ってくるな」
「また食事しようね。もうすぐレストラン・ウィーク始まるし、チャイヤも連れて行きたいんだ」
「おお、ええな。ランチで世話になってるから、俺も混ぜてな」
「もちろん。それじゃね」
87 :
書き手1:2009/01/17(土) 23:28:13
ダニーは地下鉄駅から出勤し、スターバックスでカフェラテを買って、オフィスに向かった。
マーティンが来ていて、スターバックスのサンドウィッチをかじっている。
「ボン、おはようさん。昨日のディナーはどうやった?」
「それがさ・・・相談があるんだけど、今晩、捜査会議してもいい?」
「ああ、ええよ」
「ありがと、ダニー」
マーティンの浮かない顔が気になった。
2人は仕事を終えて、トライベッカの「ランドマーク」に出かけた。
日替わりパスタが看板メニューだがバーガーも美味しい。
ダニーは昨晩がヘヴィーなディナーだったので、チキン・バーガーとフレンチフライとグリーンサラダ、
マーティンはビーフのバーガーにトッピングでボリュームを増やしてオーダーし、カラマリフライを追加した。
88 :
書き手1:2009/01/17(土) 23:29:19
「で、どないしたん?ドムに何か変わりがあったんか?」
「彼さ、K9のユニットの中で浮いてるみたいなんだ」
「どうして?」
「あまりにロージーとドムばかりが事件解決に貢献してるから、やっかみがあるみたい」
「K9の奴らは誇り高いからなぁ。仕事しにくいやろな」
「で、誰かがロージーのえさに毒を盛ったらしいんだよね」
「え、そりゃひどいな」
「ロージー、すごく具合悪くて、ドッグ・ホスピタルに入院してるんだって」
「上司は何も言わへんの?」
「見て見ぬふりらしいよ」
「あいつ、転属願い出した方がええんちゃう?結構繊細な奴やんか。耐えきれるんかいな」
89 :
書き手1:2009/01/17(土) 23:30:38
「僕もニュージャージーを勧めたんだよね。だけと意外と頑固でさ、今の分署でいいって」
「一回こじれると地元警察って陰湿やで。俺は転属願い出すのを勧めるわ」
「やっぱり、そうだよね」
2人はバーガーが来たので食事を始めた。食事を終え、レストランを出る。
「元地方警察の刑事からのアドバイスっていうことで、伝えてくれるか?」
「うん、そうしてみる。ありがとう、ダニー」
「ええよ、そんなん。ドムはいい奴やし、もっと上を目指せる警官やから」
90 :
書き手1:2009/01/17(土) 23:31:35
「そうだよね。ね、今日、これからどうする?」
「・・俺、昨日が結構遅かったから、今日は帰るわ」
「そう・・分かった。ね、来週のレストラン・ウィーク、どっかに行こうよ」
「そやね。お前、チョイスしてくれるか?」
「うん、僕の好みでいいの?」
「お前は俺のグルメガイドやからさ」
それを聞いて、マーティンは嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、色々当たってみる。行きたいところがいくつかあるし」
「サンキュウな」
2人は地下鉄の駅に向かって歩き始めた。
レストラン・ウィークが始まった。
この催しは冬と夏の2回行われ、アメックス・カードで支払うと食糧支援NPO団体に
収益の一部が寄付される仕組みになっている。
ジョージがチャイヤを連れて行きたいというポルトガル料理「アルファマ」に出かけた。
プリフィクスのディナーが$35という格安価格だ。
92 :
書き手1:2009/01/18(日) 23:48:17
チャイヤは以前のおどおどした様子がなくなり、すっかり街に馴染んできたように見受けられる。
「ダニーさん、いつもランチお買い上げありがとうございます!」
「こっちこそ、毎回美味すぎてびっくりや。あんなにタイ料理って種類があんの?」
「最近はチャイニーズだけじゃなくてフレンチを取り入れたりとかしてるんです」
「さよか、だから毎日でも飽きないわ。で、採算は取れてるんか?」
「はい、幸い、チャンさんのスーパーがアジア系の野菜だけでなくて、
イタリアやフランスのハーブも扱うようにしてくれたから、大丈夫です」
93 :
書き手1:2009/01/18(日) 23:49:26
「チャイヤ、アメリカに来てよかった?」
ジョージが少し心配そうな顔で尋ねた。
「もちろんです、ジョージ。あなたのお陰です。
来月、ちょっとお休みをもらって、バンコクに戻ろうかと思って。
兄の命日があるから」
「僕も忘れてないよ・・・」
2人が妙にしんみりしたので、ダニーはワインを頼んだ。
ポルトガル料理は、基本的にはスペイン料理とイタリア料理に似たところがある。
が、とりわけ美味しかったのがポルトガル・ソーセージだった。
3人ともメインはソーセージ料理を選び、前菜をそれぞれ別のものにして、取り分けて楽しんだ。
デザートは珍しいアーモンドと白いんげん豆のタルトを選び、異国情緒を味わった。
94 :
書き手1:2009/01/18(日) 23:50:30
「ここのお料理はヴィネガーソースが多いから、さっぱり食べられますね。
癖のあるスパイスも使ってないし。勉強になりました!」
相変わらずチャイヤは分析しながら食事していたようだ。
「なぁ、お前さ、自分のレストラン持ちたいと思わないの?」
ダニーが思わず尋ねた。
「うーん、そんなの無理ですよ。こっちに来たばかりだし、出店してすぐ店をたたむ人たちの話も雑誌で読んだりして。
やっぱり激戦区ですもん。マンハッタンは」
「さよか」
95 :
書き手1:2009/01/18(日) 23:52:05
「僕はね、もしチャイヤがやる気があるなら、出資させてもらいたいって思ってるんだけど」
ジョージが口をはさんだ。
「え、そんなことして頂くのはダメですよ!」
チャイヤは固辞した。
「まだしばらくはチャイナタウンで修行です」
ダニーはこの青年は近い将来、レストランで成功するだろうという予感を抱いた。
レストランを出て、3人はタクシーを待った。
ウェストヴィレッジなのであまり流しのタクシーがいない。
やっと1台来たので、チャイヤを乗せた。
「それじゃ、また!今日はご馳走様でした!!」
「元気でな、ていうか来週のランチもよろしく」
ダニーが言うと嬉しそうにチャイヤがほほ笑んだ。
96 :
書き手1:2009/01/18(日) 23:52:54
車を見送った後、ジョージが尋ねた。
「明日、お仕事だから、今日は別々だね」
「そやね、ごめんな」
「いいんだよ、ダニーとはいつでも会えるから」
「うん、そのとおりや」
ちょうどタクシーが2台続けてきたので、2人はそれぞれの車に乗った。
19日はマーティン・ルーサー・キング・デーで祝日だ。
ダニーがオフィスに出勤すると、マーティンが新聞を持って近付いてきた。
「ねぇ、今日、ジョージがスピーチとライブするって知ってた?」
「へ?何やの、それ?」
「毎年、BAMのカフェで、キング牧師のトリビュート・イベントやるじゃない?
今日の出演はジョージ・オルセンって書いてある」
そういえば、ジョージがキッチンでハミングしていたのを思い出した。
練習をしていたのか。
98 :
書き手1:2009/01/20(火) 00:00:59
「開場が夜8時だから間に合うよね、見に行かない?」
「そやなぁ、行ってみるか?」
「帰りは3人でアルの店で食事しようよ」
「ああ、それ、ええな」
マーティンの勢いに呑まれて、ダニーは同意した。
BAMはブルックリンにあるミュージアムで、
正式名は「ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック」だが
略称BAMの名前で親しまれている。
静かな一日が終わり、ダニーとマーティンは地下鉄でブルックリンに移動した。
ラファイエット通り駅で下車し、BAMを目指す。
カフェの前にはすでに長蛇の列が出来ており、ダニーたちも列に加わった。
99 :
書き手1:2009/01/20(火) 00:02:00
カフェといっても500人は収容できるホールで、テーブルはすでに満席になっていた。
2人はバーカウンターに寄りかかりながら開演を待った。
司会者がジョージの名前を呼ぶと、ホールは割れんばかりの拍手に包まれた。
テーブルを見ると、モデル仲間らしいグループや、業界筋らしいスーツのグループも紛れている。
少しはにかみながらジョージが話し始めた。
去年巻き込まれたヘイトクライムの体験談だった。
ダニーはここまであからさまに話すジョージを初めて見た。
淡々と恐ろしい状況を話すジョージにホール全体が惹きこまれた。
最後に「皆さんで何度でも立ち上がりましょう。アメリカは一つの国なのですから
そして明日、バラック・オバマ大統領が誕生します」でスピーチを締めると、
ホールはスタンディング・オーベイションになった。
すぐにジョージは座るようにジェスチャーし、
「それでは今日のライブの仲間をご紹介します。フォーク・ホップトリオのPS24です!」と
3人のミュージシャンを呼び寄せた。
ダニーもマーティンも知らないバンドだったが、カウンターに置いてあったフライアーを見ると、
ヒップ・ホップのフレーバーをアコースティック・ギターとアフリカン・ドラムに乗せて演奏する
エスニックなトリオとなっている。
ワールド・ミュージックのようなメロディーを、ジョージの極上のベルベットのようなボーカルが歌いあげる。
曲は5曲だったが、オーディエンスは大いに満足した顔で、ステージを去る4人に大きな歓声を浴びせた。
「すごいね、ジョージって!」
マーティンが頬を紅潮させてダニーに語った。
「まったくや。あいつの才能は底知れないな」
「ね、楽屋に行けるかなぁ?」
ホールにいた業界筋らしいグループがこぞって退席し、楽屋に向かっている。
「今日は、無理なんちゃうかな?一応、メール送ってみるわ」
「僕、感動しちゃったよ」
「俺も」
2人はBAMを後にし、地下鉄で少し移動してアルの店に入った。
「よう、今日も仕事帰りか?」
アルがカウンターから声をかけた。
「ああ、俺たち独身組は必ず休日出勤やからね」
「お疲れさん。飯は?」
「腹減ったな」
「うん」
2人の様子に、アルがラリーを呼んだ。
「今日のお勧めは、ニシンの酢漬けにゴートチーズのサラダと、辛めのソースのラムとポテトのパイですけど・・・」
2人は迷わずその三つをオーダーした。
サラダをつついていると、ドアが開き、ジョージが入ってきた。
アルが厨房のラリーをすぐに呼んだ。
「よう、来られたんやね」
「やだなぁー、ダニーもマーティンも。僕、恥ずかしいから秘密にしてたのに、どうして知ったの?」
「だって新聞にデカデカ出てたら気がつくよ」
マーティンに言われて「あ、そうか」とジョージは納得した。
「アイリスがさ、事務所のモデル仲間も呼んじゃうし、バレバレだね」
ダニーの隣りに腰掛ける。
「お前も飯まだやろ?」
ダニーが訪ねていると、ラリーがもじもじしながら近くに来た。
「ジョージさん、いらっしゃいませ。あのチキンとパセリと自家製ハムのプディングがあるんですけど・・・
ガーデンサラダとゆでたてのポテトつきです」
「あ、それ、すごく美味しそうだね、ください」
「おいおい!俺たちにはなしかよ!」
ダニーがふざけてラリーをからかうと
「明日用の仕込みで作ったばかりなんです」と恥ずかしそうに厨房に入ってしまった。
「お前、すんごい良かったやん、スピーチもライブも。いつ練習してたん?」
「歌はバンドにiPodに入れてもらった奴を繰り返し聞いてたんだ。
スピーチはほとんどアドリブ」
マーティンは感心した。
「君って、政治家になれるんじゃない?」
「だめだよ、そんな柄じゃないし・・」
「でも、レコード契約の話はきたんやろ?」
ダニーが尋ねると、「うん、困ったね。そんなに上手じゃないから」とジョージが答えた。
「お前なら売れそうな気がする」
「僕もそう思う」
2人に言われて、ジョージは照れくさそうに笑った。
3人は食事を終えた後も、チーズを摘まみながら、2杯ほどシングルモルトのウィスキーを飲み、
体が温まったところで、店を出た。
相変わらず、アルとラリーが外まで出てきて見送ってくれた。
幸い、すぐにタクシーが一台やってきた。
「じゃ、僕とジョージはこれで帰るよ」
マーティンが言うとジョージも頷いた。
「分かった、寒いから風邪引くな」
「ダニーもね!」
2人を見送り、ダニーはアパートに戻った。
微妙なバランスで結ばれている3人なのに険悪にならないのは、
ひとえにジョージとマーティンの性格だろうと思った。
自分が逆の立場だったら、こんな関係に我慢できそうもない。
部屋に入ると留守電が点滅していた。
再生ボタンを押すと、アンディーの声が飛びだした。
「ダニー、アンディーです。この前言ってたお礼のことなんだけど、僕のお願い聞いてくれる?電話ください」
ダニーはアンディーの携帯に電話をかけた。
「ごめん、遅なった。考えてくれたか?ニックはぜひお礼したいって言うてるんやけど・・」
「うん、僕、ニックさんと食事がしたいって思ったんだけど、ダメ?」
「へっ?ニックと食事かいな?」
「フィアンセがいるから、デートだと浮気になっちゃうのかな?」
「そやね〜。パーシャは繊細やからな〜」
「じゃ、パーシャさんと3人でってダメ?」
「ふーん、一応ニックに話してみるわ。けど、パーシャには内緒なのは分かってるやろな、今回の事件」
「もちろん。僕だってFBI勤務ですよ。分かってますってば」
「よっしゃ、じゃ、また連絡するわ」
「ありがとう、ダニー!あと、僕が持ってるメモリーチップ返さないといけないでしょ」
「そやそや」
「それと事後報告になるけど、ヴァンスが契約していたウェブ上のデータストレージサイト、
全部綺麗にしたから、安心してねってお伝えください」
「ありがとな」
「ねぇ・・・マーティンは元気ですか?」
「相変わらずやけど?」
「そう・・でも、僕も前進しなくちゃね!じゃあ、連絡待ってます」
「それじゃな」
ダニーは電話を切り、ふぅとため息をついた。
翌日、早めにオフィスに出勤し、マフィンを食べながらNYタイムズを読んで、ダニーは仰天した。
世界中の有数のデータストレージサイトが軒並みダウンし、データのほとんどが壊滅的なダメージを被ったというニュースがあった。
被害総額はとんでもない数字になっていた。
アンディーの奴、やりすぎやわ。
ダニーは仕事中、空き時間にニックと連絡を取り、アンディーの要望を伝えた。
「食事くらいでいいのか?まさか3Pしたいとか言わないよな?」
「あいつ、ウブやからそんな事考えつかへんと思うけど」
「お前、一緒に来てくれないか?」
「え、俺?」
「3人って数字が良くないからさ、4人ならテーブルも取りやすいだろ?」
ニックに押し切られ、ダニーは了承した。
ニックが食事に応じる旨を伝えると、アンディーは大喜びだった。
ダニーも一緒だと伝えると、それでもいいと全く気にしていない様子だ。
やっぱり3Pなんて考えてへんな。
ダニーは苦笑した。
明日にも有休を取ってNYに来ると言う。
ダニーはすぐにニックに連絡をし、スケジュールを押さえた。
「じゃ、俺が場所、決めとくわ。坊主、好き嫌いとかあるのかな?」
「俺もよく知らへんけど、あんまりグルメな食事はしたことない感じやね」
「じゃあ、飛びきりのところだと緊張するか・・・結構難しいな」
「ま、任せた。決まったら連絡くれるか?」
「おう、了解」
翌日、アムトラックでアンディーがやってきた。
まだ退去していない自分のアパートで時間をつぶすというので、
ダニーは7時にフェデラルプラザから1ブロック離れたブレンズ・コーヒーで待ち合わせをした。
ニックとパーシャとは、今日のディナーの場所であるトライベッカの「メグ」で落ち合うことになっている。
「メグ」は十分「飛びきり」のレベルなのだが、やはりニックたちの感覚は庶民とはずれている。
ダニーは実感した。
仕事を終え、オフィスを飛び出して、ダニーはブレンズ・コーヒーの席に座っているアンディーを見つけた。
髪を伸ばし始めていて、清潔な短髪になっている。
「ダニー、こんばんは!」
「よ、元気そうやな。髪、伸ばし始めたんか?」
「そう。DCのオフィスで、もうボディーチェックいらなくなったから。
それにスキンヘッドってネオナチみたいでしょ?」
くくっと笑った顔があどけない。
世界中のデータストレージ会社を潰した犯人には到底見えなかった。
「お前さ、データの会社・・・」
「あ、ごめんなさい。だって、ヴァンスのアカウントのある会社だけだと怪しまれるかなと思って、
やり始めたら、ああなっちゃった・・」
ぺろっと舌を出してアンディーが笑った。
「ほな、行こか」
「はい」
2人はタクシーで「メグ」まで移動した。
店に入るなり吹き抜けの巨大なホールにアンディーは驚いた様子だった。
「すごい!ここって何人入るんですか?」
「300人とか聞いてるけどな」
「わ、氷で出来たブッダがいる!」
アンディーが珍しそうにそばに寄った。
「おい、テーブル行こうや」
「あ、ごめんなさい」
フロアマネージャーに案内されて、2人は半個室のVIPラウンジに入った。
ニックとパーシャがシャンパンを飲みながら待っていた。
アンディーが急に緊張したのが分かった。
世界的なトップモデルで、しかもあの画像の主人公が目の前なのだ。
思い出してしまうのも無理はない。
「すみません、ホロウェイさん、コヴァレフさん、今日は僕のお願いを聞いてくださって・・」
アンディーが握手を求める。
何も分からないパーシャはぎゅっと両手でアンディーの手を握った。
アンディーの顔がみるみる赤くなる。
「こんばんは。ダニーの後輩の人だよね。前にマーティンと一緒の時に会った・・」
「そうです!僕、フレグランスのCM見て、あなたのファンになっちゃって」
「そうなの?嬉しいな。ね、ニック、嬉しいね」
「ああ、そうだな、さ、腹減ったから食おうぜ」
「メグ」もレストラン・ウィークに参加しているが、ニックはシェフにおまかせをオーダーしていた。
彩の綺麗な刺身やフォアグラ大根、神戸牛のステーキに寿司の握りと美しい盛りつけの料理が次々に出てきて、
アンディーが目を丸くして驚いていた。
「すごく、美味しいです!」
シャンパンが終わり、日本酒に変わったあたりで、アンディーは自分からマーティンに失恋したことを話し始めた。
パーシャが親身に話を聞いている。
「好きになってもらえないって悲しいよね。でもアンディーは可愛いから、いい人と会えるよ。
僕だってこんなんなのに、ニックと会えたんだもん」
「え、パーシャさんはすごく綺麗だから、昔からモテたでしょう?」
「ううん、僕はね、頭がゆるいからダメだったの。ニックが初めてだよ。僕を愛してくれたの」
ダニーもニックも、パーシャがこれほど他人に自分のことを話すのを初めて聞いた。
「じゃあ、今は幸せですね」
「うん、こんな幸せ、絶対にないよ。ね、ニック!」
「ああ、俺もお前に会えたのは神様の思し召しだと思うよ」
アンディーは心の底から「ああ、いいな〜。僕も運命の人に会いたいな」と言った。
ディナーが終わり、ニックとパーシャはリムジンでリバーテラスに戻って行った。
ダニーが「お前、アパートに帰るやろ?」と尋ねると、
アンディーは「僕、もう少しダニーと話したい」と腕をぎゅっとつかんだ。
ダニーはもう遅いと言ったが、アンディーがダニーの腕を離さない。
寒い路上ではラチがあかないので、ダニーはアンディーを連れて近くのラウンジ・バー「キャンバス」に入った。
ラブ・チェアーしか空いていないので、ダニーは仕方なくそこに座った。
「お前、何飲む?」
「僕・・ホワイトサングリア」
「ほな、頼んでくるから、待っとき」
「はい」
ダニーは自分のマティーニとサングリアを持って席に戻った。
「で、話って何や?」
「前にも聞きましたけど、マーティンの付き合ってる人って、本当にダニーじゃないんですか?」
アンディーのグリーンの瞳がダニーをまっすぐに捕らえた。
「あぁ?何なの、それ?」
「違うんですか?」
「お前なぁ、俺とマーティンは相棒やって何度も言うたやろ?
それに、マーティンは仕事には関係ない相手だってお前に言ったやん。信じられへんの?」
「そうなのかな〜。じゃあ、ダニーがヘテロっていうのは本当?」
ダニーがどきりとした。
マーティンとの間柄は相棒で片付くかもしれないが、
ジョージとの関係に煙幕を張るのは難しい。
「ああ、そや。今は誰とも付き合ってないけどな」
すぐに切り返してみたが、アンディーがすっきりしない顔をしている。
「何で俺のことなんか聞くん?」
「だってジョージとお似合いだから。少なくてもジョージはすごくダニーを愛してると思う」
「そか?それじゃ、俺はとんでもなく嫌な奴やん。ジョージの心を弄んでるみたいな感じやね」
ダニーはマティーニのおかわりを取りにカウンターに向かった。
アンディーは賢い子だ。ボロを出してはまずい。
ダニーは早く別れなければと気持ちが焦った。
席に戻るとアンディーが誰かと電話で話している。
ダニーは隣りに座ってマティーニをすすった。
「はい、分かった、じゃあ行きます。ありがとう、ジョージ」
何?今、ジョージって言うた?
ダニーはポーカーフェイスで尋ねた。
「誰と電話?」
「ジョージ。僕、今日、ジョージのところに泊まります。
ダニーはジョージと付き合ってないんだから、いいでしょ?」
「そりゃ、お前の勝手やけど、いつDCに戻るんや?」
「明日も休み取ったから、明日の晩のアムトラックで戻ります」
「ふうん、ジョージ、何やて?」
「僕が酔っぱらってると思ってるから、快諾してくれましたよ、ここに迎えに来るって」
「え?ここに来るのか?」
「うん、すごく優しい人ですよね、ジョージって。ベッドでも優しいのかな?」
挑むような眼でダニーを見つめるアンディーは真剣だ。
「そんなの知るかいな。お前、まさか・・」
「うん、ジョージを誘惑してみるつもり。結果は明日お知らせしますね」
アンディーもサングリアのおかわりを取りにカウンターに向かった。
ダニーはジョージに電話をしようと思ったが、こっちをちらちらアンディーが見ている。
もう仕方がない。流れにまかせようと観念した。
ほどなくして、ジョージが現れた。
「あれ、ダニーもいたの?」
ジョージが驚いている。
「ああ、ちょっとな・・・」
「だめじゃない!まだ若いんだから、そんなに飲ませちゃ」
ジョージが責めるような眼でダニーを見た。
「悪い、そんなでもないんやけど・・」
「で、2人でいたんだ」
「いや、ニックとパーシャと食事した。詳しくは今度話すわ」
「ふうん、今は話せないんだね」
「ごめん」
「じゃあ、僕は、アンディーを連れて帰ります」
アンディーがサングリアを持って現れた。
「あ、ジョージ!」
「やぁ、元気そうだね?え、まだ飲むの?」
「だめ?」
急に甘えた口調にアンディーが変わった。
「だめだよ!これは、ここに残るダニーに任せて、もう帰ろう」
「・・・そんなわけなので、ダニー、失礼しますね」
ジョージはアンディーの肩に手を回して、守るように出て行ってしまった。
一人残されたダニーは、マティーニを飲み干すと、サングリアをそのままにして、外に出た。
もう2人の姿はない。
一体、何が目的なんや、あの坊主。
ダニーは釈然としない気持ちで、地下鉄の駅に向かった。
アパートに着いたダニーは、ジョージの携帯に電話をかけてみた。
しかし、もう電源が入っていない。
あのジョージのことだ。
アンディーの誘惑に負けるとは考えられないが、マーティンですら寝ているアンディーだ。
どんな手で攻めるのか見当がつかなかった。
くさくさしたダニーはシャワーを浴びて、ベッドに入ったが、なかなか眠れそうになかった。
翌朝、ダニーが眠りをむさぼっていると枕もとの携帯が震えた。
「んん・・・テイラー・・・」
「あ、ダニー、ごめんね。起しちゃったね?」
ジョージからだった。
「おう、おはよう、大丈夫や。坊主どないしてる?」
「それがさ・・・言いにくいんだけど」
ダニーはほら来たと思った。
「何や、お互いに隠し事しない約束やろ?」
「じゃあ、言うね。同じベッドで寝た。でも、何もなかったよ、本当だからね。
あ、アンディーが起きてきた。じゃあね、また連絡する」
ぷちっと電話が切れた。
同じベッドで添い寝か?それだけなんて、あり得るのかいな。
ジョージは何といっても「寝たいゲイセレブ第一位」なんやから。
ダニーは小柄で白いアンディーの体が圧倒的なジョージの褐色の体に組み敷かれるシーンを想像し、
バカバカしいと、シャワーを浴びにバスルームに入った。
オフィスに出勤しても、ダニーは不機嫌なままだった。
気分がすっきりしない理由を考えると、余計にむしゃくしゃしてしまう。
「ねえ、ダニー、何かあったの?」
マーティンが心配顔でコーヒーをダニーに渡しながら話しかけてきた。
「何でもあらへん」
「それならいいけどさ。僕ならいつでも話聞くよ」
「ありがとな」
ランチになり、マーティンはダニーを誘って、いつものカフェに出かけた。
日替わりのミートボールパスタとサラダを頼んで、ダニーは思わずため息をついた。
「よっぽどのことなんだね。深刻そうだ。話してみると、楽になるかもよ」
マーティンがダニーを促した。
ダニーは思い切ってマーティンに打ち明けることにした。
「実はな、アンディーがNYに来てんねん」
「え?そうなの?」
「でな、俺とバーで飲んだんやけどさ、あいつ、ジョージを迎えに来させて、
ジョージんちに泊まったんや」
「へえ、そうなんだ・・・」
「ジョージが朝、電話してきて、ベッドで添い寝したって言ってきた」
「ジョージが?そうか、ダニーは心配なんだね。本当にそれだけだったのかどうか」
「・・・俺もアホやな」
「ねえ、あのジョージが浮気するわけないじゃない。それ、一番知ってるのはダニーだと思うよ」
「ん・・・」
「それに、僕もアンディーを泊めたけど、本当に寝たのは一度きりだよ。
あいつ、添い寝すると安心するみたい。
まだマクレーンに誘拐されたトラウマがあるんじゃないかな」
「さよか?」
「信じてあげなよ、ジョージを。何だか、ダニーらしくないよ」
2人は料理が運ばれてきたので会話を終わらせた。
夕方になり、ダニーの携帯が鳴った。
アンディー・スミスと表示が出ている。
ダニーは廊下で電話に出た。
「ダニー、僕です。今、ペン・ステーションで列車を待ってるところ」
「そか」
「何があったかとか尋ねないんだね?」
「言うたやん、俺はジョージと付き合うてないって」
「でも、ジョージがベッドのところに置いてるぬいぐるみってダニーそっくりじゃない?」
「そんなの知らへん。とにかくお前、早くその考え捨てろ」
「分かったよ。昨日はね、ジョージにたっぷり可愛がってもらったから、すごく安心して眠れたんだ。
それじゃDCに帰ります。また何かあったら連絡くださいね。それじゃ」
ダニーは、まだ子供のアンディーの言葉に心をかき乱される自分に嫌悪感を抱いた。
浮かない気分のまま仕事を終えたダニーが帰ろうとロッカーでコートを羽織っていると、携帯が震えた。
ジョージの名前が表示されている。
ダニーは、咳ばらいをして電話に出た。
「はい、テイラー」
「あ、まだお仕事中?」
「んー、もうそろそろ上がりやけど?」
「ダニー、怒ってるでしょう。今晩、ご飯でもどうでしょうか?」
ジョージがやけに丁寧な口調になっていて、ダニーは思わず苦笑した。
「ええよ、会おか。どこに行けばええのん?」
「僕の家では?」
「分かった、じゃあ、今から行くわ」
「待ってる」
ダニーは金曜日の混雑を避けてタクシーを諦め、地下鉄で72丁目まで上がった。
エントランスでボブに挨拶をし、エレベーターでジョージの部屋まで上がる。
ジョージが玄関のドアを開けて待っていた。
「よっ!」
「寒かったでしょ?早く、入って!」
ダニーはすぐに部屋着に着替え、ジョージが待っているダイニングに入った。
早くもスパイスの香りで、ダニーはピンと来た。
こいつ、今晩はキューバ料理やないか!
「ダニー、手洗いとうがいすませた?」
「あ・・」
「インフルエンザが流行ってるから、約束だよ」
「はいはい」
ダニーはバスルームに入り、言うとおりにした。
まるでおかんみたいな奴や。
ダイニングに戻ると、すでにプレートが置かれていた。
クロケタス・デ・ハモン(ハム入りのコロッケ)に、カラマーレ(子イカのガーリックオイル煮)と
グリーンサラダだ。
「お前、これ、自分で作ったの?」
ジョージは恥ずかしそうに答えた。
「うん、さすがにヌー・キッチンも本格的なキューバ料理のレシピがなくてさ。
でもダニーの口に合うか心配だよ」
「楽しみやな〜」
「まず白ワイン開けるね」
「おお」
ダニーは早速コロッケを口に入れた。
ハムから出た肉汁がポテトに染みて美味しい。
スペイン風のイカのガーリックオイル煮も絶品だった。
メルバトーストが用意されていたので、ダニーはオイルごとトーストに載せてぱくぱく食べた。
次にフリホーレ・ネグロ(黒豆のスープ)が出てきてダニーを感動させた。
まさにダニーの母親がつくる料理そのものだったからだ。
もちろん、ダニーの家ではスープにコメ料理か焼きトウモロコシ、
それだけの食事だったが、それでも十分に幸せな時期もあった。
ダニーが落ち着いたのを見計らって、ジョージが話し始めた。
「昨日はごめんなさい。僕、ダニーがその場のノリで、アンディーにたくさんアルコール飲ませたんだと思ったんだよね。
でも、彼、家についたらケロっとしてるし、これはヤラレタと思ったんだ」
「そか。あいつもずっと酔っぱらいのふりしてりゃいいのにな」
「そこまでの駆け引きは無理だよ。だって、自分がゲイだって自覚したのがつい最近なんだもん。
それに、恋愛経験もゼロみたいだし。マーティンに玉砕しちゃったからね」
「だから、あんな無軌道な振る舞いをしたんかいな」
「僕も、自分がゲイだって分かった頃の葛藤を思い出しちゃったから、つい同情して、
過分に優しくしてしまったんだと思う。でも、アンディーには相談相手がいないんだもん。
可哀そうでさ」
「お前は、そういうの、だまって見てられないからな」
ジョージはうすく笑った。
「僕のウィークポイントでもあるよね。で、ひとしきり、ダニーと僕の仲をさんざん疑うような質問を浴びせかけてさ。
挙句の果ては、すたすたベッドルームに入って、洋服脱いで寝ちゃったよ」
「さよか・・ほな、何も起こらなかったわけやね」
ダニーがジョージのグリーン・グレーの瞳をじっと見つめた。
「うん、ニックたちとの食事で結構疲れたみたいだから、すぐに寝息が聞こえ始めてね。
だから、僕もそのまま寝たんだ」
「よく分かったわ。ありがとな、話してくれて」
「だって2人の間に秘密はなしでしょ?ダニーの方こそ、どうしてアンディーと飲んでたの?」
「それがな・・・」
ダニーは画像の詳細はぼかしたが、パーシャのパリ時代の画像公開でゆすられて、
アンディーに捜査協力してもらったいきさつを話した。
「それのお礼がニックとパーシャとの食事やったんや。俺は単なる付添い」
「そうだったんだね、ごめんね。僕こそ、険のある言い方しちゃって」
「気にしてへんから。あの光景みたら、俺が飲ませたようやったしな」
2人はようやく笑った。
「じゃあ、ニックとパーシャの事件は解決したんだね」
「ああ、無事にな」
「よかった・・・だから、ニックがパーシャと距離を置いてたんだ」
「ああ、あいつなりにすごく苦しんでたで。あいつにとっては、パーシャの過去を許せるかの踏み絵みたいな事件やったからな」
「もう、今はラブラブだよね。あ、そろそろメインを出さなくちゃ」
ジョージの用意したメイン料理はモジョというキューバのスパイスに漬け込んだビーフのグリルだった。
ソースはチミチュリソース。ダニーの大好物だった。
ワインも赤に変えて、2人はじっくり味わった。
ビーフを食べ終わると、ジョージがチーズの盛り合わせを出してきたので、
しばらくそれをつまみながら、話を続けた。
お互いの誤解が解けて、2人は自然と微笑み合った。
「ねえ、明日ってお休み?」
「ああ、休みやったな、忘れてたわ」
「じゃあ、今晩はゆっくりできるね」
「ああ、明日の朝もな」
その言葉を聞いて、ジョージは嬉しそうな笑顔を見せた。
ダニーは腕のしびれで目を覚ました。
見ると左腕にジョージが頭を乗せてすやすや眠っている。
あかん、あのまま寝てしもた。
わだかまりのなくなった2人は、食事を終えてすぐにベッドで熱い時間を過ごしたのだった。
ダニーの太腿やペニスが乾いた精液でぱりぱりになっている。
ジョージの局部や太腿もそうに違いない。
ダニーは静かにジョージを揺り動かした。
「ジョージ、起き。シャワーしよう?」
「ん・・・ん」
139 :
fusianasan:2009/01/25(日) 23:25:23
ジョージがゆっくり目を開けた。
ダニーの顔を見つけてにっこり笑う。
「あ、寝ちゃったんだ・・」
「そや、俺、腕がしびれてる」
「わ、ごめん!」
ジョージが仕掛け人形のようにぴょこんと起きたので、ダニーは思わず笑った。
バスルームの広々としたシャワーブースでお互いの体を洗いながら、またキスを始めてしまう。
「俺たち、盛りのついたティーンか?」
「うふふ、ダニーのここはそうみたいだね」
また首をもたげてきたペニスにジョージは跪いてキスをし、口に含んだ。
「あぁ〜たまらん・・」
ジョージの微妙な舌の動きにダニーは呻いた。
頭を大きく揺らしながらのジョージの愛撫が続く。
「ジョージ、俺、出る・・」
ダニーはジョージの口の中に激しく果て、体を何度か震わせた。
ジョージがごくんと飲みこみ、舌でダニーのペニスを綺麗にする。
今までダニーが相手をした中には、絶品のフェラチオをする女もいた。
娼婦だったが、それが魅力で何度か買ったことがあった。
しかし、ジョージのそれとは比べものにならない。
愛情がこもるとこうも違うのか。
ダニーは壁にもたれかけながら、充足感を味わっていた。
ジョージがくるりと後ろを向いた。
「あ、お前はええの?」
「うん、僕はいい。ダニー、口でするの好きじゃないの知ってるし」
「ごめん・・」
ダニーにはどうしても越えられない壁だった。
含んだり、咥えたりまではいいのだ。
しかし相手を果てさせ、飲みこむとなると話は違う。
幼かった頃の屈辱的な思い出が蘇り、相手がジョージであろうと、マーティンであろうと、
どうしても抵抗感があった。
俺はやっぱりゲイやない。
ぼーっと考えていると、ジョージがシャワーを止め、ダニーの手を取った。
「ベッドに戻ろうよ、風邪ひいちゃう」
「そやな」
2人はバスローブを羽織り、温かいベッドの中に入った。
翌日、昼過ぎにダニーが目を覚ますと、ジョージはすでに起きていて、窓から外を眺めていた。
「今日も雪だよ。ふわふわ降ってる」
「寒いよな〜」「じゃあ今日は家で過ごす?」
「賛成!でも食いもんあんの?」
「大丈夫。ヌー・キッチンのパスタソース買いだめしたから。ランチはパスタでいいでしょ?」
「ああ、腹減ったな」
「はいはい、じゃあ準備しまーす」
ジョージがはつらつとベッドルームから出て行った。
ダニーはふと気になって、ジョージの洗面台の上のキャビネットを開けた。
相変わらず処方薬の種類は減っていない。
にわかにジョージが心配になるダニーだった。
昼はゴルゴンゾーラのペンネと、トマトクリームソースのリングイネを食べた。
そのあとはジョージが買った「ボーン・トリロジー・ボックス」のDVDを見て過ごした。
「お前がジェイソン・ボーンファンとはな・・」
「っていうか、CIAの仕事ってどんなのかなって思ったりして。FBIとは違うの、分かってるけどさ」
ダニーは苦笑した。
「俺たちは、ボーンみたいに暗殺者に仕立てられたりせいへんで」
「ね、前から聞きたかった質問していい?」
「何?」
「ダニー、人を殺したことってあるの?」
ジョージの目は真剣だった。
「そやね、マイアミ市警の時の俺の仕事は、組織犯罪担当やったから、
やるからやられるかギリギリの線上にいたんや。だから、射殺したこともある・・」
「そうなんだ・・・」
ジョージは少なからずショックを受けているようだった。
「でもFBIに移ってからは、そういう捜査が少なくなったから」
ふぅー、ジョージは長い溜息をついた。
「僕、すごく心配になっちゃったんだよね。パラノイアみたい。ダニー、無茶しないでね」
「当たり前やん。お前のためにも無茶はせいへんよ」
「約束だよ」
「OK」
2人はソファーの上で自然とキスを交わした。
月曜日、スターバックスのピアディーニを買ってダニーが出勤すると、
浮かない顔のマーティンがPCをぼんやり見つめていた。
「おはよう、ボン」
「あ、ダニー、おはよう」
「どうした?悩みごとか?」
「うーん、ね、ランチつきあってくれる?」
「ああ、ええよ」
昼休みになり、2人はいつものカフェに出かけた。
今日の日替わりはビーフ・ストロガノフだ。
2人はそれをオーダーし、食べ放題のパンを食べ始めた。
「で、何があったん?」
ダニーが尋ねると、マーティンが「彼女が来るんだ」とだけ答えた。
「彼女?あ、もしかして、見合いの相手か?」
ダニーはしっかり名前を覚えているが、わざと避けて返事をした。
「うん、それも今日なんだよね、会うの」
「急な話やなぁ」
「今、レストラン・ウィークじゃない?どっか予約しないと入れないよね?」
案の定、マーティンはきちんとしたレストランで会おうとしている。
ダニーはそのきまじめさに苦笑した。
「お前、下品なところには行かへんの?」
「うん、一応、最低限の礼儀だけは尽くそうと思って。だって断るんだし」
「お前の方から断っても大丈夫なん?」
「どうにかなるよ。だって相手がどう出るか分からないしさ。あ〜あ、カミングアウトできたらな〜」
「おいおい、それだけはやめろ。将来を棒に振るつもりか?」
「そうじゃないけど・・」
「ほな、難しい料理のレストランはどや?ヴェーガンのふりするとか」
「あ、それっていいかもしれない。食べ物の趣味って重要だよね?」
「じゃあ、それで行ってみ」
料理が運ばれてきたので、2人はランチを始めた。
心なしかマーティンの顔が明るくなったように見えた。
翌日になり、マーティンがお礼にとダニーをディナーに誘った。
うまくいったんや。
ダニーは安心して招待を受けた。
昨日がスーパー・ヴェーガンで名高い「キャンドルカフェ」で食事をしたと聞いて、ダニーは爆笑した。
あの肉好きのマーティンがそれを耐えたのだ。
今日は絶対に肉攻めに会うだろうと予想した。
予想通り、マーティンが選んだのは、前に鶏鍋を食べた韓国料理の「バン」だった。
オフィスから近いし、レストラン・ウィークに参加していないので、予約もすぐに取れたようだ。
ダニーはオーダーをマーティンに任せた。
マーティンは喜んで、前菜にユッケ、キムチの盛り合わせ、
BBQメニューから鴨とフィレとラムチョップに野菜ときのこの盛り合わせをオーダーした。
韓国地酒のマッコリのビール割があるというので、それを飲みながら、キムチを摘まみ始める。
「で、どないなった?」
「やっぱり、ヴェーガンには驚いたみたいだったね。
マイアミにもヴェーガンレストランあるだろうけど、初めてみたいだった。
それに、僕、アルコールが体質的に受け付けないって断ったから、
彼女も飲めなくてさみしそうにしてたよ」
ダニーは、ミランダ・ウォートンが大酒のみだったのを思い出した。
さぞかし彼女には辛いディナーだったろう。
BBQの肉類が運ばれてきて、2人がグリルで焼き始めると、マーティンの携帯が鳴った。
知らない番号が表示されている。
「はい、フィッツジェラルドですが、あ、ミランダ・・・え、明日ですか?
どうかなぁ、仕事が結構詰まってるんですよね。はぁ、そうなんですか?それじゃ、明日9時に」
マーティンは電話を切って、ふぅとため息をついた。
「ダニー、だめだったみたい。明日は彼女のおごりで、インド料理に行きたいって」
「そりゃ、困ったな。相当お前のこと気に入ったんやないの?」
「そうなのかな・・・」
「もうOKしちまったんやから、明日もつきあうしかないやろ」
「そうだよね、明日もヴェジタリアンか・・・」
マーティンは焼いている肉をひっくり返しながら、またため息をついた。
意気消沈しているマーティンを励まそうと、「バン」の後、
2人で近くのデザイン・ホテル「ニューヨーク・パレス」の中のワイン・バー「ギルト」に出かけた。
カウンターに腰を落ち着けて、カリフォルニアのシャルドネを注文する。
「まだ食えるやろ?」
ダニーが気を利かせて、チーズの盛り合わせとトリュフのポテトフライを注文した。
ここは初めて入ったバーだが、2人は自分たちが浮いているのに気がついた。
「ねぇ、ここってシングルズ・バーだね」
「そうみたいやな」
2人のことをなめるように見ている女性の2人連れが何組もいる。
「え、あれ、ミランダだ!」
マーティンが声を上げた。
少し離れたラウンジソファーで、肌もあらわな黒のチューブドレスのミランダが、
友達らしい女性と嬌声を上げて話している。
「やばいな。僕がアルコールがだめっている嘘がばれちゃう」
ダニーも、ミランダが覚えている保証はないが、顔を合わせたら何かが起きる予感がした。
そこへ2人が頼んだグラスワインが届いた。
「マーティン、出るか?」
ダニーが尋ねるとマーティンはちょっと考え込んだ。
「いや、これでいいのかも。言葉で断るより簡単だし。見つかったらその時はその時ってことで」
マーティンは次に届けられたポテトを摘み始めた。
ダニーは自分から退散しようとも言い出せなくなり、ワインを飲んだ。
そこへ千鳥足のミランダがカウンターにドリンクのオーダーをしにやってきた。
「あら、や〜だ、マーティンじゃない!何でバーになんかいるの?あ、ワイン飲んでるし。
そっちはお友達?はぁーい、私、マーティンと結婚予定のあるミランダ。
ねぇ、マーティン、お友達を紹介してよ〜?」
「ミランダ、紹介するよ、僕のパートナーのダニーだ」
ダニーはうつむき加減で会釈だけした。
「あら、ダニーっていうの?私のむかーしの知り合いにもダニーっていうのがいたわ。
とんでもない失礼な男だったけど・・え、やだ、ダ、ダニーなの?」
マーティンはミランダの狼狽に気がついてダニーの顔を見た。
ダニーも観念して、ミランダをじっと見つめた。
「久し振りやな、ミランダ。相変わらず酒グセ悪いな」
「最悪!なんで、あんたみたいな男がマーティンのパートナーなわけ?え、パートナーって何よ?
まさか、ゲイなの?」
「どう思ってくれても構わないけど、ミランダ、取引しない?
君が親元を離れて、ニューヨークで羽根を伸ばすのはいいけど、
見合いしている最中にシングルズ・バーに繰り出したなんて、
お父様には知られたくないでしょう?見合いの話、君から断ったようにしてくれたらうれしいんだけどな」
丁寧な口調ではあったが、マーティンの強い意志が感じられた。
ミランダも酔った頭でじっと考えた。
「そうね、それじゃ、それで手を打つわ。ねぇ、ダニー、私を振ったのって、ゲイだったからなの?」
「もう昔のことやから忘れた。君も忘れた方がええんちゃうかな?」
「ねえ〜、ミランダ、イケメン2人と何話してるのよ〜」
連れの女友達がミランダのところに寄ってきた。
「ごめん、先に席に戻ってて。今日はもっと飲みましょうよ、ね!」
ミランダはバーテンダーにマルガリータを頼むと、すっと2人から離れた。
マーティンがダニーの方を向いて尋ねた。
「ねぇ、ミランダの今の話って本当?」
ダニーは観念して頷いた。
「ごめんな、隠すつもりなかったんやけど。お前、俺が女と付き合ってたのって、いい気せいへんやろ?
言いそびれた。ほんの数週間の付き合いやったけど、付き合ってたのは事実や」
「そう・・・別にいいけどね」
マーティンがワイングラスに目を落としたのを見て、
やっぱりさっき帰ればよかったとダニーは後悔した。
ホテルの前で、マーティンと気まずい別れ方をして、ダニーはブルックリンに戻った。
見合いの写真を見せられた時に正直に話すべきだったのだろうか?
ダニーは自分の軽率さを呪った。
しかし話したところで、マーティンに過去の余計な詮索をされるのを好まなかったのも事実だ。
マーティンにはNYで生まれ変わった自分だけを知っておいて欲しいという気持ちがある。
偽善者かもしれへんな。
ダニーは、気分を変えようとシャワーを浴びにバスルームに入った。
翌日、仕事が終わり、帰り仕度をしているマーティンにダニーは近付いた。
「なあ、これから飲みに行かへんか?」
ヴィヴィアンとサマンサがまだ席にいるので、さりげない尋ね方をした。
マーティンはちょっと考えたが「ああ、いいよ」と答えた。
「ほな、お先にな」
ダニーが軽口で挨拶すると、サマンサが「今度、私も連れてってね」と言った。
「了解。今日はボーイ・スカウトの日やから、またな」
2人は無言のままエレベーターで下に降りた。
1階のホールに着くと、ぽつんとマーティンが言った。
「ダニー、気を使わなくていいよ。僕、何とも思ってないから」
「そんなら、なおさらええやろ。じゃ、酒じゃなくて飯にしよ」
「ダニー・・」
ダニーはすたすたと先を歩き、フェデラルプラザのタクシー乗り場に並んだ。
「どこ行くの?」
「ミカさんとこはどや?」
「分かった」
2人は43丁目まで上がり、店の前でタクシーを降りた。
店に入ると、ミカがカウンターから挨拶をした。
珍しくクリスがいない。
「テーブル席になさいます?」
尋ねられてダニーはマーティンを見た。
「いえ、カウンターでいいです」
マーティンがそう答えたので、2人はミカの前に腰掛けた。
いつもおまかせでお願いしているので、すぐにお通しが3種類並ぶ。
2人はまずビールを頼んだ。
「今日はクリスは?」
ダニーが尋ねると「フィラデルフィアに出張だそうです」との答え。
と突然、マーティンがミカに聞いた。
「ねぇ、ミカさん、クリスの過去って気になります?」
ミカは急な質問に一瞬驚いた顔をしたが、にこっと笑って答えた。
「過去を知ってもいいことってあまりないような気がします。
自分が好きなのは目の前の彼ですから。
どうせ悩むのであれば、過去の影を色々思い煩うよりは、
これからのことを心配する方がいいかなって思いますよ」
ミカは焼き鳥の串を2本出しながら答えた。
「そうだよね・・・」
マーティンはビールをぐいっと飲んだ。
ダニーは成り行きを見つめながら、焼き鳥を食べ始めた。
「わ、美味い!」
ダニーが思わず声を上げた。
「これ、何ですの?鴨?」
ミカは嬉しそうに「はい、マグレ・カナールっていいます。フォアグラを取るために育てられた鴨なんですよ」と答えた。
マーティンも急いで食べてみる。
「本当だ!」
「やっと、うちでも仕入れられるようになったので」
ミカはそのあとも鶉を出したり、ホロホロ鳥を出したりと楽しませてくれた。
「ミカさん、方向転換?」
日本酒を飲みながらダニーが尋ねた。
「ええ。せっかく来て頂いたお客様に色々な味を召しあがっていただきたくなって。
チキンだけではつまらないでしょうし」
2人は最後にコニシの打ったソバを食べて、店を出た。
「不況なのに、ミカさんは強気だね」
マーティンが言った。
「さすがやな。勉強もしてるし」
「僕たちはただ食べるだけだけどね」
マーティンがやっと笑ったのを見て、ダニーは安心した。
「寒いなぁ。ほな帰ろか?」
ダニーが地下鉄の駅の方向に歩きかけると、マーティンがコートの袖をつかんだ。
「今日、泊まっていけば?」
「え?ええの?」
「もう遅いし、寒いからさ。タクシー、拾おうよ」
ダニーは「そやね」と頷いて、マーティンの後を歩きだした。
マーティンのベッドルームの中では、湿った音と喘ぐ声が響いていた。
ダニーがベッドに大の字になり、マーティンがダニーのペニスを咥え愛撫を施していた。
「あぁ〜、すごくええ気持ちや・・・」
ダニーが口の中でどんどん大きく息付くのを感じ、マーティンは咥えるのをやめて、
舌で側面や先端の愛撫を始めた。
「おい、お前、俺、イキそう・・出してもええの?」
マーティンは顔を上げて、体を動かし、ダニーにキスをした。
自分の先走りの味がして、正直あまり好きではないが、
キスは行為につきものだから、ダニーもだんだん慣れてきている。
「ねぇ、入れてくれる?」
マーティンの青い瞳がうるんでいるように見える。
「ああ、お前、俺の上に跨がる?」
「今日はそれがいいの?」
「ああ、いやか?」
「そんなことないよ」
マーティンは恥ずかしそうに、引き出しからローションを取り出した。
「僕に塗って」
「ん」
ダニーはローションを指に取り、晒されているマーティンの秘部を愛撫し始めた。
最初は周辺から湿らせ、潤ったところで、指を挿入し始める。
「あぁん・・」
マーティンの喘ぐ声が甘い吐息混じりになっていく。
ダニーは親指を抜くと次には人差し指、そして中指を加えて、中を十分に探訪した。
マーティンの目が早く欲しいと告げている。
ダニーはローションを自分のペニスに塗布し、「マーティン、おいで」と言った。
そろそろとゆっくりした動きで、マーティンがダニーの上に腰を下げていく。
そして根元まで深く入ると、ダニーの上で、動き始めた。
ダニーも下から突き上げる。
「あぁ、お前、そんなに動くと、俺、もたへん・・・・」
「いいよ、来て、ダニー」
マーティンはさらに激しく動き、前後に体を揺らして摩擦を大きくした。
「だめや、出る、ああ〜!」
ダニーは大きな声を上げ、マーティンの中に勢いよく果てた。
マーティンも自分の手でペニスをしごき、同じく大きな声とともに、ダニーの胸に飛沫を飛ばした。
「マーティン、こっちに」
ダニーの優しい言葉に、マーティンはダニーの体から降りると、
ダニーの上に体をぴったりと重ねた。
「お前、ちと重い・・・」
「我慢して」
マーティンがまた唇を求める。
ダニーはそれに応じて、2人は長く熱いキスを交わした。
キスが終わると、マーティンがダニーの横に寝転がり、ダニーの胸に手を置いて、顔をすりよせて来た。「このまま寝たら、風邪ひいちゃうよね」マーティンが照れくさそうに笑う。「ああ、2人でひいたら、サムに何言われるか怖いわ」
少しの間、沈黙があった。
「ねぇ、ダニーは僕の過去、気になる?」
ダニーは一瞬考えた。パーシャの事件を思い出したからだ。
「気にならない言うたら嘘になるけど、お前が話したくないなら、俺からは尋ねない」
「そうなんだ・・・。じゃあ、僕も尋ねないことにする。ミカさんの言うとおりだ。
過去と戦うなんて、シャドー・ボクシングみたいだよね」
「ミカさんは、強い女性やな。クリスにはもったいないわ」
「え、もしかしてダニー、ミカさんを好きなったの?」
「アホ!友達の彼女やぞ」
「そうだよね、ごめん」
「じゃ、シャワーしよか?」
「うん」
2人はベッドから立ち上がり、バスルームに入って行った。
翌朝、2人はギリギリまで眠りをむさぼり、パニックになりながら支度をして出勤した。
スターバックスに寄る余裕もなく、オフィスに駆け込む。
サマンサがちらと2人の様子を見て「昨日はお楽しみだったみたいで」と皮肉を言った。
「ごめん、サム、次は一緒に出かけようよ」
マーティンが珍しく言ったので、サムが驚いた顔をした。
「じゃ、次に繰り出す時は声かけてね、マーティン、よろしく」
マーティンがカンティーンでサンドイッチを買ってくるというので、
ダニーは2人分のコーヒーを入れた。
就業開始時間を過ぎたが、2人がもぐもぐ口を動かしていると、ボスから呼び出しがかかった。
2人はあわてて口の周りを紙ナフキンで拭くと、ボスのオフィスに入った。
「おはようございます、ボス」
「2人とも座れ」
ボスの手には事件ファイルがあった。
「お前たち2人にこれから、西海岸に飛んでもらいたい」
「事件ですか?」
「手がかりの手前というところだ。カリフォルニアのサリナスバレー州刑務所を知っているか?」
もちろん2人は頷いた。
凶悪犯の収容されている刑務所で悪名高く、毎年1000件近い事件が起きている。
そのうち200件が看守が襲撃されるという悪質なものだ。
「そこの受刑者が、ある失踪事件の手がかりを知っていると弁護士に漏らしたそうだ。
刑期の短縮を狙ったガセネタの可能性もあるが、今のところ、否定も出来ない。
その受刑者に会って、確かめて来て欲しい」
「了解っす」
ダニーはすぐに返事をしたが、マーティンは少し躊躇した。
西海岸での勤務経験のあるマーティンは、その刑務所についての知識がダニーよりあるようだった。
「マーティン、凶悪犯の扱いに慣れているダニーが一緒だ。勉強に行って来い」
「はい、ボス」
2人はボスから事件ファイルを受け取り、席に戻った。
「ほな、フライトのアレンジしてくれへん?」
ダニーは心なしか嬉しそうだ。
マーティンは早速PCを操作し始めた。
「ダニー、最寄はモントレーなんだけど、どこからも直行便がないよ。デンバー経由だ」
「仕方無いな、それにしよ。何時?」
「午後の2時。でモントレー着が7時」
「ほなブッキングよろしく」
「OK」
2人は急いで事件の資料を吟味し始めた。
6年前の女性の失踪事件だった。
自宅の前で乗用車を降りたところを拉致され、そのまま行方不明になっている。
夫と子供はまだ諦めずに、妻の帰りを待っているらしい。
「シングルファーザーか、辛かったやろな」
「子供も当時11歳だけど、もう17歳だから、いい大人だよね」
「今からじゃ会う時間がないな、ヴィヴとサムに頼むか?」
「でも、まだネタがどんな内容か分からないから早すぎない?」
「それもそやね。じゃあ、俺たちが明日、こいつに会ってから連絡しよか」
ダニーはファイルに挟まれていた囚人の写真をポンと指ではじいた。
エステバン・コルテス。メキシコ系ギャングで殺人罪で服役中だ。
2人はオフィスに常備しているガーメントバッグを取り出し、簡単に出張の用意を終わらせ、オフィスを出発した。
モントレーまでのフライト8時間の間、ダニーもマーティンも、
昨日の情事の疲れからかぐっすり眠ったので、気がついたらモントレーに着いていた。
空港でレンタカーを借り、ダニーが運転する。
サリナスまでは40分ほどのドライブだ。
サリナスに着き、コンフォート・インに部屋を取る。
運よく、クイーンサイズベッドのツインが取れた。
これなら出張精算の時でも怪しまれないだろう。
2人はやれやれと早速カジュアルウェアに着替えて、食事をしに町に出た。
チェーン店だがイタリアンレストランの「オリーブ・ガーデン」がある。
さすがに疲れている2人はすぐそこに入った。
前菜にムール貝のワイン蒸しとシーザーサラダを頼み、
ピッツア・アルフレッドとチーズ・ラビオリをシェアした。
ワインはケンダル・ジャクソンが驚くほど安いのでシャルドネを頼み、食事を終えた。
部屋に戻ると、マーティンがジャグジーに行くと言い出した。
「お前、元気あるなぁ」
ダニーはベッドに寝ころんで、ケーブルTVをザッピングしている。
「先に寝ててもいいよ」
「そやな、今日はエッチなしの日やし」
ダニーがにやっとすると、マーティンが少し顔を赤くした。
「ほな、後でな。鍵持ってくの忘れるな。俺、まじに寝てるかもしれへんから」
「分かった」
マーティンが出ていき、ダニーはソフトアタッシュからPCを取りだし、ホテルのLANにつないだ。
新情報は入っていないようだ。
ダニーは安心して、シャワーを浴びにバスルームへ入った。
マーティンがスポーツ・クラブに行くと、レセプションは女性が一人いるだけだった。
「あの、ジャグジーを使いたいんですが、まだ開いてますか?」
マーティンが尋ねると、
「ええ、もちろんですわ、お客様。お名前をお部屋番号をどうぞ」と笑顔の答えが返ってきた。
マーティンは「すみません、水着の用意がないんですが」とすまなさそうに尋ねた。
「今、お持ちしますね」
キビキビとした応対が気持ちがいい。
マーティンは水着を持った女性に案内されてロッカールームに入った。
「どうぞごゆっくり」
ジャグジーは、プールに併設された小さなものだったが、
じっとしていると、ジェット水流で気持ちがいい。
マーティンは眼をつむって、ぼんやりした。
すると人が入った気配を感じた。
目をあけるとレセプションの女性がビキニ姿で中にいる。
「よろしいですか?」
「え、ええ、どうぞ・・」
マーティンは目のやり場に困り、また目をつむった。
「えっ!」
マーティンは驚いて目を開けた。
なんと、女性が自分の脚の間に入ってきたのだ。
「実はもうスポーツ・クラブはクローズドの時間だったんです。
でも・・ねぇ、いいでしょ?」
「だめ、だめです、僕はだめ!」
マーティンは急いでジャグジーから上がり、駆け足でロッカールームに入った。
まだ心臓がドキドキしている。
なんで、こんな目に遭うんだよ・・・。
こんなところにはいられない。
マーティンはすぐに着替えて部屋に戻った。
ダニーは軽くいびきをかいて眠っていた。
ダニーを起こして話したところで、笑われるのが関の山だ。
マーティンはシャワーをして、ベッドに入った。
翌朝、ホテルで朝食を済ませて、2人は州刑務所へ出かけた。
受刑者たちは、5種類の人種に分かれ、派閥を作って抗争を繰り返している。
北部系メキシコ人、南部系メキシコ人、白人、黒人、その他の人種グループだ。
もともとギャング出身者が7割を超える刑務所である。
何が起こっても不思議ではない。
ダニーとマーティンの顔も自然と引き締まる。
「用意はええか?」
駐車場に車を停めたダニーがマーティンに尋ねた。
「うん、大丈夫。さあ行こうよ」
2人は車を降り、刑務所の入口に向かった。
セキュリティー・ゲートで入念なチェックを受けた後、
2人は副所長と看守2人に伴われて、
受刑者たちの監房に隣接された小部屋に通された。
「あ、お三人も同席されるので?」
ダニーは副所長にさりげなく尋ねた。
「はい、お二方の身辺の安全のためですので」とにべもない。
ダニーは肩をすくめて、マーティンを見つめ、椅子に腰を下ろした。
気まずい沈黙が続く中、両腕を2人の看守にがっしり掴まれたヒスパニックの男が姿を現した。
殴られた傷で顔がかなり変形しているが、エステバン・コルテスに間違いない。
入るなり、エステバンはマーティンの方につばを吐きかけた。
「何をするんだ!」
立ち上がるマーティン。
その瞬間、看守が棍棒でコルテスの脇腹に一撃を食らわせた。
痛さをこらえながらも、
コルテスは「白豚野郎には話すことなんてねぇんだよ。俺はこっちのおっさんと話しするから」と
ダニーを見つめた。
やっかいな面会になりそうや。
ダニーは覚悟を決めた。
ダニーは静かな声で
「お前、FBIを舐めるなよ。フィッツジェラルド特別捜査官には同席してもらう。
話は俺にすればいい。それが条件だ。話を聞かずに帰っても俺たちは構わないんだからな」と
スペイン語で話しかけた。
コルテスは考え込んだが
「じゃあ、お前だけが質問しろよ。白い奴は座ってるだけ、いいな」と答えた。
ダニーはマーティンに
「済まないけど、俺だけ質問させてもらうわ。ええか?」と尋ねた。
マーティンは悔しそうな顔をしたが、了解した。
そして、尋問が始まった。
コルテスから聞いたのは、すでに出所した受刑者の話だった。
この刑務所の中で一番緊張の高まる場所はCヤードと呼ばれる屋外の運動場だ。
そこでは毎日必ず白人とメキシコ人のつばぜり合いが起こる。
先週、白人がメキシコ人に刺される事件が起こり、その場にいた約200人が地面に伏せろと言われた。
その時、たまたま隣りに伏せたのが、同じメキシコ系ギャングのロドリゴ・ゴンザレスだったという。
受刑者一人一人のボディーチェックが始まり、数時間もかかる中、
ゴンザレスが自分はもうすぐ出所で、預けてあるブツを取りに行くのが楽しみだと笑ったという。
「ブツってヤクか?金か?」というコルテスの質問に
ゴンザレスは「いや、チック(女)だ。NYで拾ったいいとこの奥さんなんだぜ。すげえ上玉なんだ」と
下品な笑いを浮かべながら話したという。
そして名前をつい滑らせた。
「ああ、早く、リンダに会いてえな。リンダ・ウィルソン、いかにも白人の上流階級っぽいだろ」
マーティンは必死でメモを取り続けた。
「なぁ、これでその女が見つかったら、俺の刑期を短くしてくれるとか、
他の刑務所に移送してくれるとか、やってくれるんだろう?」
コルテスは急に卑屈な顔になり、ダニーに話しかけた。
「お前の話の裏が取れるまでは、取引はまだや。ここでの生活をもうちっと楽しみ」
「俺、ヤバいんだよ。まじで。新入りの白人をヤっちまったら、そいつがあっちのギャングのボスにチクりやがって。
今はボスの女になってんだ。いつ復讐されるかと思うと・・・」
「そりゃ、大変やな。看守さんたちにに頭下げてお願いするんやね」
ダニーが立ち上がり、マーティンもコルテスをにらみつけながら立ち上がった。
「へぇ、あんたもいいケツしてそうだな、白い兄さん」
「地獄に堕ちろ」
マーティンは吐き捨てるように言うと、ダニーの後に続いて部屋を出た。
副所長にお願いして、ゴンザレスの記録を出してもらった。
「預かってええですか?」
「ええ、どうせ地下の倉庫行きの書類ですから、ご存分に活用なさってください」
礼を言って、2人は駐車場に戻った。
車に乗るなり、2人は同時にため息をついた。
「ごめんな。行きがかり上、ああなった」
「ダニーこそ、お疲れ様。僕、ボスに今の話、報告するよ」
マーティンは携帯で話を始めた。
ダニーは車を動かし、地元の警察署に出向いた。
至急、ロドリゴ・ゴンザレスの所在地を捜査してくれと要請した。
ゴンザレスの画像をメールでNY支局に送る。
ヴィヴから連絡があり、6年前、確かにゴンザレスはNYに住んでおり、
その時の住所も突き止めたと言っている。
「どこに、リンダ・ウィルソンを隠してるんだろう」
マーティンが独り言のように言った。
「ギャングのやることや、薬漬けにして売春宿にでも入れたんやろ。
大勢の女の中に入れれば、目立たないからな」
「これからどうする?」
「とりあえずホテルに戻って警察の連絡を待とう」
「そうだね」
2人はコンフォート・インの連絡先を担当刑事に渡し、車でホテルに戻った。
部屋にはLANケーブルが1本しかないので、今度はマーティンがPCをつないだ。
かたかたと色々報告や調査をしているようだ。
ダニーは「腹減らないか?」とマーティンに尋ねた。
「そういえば、もう昼過ぎだもんね」
あいにくこのホテルには朝食サービスだけで、レストランが併設されていない。
2人は部屋に用意されているデリバリーメニューで、ピッツアを選び、
食べながら警察からの連絡を待った。
すると担当刑事から携帯に電話がかかってきた。
「はい、テイラーです。え、ゴンザレスの居所が分かった?じゃあ、すぐ行きますわ。
マーティン、出かけるで」
ゴンザレスが出所したのが3日前、まだこの近辺にいてくれて助かったと2人は思った。
地元警察署で刑事たちと合流し、潜伏している女のアパートを静かに包囲する。
刑事がドアをノックする。「宅配便です!」
何度か叩いていると、やつれたメキシコ系の20代の女が出てきた。
明らかに薬中の表情だ。
「何の荷物?」と面倒くさそうに答えた瞬間、マーティンとダニー、
それに警察官たちが家の中に押し入った。
「ゴンザレス!いるやろ?どこや?」
「いないよ、そんな奴知らない」
「家宅捜索しよか?白い粉とか出てきたら、厄介なことになるわな」
ダニーがたたみかけるように女性に挑む。
女性は観念したのか、家の奥の方を頭で指し示した。
どかどかと入っていくと、ゴンザレスがベッドの上ですっかりハイになっていた。
すぐに巡査が後ろ手に手錠をかける。
「おいお〜い、俺、出所したばかりだぜ〜。まだな〜んにもやってねえからな」
「うるさい!FBIのお二人がお前に尋ねたいことがあるんだ」
刑事が言い放ち、警察官が2人がかりでゴンザレスの体を起こす。
「尋問にならなさそうだね?」
マーティンがダニーに尋ねた。
「そやなぁ、こんな調子じゃな」
刑事は巡査に命じて、バケツいっぱいの水を持ってきた。
「いいんですか、令状なしに」
一応、巡査は刑事に尋ねた。
「どうせ、薬物不法所持で逮捕だ。やれ」
刑事に命ぜられて巡査はゴンザレスの頭から水をかぶせた。
「なんだよぅ〜、冷たいじゃねいか〜」
「お前な、リンダ・ウィルソンをどこに隠した?え、分かってるんやで。
お前が6年前に誘拐したのは。正直に話したら、刑事さんに話つけてやってもええんやけど?」
「セニョール、話が分かる奴だな〜、俺のリンダは、ティファナにいるよ。
住所と電話番号書いたメモが引き出しに入ってるから、それ持って、ティファナに行ってみな。
まだ生きてりゃいいけどな」
刑事が思わず平手打ちをした。
ゴンザレスがベッドにひっくり返る。
「それじゃあ、私たちはこいつと女を署に引っ張ります。
お二人はそちらの捜査をどうぞ」
「ご協力に感謝します」
「こちらこそ。こいつのティファナの関係先が分かったら、情報くださいませんか?」
「もちろんです。ギブ・アンド・テイクですからね」
いよいよ、次は、メキシコだ。
リンダを助けられるかどうかは、ティファナ行きにかかっていた。
ティファナはサンディエゴから車や徒歩で入国できる、アメリカから一番近いメキシコだ。
物価が格段に安いので、以前は買い物に出かけるアメリカ人もかなり多かったが、
近年、治安が急激に悪化し、ギャングの抗争が絶えない、
違法ドラッグと酒と女の街に変貌を遂げていた。
「なぁ、マーティン」
「何、ダニー?」
「お前のその外見はめちゃ目立つと思う。観光スポットやなくて、売春街や。それでも行くか?」
ダニーは車の中でマーティンに尋ねた。
「もちろんだよ。だってダニーにバックアップが必要でしょ?それとも、僕が足手まといなの?」
「そんなこと言うてない。俺、心配やねん」
「大丈夫だって。僕たちは相棒だよね?一緒に行けなくて、サンディエゴの支局でダニーの帰りを待つだけなんて、耐えられないよ」
「分かった、ほな、明日はがんばろうな」
「うん」
2人はコンフォート・インからボスに連絡をし、ティファナ行きの了承を取り付けた。
モントレーからサンディエゴまでは約3時間のフライトだ。
マーティンが調べると、今から乗れるフライトは4時の便しかないという。
到着が8時近いので、サンディエゴで一泊だ。
2人は準備をして、モントレーを発ち、サンディエゴに向かった。
サンディエゴに到着し、レンタカーを借りると、2人はダウンタウンのダブルツリー・ホテルにチェックインした。
ここでもダブルベッドのツインを取ることが出来た。
バルコニーからは、ハーバーが見え、眺望が素晴らしい。
サリナスのモーテルとは雲泥の差だった。
「今日は何、食う?」
ダニーがマーティンに尋ねた。
「実は、シーフードの美味しい店があるんだけど、そこは?」
「あ、ええな、ほな行こう」
2人はジャケットの下はポロシャツに着替えて、歩いて出かけた。
ガスランプという昔ながらの街並みの残っている風情のある地区にある有名店
「マコーミック&シュミックス」だ。
ダニーはメニューに圧倒された。
サーモンや鯛や鱒にホタテ貝、牡蠣、ロブスターは元より、
アンコウやナマズ、サメまで並んでいる。
「メニューの上の「今日入荷分コーナー」は、好きな調理法が選べるんだよ」
マーティンが細かく説明してくれた。
すったもんだの挙げ句、前菜にクラブケーキとシュリンプカクテル、
メインにダニーは太刀魚のポワレ、マーティンはアンコウのムニエル、
シェアでシーフードコブサラダを頼んだ。
照明も暗く、周りはカップルでいっぱいだ。
「お前、詳しいねんな。シアトルにもあったん?」
「うん、3店舗あったんだけど、一番好きだったのは港に面した店。
壁一面がガラス張りになっていてヨットハーバーが見えるんだ」
「ロマンチックそうやな」
「あ、詮索してる?」
「ちょっぴりな。でもお前が話したくなければええねん」
「そんなことないんだけど、あまりいい思い出でもないんだ」
マーティンの表情が少し陰った。
前菜が運ばれてきたので、2人はお勧めのシャトー・サン・ミシェルのシャンパンを頼み、食事を始めた。
「やっぱり都会はええな」
「そうだね、食事に関したら、僕たちはNYにいるっていうのがアダになってるよね」
「ああ、さすがの俺も、田舎のファミレスは苦手になってきたな」
ダニーは苦笑した。
2人は明日のティファナ行きのことに触れずにディナーを終えた。
シャンパンを空けても酔うことが出来ず、2人はホテルに戻った。
ティファナ行きのことが頭から離れない。一種の興奮状態にある感じだ。
「ねえ、ダニー、僕を抱いてくれる?明日、何があっても後悔しないようにしたいから」
マーティンの青い瞳がダニーをじっととらえた。
ダニーもじっと考えた。
最悪の事態が起こらないとも限らない。マーティンを失いたくない。
心の底から突き動かされるような衝動を感じた。
「じゃ、シャワー浴びようか」
2人はそろってバスルームへと入って行った。
FBIのサンディエゴ支局からティファナ警察の外交担当者に連絡を入れてもらい、
2人は車でサンディエゴを出発した。
国境まではわずか20分のドライブだ。
アメリカからメキシコの入国はスムーズに行われ、
待たされることなくゲートを通過できた。
ゲートの脇に「POLICIA」と書かれた車が停まっていた。
ダニーは車をそちらに寄せ、窓を開けて、パトカーの窓を叩いた。
窓の上3cmが開く。
「ID拝見」
一応流暢な英語だ。
ダニーとマーティンはFBIのIDを見せた。
すると窓が開き、刑事が言った。
「ようこそ、ティファナへ」
2人はパトカーに先導され、警察署に着いた。
空気がサンディエゴと一変しているのが分かる。
排気ガスだろうか、目の前が白くかすんでいるようにすら見える。
「サンディエゴ支局のカストロ捜査官から話は聞きました。
しかし、それだけの情報ではご協力までは致しかねます。
こちらも人手不足なもんで」
一応済まなさそうな顔をしているが、明らかに迷惑そうだった。
「いえ、2人で捜査させてもらいますよ。そちらがよろしければ」
ダニーが言うと、ほっとしたように
「それじゃあ車は警察署の駐車場に停めてください。その方が探しやすいです。これが地図です」
と言って詳細なストリートマップを渡してくれた。
2人はいよいよ中心街に入る。
道が狭い上に行商人や屋台、昼間から立ちんぼうの娼婦たち、
呼び込みがあちこちにいて、地元の刑事のいうとおりだった。
車では機動性が発揮できない。
2人は呼びこみや娼婦が寄ってくるのを断りながら、ゴンザレスが教えた住所を探し当てた。
5階建ての古びた汚い建物で、1階と2階がレストラン・バーになっている。
昼間からビールやテキーラをあおっている客が多い。
ダニーたちは用心しながら、階段を使って3階に行こうとすると、2階のウェイターに呼び止められた。
「セニョール、女?メキシコ女なら30ドルで何でもする。お買い得」
片言の英語だが、この商売には十分だ。
「俺は白人女がええんやけどな。友達は見てるのが好きやから、そんなのやってくれる女いるか?」
ダニーが流暢なスペイン語を話したので、ウェイターはにっこり笑った。
「いることはいるけど、あまりサービスよくないよ。50ドルに友達の分で10ドル上乗せね」
「ああ、分かった。ドルで払うわ」
「おお、グラシャス、セニョール、案内する。
あんたの連れ、すました顔して、ヘンタイ野郎だな」
ダニーは殴り倒したくなるのを我慢して、笑顔を見せた。
「ああ、そうなんや」
ウェイターは4階に2人を案内した。
売春宿特有の安っぽい香水や汗臭いすえた匂いに、マリファナの匂いが混ざっている。
個室は完備しているようで、ドアがずらっと並んでいた。
「彼女の名前は?」
「リンダ。もう自分の名前も定かじゃないから、好きな名前で呼ぶといい。
彼女は何されても気にしない」
ウェイターはノックした。返事はない。
ドアがカギがかかっておらず、すぐに開いた。
「じゃあ、お楽しみを」
2人はウェイターが去ったのを確認して、部屋に入った。
どうやら住居兼仕事場になっているようだ。
部屋の狭さの割に大きなベッドがことさら眼を引く。
「リンダさん、いますか?」
女がバスルームから出てきた。
髪の毛の色は違うし、げっそり痩せこけているが、リンダ・ウィルソンに間違いない。
「あんたたち、アメリカ人?」
気だるそうにスペイン語で尋ね、リンダはベッドに腰をかけた。
キャミソールドレスの下は何もつけていなかった。
すぐに脚を開こうとするのを、ダニーは制した。
「僕たち、FBIです。あなたを救うためにここに来たんですよ。早く出ましょう」
リンダは朦朧とした頭でマーティンの言葉を咀嚼した。
「本当なの?でももう遅過ぎる。私を見てよ、こんな私を待っている人なんてアメリカにはいない」
「ご主人とお子さんが帰りをずっと待ってます。さぁ、僕らと帰りましょう」
「だめ、出来ない。ここから出たら殺される」
リンダのおびえた表情が真実だと告げている。
「じゃあ、俺たちがホテルを取って、そこに出張サービスっていうのはどうですか?」
「・・怖いけど、それなら大丈夫かも。でも監視が一人ぴったりくっついてくるの」
「任せてください」
リンダの世話をマーティンに任せて、ダニーはウェイターに話に行った。
「俺の連れがあそこじゃ嫌だと言ってる。俺たちのホテルに彼女を呼んでもええかな?」
「出張サービス、さらに50ドル上乗せね」
「お前、商売上手やな」
ダニーはすぐに金を渡した。
「ほな、今晩は彼女は貸し切りやから、明日返すわ」
ダニーはまた上の階に上がり、小さなハンドバッグだけを持ったリンダをエスコートして、通りに出た。
確かに監視らしい男があとをつけてくる。
彼女を無事にアメリカに戻せるのか、これからが正念場だった。
国境に近い「ホテル・プエブロ・アミーゴ」の正面エントランスで、
ダニーはセキュリティーのドアマンに50ドル札を渡し、
「あの男が入ってこないようにしてくれ」
とスペイン語で話した。
ところが、チェック・インしようとすると、フロント係が嫌な顔をした。
ひと眼で娼婦と分かるリンダが問題なのだ。
ダニーは地元警察の刑事の名刺を見せた。
「囮捜査中や。確かめてくれ。彼女をアメリカに帰国させたい」
売春宿でトラブる可能性を考えて、2人ともIDを警察署に預けていた。
電話でやっと裏が取れ、フロントはトリプル・ルームをあてがった。
エントランスでは、セキュリティーが監視役の男を追い返していた。
部屋に入ると、リンダはよろよろとベッドに座った。
ダニーは警察に連絡を入れ、パトカーの要請を頼んだ。
「どうして、パトカーなの?目立ちすぎませんか?」
リンダが尋ねた。
少しずつだが意識がはっきりしてきたようだ。
「逆に派手にやって、あなたが売春で摘発されたと思わせればいい。
組織も諦めるでしょう。そのまま国境を今日中に超えますからね」
リンダはほろほろと涙を流し始めた。
すぐに、ものものしい音でパトカーがホテルの前に停まった。
外交担当の刑事にわざわざ部屋まで来てもらい、ダニーたち3人に手錠をかけてもらう。
パトカーに押し込められた3人に向かって刑事が英語で話しかけた。
「警察に寄っていると、組織が帰りを待ち伏せします。
このまま国境まで行く方がいい。
サンディエゴ支局には連絡しましたから、
国境の向こうで待っているはずです」
「感謝します」
「これが仕事ですからね」
捜査が成功したのを受け、刑事は点数稼ぎのためか、
急に協力的な態度を取り始めた。
パトカーで3人は連行される形になった。
「すみません、警察に置いたレンタカーなんですが・・・」
「ああ、大丈夫。部下に返却するように命じてあります」
「それはどうも」
「私はティファナが以前の、アメリカ人たちがドルをまっとうな商売に落としてくれる街に戻ってほしいだけですよ」
ダニーとマーティンは預けていたFBIのIDを返してもらった。
リンダは、体を小刻みに震わせながら、号泣しはじめた。
6年間、どんな日々を過ごしてきたのだろう。
ダニーもマーティンも言葉がなかった。
ダニーは、そんなリンダの肩を抱きしめた。
国境を渡るのに今度は徒歩だ。
リンダはパスポートを所持していなかったが、
ダニーがFBIのIDと脅し文句で押し切り、鉄格子のゲートをくぐった。
6年ぶりのアメリカの地だ。
リンダは崩れ落ちた。
マーティンが懸命に彼女を支え、サンディエゴ支局のカストロ捜査官の車に乗せた。
「無事保護ですね」
カストロがダニーとマーティンに言った。
「ああ、ようやくや。彼女、病院で見てもらった方がええな。案内してもらえますか?」
「ええ、それではUCSDメディカル・センターにお連れします」
カストロは、一緒に付いていたそうだったが、2人が断り、
ダニーとマーティンだけが病院に残った。
リンダは一通りの診断を受けた結果、複数の性病の併発と極度の栄養失調、
そして薬物検査がクロと出た。
担当医が2人を呼び、性病よりも栄養失調と薬物の禁断症状が心配なので、
一晩様子を見たいと所見を述べた。
ダニーもマーティンも医者の指示に従い、翌朝、彼女を迎えに行くことにし、
リンダの処置室に入った。
「ウィルソンさん、栄養失調がひどいので、今晩はこちらに入院してください。
それに薬物治療のスタッフもいますので、ケアしてもらえますよ」
マーティンが優しくリンダに話した。
リンダの目に脅えが走った。
「あの、私を拉致した男は、今、どこにいるのでしょう?ここを知られたら、また連れて行かれる・・」
「ロドリゴ・ゴンザレスは、遠く離れたサリナスの拘置所にいますよ。安心してください。
あなたには休養が必要だ。そして明日のフライトでNYに戻るんです」
「信じていいんですよね」
マーティンとダニーは声をそろえて答えた。
「もちろんです」
「ご心配なら警官を外に立たせます」
「お願いします。本当に疲れたわ、私」
看護婦が2人をとがめるように見た。
「もう患者さんを休ませてあげてください。明日10時に退院予定ですから、よろしくお願いします」
2人は追い出されるように処置室から出た。
「じゃ、カストロ捜査官に警護の手配を頼んで、ホテルに戻るか」
「そうだね」
疲れてはいる。しかし、2人の声の中には安堵の響きがあった。
翌朝、顔色がまだすぐれないリンダを迎えに行き、
12時のフライトでラガーディアに戻った。
空港にはダウンのコートを持ったボスが迎えにきていた。
「ボス、すんません」
「御苦労だった。リンダ・ウィルソンさん、おかえりなさい。外は寒いですので、コートをどうぞ」
リンダはその言葉を聞き、また涙を流し始めた。
「ご家族が支局のオフィスで待っておいでです。お会いになれますか?」
いつになく優しい声色のボスの言葉に、リンダは頷いた。
4人でマンハッタンまで戻り、フェデラル・プラザに着いたのが午後9時だった。
リンダの夫と17歳になった息子がミーティングルームで待っていた。
サマンサがリンダを部屋に案内した。
夫と息子は変わり果てたリンダの姿に一瞬息を飲んだが、次の瞬間、強くリンダを抱きしめていた。
「リンダ、お帰り」
「母さん、会いたかった」
「ジェイソン、こんなに大きくなったのね・・・」
「これからどうすればいいんでしょう?」
リンダの夫がサマンサに尋ねた。
「サンディエゴのメディカルセンターのカルテを取り寄せました。
リンダさんには集中的な治療がいくつか必要です。
専門の施設に入っていただくのが一番の早道だと思います。
施設についてはリストをお渡ししますね」
サマンサはテキパキと答え、施設のリストを夫に渡した。
「ありがとうございます。こんなことって本当にあるんですね。
皆さんにどんなにお礼を申し上げればいいのか」
夫も泣きそうになっていた。
「仕事ですから。そしてお二人がリンダさんのこと決してあきらめなかった思いが
神様に通じたのだと思いますよ」
サムは柔らかい笑みを浮かべ、部屋に3人きりにした。
「マーティン、ダニー、いいか?」
ボスに呼ばれて、2人はオフィスに入る。
「今回は御苦労だった。明日は休んでいいぞ」
「え、報告書とか・・・」
「分かっている。その代りあさっては通常通りの勤務だ。遅れるな」
「了解っす」
2人はサマンサとヴィヴィアンに挨拶をしてオフィスを出た。
「じゃあ、帰るか」
「そうだね。家でゆっくりバスに浸かりたいな」
「同感や。ほなまた、オフィスでな」
「うん、それじゃね」
マーティンは、きっとダニーがジョージを訪ねるだろうと思っていたが、
どうすることも出来ない。
フェデラルプラザからタクシーを拾い、アップタウンに向かって走り出した。
ダニーは地下鉄でブルックリンに戻り、ベッドに寝ころぶといつの間にかうたたねをしていた。
留守電が点滅しているのに気がついたのは夜中だった。
あかん、たぶんジョージや。
「ジョージ、ごめんな、西海岸に出張してた」
「僕こそごめんなさい。ちょっと相談があるんだけど」
「ん?何?お前、病気がどうかしたのか?」
「違う。パーシャのことなんだ」
「そうか、分かった。明日、俺、休みやから、何時でもええで」
「休みなの?じゃあ、お昼頃、そっちに行っていい?」
「ああ、ええよ、待ってる」
「ありがと、沢山寝てね」
ダニーは電話を切り、またパーシャに災難が降りかかっているのかと
いぶかしげに思いながら、アルの店に出かける準備をした。
アルの店で3時まで食事をしながら、アルとラリーと飲んで、
ダニーが眠ったのは4時過ぎだった。
ベッドに入ると、ずぶずぶ沈んでいくような錯覚を覚えるほど、疲れ切っていた。
翌日、目覚ましをオフにし、眠りを貪っていたら、昼過ぎにジョージがやってきた。
合鍵を持っているのに、わざわざチャイムを鳴らすのがジョージらしい。
「開けたで」
「ありがとう」
インターフォンの声から3分ほどして、ジョージが山のような紙袋を手に部屋に入ってきた。
「おい、それ全部ランチ?」
ジョージは当然のように
「だって、ダニー、買い物できてないでしょ?きっとその寝ぐせだと、今起きたばっかだね」
と笑いながら答えた。
「ああ、お前には降参や。で、ランチは何?」
「サンディエゴって聞いたから、たぶんシーフードとかメキシカン食べたのかなと思って、
インド料理にした。それでもいい?」
「おお、嬉しいな。ほな、ビール開けようか?」
「そうだね、最初はビール飲みたい」
「よっしゃ、ビールだけは買い置きあんねん」
ダニーは笑うと、冷蔵庫からクアーズを出してきた。
ダニーがシャワーをしている間、ジョージは手際よく、
インド料理のデリを温めたりして、皿に盛り付けていた。
ヨーグルトサラダのライタにタンドリーチキン、ホウレンソウのサグバニールと
マトンのキーママターにサフランライス、ナンと至れり尽くせりだ。
食事を始めながら、ダニーは気になっていたパーシャのことを尋ねた。
「どないしたん?ニックと喧嘩でもしてんのか?」
「そうじゃなくてね・・・僕たち、2日前にスパに行ったんだ。
今度の週末からファッション・ウィークだから。
コンディショニングで週に2回通うことにしたんで」
ニックがメンバーズパスを買ってくれたリッツ・カールトンだ。
このスパは、着替えからトリートメント、シャワーに至るまで、すべて個室で行われる。
トリートメントを終えて、ジョージがシャワーを浴びていると、パーシャがバスローブ姿で入ってきたという。
その時の会話が再現された。
「わぉ、どうしたの、パーシャ?気分が悪くなったの?」
「ううん、違うの。ねぇ、ジョージは、僕のこと抱かなくてもいいの?」
「え、それって、どういうこと?」
「僕、今まで、人に親切にされたり、大事にされたら、お礼してたの。
みんな喜んでくれたし。
でも、ジョージもダニーも、全然、僕のこと抱かないんだよね。
どうして?抱かないのに、どうして優しくしてくれるの?」
ジョージは答えに窮したと話した。
「お礼をするっていうのはそういうことじゃないって説明したんだ。
だけど、パーシャの中には、完全に間違ったギブ・アンド・テイクの定義が植えつけられているみたいなんだよ、ダニー」
ダニーも痛ましい顔をした。
「あいつ、ダンス学校で先生からそういう虐待受けてたんやないか?
その後のパリじゃ、金持ち連中のおもちゃにされてたしな。
今まで、誰もそれがいけないってことを教えてこなかったんやないのかな」
「ねえ、これってニックに言うべき?僕が一番驚いたのは、シャワールームに入ってきた時のパーシャが、
いつものあどけないパーシャと違っていたことなんだ。
見たこともない魅惑的でなまめかしい雰囲気というか、
あらがえない妖しい魅力があってさ、僕、くらくらしちゃった」
「お前ですらそうなら、今の仕事関係でそんな事言おうもんなら、パーシャの前に行列が出来そうやな」
「どうしたらいいんだろう。専門家の助けが必要なのかな?」
「ニックに話すのは、どうやろな。・・あいつこの前の恐喝事件を克服したばかりやし、きついやろな」
「ねぇ、アランに相談してみてくれない?」
「そやなぁ、そんなら連絡取って時間もらうわ」
「ありがと、ダニー」
「お前、まるでパーシャの母親みたいやね」
「自然とそうなっちゃった。見ていられないもん。彼は守らないといけない繊細な存在なんだから」
「そのとおりや」
2人はインド料理をぺろっと平らげ、ソファーに移動した。
「出張疲れた?」
「ああ、時差もあるし、ちょっとな」
「お仕事はうまくいったの?」
「ああ、ティファナに監禁されていた女性をNYに連れ帰ってきたで」
「わお、それでこそ、僕のMr.FBIだよ!」
ジョージがダニーの唇にキスをした。
舌を絡めてきたので、ダニーは自然と応じた。
「ごめん、そんなつもりじゃないんだ・・・」
「でも、お前は欲しいんやろ」
ダニーがいたずらっ子の顔をして尋ねると、ジョージは照れくさそうに頷いた。
「じゃ、シャワ―浴び、俺はベッドにいるから」
「わかった」
ジョージがバスルームに入っていく姿をダニーは見送った。
翌朝、ダニーはジョージに見送られて、アパートを出た。
いいと断ったのに、ジョージは溜まったダニーのランドリーを片付けると言って聞かないので、
そのまま任せることにした。
なんだか結婚でもしたような不思議な気持ちになった。
そして、それが嫌でないことも。
オフィスに着いて、早速ダニーはアランの携帯に電話をかけ、昼の時間のアポイントを取り付けた。
そしてジョージのお手製のハム・チーズサンドをぱくついていると、
出勤してきたマーティンと目が合った。
「おはよ、ボン、疲れ、取れたか?」
「ああ、おはよう、ダニー。お陰様でたくさん眠ったよ」
「俺もや」
そこで会話が途切れる。
「ほな、手わけして報告書書こうか」
「そうだね」
午前中があっという間に終わり、ダニーは急いで外出し、アッパーウェストサイドに向かった。
懐かしいアランのコンドミニアムだ。
レセプショニストは昼休みらしい。
デスクの上の電話を取ると、すぐにアランが応答した。
「ダニー、入って」
カウンセリング・ルームで、アランがデリバリーのランチを食べていた。
「久し振りだね。ランチをしながらでもいいかな?」
「もちろん。俺が無理言って時間もらったから」
「じゃあ、早速本題に移ろうか」
ダニーは昨日ジョージから聞いた内容をそっくりそのままアランに話した。
アランはうーんと唸り、しばらく目をつむって考え込んだ。
「パーシャには数回しか会ったことがないが、見ている限りはボーダーの知的障害者という感じだね。
詳細は知能テストをしてみないと分からないが。それより気になるのは、ジョージにアプローチした時の態度だ。
色情症の可能性があるように感じたよ。それもハンティングを繰り返す男性的なサチリアジスというより
女性のニンフォマニアに近いような様子に受け取れる」
「それって、治る病気なん?」
「メジャー・トランキライザーの投与というのがあるが、それでも完璧ではないな。
彼自身、自分の行為の善悪の判断がつかないんだろう?」
「たぶんそうやと思う」
「非常に原始的なやり方だが実際的なのは、信用のおける身近な人間が、
繰り返し、その行為がいけないことなのだと教えてやることだと思う。
子供に対するしつけだよ」
「やっぱりそうなんか・・・」
「ニックにはそれが出来そうか?」
「ジョージ、まだニックには話してないんや。あいつ、激情型の人間やから、
パーシャが寝た可能性のある人間を、かたっぱしから攻撃しそうでな」
「さもありなんだな・・・しかし、ニックには知ってもらう必要はあるぞ」
「分かった。話してみるわ」
「ひょっとしたら、ニックの方がこの件の対処でカウンセリングが必要になるかもしれないな」
「ああ、俺もそれを考えてた」
ダニーは一応納得し、アランに別れを告げると、クリニックを出た。
ニックに話すのは、ジョージからの方がいいだろうか。
ダニーはジョージの携帯に電話を入れた。
「今晩、会えるか?」
「うん、大丈夫だよ。アランとは話してくれた?」
「ああ、そのことで話そうや」
「分かった」
ダニーはふうとため息をついて、ロワー・マンハッタン行きの地下鉄に乗った。
ジョージが翌朝早くから衣装合わせの仕事があるというので、
2人はジョージのコンドミニアムで会った。
いつも同様、ジョージが温かい料理を用意して待っていた。
ダニーは、今晩は泊るつもりがないので、着替えをせずに、ジャケットを脱ぎ、
ネクタイだけはずして、ダイニングに座った。
茹で野菜のバーニャカウダに、ソーセージと冬野菜がたっぷり入ったポトフが今日のメニューだ。
久し振りにパンを焼いたらしく、不ぞろいだがほかほかのフォカッチャがバスケットの中に入っていた。
「ワインは白でいい?」
「ああ、サンキュ」
2人は乾杯して食べ始めた。
ジョージがアランの話を聞きたがっているのが分かる。
ダニーはかいつまんでアランの所見を伝え、パーシャに体でお礼をしてはいけないことを教えるのと、
このことをニックに伝えるのを、ジョージにやってもらえないかと尋ねた。
「うーん、パーシャに教えていくのは、何とか出来ると思うけど、僕、あんまりニックが得意じゃないんだよね」
「ん?そうなん?」
「恩人なのに申し訳ないんだけど、ダニーの方が男同士の話し合いみたいになるんじゃない?」
「そうか、お前が不得意なら、俺がニックに話すわ」
「ありがとう、ダニー」
「そんなん気にすんな。その代り、パーシャを頼む」
「もちろんだよ。もうあんなマネはさせない」
「そういえば、もうすぐファッション・ウィークなんやな」
「うん、今回はずいぶんショーを減らしてもらったんだ。まだ体調に不安あるし」
「で、幾つ出るん?」
「ブッキングは70」
「それでも多いやん」
「そうなんだけどさ・・黒人モデルの世界にもどんどん新人が入ってきてるから、
存在感示しておかないと」
「大変な仕事やなぁ」
「でも、すごーく忙しいのって、年2回だし」
「そうか、体調に注意して頑張り」
「ありがと、ダニーに言われると大丈夫そうな気がするよ」
ジョージがにこっと笑った。
2人は食事を終え、コーヒーを飲みながら、少し話をしたが、
ダニーはジョージの明日を考えて、早々と退散した。
ブルックリンに戻り、アルの店に寄り込んだ。
「よ、いらっしゃい。この時間だと飯は済んでるな」
「ああ、グレンリヴェットくれへん?」
「了解」
アルがウィスキーを注いでいると、ラリーが厨房から出てきた。
「あの・・ダニーさん、アイルランドのチーズとか食べますか?」
「へぇ、そんなんあんの?」
「ギネスで作った黒いチーズなんです。あと、イギリスのブルーチーズもあるんですけど」
「ほな、もらうわ」
「はい」
アルがウィスキーグラスをダニーの前に置いた。
「ラリー、相変わらず勉強してるんやな」
「ああ、奴、ネットで見つけたシェフのサークルに入ってさ、色々新しいことやり始めてるよ」
「よかったな」
「おう、サンキュウ」
「そういえば、フラニー、最近おらへんね」
「ああ、あいつ、ルームメイト募集してるって広告見て、マンハッタンに越したんだよ」
「へぇ、そうなん?」
ダニーはアリソンだとピンと来て、ちょっとほくそ笑んだ。
「何だよ、ダニー、嬉しそうだな」
「いや、兄貴としたら寂しいんやろなってちらと思っただけや」
「仕方無いよ。あいつももう大人だし」
「そやね」
ダニーはラリーが出してくれたチーズをつまみながら、
ウィスキーグラスを傾けた。
翌日、ダニーはやっとリンダ・ウィルソン事件の報告書を書きあげ、
マーティンに添削を頼んだ。
「すまん、俺、報告書、苦手なの知ってるやろ。お前の手にかかれば、
ボスも1回でOK出すから、な!」
ダニーにお願いされ、マーティンは渋々頷いた。
「じゃあ、今日の晩御飯おごりだよ」
「あ、ごめん、今日はヤボ用あんねん。明日、なんでもお前の好きなの奢るから、勘忍してや」
「ふうん、まぁ、いいや。じゃ僕の好きなとこ予約しとくから」
マーティンがダニーのプリントアウトを持ってデスクに戻ったので、ダニーはほっとした。
今晩はニックを呼び出している。
あのヘヴィーな話をしなければならない。
気が重いが、早くしないと、ファッション・ウイークが始まってしまう。
ダニーも焦っていた。
仕事を終えて、ダニーはニックと待ち合わせた「ギャビー・バー」に向かった。
ダニーがフロントでニックの名前を言うと、VIPラウンジに通された。
「よう、ダニー、一体どうしたんだ?三角関係がどうしようもないところまで言ったのか?」
ニックの軽口に、ダニーは
「幸い、まだそれはない。危なかっしい橋渡ってる感じやけどな」
と答えて、ニックの向かいに座った。
「シャンパン頼んじまったけど、よかったか?」
「ああ、ええで」
ニックが話を聞いたら、シャンパンどころではなくなるだろうが、仕方がない。
カナッペと共に、ドンペリニヨンが運ばれてきた。
早速、カナッペをつまみながら、シャンパンを飲み始める。
「で、何だよ、用事がなきゃ、お前が俺を呼び出すなんてありえないからな」
「それじゃ、話すわ」
ダニーは、ジョージがパーシャを連れて、スパに出かけ、パーシャに迫られたことをありのままに話した。
ニックはシャンパングラスをテーブルに置き、絶句した。
「ニック、俺、アラン・ショアに相談したんや。残念なことに、パーシャの知能程度だと、
体でお返しする行為が悪いことだと理解できていないらしい。
推測やけどダンス学校に入った子供の頃から、教師にそう教え込まれてきたんやないか」
「で、俺はどうすればいいんだよ。もうすぐファッション・ウィークが始まるだろ、
あいつとほとんど一緒にいる時間がなくなるんだぜ。
ああ、全部のショーをキャンセルさせようか・・」
「パーシャなりにモデルの仕事、楽しんでるんやろ。それを禁止すると反抗的にならへんか?」
ニックは黙った。
「ジョージが言ってた介護士っての、ついてくれてんなら、そいつに見張らせたらどうなん?」
「あいつとも寝てたらどうすればいいんだよ」
「え、介護士もゲイなん?」
「スコットか?俺には分からない」
「アランが言うには、パーシャは、何度も繰り返し教えれば覚えるはずらしい。
で、一番身近にいるお前とジョージが、そういう行為はいけないことやとか、
する必要はないってしつけていくのが一番の近道やて言うてた」
「あぁ、運命の相手だと思ってるのに、次々にこれかよ。正直参るぜ」
「お前さ、気持ちが揺らいでるか?」
「分からない・・。俺の前ではあいつは天使なんだよ。それは間違いないんだ。
ニンフォマニアなんて考えられない」
「・・なぁ、聞きにくいことやけど、ちゃんとセックスしてるか?」
「あぁ、俺なりにな。パーシャは不満なんだろうか?」
「そんなことないと思うけど・・・」
ニックはシャンパンをあおるように飲み、溜息をついた。
「お前、パーシャを叱るなよ。ただでさえ、叱られてきた過去がトラウマなんやから、
家出するかもしれへん」
「ああ、分かったよ。ダニー、お前だったらどうする?」
「俺か?言って聞かせるしかないやろな」
「そうだよな・・やってみるしかないよな」
するとニックの携帯が鳴った。
「おう、今どこだ?カルバン・クラインのアトリエ?ジョージは一緒か?
お前、ジョージと一緒に帰って来い。ああ、寝ないで待ってるよ。
ジョージの言うこと、よーく聞け、な」
「よかったな、今日はジョージと一緒か」
「ああ、2人で食事して帰るって言ってた」
「ジョージも今日からパーシャに話し始めるはずやから、お前も頑張り」
「なぁ、ダニー、俺ってもしかしたらピエロだったのかな」
ダニーは想像以上にニックが傷ついたのを悟った。
「そんなこと絶対にないて!婚約指輪もらった時のあの嬉しそうな顔や
世界中で一番好きやて言うてるパーシャは、ほんまに幸せそうや」
2人は半分以上、シャンパンとカナッペを残して、バーを後にした。
「俺、お前なら出来ると信じてるから。パーシャの親になったつもりで頑張りや」
ダニーがニックの肩をぽんと叩いた。
「ああ、やってみるよ。それじゃ、家に帰るわ」
「パーシャが戻る前に深酒するなよ」
「分かってるって」
ダニーはタクシーに乗るニックの後姿を見送り、地下鉄の駅に向かった。
いよいよファッション・ウィークの幕開けだ。
これから20日までの2週間、ダニーはほとんどジョージと会えなくなる。
同じNYにいるというのに、これほど距離を感じる時期はない。
何度経験しても慣れない2週間だった。
ダニーは報告書の添削のお礼に、マーティンが予約したレストランに出かけることになっていた。
予想通り、マーティンの手直しのおかげで、ボスから書きなおしの指示が出ず、
2人は定時にオフィスを出ることが出来た。
「ほんまに、お前の文章力ってすごいなぁ。理系なのに何でそんなに上手なん?」
乗ったエレベーターが2人きりだったので、ダニーはマーティンに話しかけた。
「シアトル時代ってさ、とにかく報告書の嵐だったんだよね。
それも会計監査報告書や財務諸表と格闘する仕事だったから、
ほとんど毎日、デスクワークだったんだよ。慣れだと思うよ」
「そうかなぁ。俺、いっこうに慣れへんわ。そんで今日はどこ予約したん?」
1階ホールに着いて、2人はタクシー乗り場に向かった。
マーティンが案内したのはチェルシーのメキシカン・レストラン「クレマ」だった。
「へぇ?お前、ここでええの?」
ダニーが意外なチョイスに驚いた。
「ほら、僕たち、ティファナまで行ったのにさ、本場の食事、全然しなかったじゃない?だから」
そうは言っても、さすがマーティンだ。
ザガットで6年間トップクラスに輝いているオーナーシェフの高級店である。
2人はまずテカテ・ビールを頼み、2人用の前菜ケソ・フラミードスを頼んだ。
メキシカン・チョリソとチキンにマッシュルームのキャセロールで、
ガッカモレとトルティーヤチップスつきのボリュームのあるメニューだ。
メインにはマーティンはビーフステーキとトリュフのタコス、
ダニーはツナとアボカドのブリトーを選んだ。
2人がメインを楽しんでいると、オーナーシェフがそれぞれのテーブルに挨拶に回っている。
なかなか美しいメキシコ女性だ。
ダニーはすぐさまスペイン語で何事かを言い、シェフはげらげら笑って、
ダニーの肩を叩いた。
マーティンはきょとんとしている。
「あなたのお友達、これだけ口が上手だとお客様は大喜びですね」
そう言ってシェフは次のテーブルに向かった。
「ダニー、何て言ったの?」
「こんなに素晴らしい料理が食べられるNYは不況の波を知りませんね。
顧客リストを拝借できませんか?って言うた」
マーティンは呆れた。
「ほんとに、ダニーってさ、口からでまかせが上手だよね。そうだ、気になってたんだけど、
リンダが監禁されてるところのウェイターが僕を見て、下卑た笑いを浮かべたのは、どうして?」
「ああ、あれか?ほら、俺たち2人で女買いに行った設定やろ。
だから、お前は”見る”のが好きってことにした」
マーティンは顔を赤くした。
「えー、そんなんじゃ、僕、思いっきり変態じゃないか!ひどいよ、ダニー!」
「ごめん、ごめん。ついそう言うことに・・・」
「今日は割り勘でもいいやと思ってたけど、ダニーのおごりで決まりだね!ワイン、もう1本行こう!」
結局、食事の後、バー・コーナーで2人はテキーラを飲み始めた。
さすがに5杯ほどショットで飲み、いい気分になってきた。
店の外に出ると相変わらず温度は低い。
ダニーがマフラーをきっちり巻いてコートの襟を立てた。
「ほな、帰ろか」
「・・明日休みだよね」
「ああ、そやな」
「じゃあ、家に泊まりなよ。さっきの事、反省してもらいたいから」
マーティンは真顔で言っている。
「分かりました。おおせのとおりにいたしますわ」
ダニーはマーティンの後について歩き出した。
「あぁあ、マーティー、お願いやから、もうイカせてくれへんか・・・俺、辛い・・・」
マーティンは、ダニーの苦しそうな声に、しゃぶっていたペニスから顔を上げた。
ダニーのペニスの付け根にはエラストマー製の奇麗なブルーのコックリングがはめられている。
「そういう時だけマーティーって呼ぶのは、もう許さない」
「あぁ、わかったから、早く、俺をイカせて・・」
「だめだよ、ダニーはまだ反省が足りないから」
マーティンはまたダニーのペニスを咥えこんだ。
充血したペニスが爆発しそうな位に固く膨張している。
マーティンはまた口を放し、満足そうにダニーのいきり立ったペニスを眺めると、
サイドテーブルからローションを取り出して、自分の秘口に塗り始めた。
そして、ダニーに向きあいながら、ダニーの上にしゃがみ込んだ。
ずぶずぶとダニーのペニスがマーティンの中に入っていく。
「あぁ〜、狭い・・」
ダニーが思わず唸った。
マーティンはそのまま激しく腰を上下に動かし始めた。
コックリングで射精が出来ないダニーにとっては、
責め苦のようなセックスだ。
マーティンの顔を見ると、赤く紅潮させ、目をつむって一心不乱に腰を動かしている。
そして、ペニスを入れたまま、今度は後ろ向きになり、さらに激しく動き始めた。
「もう、あかんわ、マーティン、お願いや・・」
マーティンは、やっとダニーの上から降りた。
「ダニー、こっちに来て」
マーティンが四つん這いになって、ダニーに秘部を晒している。
ダニーはむしゃぶりつくようにマーティンの腰をつかむと、一気にマーティンの中に突入した。
「あぁ、もっと深く・・」
マーティンの懇願に呼応して、ダニーは腰を打ちつけ、一番深い部分にまで到達した。
そして出し入れのスピードを上げ、上りつめていく。
「あぁ、マーティン、俺、出る・・」
ダニーはマーティンの背中に手を当て、ぶるぶると体を震わせた。
マーティンも自分でペニスをしごき立て、シーツの上に激しく果てた。
重なり合う2人の体は汗と精液にまみれていた。
ごろっとダニーが横にころがり、荒い息を整え始めた。
マーティンもダニーの方を向き、そんなダニーの姿をじっと見つめていた。
「ん?、何、見てる?」
マーティンの青い瞳がまぶしい。
「イった直後のダニーってすごく切なくてセクシーな顔してるんだよね」
「え、そうか?」
「僕が一番好きな表情かもしれない」
ダニーは汗ばんだマーティンの額にくっついたダークブロンドの前髪を上に持ち上げた。
ダニーがこのしぐさをすると、少し照れたような表情をするマーティンがダニーは好きだった。
オフィスでは時に尊大な態度を取る、マーティン・フィッツジェラルドの素の姿がそこにあった。
「シャワーせんとあかんな」
「うん、一緒にしようよ」
2人はシャワーブースに入り、お互いの体をボディーシャンプーで綺麗に洗い流した。
「うぉ、俺のちんちん、まだ腫れてる・・」
マーティンが急に心配顔になった。
「ごめん・・ダニー、慣れてないんだ。もしかして2、3日そのままかも」
「え?ほんまに?」
「でも、明日とあさってお休みだから、許してよ」
「しゃあないな・・・ええ気持ちやったし。その代償を甘んじて受けるわ」
2人はバスタオルを体に巻いてバスルームを出た。
「パジャマ出すね」
「おう」
マーティンが持ってきたのは、ホルスタイン柄のパジャマだった。
「え、これ着るん?」
マーティンがまじめな顔で
「今年はアジアだと牛の年なんだってさ、だから買ったんだ」と答えた。
「着ると、ええことあるのかな?」
「知らない。でもいいじゃん、2人で牛になって眠ろうよ」
ダニーは、普段のマーティンとのギャップに爆笑しながら、パジャマを着始めた。
翌朝、ダニーが目を覚ますとすでに時計は12時を回っていた。
マーティンは枕をかかえてすやすや眠っている。
マーティンを起こさないように体を動かしたのに、「ううん・・」と声を出して、
マーティンが目を開けた。
「おはよう、ダニー」
「ああ、おはよう」
「たくさん眠ったね」
「ああ、牛みたいにな」
マーティンが思わず笑う。
両頬に出来るえくぼがたまらなくチャーミングだ。
「今日も寒そうや・・・」
「ダニーって本当に寒がりだよね」
「しゃあないやん。マイアミ育ちやもん」
マーティンは、はっと思いだしたように
「ねぇ、ダニーのあそこ、まだ腫れてる?」と尋ねた。
ダニーはブランケットに潜り、トランクスの中を確かめた。
「だいぶ引いてるけど、まだ戻ってない」
「本当にごめん。僕がやり過ぎた」
「なあ、お前さ、どこでああいう技を習うん?」
「え?ネットの映像とか・・」
マーティンは恥ずかしそうな顔をした。
ダニーは安心した。
マーティンにまた新しいデートの相手が出来たのかと昨日は疑ってしまったのだ。
「さ、起きて何か食おう、腹減ったわ」
「そうだね」
2人は順番にシャワーと歯磨きをして、シャツとセーターにウールのパンツを着た。
「どっかええとこあるか?」
「ちょっと下ったところにミッドナイト・エクスプレスってダイナーがあるけど」
「ええやん、そこ行こ」
2人はコートにマフラーをぐるぐる巻きにして外に出た。
このダイナーは卵を3つ使った贅沢なオムレツ料理が有名らしい。
ダニーはソーセージとモッツアレラチーズの入ったイタリアンオムレツを、
マーティンはコーンビーフと玉ねぎのオムレツを頼み、
バターロールとオニオングラタンスープを追加した。
周りのテーブルは、このあたりに住むお洒落な若者が多い。
「ねぇ「ミッドナイト・エクスプレス」って映画見たことある?」
突然マーティンが尋ねた。
「ないけど?有名なん?」
「うん、アラン・パーカー監督で、オリバー・ストーンが脚本の名作だよ。
トルコでほんの少量のハシシを所持していた罪でアメリカ人が禁固30年の刑に処せられて、
地獄のような刑務所生活を味わうんだ」
「凄惨な話やな」
「それも実話をもとにしてるんだって。主演の俳優の人、エイズで亡くなったんだけどね」
「へぇ〜」
そのうちに焼きたてのパンとオムレツにスープが運ばれてきた。
2人は他愛もない話をしながら、ブランチを食べ終えた。
「なんか、俺、その映画見たくなったな。お前んとこDVDある?」
「ないけど、レンタルショップ行く?」
「ああ、寄ってみよう」
2人は近くのレンタルショップに出かけ、お目当ての映画を見つけて借り出した。
マーティンがコンビニでスナック菓子を山ほど買うので、ダニーはビールの6本パックを買って、
マーティンのアパートに戻った。
暗く、気のめいる映画だったが、
ダニーは主役のブラッド・デイヴィスの演技に魅せられた。
マーティンは終わって、ふぅとため息をついた。
「なぁ、お前から見て、主役の男は魅力的なのか?」
ダニーはつい尋ねてしまった。
「え、彼がゲイかもしれないから?そうだなぁ、確かに肉体的には惹かれるけど、僕のタイプじゃない」
「ふうん、お前って好みのタイプがあるんや」
「そりゃ、僕だってセレブ見てて、かっこいいとか思うことあるよ」
「たとえば?」
「え、ダニー、からかうから言いたくない」
「いいから言うてみ」
「ダニエル・クレイグ」
「おぉ、新しいボンドか」
「うん、彼は文句なしにセクシーだよね」
「ふうん」
ダニーには全くピンとこない世界だった。
マーティンは口の先まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「一番セクシーだと思うのはダニー・テイラー」だという言葉を。
夜になり、ダニーが「もう俺、外には出られへん」とジャージ姿でソファーにごろごろしているので、
マーティンはPCでこの近辺のデリバリーをしてくれるレストランを検索した。
ジョージからの連絡で、20日過ぎまでダニーと会えないことを聞いている。
そんな時だからこそ、ダニーとずっと一緒にいたかった。
「ねぇ、ダニー、何食べたい?」
「オムレツじゃないもん」
マーティンはあまりに子供っぽい答えにほほ笑んだ。
捜査官としてはマーティンがいくら頑張ってもまだダニーの域には程遠いのは分かっている。
でも、そんなダニーが自分の家で子供のように振舞っている。
マーティンはこの上ない幸せを感じた。
「じゃあ、僕が適当に頼んでもいい?」
「ああ、まかせた」
ダニーはバスケットの試合に釘付けだった。
「ねぇ、マレーシア料理って珍しくない?」
マーティンが尋ねると
「ああ、食ったことないかもしれへん」とダニーが答えた。
「じゃあ、それにしてみる」
マーティンはメニューを吟味してオーダーを終えた。
「ペナン・マレーシアン・レストラン」という名前だ。
試合に飽きてきたダニーが「まだビールあったっけ?」と尋ねた。
「うん、今日、ダニー、よく飲むね」
「なんでやろな〜。なんか超リラックスモードに入ってるわ、俺」
マーティンはクアーズを渡すと、ダニーがぐいっと飲み始めた。
マーティンは、アボカドチップスをボールに出して、
2人でソファーで摘まみながらデリバリーを待っていると、
結構早く到着した。
デリバリーにしては豪華なディナーになった。
マレー風のサテーとピリ辛ソースの生春巻き、プラムソースのローストダックに
バクテというスープ料理、〆にはナシゴレンと焼きビーフン。
2人は大いに満足した。
白ワインが意外と合い、マーティンはデリバリーボーイから受け取ったメニューを
大切そうにキッチンに持って行った。
カートンをがさがさと片付けて、マーティンがリビングに行くと、
ダニーがソファーでうたた寝をしていた。
無防備な姿が妙に新鮮で、思わず唇にそっとキスをした。
「はっ!何!」
ダニーががばっと起きる。
「ごめん、僕だよ」
「あ、俺、夢見てたわ。昼間の映画の影響かな」
2人は真剣に見るわけでもなく、テレビの犯罪捜査ドラマを2本ばかり見て、一緒にバスに入った。
ダニーがバスタブに体を伸ばすと、マーティンが上に乗ってきた。
「ごめん、今日は俺、できへん・・・」
「そんなのいいんだよ」
マーティンはダニーの方に向き直り、優しくキスをした。
「そろそろ上がって、寝るか?」
「うん、そうだね、映画で疲れたよね」
「ほんまや」
2人はバスタオルをお互いの体に巻いて、ベッドルームに入って行った。
「今日も牛か?」
「うん。だめ?」
「いや、よく眠れそうや。明日起きたら、俺の乳首が増えてないか確かめてや」
「ダニーのバカ」
「こっちこい」
ダニーが手を広げるので、マーティンはダニーの胸にすっぽり包まれた。
「お前、相変わらずぬくいな〜」
「基礎代謝がいいって言ってよ」
「はいはい。ほな、お休み、マーティン」
「おやすみなさい、ダニー」
愛してると言う言葉をつけようかと迷ったが、マーティンはその代り、
ダニーの頬に唇を押しあてた。
ダニーが日曜日のランチの後にブルックリンに戻るというので、
2人はブランチを食べに外に出かけた。
「今日は昨日より暖かいね」
マーティンが言うと、ダニーはマフラーの下から
「それでも十分に寒いで」と答えた。
すぐ地下鉄に乗り、57丁目まで下った。
昨日のディナーがエキゾチックな味だったので、無性に地元の料理が食べたくなったのだ。
向かったのは「NYブルックリン・ダイナー」。
NYマガジンで様々なメニューが「NY一番」という評価を受けている。
観光客も多く賑やかな店だ。
2人は迷わず名物のマカロニ・チーズとチキン・スープにホワイトロールを頼んだ。
「これからお前何すんの?」
ダニーがミネラルウォーターを飲みながらマーティンに尋ねた。
「ここまで来たからタイム・ワーナーセンターのホール・フード・マートに行って買い物して帰るよ」
「そか、ほんまやったら、俺が何かまた作り置きすればよかったな、ごめんな」
「気にしないで。僕も少しずつだけど、料理出来るようになってるんだよ」
マーティンが少し威張った口調で話したので、ダニーは思わず笑った。
「へぇ〜、じゃあいつマーティン・シェフの料理をごちそうになれるんかな?」
「あ、それは、まだ先ってことにしてよ」
マーティンの慌てる姿がかわいらしい。
「ダニーは?」
「俺もクリーニングとかランドリーとか、あとはやっぱ買い物やな」
「出張があると、買い置きしててもダメにしちゃうよね」
「ああ、最小限しか買えへんから、割高やしな」
そこへ熱々のマカロニ・チーズとスープが届けられた。
チキン・スープはエッグヌードルと野菜がごろごろ、そしてハーブのディルが入っていて、まさに本格的な家庭の味だ。
マカロニ・チーズに至っては、手打ちのパスタにパルミジャーノ、レッジアーノにプロシュートが入っていて、
とてもオリジナルなレシピだった。
「お前ってさ、こういう飯食って育ったん?」
ダニーが尋ねるとマーティンはちょっと苦い顔をした。
「父さんと母さんがいない時は、いつもエリザベスがまさにこういう料理ばかり作ってくれたんだ。
でも、両親が揃うと、とたんに堅苦しいディナーになっちゃってね。エリザベスの料理が恋しいよ」
「お前の家庭の味はエリザベスの味なんやね」
「そうだね、ダニーのところが羨ましい。だってお母さんの味で育ってるもんね」
「まぁな、でも死んだ後は施設の食事だから、超まずかったで。
だから俺、あんまり食事に興味がなかったんや。
そのうち自炊するようになって、なんや、俺のが上手やんって色々覚えた」
「そうだったんだ・・・」
「今はええよな、そこそこの給料もろて外食出来て、美味いもんが食えるから」
「本当だね」
食事が終わり、マーティンはモールの方へ、ダニーは地下鉄に乗ってブルックリンに戻って行った。
マーティンが紙袋2つを下げてタクシーに乗り、アパートに帰ると、
ドアマンのジョンが「フィッツジェラルド様」と飛んで出てきた。
「ジョン、どうしたの?」
「それが・・・シェパード様がおいでになられたんですが、怪我を負っておいでで・・・」
「え、ドムは今どこ?」
「私の部屋にお通ししました」
マーティンはジョンが借りている1階の部屋に入った。
ドムがソファーに腰掛けてぼうっとしていた。
ジョンが用意したらしいタオルと氷枕を顔に当てている。
「ドム、一体、どうしたの?」
ドムは、はっと立ち上がった。
「ごめんね、迷惑なの分かってたんだけど、マンハッタンじゃ行くところが他になくて・・・」
「傷見せてごらん?」
タオルを取ると、目の上が裂けて血が出ていた。頬も殴られて腫れている。
「一体、何があったの?」
「先週末にやっと転属願が受理されたんだ。で、夜勤明けで家に帰ろうと署から地下鉄の駅に向かう途中で
数人に襲われた。あっという間の出来事で、人相すら分からなかった」
「その傷、縫わないといけなさそうだから、これからベルビュー病院に行こう」
「本当にごめん」
2人はジョンに礼を言って、タクシーでミッドタウンのベルビュー病院のERに出向いた。
幸い、トムが勤務していた。
「よう、マーティン、お、君はドムだよね?」
「はい」
「ひどい顔だ。せっかくのイケメンが台無しだな。外傷1号で待っててくれ」
1時間してトムが出てきた。
「だいぶ殴られたようだが骨には異常がない。歯が数本折れてるから口の中が切れている。
額の傷は10針縫ったよ」
「今日は帰れますか?」
「ああ外傷の処置だからね、もう帰っていいよ。薬局で化膿止めと鎮痛剤と口内用の軟膏をもらって帰りなさい」
「トム、ありがとう」
「ああ、いいって」
ドムの頭の包帯が痛々しい。
「フォレスト・ヒルまで帰るの大変だろ?僕の家で休みなよ」
「え、いいの?」
「ああ、散らかってるけど目をつむってね」
「ありがとう」
マーティンは元気のないドムをタクシーに乗せて、アッパー・イーストサイドを目指した。
マーティンは、とりあえずドムに処方薬を飲ませ、ゲストルームのベッドに寝かせた。
夜勤明けで眠っていなかったのだろう、すぐに寝息が聞こえてきた。
それにしても顔の腫れがひどい。
明日は通常勤務なんだろうか。
マーティンは心配しながら、ドムを起こさないようにTVをつけず、
ネットサーフィンをして時間をつぶした。
6時くらいになり、ドムが起きてきた。
「マーティン、ごめん。すっかり寝ちゃった」
「疲れてたんだね。お腹すいてる?」
「・・実はぺこぺこなんだ」
「それじゃ、デリバリーでもとろうか」
「うん、この顔じゃレストランに入れないよね」
ドムは皮肉っぽく笑った。
「チャイニーズでいいかな?」
「何でも、マーティンの好きなのでいい」
「それじゃ適当に頼むね」
デリバリーを待つ間、マーティンはドムに尋ねた。
「転属届が受理されてよかったね。今度はどこの署になったの?」
「それが、信じられないことにトランジット・ポリスの本署に決まって」
「え、すごいじゃないか!おめでとう!」
「ありがとう、マーティン。ロージーの体調も回復してきたし、これで、心機一転頑張れると思ったのに・・・」
「ねぇ、差し出がましいようだけど、まさか君の元同僚たちが襲ったって考えられない?」
「・・・考えたくない。それにもうハーレムには戻らないから、過去にしたい」
「そうか。じゃあ被害届も出さないんだね?」
「それって間違ってると思う?」
「僕は市警に勤めたことがないから分からないけど、また合同捜査とかで出会ったら厄介だよね。
波風立てない方が利口なのかもしれない。正義が行われないのには憤りを覚えるけど」
「だよね・・」
「で、トランジット・ポリスの本署ってどこにあるの?」
「ブルックリン・ハイツ。家をフォレスト・ヒルズに引っ越してよかったみたい」
「本当だね、マンハッタンに来なくて済むし」
「・・・でも、マーティン、この先も僕と会ってくれる?」
ドムのグリーンの瞳は真剣だった。
「もちろんだよ。僕がブルックリンに行ってもいいんだしさ」
「ありがとう!やっぱり大好きだ!」
マーティンはぎゅっとドムに抱きしめられた。
するとそこにチャイムが鳴った。
「フィッツジェラルド様、デリバリーです」
ジョンが画面でそう言っている。
2人はチャイニーズ・ディナーを楽しんだ。
口が腫れているドムのことを考えて、かさばらなくて口に入りやすい柔らかいディムサムや、
カニの豆腐煮込み、白菜のクリーム煮、海鮮焼きそばを頼んだのが当たったようだ。
食べ終わり、ドムも一緒に片付けを終えると、ドムが言った。
「僕、明日から仕事なんで、もう帰るね、本当にありがとう」
「大丈夫?」
「うん、タクシーに乗るから」
「分かった。じゃあ、仕事1日目の様子とか電話で知らせてよ」
「うん、ありがとう、マーティン!」
ドムはマーティンにさっとキスをすると、部屋を出て行った。
ダニーは、月曜日にファッション・ウィークを終えたジョージと、
ニック、パーシャのカップルと4人で食事をすることになった。
電話してきたジョージの声が憔悴しきていったので心配になったが、
とりあえず顔が見られるのは嬉しい。
場所はニックが設定するというのでテキスト・メッセージを待った。
夕方になり、情報が送られてきた。
トライベッカに新しくオープンした創作フレンチのスターシェフの店「コートン」だ。
ダニーがいそいそと帰り仕度をするので、マーティンが思わず尋ねた。
「ねえ、今日、予定があるの?」
「ああ、ごめん、そうなんや、何かあったか?」
「うん、ちょっとドムのことでね・・・」
「そか、ごめんな、明日でもええか?」
「うん、いいよ」
「ほな、お先に失礼」
ダニーはタクシーでトライベッカに移動した。
3人がすでにテーブルで待っていた。
「ごめんごめん、また遅なった」
「いいんだよ、僕たち、今週から暇だから」
ジョージが笑った。
「そんなことないだろ、お前のポートレートの仕事が3つ来てるぜ」
ニックがジョージに言った。
「え、ニックが撮ってくれるの?すごーく楽しみだね!」
「僕もニックとお仕事出来るんだよ」
パーシャが威張って答えたので、みなが微笑む。
コースはすでに決まっていて「テイスティングコース」。
シェフご自慢のおまかせだ。
シャンパンを開けながら、オードブルのウニとたらこの盛り合わせを頂く。
和食の刺身と全く違うデコレーションで皿のビジュアルが美しい。
「な、パーシャは今回、忙しかったんやて?」
ダニーが尋ねた。ずっと気になっていたからだ。
「うん、出るショーがすごく増えちゃった。でもね、お世話してくれたスコットが辞めちゃったの。
すごくすごく寂しかった」
「へえ、そうなん?」
ダニーはちろりとニックを見た。
ニックは話を変えようと次のメニューの甘鯛の醤油ソテーに話題を移した。
ここのシェフはかなり和食を意識しているようだ。
しかし次の肉料理はこっくりと赤ワインで煮込んだ牛の頬肉が出てきて、驚かせた。
ここで赤ワインにドリンクを変え、チーズの盛り合わせを追加オーダーした。
パーシャがトイレと言ったので「僕も行くよ」とジョージがついて行った。
「なぁ、ニック、スコットって介護士やろ?どないしたん?やっぱりか?」
「ああ、あいつにカマかけてな、知的障害者へのセクハラを協会に訴えてもいいんだぞって言ったんだよ。
翌日に辞表が届いてさ、あわててアイリスに次の介護士を探してもらった。
今度は絶対にパーシャになびかない人物だから、安心さ」
「ふうん、よかったな」
パーシャたちが戻ってきた。
「なぁ、パーシャ、スコットのあとの人ってどんな人?」
ダニーが尋ねると
「すごいおじさんだよ。でも息子みたいに優しくしてくれるの。いい人」とすっかり慣れた様子だった。
ダニーがニックを見ると、にやっとニックが笑った。
「これから2人の仕事のスケジュールはどんなん?」
ファッション業界に疎いダニーは質問攻めにした。
2人ともハイファッション・ブランドのカタログ用のグラビア撮影が数多く組み込まれているらしい。
「僕、マーク・ジェイコブスに痩せすぎって言われたんだよね」とジョージが漏らした。
「そう言えば、お前、少し痩せたかもな」
「貴族風の頽廃的なヨーロッパの雰囲気は僕には絶対に出せないから、もっと健康的な体がいいって」
「そこいくと、パーシャはどんぴしゃりなんだよ。今年のショーは評判よかったよな」
ニックに言われて、パーシャは嬉しそうに笑った。
「僕はジョージみたいな強くて大きい体にはなれないから」
ダニーはこの2人が対照的なモデルでよかったと思った。
どんなに人柄が良くても、相手がもてはやされれば嫉妬心が生まれてくるだろう。
この2人にはそれが皆無のように見えた。
ワインも終わり、デザートの盛り合わせが来た。
サバランにアールグレイのアイスクリームとチョコレートムースだ。
体重管理から解放されたパーシャとジョージは嬉しそうにデザートを平らげた。
店を出て、ダニーもふらふらとニックのリムジンに乗ってしまった。
いつもこの誘惑に弱いのだ。
そしてリムジンはトランプ・プレイスに向けて出発した。
トランプ・プレイスに到着し、2組はおやすみを言って別れた。
ジョージの部屋に着き、ダニーは少し迷ったが、泊まろうと決意して、
ウォークイン・クローゼットからジャージを取り出した。
それを見て、ジョージが嬉しそうな顔をした。
「今日は泊らないかと思ってた」
「久し振りに会えたんや。もっと一緒にいてもええやろ」
「もちろんだよ、ダニー、大好き!」
ジョージがぎゅっとダニーを抱きしめた。
2人でバスに入り、お互いの体を優しく洗う。
春らしく「チェリー・ブロッサム」というバスジェルだった。
ジョージが先にバスタブから上がり、
「ねえ、僕を見てくれる?」と全裸でダニーの前に立った。
「ん?何を見るん?」
「僕、痩せすぎ?」
ダニーはじっとジョージの全身を見た。
確かに初めて出会った頃に比べると痩せたように思う。
しかし胸筋も腹筋もきれいについていて、理想的な体でもある。
筋肉がつきにくい体のダニーには羨ましいボディーだ。
「そんなことあらへんけどなぁ。でもデザイナーに言われたんなら、少し筋力トレーニングでもしたらどや?」
「そうだよね。僕、病気になってから、ジムさぼってたから、筋肉が落ちたのかも。ありがとう」
ジョージはバスタオルを持って、バスタブから立ち上がったダニーの体に巻いた。
「お前も風邪引くで」
「うん」
2人はすぐにベッドに潜り込んだ。
セックスしようと思えば出来るシチュエーションだが、何となく2人は抱擁をしながらキスを繰り返しているうちに、
眠る雰囲気になった。
「明日早いのか?」
「ううん、11時にスタジオ入りだから大丈夫。ダニーの朝食作れるよ」
「いつも悪いな」
「僕の趣味だから」
「それじゃ、寝ようか」
「うん、お休み」
ジョージはサイドライトを消した。
翌朝、ダニーはパストラミサンドを持たされてオフィスに出勤した。
コーヒーと一緒にデスクで食べていると、マーティンが寄ってきた。
朝食で昨日の行動を知られてしまうのは何ともバツが悪い。
しかしマーティンはそれには触れず、「今日、晩御飯一緒に食べられる?」と尋ねてきた。
「ああ、ええで」
「昨日は何食べたの?」
「フレンチや」
「じゃ、それ以外にするね」
マーティンが席に戻って行った。
最近は緊急を要する事件の届け出が激減している。
MPUも久し振りに落ち着いてデスクワークに集中できる日が続いている。
定時に仕事を終えて、マーティンとダニーは、サマンサとヴィヴィアンが帰るのを待ってから、
オフィスを出た。
「今日はどこ行く?」
「グラマシーの「ユニオン・スクウェア・カフェ」を予約したけど、いい?」
「ああ、お前の見立ては間違いないからな」
マーティンは嬉しそうに両頬にエクボを見せて笑った。
タクシーで店まで移動する。
カフェといいながら本格的なレストランだ。
早速、前菜から生牡蠣1ダースとアンチョビドレッシングのカラマリのフライ、
メインにはダニーは野菜とベーコンとチーズのリゾット、マーティンはミートラグーのラザニアを頼み、
付け合わせにトスカーナ名物の白インゲンの煮込みとブロッコリーをオーダーした。
「で、何やねん、ドムの話。転属は出来たんか?」
「うん、トラジット・ポリスの本署だって」
「栄転やな!めでたいやん」
「ところがさ、おととい、彼、顔をぼこぼこに殴られた姿で家に来たんだよ」
「え、まさか、元同僚か?」
「不意打ちだったんで顔は見てないんだって。でも複数の犯行だって言ってた。
だけど、彼、被害届出さないって」
「それって、元同僚がやったって、ドムが確信してるからやないの?これからも捜査で絡むだろうし、
全く、何考えてんのや、ハーレム署の奴ら」
「これって正義を下す手立てはないのかな?」
「もう傷口とか綺麗にしたんやろ?DNAサンプルは取れへんし、立件は難しいわな」
「それじゃ、目をつむるしかないんだ」
「ドムが決めたことやろ?仕方ないやん」
マーティンはがっくり肩を落とした。
「新しい職場に慣れるのも大変やから、お前が支えてやらんといかんのとちゃう?」
「やっぱりそうだよね・・」
マーティンはダニーのこの一言に少し傷ついたが、ドムが頼っているのは紛れもない自分だ。
「そうすることにする」
気まずい雰囲気が少し流れたが、料理が運ばれてきたので、2人はディナーに専念した。
ダニーとマーティンが店を出ると、マーティンの携帯が鳴った。
「ごめん、ちょっと待ってて」
電話に出ると相手はドムだった。
「マーティン、今、どこにいるの?」
「グラマシーだけど」
「そうか・・じゃ手短に言うね。一日目ですごく緊張したけど、出だしはスムーズって感じだった。
隊員の皆がすごくプロ意識が高くて、ここでまた一から鍛えられそうな気がした。
だから心配しないで」
「それはよかったね。忙しそうな感じ?」
「うん、研修期間が2週間あって、ロージーも新しい住み家に慣れないといけないから、
しばらくつきっきりになると思う」
「傷は痛まない?」
「おかげさまで、鎮痛剤がよく効いてる。でもみっともないから早く差し歯を入れたいな」
「そうだよね、チャーミングなドムの顔が台無しだ」
「嬉しいな、マーティンに言ってもらうと。本当に色々ありがとう、じゃ、食事楽しんで!」
思った以上に明るい声のドムに安心した。
ダニーがそばに寄ってきた。
「誰?」
「ドム。新しい職場の一日目はいいスタートがきれたみたい」
「おう、そりゃよかったな。ほなそろそろ帰ろうか」
「そうだね」
2人は地下鉄の駅で別れた。
ダニーが家に着くと、留守電が点滅していた。
ジョージに違いないと思って再生ボタンを押すと、思いがけずニックの声が飛びだした。
「何時でもいい、電話くれ。あ、俺の携帯によろしく」
ダニーはすぐにニックに電話を入れた。
「よう、どないした?」
「あのさぁ、俺、パーシャにボディーガードをつけようかと思うんだけど、やり過ぎか?」
「なんや、お目付け役かいな」
「ああ・・・どうしても俺が一緒にいない時のあいつの行動が気になって、
いても立ってもいられないんだ。あさっての撮影が、
バイでどんなモデルとも寝るので悪名高いカメラマンだし」
「昔の誰かさんみたいやん」
「それ言うなよ。俺は更生したんだ」
「分かってるって。でも急に締め付けがきつくなると、パーシャが驚くやろ。
スコットが辞めたばかりやし、次にボディーガードなんて、急激な変化をパーシャが咀嚼できるとは到底思えへんけどな」
「俺、パラノイアか?」
「そんなことない。愛してる相手や、守りたいのは当然と思う」
「うーん、サンキュウ、ちょっと頭冷やして考えてみるわ。すまないな、夜遅くまで追いかけまわして」
「ええねん、お前たち2人の幸せを願ってるんやから」
「今度埋め合わせする」
「ええて」
「あ、パーシャがバスから出てきた。それじゃ切るわ。おやすみ」
ダニーはニックの変わりぶりに驚きを禁じえなかった。
はちゃめちゃな生活を長年過ごしてきたニックが、本気で愛する者を守ろうとしている。
パーシャがそのニックの気持ちをどれだけ分かっているかと考えると切ないものがあるが、
色々な障害を乗り越えた2人の絆はますます固く結ばれていくのだろう。
ダニーは正直なところ、羨ましくなった。
俺はどっちつかずの風来坊や。このまま人生を終えるかもしれへんな。
ダニーはバスにお湯をため始め、部屋着のジャージに着替えて、ミネラルウォーターをがぶ飲みした。
水曜日、ダニーは珍しくジョージから「ピーター・ルーガー・ステーキハウス」のリクエストを受けた。
2人は現地集合ということで、ダニーは地下鉄Jラインの「マーシー通り」で下車し、店で落ち合った。
テーブルに通されたジョージがいつになくワクワクしているのが見てとれた。
「どないしたん?そんなに嬉しいんか?」
「うん、恥ずかしいんだけど、僕、NYに出てきてから一度も来たことがなかったんだ。夢がかなった!」
「ん、やっぱり食事制限か?」
「うん、アスリートって半端じゃないくらいご飯食べて育ってるからね。
自分が怖かったんだ。たがが外れたら過食症になりそうで。
でも太った方がいいってお墨付きが出たから、勇気をふるって来てみたくなった」
2人は看板料理のポーターハウスのステーキと山のような野菜の付け合わせに、オーパスワンを頼み、
すっかりステーキを堪能した。
少しの間保存して熟成したところを調理した肉質は柔らかく、焼き加減も絶妙だ。
さすがNY一のステーキという評判をずっと保っている自信が感じられるレストランだった。
帰り道、地下鉄の方に歩こうとすると、ジョージがコートの袖をつかんだ。
「何?」
「今日、泊まってもいい?」
「ああ、ええけど、仕事は平気なん?」
「早めに帰るけど、ごめんね、気にしないでね」
「分かったわ。ほなタクシーで帰ろう」
ダニーのアパートに着くと、ジョージはすぐに薬を6種類飲んだ。
まだメニエール病の治療は続いているのだ。
「シャワー浴びるやろ?」
「うん。ダニー先でいいよ」
「お前がゲストやからお前が先や」
「ありがと、じゃあお言葉に甘えるね」
ダニーはジョージが置いている自分用のパジャマを用意して、シャワーを終えるのを待った。
ほかほかのジョージがバスタオルを巻いて出てくる。
ダニーはすぐにパジャマを着せ、「ベッドルーム、暖かいから先に行き」と告げた。
ダニーがシャワーを終えて、ベッドルームに向かうと、ジョージは、
ダニーが定期購読している銃砲関係の雑誌を読んでいた。
「おもろくないやろ?」
「僕には縁のない世界だから、よく分からない。でもダニーは人命を守ってるんだもんね」
「お前は銃規制に賛成なんやろ?」
「うん、だけどダニーには仕事上、必要な備品なんだから、僕は構わない」
「そか」
ダニーがそろそろっとジョージの隣りに滑り込むと、ジョージがすぐに体を絡ませてきた。
「ごめん、明日も撮影だからセックスできないけど・・・」
「かまへん、おいで」
ダニーの胸にジョージは頬をすり寄せた。
「ああ、安心する」
「頼りない体でごめんな」
「そんなことないよ、僕はダニーの体も何もかも全部が好きなんだから」
「それ以上言われると、お前を襲いそうや。早く寝よう」
「はい、ボス」
ダニーはサイドライトを消した。
ダニーが目ざましで起きると、すでにジョージの姿はなかった。
サイドテーブルに几帳面なメモ書きが置いてあった。
「昨日はステーキに付き合ってくれて、本当にありがとう。
ダニーに包まれて眠れて、熟睡できた。ダニーの寝顔が可愛かったよ。
今日は一日撮影にかかっちゃうけど、また近いうちに一緒にご飯食べてくれる?
愛してる G」
キッチンに行くと、近くのベーカリーで買ったのか、エビとアボカドのサンドウィッチと、
コーヒーが入っていた。
あいつ、こんなんせんでもええのに。
ダニーはサンドウィッチをジップロックに入れて、ソフトアタッシュにしまい込んだ。
そして、コーヒーを飲み、オフィスに出勤した。
MPUのブルペンに入ると、騒然とした雰囲気になっていた。
ヴィヴィアンが早速ホワイト・ボードにタイムラインを書き始めている。
「事件か?」
サムがPCから目を上げて「ダニーにも連絡したのよ。携帯切ってたでしょ」とイラついた様子で告げた。
「あ、済まない、バッテリー切れで充電してた」
「まったくもう。マーティンはすでに失踪者の家に出かけてるから、合流して」
「失踪者は誰?」
「貴方達がメキシコから救い出したリンダ・ウィルソンよ。今日の未明、更生施設から抜け出したの。
ボスは施設に出かけてるわ」
「じゃ、俺、マーティンに合流するわ」
ダニーは飛びだした。
ウィルソンの家は、アッパー・ウェストサイドの高級コンドミニアムだ。
ダニーがたどり着くと、憔悴しきったリンダの夫がマーティンの質問を受けていた。
「すんません、テイラーです。遅れまして」
「ああ、リンダの救世主が2人来てくださった。ありがとうございます!」
マーティンは手短かにあらましをダニーに話した。
偶然、マーティンが入院していた施設と同じところで、もう退院が目前だったと言う話を、
夫は主治医から聞いていた。
「なんで、そんな時に失踪したんでしょうか?最後の面会はいつですか?」
「私も会社を経営しているものですから、ちょっと忙しくて。1週間前です。
リンダは退院を心待ちにしていました」
「息子さんは?」
「学校です。心配だろうけれど、あいつも今が進学テストの真っ最中で」
「御事情は分かりました。失踪なのか誘拐なのか、まだはっきりしませんので、ここに名刺を置きます。
何かありましたらご連絡ください」
2人はコンドミニアムを出た。
「だんなは白やな。ほんまに気の毒な位憔悴してたし」
「うん、僕もそう思う。ボスは施設で何かつかんだかな」
「ほなオフィスに戻ろうか」
「そうだね」
ダニーはオフィスに戻って、ジョージのサンドウィッチを摘まみながら、
ボスが回収してきた施設の防犯カメラの映像を技術担当のマックと見ていた。
「お、ここ巻き戻して、止めて」
フリーズした画像には、リンダが急いで自分の部屋からエレベータに乗る姿が映し出されていた。
午前4時だ。
これは、誘拐やない、自発的な逃亡や。
ダニーは嫌な予感がした。
ダニーは、身代金要求の電話待ちのため、ウィルソン家に戻ったマーティンに電話を入れた。
「俺や。マーティン、今、防犯カメラの映像確かめたら、リンダ、自分で出てったわ。
これは誘拐やない。逃亡したんや」
マーティンは、あの施設「フェニックス・ハウス」の厳しさを知っていた。
入院時にボディーチェックが行われ、携帯品は最小限、
現金も500ドルが上限で、クレジットカードの携帯は不可になっている。
衣類も入院中はトレーニング・ウェアー着用で、
その他の衣類は入院時に着ていたものだけだ。
マーティンはダニーからリンダが手ブラで出て行ったと知らされ、
施設から遠くないところにいるはずだと推理した。
その頃、ヴィヴィアンはリンダの携帯電話のGPS機能から場所を一か所割り出していた。
ずっと同じ場所で止まったままだ。
ダニーとサマンサが急行してみると、そこは施設から2ブロック下、
72丁目の路地裏のゴミ箱だった。
「やばいな、地下鉄の駅がすぐそこや。遠くに行ってしもたやろか」
「でも、彼女、この寒空にトレーニング・ウェアの上下よ。絶対に近くにいるはず」
マーティンは、リンダの夫、カールトンに72丁目近辺で彼女が行きそうな場所がないかを尋ねた。
「え、見つかりそうなんですか?」
「まだ分かりません。何か思い当たる場所はありませんか?」
「・・ダコタ・ハウスだ!結婚前に借りていたアパートです!
チャリティー活動をするオフィスが欲しいというので、まだ借りているんです」
マーティンは、カールトンから鍵を受け取り、一かバチか、ダコタ・ハウスに向かった。
ダニーとサマンサにも伝えはしたものの、他の可能性も無視できない。
2人は地下鉄の線の捜索を続け、マーティンは単独行動になった。
ダコタ・ハウスのセキュリティーにリンダの写真を見せ、
彼女が中に入ったのを確認した。
ダニーたちに連絡をして、応援を待つ時間が惜しい。
マーティンは、リンダの部屋に直行した。
ドアをノックし、返事がないのを確かめ、カールトンから借りた鍵で中に入った。
部屋の温度が温かい。
彼女がいる!
マーティンは次々に部屋のドアを開けて確かめた。
一番奥の部屋を残すのみとなった。寝室だ。
マーティンがそっとドアを開けると、放心状態のリンダがベッドに座っていた。
マーティンが入ったのに気に留めようとしない。
手には薬のプラスティックケースが握られていた。
マーティンは、そんなリンダの隣りに腰を下ろした。
「リンダ、僕を覚えてますか?」
優しい問いかけにリンダは顔を上げた。
「フィッツジェラルド捜査官・・」
「はい、少し話をしませんか?」
リンダは血色もよく、見違えるような女性に変貌していた。
元通りの気品ある上流家庭の奥方だ。
「何を話せばいいの?」
「ドクター・デイヴィスはお元気でやっておられますか?」
施設の心理カウンセリングを担当している医師だ。
「どうしてご存じなの?」
「僕もお世話になったからですよ」
「あなたが?」
リンダは興味を示した。
マーティンは本当はニックと交際している間にドラッグ依存症になったのをすり替え、
自分がパリで誘拐された話を持ち出した。
「気がつくと、僕も薬のためなら何でもする奴隷になっていたんです」
「あなたは強い方だから、元に戻れたのね。私はだめ。日増しに薬が体から抜けていくうちに、
自己嫌悪が増して、もうどうにもならないの。
死ぬしかないと思って、ここに来たのに、薬を飲むお水がなかった。皮肉なものね」
リンダは少し笑った。
「ご主人も息子さんもとてもご心配されていますよ」
「そうよね。カールトンが会いにくる度に私の外見だけを見て、喜んでいるのが分かっていたわ。
でも彼には私の心の中を話せない。どんな目に遭ったのか話す勇気なんてないわ。
そんな秘密をずっと背負って生きていくことが出来ると思う?」
「話す必要はありません。僕だって誰にも話していないことが沢山あります。
それでも支えてくれる人がいたから、今の僕がいるんです。
あなたには、6年もの間ずっと待ってこられたご家族がおられる。
さぁ、水なしじゃあ用をなさない薬を渡して下さい」
リンダは素直にケースをマーティンに渡した。
「あと1週間で退院なさるんでしょう?その後もあなたの財力なら、
優秀なセラピストと向き合う事が出来ます。
専門家になら、秘密を打ち明けられるのでは?」
「ねえ、あなたはずっとその秘密を誰にも話さずに一生を終えるつもりなの?
フィッツジェラルド捜査官」
「ええ。もしあなたのように、心から僕を愛してくれる相手が見つかったら、話すかもしれませんが、
今のところは、心の奥底の箱に鍵をかけてしまっていますよ。さあ、帰りませんか、施設へ?」
リンダは、ぼうっと立ち上がった。
マーティンが一緒に立ちあがると、リンダはマーティンに抱きついてきた。
「私、本当に大丈夫だと思う?」
肩が小刻みに震えている。怖いのだ。
「同じ道を経てきた僕の言葉を信じてください」
マーティンはリンダに自分のコートを羽織らせた。
そしてダコタハウスからタクシーを拾い、74丁目の「フェニックス・ハウス」にリンダを送った。
看護師たちがリンダを優しく迎え入れ、また彼女は病棟の方へ戻って行った。
マーティンはふうとため息をつき、ボスに報告の電話を入れた。
オフィスに戻ると、すぐにマーティンはボスのオフィスに呼ばれた。
事件解決のねぎらいの言葉もあったが、同時に単独行動を慎むようにとのきついお達しを言い渡された。
MPUのブルペンに戻ると、ダニー、ヴィヴィアン、サマンサが嬉しそうに近付いてきた。
「やったじゃない!どうやって説得したの?」
「それは企業秘密だから言えないよ」
マーティンが笑いながら言うと、皆も笑った。
「そのうち、酒の席で話すんやない?」
ダニーがにやりとした顔でマーティンに言った。
「いや、それはないよ。リンダと僕だけの秘密だから」
「あーら、まるでリンダを口説いたような口ぶりね」
サムがからかうように言った。
「そんなところだよ」
「それじゃ、報告書はマーティンにまかせましょ」
ヴィヴィアンの一言で、皆、デスクに戻って行った。
その晩、ダニーはマーティンをディナーに誘った。
ミカの店「ソバトット」だ。
カウンターに座ると、奥でクリスが日本酒をあおるように飲んでいた。
ダニーはそっとミカに「クリス、どないしたん?」と尋ねた。
「実は・・・私たち、婚約したんです」
「え、めでたいやん!」
「おめでとうございます、ミカさん!」
「だけれど、私、こういう職業ですから、指輪をはめると手の感触が変わるので、出来ないんですよ。
それをクリスが分かってくれなくて・・・」
「あいつ、子供やな〜」
「すみません、今日はたぶん絡みますから、ほっておいてくださいね」
ミカは笑って厨房の中に下がった。
ダニーとマーティンもクリスには声をかけず、ビールを飲み始めた。
「お前、お手柄やったな。一体どうやって自殺を止めたんや?」
「ダニーも彼女が自殺しそうだって分かってた?」
「ああ、何となく勘でな。だんなのカールトン、ええ人そうやけど、ボンボンやから、
リンダの6年間を知ったら、夫婦仲は壊れると直感したし」
「彼女は、その6年間を自分の心の中から追い払えないと悲観してたんだ。だから命を断とうとしてた」
「でも、デトックスはうまくいってんのやろ?」
「ああ、あそこは厳しいから」
マーティンは苦笑した。
340 :
fusianasan:2009/03/01(日) 23:19:05
「そやな、お前もニックも無事に更生したし」
「その話はもうやめて、食べようよ」
マーティンはミカが焼き始めた串物に手をつけた。
2人は串物10本と鶏ガラスープの雑炊で食事を終えた。
クリスを見ると、カウンターの壁に寄りかかってうたたねをしていた。
「完全に営業妨害やな」
ダニーとマーティンは笑いながら、店を出た。
蕎麦を頼まなかったのにコニシまで出てきて、ミカと2人で頭を深く下げた。
2人もつられてお辞儀をして、地下鉄の駅の方に向かった。
「ほんまは、しんどかったやろ。今日は風呂でゆっくりしてよく眠り」
「そうだね。こういう捜査は確かにきついよね。荒っぽい捜査の方が好きだな」
「お前がそんなこと言うとはなぁ」
駅の構内で違うプラットフォームへと2人は別れて歩き出した。
書き込みが途切れておりますが、理由は以下の通りです。
*私が加入しているプロバイダーが3月初旬に全国的に規制された。
(詳細は「アクセス規制情報」板をご参照のこと)
*3月中、アメリカ・マイアミを訪問した。
*この板がウィルス「VBS.LoveLetter.Var」に感染しているという警告が、
ノートン・セーフウェブから出されている。(現在も継続中)
幸い、プロバイダー規制は1か月を経て解除となりました。
ウィルスの件はグレーゾーンのままです。
以上、現況ご報告まで。
追記となりますが、本スレで、3月中も毎日「自爆中」と書かれておりますが、
>>341の理由のため、書き込みは全く不可能でしたこと、ここに明言いたします。
(わざわざモリタポを購入してまで書き込みを行う気は全くありません)
本スレで書いておられる方が「嘘が止まらない」のか、私が「嘘が止まらない」のか
ご判断の材料になれば幸いです。
再開を楽しみにしてますよ。
漏れも今月末マイアミの近くまで行ってきますお。
ダニーはふと思いたち、マーティンの家に電話をかけた。
「はい、フィッツジェラルドです」
「ああ、俺」
「ダニー?どうしたの?」
「なあ、週末、スノボしに行かへんか?」
「え、珍しいね、ダニーから誘ってくるなんて」
「や、何か、今、ネットで雪山見てたら行きたくなった」
「衝動的だなぁ。じゃあ、ハンター・マウンテン行く?まだ滑れるのかなぁ」
「おう、滑れるで。行こうや」
話が決まったのでダニーは早速バスのチケット予約を済ませた。
朝が早いのが難だが、とても楽しみになってきた。
ダニーはPCの電源を落とし、シャワーをしにバスルームに入った。
土曜日のポート・オーソリティーは、様々なツアーバスが並んでおり、朝から大混雑していた。
乗り場に着くと、マーティンがすでに来ていた。
「おはようさん」
「晴れてよかったね!もう座席取っといたから」
「お、サンキュー」
ハンター・マウンテンはマンハッタンから2時間半の距離だ。
到着の頃、スキー場がオープンする。
2人は、マーティンが買ってきたミネラルウォーターを飲みながら、
ツアーで配られるベーグルサンドの朝食を食べた。
1年ぶりの雪山だ。スロープの表面はまだ凍結しているらしく、日を浴びてキラキラ光っていた。
マーティンを外で待たせて、ダニーがレンタル・ショップに行くと、女性に声をかけられた。
「あら、もしかしてダニーじゃない?」
「え?」
振り返ると、去年、スクールでお世話になったインストラクターのジェーンが立っていた。
「や、ジェーン、1年ぶりやね」
「あら、覚えていてくれたの。うふふ、元気そうね。今日もあの青い瞳のお友達といらしたの?」
「ジェーンもよう覚えてるな。マーティンや。外で待ってるとこ」
「なーんだ、そうなのね」
意味深な笑みをジェーンは浮かべた。
「や、それ、ちゃうで。俺たちはただの友達やから、誤解せんといて」
「どうかしら。ところで今日はスクール受講しないの?」
「考えてなかった・・」
「クラス、たくさんあるから、気が向いたら受けてね。それじゃ」
あいかわらず、ボーイッシュで颯爽としていて魅力的な女性だ。
レンタルショップのオーナーが、「借りるのかね、あんた」とせかすので、
ダニーは「ごめんごめん、スノーボードのセットお願いするわ」とオーナーに謝った。
装備を借りて外に出ると、マーティンが腕組みして待っていた。
「ごめんな、ちょっと時間がかかっちまった」
「それって、ジェーンに会ったからじゃないの?」
「え?」
「さっき挨拶されたよ。ダニーのお世話で大変ねって笑顔で言われた」
「そか・・」
「ダニー、口の端からよだれ出てるよ」
「アホ、そんなわけないやろ」
「どうだかね・・・」
マーティンはさっさとリフトの方に行ってしまった。
ダニーも急いで後を追いかける。
マーティンがギスギスしているのが肌で感じられる。
ダニーは転びながらも、マーティンが行く上級者コースにチャレンジし、
何度も玉砕した。
マーティンが終いには笑い始めた。
「もっとなだらかなコースに移動する?」
「もう、俺、限界。休みたい」
「OK、じゃあカフェに行こうよ」
2人がカフェで、ピッツアをかじりながらビールを飲んでいると、またジェーンに出くわした。
「あら、もうリタイアなの?」
笑っている。
「ああ、脚がガクガクや」
マーティンは話そうともしない。
「それじゃ、レッスンがあるから、またね」
彼女が去ってからマーティンはダニーに尋ねた。
「彼女、絶対にダニーに気があるよね?」
「そんなことないで、彼女は俺がゲイやと思ってるから」
「え、そうなんだ?」
「仕方無いよなぁ」
ダニーの言葉の中に残念そうな響きがあるのをマーティンはとらえた。
「ダニーはゲイじゃないんだから、ジェーンを誘ってディナーでもしたら?」
「アホ、それは出来へん。俺、お前と来てるんやで」
マーティンはビールをぐい飲みした。
ダニーは考えた。
「なぁ、今晩、ここに泊まろう」
「え?急にどうして?」
「ええやん、去年は日帰りばっかりし、いいロッジがあるってネットに書いてあった」
「取れるのかな、今からで、部屋」
「直談判やな」
2人は、スロープ沿いにあるカーツキル・マウンテン・クラブのフロントに出向いた。
「ツインの部屋ありますか?」
「お客様、ラッキーですね。ちょうどキャンセルが出たところです。
324ドルですが、よろしいでしょうか?」
2人は頷いた。
午後に4回ほど中級コースを滑り、2人はホテルにチェックインした。
スパでスポーツ・マッサージをやってくれるというので、すぐに予約を取り、
筋肉の疲れをほぐし、ホテル内の唯一のレストランで早めのディナーを取った。
マンハッタンに比べると、いかにもスキーリゾートな大味の食事だが文句は言えまい。
他はバーガーショップやデリ、ピッツェリア、フードコート位しかないのだから。
2人はワインを空け、ルーム・チャージの伝票にサインをしていると、ダニーの肩をポンとたたく人がいた。
またジェーンだ。
「ねえ、これからここのバーで、私の友達のライブがあるの。暖炉もあるし、いい感じのバーよ。
良ければ聴きに来て」
ジェーンはマーティンににっこり笑顔を見せると、行ってしまった。
「どうする?お前、疲れてないか?」
ダニーはマーティンに尋ねた。
すると意外な答えが返ってきた。
「せっかく泊まるんだから、ライブ聴こうよ」
2人がバーに入ると、50人位が暖炉の近くのテーブルに陣取って、ライブを待っていた。
なかなかアット・ホームで感じのいい場所だった。
ジェーンの友達のアレクシスは、シェリル・クロウを10歳若くしたような雰囲気で、
ギター一本の弾き語りでちょっとハスキーでブルージーな素晴らしい歌声を聴かせてくれた。
ワン・ステージが終わり、ジェーンがアレクシスを連れて、ダニーたちのところにやってきた。
「わお、ジェーンが言ったとおり、2人ともすごくイケメン!」
アレクシスが喜んでいるのにダニーたちは苦笑した。
「ねえ、あとワン・ステージで今日は終わりなんだけど、後で飲まない?」
驚いたことにマーティンが「いいね、それじゃあ待ってるよ」と答えた。
マーティン、どないしたんやろ。
ダニーは訝しがりながら、あいまいな笑みを浮かべた。
アレクシスのステージが終わり、4人はテーブルに場所を移して、飲み始めた。
彼女は、アラバマからシンガーを目指してNYに上京したが、芽が出ず、
今はここのホテルの専属で歌っているという。
マーティンが親身に話を聞いていて、アレクシスがどんどんマーティンに惹かれているのが見てとれた。
「ジェーンは、相変わらず夏場はゴルフ・レッスンやってんの?」
ダニーが尋ねると
「うん、全く変わらないわね〜。でもそろそろ結婚しないと親がうるさくって」
と答えた。
そろそろバーの閉店の時間になった。
「明日のバスでマンハッタンに戻るんでしょ?」
ジェーンがダニーに尋ねた。
「ああ、月曜日から仕事やしね」
「また会えるのかしら?」
「どっかで会えるやろ」
ジェーンはダニーにそっと紙のメモを渡した。
マーティンはアレクシスとまだ話をしている。
「たぶん、彼女が絡んでるんだわ。あの子も男運悪いから。マーティンを救出しに行ってくる」
マーティンがアレクシスと別れてやってきた。
「話、はずんでたやん」
「なんか、すごくいい子だったよ」
「ふうん」
2人は、アレクシスとジェーンを見送ったのち、部屋に戻った。
マーティンが風呂に入るというので順番を譲り、ダニーはケーブルTVをつけながら、ジェーンが渡したメモを見た。
携帯の電話番号と「もっと一緒に過ごしたい」というストレートなメッセージが書かれていた。
ダニーは、メモを小さく畳んでスポーツバッグのポケットにメモをしまい、マーティンを待った。
バスローブ姿のマーティンが出てくる。
「なぁ、お前さぁ、アレクシスって子、気に入ったんやね」
「別に・・そんなわけじゃないよ。ダニーこそ、ジェーンともっと一緒にいたかったんじゃないの?」
「そんなことないて」
マーティンはミニバーからビールを出してきた。
「え、お前、まだ飲むん?」
「ああ、ダニーがストレートに戻る瞬間を目撃したからね」
「そんなんやないて!俺、女とはこの2年間、まったくヤってへんで!」
「だから、そろそろウズウズしてるんじゃない?」
「アホ、もうお前の話、聞いてられへんわ、俺もシャワー浴びる」
「ご勝手に」
ダニーはバスルームに入って、溜息をついた。
確かにジェーンと話していると楽しい。
彼女の盛り上がったバストやカーブを描いているウェストからヒップの美しいラインに目がいったのも事実だ。
俺、女の体が恋しくなってるんやろか?
ダニーがシャワーから出ると、マーティンがダニーの窓側を向いて、ブランケットの中に潜っていた。
ダニーがそっと反対側から入り込み、マーティンの体にぴたっと自分の体を密着させた。
「そんなことしたって、セックスはなしだよ。僕、もう寝るからね。明日の朝食は9時までだって。目ざまし8時にセットしたから」
くぐもった声のマーティンの返事だった。
仕方がない。無理やり抱いたら、マーティンはきっと体を開くだろうが、しこりが残るのは眼に見えている。
頑固で誇り高いのが、マーティンなのだ。
ダニーは自分のベッドに戻ると、マーティンと反対方向を向いて、サイドライトを落とした。
朝になると、マーティンの機嫌は直っているかに見えた。
朝食は典型的なアメリカン・ブレックファストだが、焼きたてのパンも美味しいし、
卵料理もまずまずだった。
2人は午前中、また山に行き、ダニーが昨日玉砕しっぱなしだった上級者コースを何度か滑った。
だいぶコツをつかんだようで、ダニーが雪の塊に突進する回数が減り、なんとかマーティンの後を滑ること出来るようになった。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうだね、今回はたくさん滑ったよね〜」
「ああ、満足したか?」
「うん、ダニーは?」
「俺も。ほな、ボード返しに行ってくるわ」
「じゃ僕、バスの時間確認してるね」
ダニーがレンタルショップに行くと、ジェーンがスタッフと話していた。
「あら、もう帰るのね」
「ああ、さすがに年寄りやから、これ以上は無理やし」
ジェーンはふっと笑った。
「それじゃあ、またね、ダニー」
「ああ、ジェーンも元気でな」
2人はそのまま別れた。
帰りのバスの中で、ダニーは気になっていることをマーティンに尋ねた。
「なぁ、お前さ、俺がストレートに戻ると本気で思ったんか?」
「うん、そうだよ。僕には一生分からない気持ちだけど、ゲイの人でも戸惑って結婚する人がいるくらいだから」
「そんなん、ないと思う、俺に関しては」
「本当に?」
「ああ、そんな気がする」
マーティンがダニーの肩に体をもたれかけてきた。
ダニーが片方の肩を抱き寄せる。
「ねぇ、今度、スノボーしに行く時は、ハンター・マウンテンじゃないとこがいいな」
ぽつんと言ったマーティンの言葉に、ダニーは静かにキスで答えた。
「ちょ、ちょっと・・」
マーティンはバスとはいえ公共の場でのダニーの大胆な行動に慌てて、身をよじったが、
結局、なすがままに預けて、満足そうな笑みを浮かべた。
マンハッタンのポート・オーソリティーには午後3時に到着した。
もう脚ががたがただ。
バスの中で軽食が出たので、空腹感もない。
2人はそのままそこで別れた。
ダニーはすぐにタクシースタンドに並び、ブルックリンまで戻った。
体中の筋肉が悲鳴を上げている。
ダニーは、部屋着に着替え、すぐにベッドに潜り込んだ。
すぐに眠りに落ち、起きると、夜の8時を回っていた。
さすがに空腹感がある。
すると電話がかかってきた。
「はい、テイラー」
「あ、僕、ジョージ」
「おう、元気か?」
「ダニー、スノボーしに行ってたんだって?」
もうマーティンの報告が行ってるのか?
「おう、そや。へとへと」
「迷惑じゃなかったら、ブルックリンで食事しない?」
「ええで、でも脚がパンパンやから、遠出は勘弁な。アルの店でええか?」
「うん、大好きだから、じゃあ、店で待ってて。すぐに行く」
「よっしゃ」
ダニーは軽くシャワーを浴びて、外出着に着替え、アルの店に出かけた。
「よう、久し振り。何か疲れた顔してるな?」
アルの言葉にダニーは苦笑した。
「泊まりがけでハンター・マウンテン行ってきた」
「ほぅ?スキーやるのか?」
「スノボーや。初心者やけどな」
「飯、まだなんだろ?」
「ああ、でも連れが来るから待つわ。ビールくれへん?」
「OK」
ラリーが厨房から出てきた。
「自家製のソーセージがあるんですけど、つまみます?」
「お、ありがたい。頂くわ」
そうこうしているうちにジョージがやってきた。
アルもラリーも緊張するのが分かる。
「ごめんね、お待たせしました」
「待ってない。もう始めてた」
「いいよ、あ、僕にもビールください」
ラリーが顔を赤らめて出てきた。
「ジョージさん、こんばんは」
「こんばんは、ラリー。今日も美味しいものが食べられると思って楽しみにしてきたんだ」
「今日は、スコットランドの煮込み料理のスコッチ・ブロスとウェールズ風のローストビーフがあります」
「スコッチ・ブロスって食べたことないや。僕、それにしようかな、ダニーは?」
「俺はローストビーフにする」
「じゃあ、あと、サラダください」
「はい!」
ラリーは急いで厨房に戻って行った。
注文をし終えると、ジョージはダニーの顔をまじまじと見つけた。
その視線に気がつき
「そんなに見るなよ。恥ずかしくなる」
とビールのジョッキに目を落とした。
「ダニー・・スキー場で、女の人と仲良しになったんだって?」
なんや、そんなことまでジョージに話したんか、マーティン!
「仲良しっつーか、去年レッスンを教えてくれたインストラクターやったから、
懐かしくなって、ちょっと酒飲んで話しただけやで。マーティンかて、
彼女の友達の女の子とずいぶん親密に話してたし」
「ダニーは分かってないね。僕ら、ゲイはさ、とりわけ、ボトムタイプは、女性と感性が似ているところがあるんだよ。
だから普通に親友になれる場合も多いんだ」
「そうなん?な、ボトムタイプって何や?」
ジョージは恥ずかしそうな顔をし、小さな声でダニーに耳打ちした。
「入れてもらうのが好きな方」
ダニーはなるほどというしぐさをした。
「でも、マーティンは、女が不得意やで」
「性的にアプローチされなければ、平気だよ」
「そんなもんか」
そのうち、料理がやってきた。2人はビールをお代わりして、パンと一緒にメインを食べ始めた。
食事が終わり、引きとめるアルに丁寧に断って、2人は店を出た。
何となくぎこちなかったが、2人はダニーのアパートの方に歩きだした。
その時、路地から4人組の大柄な男たちが出てきた。
「ヒューヒュー、妬けるじゃねえか、カラード同士のカップルかよ」
ダニーがこぶしを握るのをジョージは感じ取った。
「気にしないで行こうよ、ねぇ」
「兄ちゃん、そいつは許されないな。財布と時計出しな」
ジョージが財布を探し始めると、ダニーは
「お前ら、だまって帰れ」
と威嚇した。
「えらい威勢がいい兄ちゃんだな、ヒスパニックのくせによ」
4人のうち二人がダニーの後ろに回った。
ジョージも財布を出すのを止めて、臨戦態勢に入る。
「やるのか、お前ら、オカマのくせに、生意気やってくれるじゃねえか」
ダニーが正面のボス格らしい男に殴りかかった。
隣りの男がダニーに不意打ちを食らわせる。
止めようと中に割り込もうとしたジョージの長身を、残りの2人が片側ずつがっちり腕を取り、
腹を蹴って、ジョージを動かせないようにした。
ダニーは、一人をノックアウトしたが、もう一人にぼこぼこに殴られて、地面に叩きつけられた。
「何するんだ!」
ダニーに駆け寄ろうとするジョージの顔面に一人がパンチを食らわせた。
ジョージは片目を押さえ、その場に倒れ込んだ。
ダニーが目を開けると、白い天井が見えた。
傍らに白衣姿の人物が立っている。ドクターだ。
「目が覚めましたか?私はドクター・ウイリアムス、ブルックリン・メディカル・センターのER担当です」
起き上がろうとするダニーを制し
「まだ動かないでください。痛みますよ」
とウイリアムスは静かに言った。
「ジョージ、ジョージは?」
「一緒に運ばれてきたお友達ですね」
「大丈夫なんですか?」
「それが・・」
ウイリアムスが口ごもった。
「何があったんです?ジョージに会わせてください!」
「失礼ですが、オルセンさんとのご関係は?」
ダニーは医師の守秘義務を思い出し、覚悟を決めて答えた。
「この2年、ずっとつきおうてます」
「それなら、お話しましょう。オルセンさんは、左目の神経を痛めて、ほとんどの視力を失いました」
「何やて?」
「でも、他には大きなけがはありません。骨折もなかったです」
ジョージが片目を失明だって?ダニーはこれは夢かと思った。
「あなたの方がたいそうな傷を負っておられます」
「俺は慣れてます。だがジョージは・・彼はもう知っているんですか?」
「ああ、冷静に聞いてましたよ。それにあなたに早く会いたいとずっと言っておられますので、連れてきてもよろしいですか?」
「ぜひお願いします」
ウイリアムスが退室し、そしてジョージを連れてくる。
「ジョージ!」
「ダニー、大丈夫!すごく顔が腫れてるよ!」
ジョージの眼帯姿が痛々しい。
「お前、左目・・」
「うん、神経が切れちゃったみたい」
「眼帯取って、見せてみ」
ジョージはダニーのベッドの脇に腰をかけると、眼帯を静かに外した。
グリーングレーだったジョージの瞳が、左目だけ、濃いグリーンになっている。
瞳孔が開きっぱなしのままマヒしてしまったのだ。
「何だか、雑種のネコみたいだね」
ジョージが言った。
「お前、アイリスに連絡したか?」
「もう夜中だから明日にする。それよりダニーと一緒にいたいよ」
「俺、帰れるのかな」
「ドクターに聞いてくるね」
ジョージは治療室を出て行った。
ウイリアムスと一緒に戻ってくる。
「ご自宅はお近くですか?」
「ええ、プロスペクト・パークのそばです」
「それでは、退院許可を出しましょう。鎮痛剤と睡眠薬を飲んでください」
「了解、ドク」
2人は、病院から近いダニーのアパートに戻った。
無言のまま、部屋に入る。
ジョージが冷蔵庫からエトス・ウォーターを出してきたので、2人して処方薬を飲み下し、
パジャマに着替えた。
ベッドに潜り込むと、ジョージがダニーに抱きついてきた。
「ジョージ、明日のことは、2人で考えよ。俺、仕事休むから」
「そんなの、一人で大丈夫だよ」
「大丈夫やないやろ!俺も一緒にアイリスのとこに行く。俺の責任やから」
ダニーは自分が泣いているのに気がついた。
「ダニーの責任じゃないよ。僕らは運が悪かっただけだ。だから、もう泣かないで。自分を責めないでよ。
でも、明日一緒に事務所に来てくれるなら、心強いな」
「絶対に行くから。アイリスに謝罪する。許してくれるかわからへんけど」
「ダニー、そんなに悲観的にならないで。薬が効いてきて眠くなってきたし、寝よう」
2人はサイドライトを消した。
翌朝、ダニーはオフィスに連絡を入れ、暴行事件に巻き込まれた事と、
怪我をしているので休みをもらう許可を得た。
ジョージの顔を見るのが辛い。
とりわけ、色が違ってしまった両目を見るのが。
ダニーが電話をしている間、ジョージは近くのデリで、焼きたてのホットサンドとコーヒーを買ってきた。
「お、サンキュ。・・なあ、お前、痛みはないのか?」
「薬のせいか、よく分からない。これまで視力が良くて助かってる感じ」
「そうか。ほんまに、俺・・」
「もう、いいから、ダニーは自分を責め過ぎだよ。ね、これ食べ終わったら、本当にエージェンシーに一緒に来てくれる?」
「もちろんや、どこにでも行くで」
ジョージはふうと安堵のため息をついて、ホットサンドをかじり始めた。
アンダーソン・エージェンシーにはダニーのマスタングで出かけた。
レセプションエリアに入るなり、受付嬢がジョージの眼帯を見て、顔色を変えた。
「今日はアイリスはいますか?」
「はい、オルセンさん、今、お呼びします」
アイリスが奥のオフィスから出てきた。ジョージの眼帯を見て驚いている。
「ジョージ、一体、何があったの?ものもらい?
それに、ダニー、あなたの顔、どうしたのよ、まさか喧嘩?」
「ここじゃあ、何なんでオフィスで話したいんですけど」
ジョージに言われて、やっとアイリスは我に返った。
「そうよね、ごめんなさい。二人とも私のオフィスへどうぞ」
二人は奥の彼女のオフィスに入り、ソファーに腰をかけた。
「それじゃあ、話を聞くわ。ジョージ、左目はどうなっているの?」
ジョージは静かに眼帯をはずした。アイリスの目が見開かれる。
「あなた、それってカラーコンタクトじゃないのよね?」
「はい、残念ながら。視力もほとんど失われました。
視神経がマヒして瞳孔をコントロール出来ないので、色はこのままです」
「まあ、なんてこと・・・」
アイリスは思わず頭をかかえた。
「アイリス、僕はクビでしょうか?」
「そんなこと、あるわけないじゃない?あなたはうちの事務所一のドル箱スターなのよ。
最善策を検討しましょう。それと、ダニー、一体何があったの?あなたも一緒にいたのよね?」
とがめるようなケンのある言い方に、ダニーは言いにくそうに昨晩の顛末を話した。
「命があっただけでも、よしとしなければならないのかしら。それにしてもあなたの顔もひどいわ」
「アイリス、ダニーを責めないでください。僕を守ってくれたんですから」
「分かったわ。とにかくこれから先、2週間の撮影は、キャンセルしましょう。
今は、私の頭も混乱しているから、策は浮かばないけれど、何かあるはずよ」
アイリスに礼を述べて、2人はオフィスを出た。
「すごく緊張したね」
ジョージがふうとため息をついた。
「ほんまやな。な、お前、家に戻らないで平気か?」
「そういえば、着替えたいな」
「俺もついていってええやろか?」
「当たり前じゃない!車にのっけてくれる?」
「おお」
二人はトランプ・プレイスに戻った。
セキュリティーのボブが2人の様子に仰天している。
「ごめん、怪しいもんじゃないで」
「テイラー様、痛々しいお姿です。何か御入用でしたら、インターフォンをください」
「ありがとな」
部屋に入ると、ジョージはバスルームに入って、しばらく出てこなかった。
心配になり、ダニーがドアを開けると、シャワーブースの壁にもたれかかり、
ジョージが声を押し殺して泣いていた。
ダニーは服が濡れるのも構わず、ブースの中に入り、ジョージを抱きしめた。
「すまない、ほんまにすまない、ジョージ。お前のこと、俺が一生かけて償うから、許してくれ」
「ダニー、僕は責めてないから。ただ、事実をまだ咀嚼しきれていないだけ。
日にちがたてば、慣れてくるよ」
「ごめんな、本当にごめん」
「ダニー、風邪引くから、服脱いで、シャワー浴びたら?」
ダニーは濡れた服をランドリーバッグに入れると、裸になってブースに戻った。
ジョージがダニーを抱きしめる。
2人は熱い湯が降り注ぐ中、しばらくじっと動かなかった。
ダニーはジョージからの連絡を待っていた。
あの強盗傷害事件から3週間が過ぎ、2人は被害届を提出したものの、
襲撃犯たちは逮捕されていない。
自分のふがいなさと情けなさでくじけそうな気持ちを奮い立たせて、ダニーは毎日の勤務をこなしていた。
マーティンにはノックアウト強盗に遭ったとだけ話した。
ジョージのことは一切話していない。
これが3人のただでさえ微妙なバランスに立っていた関係を、一生別のものに変えてしまうのが分かっているからだ。
アイリスが、ジョージを全米一の眼科医に預けると知らせて来たのが2週間前だ。
ダニーはそれから、ひたすら連絡を待ち続けた。
ニュージャージー州のトレントンで失踪した会社員の愛人宅で、張り込みをしていたダニーの携帯が震えた。
着信画面にジョージの名前が表示されている。
隣りにいるマーティンに遠慮しながら、ダニーは電話に出た。
「はい、テイラー。どこに行ってた?マイアミ?うん、分かった。ほな、後で電話する。元気か?よし、それじゃあ」
マーティンが怪訝そうな顔で「誰から?」と尋ねた。
ダニーは正直にジョージからだと話した。
マーティンはそれ以上は尋ねようとしなかった。
張り込みの交代要員のヴィヴィアンとサムの車が到着した。
「12時間お疲れ様。なんだか2人ともひどい顔。オフィスでシャワー浴びてすきっとしなさいよ」
ヴィヴィアンに言われて、2人はあいまいな笑みを浮かべた。
マンハッタンまでのドライブの間、ダニーとマーティンは無言だった。
マーティンも実はずっとジョージの携帯や自宅に伝言を残していた。
これだけ長い間、ジョージがコールバックしてこないのは、今までになかったことだ。
ダニーとジョージに間に一体何があったのだろう。
知りたいけど直面したくない・・・覚悟が決められないマーティンが、ぼうっと考えているうちに、
車は支局の駐車場に着いた。
「ほな、シャワーでも浴びるか」
「そうだね・・ジャンクフード以外の食事をしたいよ」
オフィスに入ると、ボスが早速2人を呼んでいる。
ボスのオフィスの中に入ると、ヴィヴィアンとサムが失踪した会社員がのこのこやってきたところを、
捕まえたという話だった。
「それじゃ、もう今日は帰ってええですか?」
「そうだな、張り込みで疲れただろう。早退を許す」
「ありがとうございます」
「2人とも、明日の朝は遅刻するなよ」
「了解っす」
ダニーとマーティンは、オフィスの自分の席につき、思わずネクタイを緩めた。
「これからどうする?」
マーティンが何気なくダニーに尋ねた。
「俺、何だかぐったりやねん。まっすぐ家に戻るわ」
「そう・・それじゃまた明日ね」
「おお、お前も休めよ」
「分かってます」
ダニーは、地下鉄でブルックリンの自宅に戻り、すぐさまジョージの携帯に電話をかけた。
「あ、ダニー、久し振り。ごめんね、連絡出来なくて。ここの病院の規則、厳しいんだ」
「お前、マイアミのどこにおんねん?」
「マイアミ大学付属のジャクソン・メディカル・センターだよ。全米で一番眼科治療が進んでいるんだって」
「それで、どないなった?」
「それがね、左目の視力が少し回復したんだよ!」
「え、ほんまに!よかったやん!どないな感じ?」
「うーん、残念ながら色彩がね・・・全部ブラウンがかったモノトーンに見えちゃう。
でも見えないよりずっと快適だよ」
「よかったな!でいつ帰ってくる?」
「あさっての飛行機で帰る」
「迎えに行こうか?」
「ううん、アイリスがリムジン手配してくれてるから」
「そか。お前に早く会いたい」
「僕もだよ、ダニー・・ねえ・・」
「ん?何や?」
「ううん、会った時に話す」
「よっしゃ。じゃあ、あさっての晩に会えるか?」
「うん、自宅にいるから仕事終わったら来てくれる?」
「よし、絶対行くわ」
「待ってるよ。それじゃね」
ぶちっと切られた携帯電話をダニーはじっと眺めた。
ジョージは完全に失明したのではなかったのだ!
ダニーの中の自責の念が少し軽くなるのを感じた。
とにかく今はジョージに会いたい。
その気持ちだけが頭の中をぐるぐると回転していた。
新しい事件が発生せず、MPUのブルペンはのんびりとした雰囲気が漂っていた。
ダニーだけがさかんに時計を気にしている。
「どうしたの、ダニー?今日は大切なデートかしら?」
ヴィヴィアンが思わず苦笑しながら、ダニーに尋ねた。
「や、そ、そんなんやないけど、今日は俺、すぐに帰りますんで」
ダニーは慌てつつ、帰宅時間を皆に宣言した。
マーティンが少し眉を上げてダニーを見たが、何も言わなかった。
6時を回った。ダニーがこそこそとソフトアタッシュに荷物を入れていると、
珍しくボスが帰り仕度をしてオフィスから出てきた。
「お疲れ。ん?ダニーも急ぎのようだな」
「そういうボスもお珍しい」
「シカゴから娘たちが来ているので、食事だ」
「それはそれは、楽しんでください」
「お前もな。なんだか分からんが」
ボスがエレベーターに乗り込むのを見送って、ダニーも席を立った。
「ほな、お先に」
気持ちがはやる。
フェデラルプラザ前のタクシー乗り場まで走り、すぐにタクシーに乗り込んだ。
「トランプ・プレイスお願いします」
コンドミニアムの入口でセキュリティーのボブが迎えてくれた。
「お久しぶりです。テイラー様」
「よう、久しぶり」
「お待ちですよ」
ボブがウィンクをして、ダニーを送りだした。
ジョージが帰ってきている!
ダニーはそこで、ジョージに電話をしていないのに気がついた。
びっくりさせよ。にんまりして22階に降り立った。
ジョージの部屋22Bのチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。
中は照明が消えており、玄関からリビングに続く廊下には、点々とキャンドルが置かれていた。
「おーい、ジョージ、おるよな?」
ダニーは廊下をずんずんと進み、リビングに入った。
突然、ぎゅっと抱きしめられる。
このムスクの香りは間違いない、ジョージだ。
「ダニー、お帰り!」
「お前こそ、お帰り。顔見せてくれ」
「少しこうしてていい?」
「ああ」
2人はしばらく抱き合った。
ジョージの体が離れ、急に部屋が明るくなった。
ジョージが照れくさそうな表情をして、ダニーを見つめていた。
「会いたかった」
「僕もだよ、ごめんね」
ダニーは、ひょっとしたら、ジョージの左目が元通りになっているのではないかという淡い期待を抱いていた。
しかし、それは見事に裏切られた。
瞳孔が開いている瞳は、深い緑色をたたえている。
ダニーの胸がまた傷んだ。
「ねぇ、ダニー、恥ずかしいからそんなに顔を見ないでよ」
「ああ、すまない」
「今日はディナーを用意する余裕なかったから、ケータリングにしたんだけど、いい?」
「もちろんや」
「じゃあ、ダイニングに来て。あ、スーツ着替えたら?」
「そやな」
ダニーはウォーキング・クローゼットに入った。
いつもの引き出しを開けると、夏用のTシャツや薄手のジャージが収めれられていた。
あいつ、いつのまに・・。
ダニーはありがたく、着替えを済ませると、ジョージの待つダイニングに入っていった。
そこも照明を暗くして、キャンドルがテーブルを照らしている。
「今日は、ギリシャ料理」
「珍しいな」
「うん、マイアミじゃ美味しいレストランが見つからなかったから」
前菜の豆やなす、たらことヨーグルトのディップをピタパンにつけて食べ始める。
ジョージがギリシャの白ワインを開けてくれた。
「乾杯、おかえり、ジョージ」
「うん、ただいま、元気だった?」
「お前の顔見たら元気になった」
「すごく嬉しい。じゃあメインを用意するね」
ギリシャ風の串焼き、スブラニ2本ずつと・米粒パスタのビーフシチュー、ユベチが出てきた。
ズッキーニとアスパラガスのサラダも珍しい。
2人は気がつくとお互いの顔を見つめていた。
「何だか、初めてのデートみたいだ」
ジョージが笑う。
「料理が美味いのに、俺、すっかり上の空になってる、ごめん」
「ねぇ、ダニー、僕、話したいことあるって言ったよね」
「ああ」
「あのね、ダニーには、自分を責めてほしくないんだ。それから、生涯かけて償うとか、
僕が少し不自由な体になったからって、憐憫で付き合ってほしくない。
もし、ダニーが少しでも、そんなそぶりを見せたら、もう僕はダニーと会わないって決めたから」
「お前・・・」
「アスリートは負けず嫌いなんだよ。それとフェアプレイ精神がしみついているから。
そんなことで、ダニーを独占するなんて、マーティンに失礼だ」
「お前、ほんまにそう思うてるの?」
「ああ、本気だよ。マイアミで治療受けている間中、ずっと考えてたことなんだ。
それに僕のキャリアが終わったわけじゃないし。明日ね、ニックに僕の新しいポートレートを撮ってもらうことになってるの」
「へえ」
「カラーコンタクトレンズすれば、瞳の色はある程度カモフラージュ出来るけど、僕は真実の自分を知ってほしいから」
「そか、ニックならお前を知ってるから、まかせられるな」
「うん、だから、お願いだよ、憐みで僕と付き合わないでね。ダニーが僕を嫌いになったのなら別だけど」
「そんなこと、あるはずないやろ」
「じゃあ、この話はおしまい!デザートにバクラベってクルミのパイ包みがあるんだけど、食べる?」
「ああ、うまそうや。頂く」
「じゃ、待っててね」
ダニーも空いた食器類をキッチンに運ぶのを手伝った。
ジョージはレンジの前でデザートが温まるのを待っている。
ダニーは後ろから、ジョージをぎゅっと抱きしめた。
「デザートよりお前を食いたくなった」
ジョージが嬉しそうに笑った。
「デザート食べてからでも遅くないでしょ?今日、泊まってくれる?」
「もちろんや、お前こそええの?」
「うん、ダニーの熱い体に一晩中触れていたい」
「よっしゃ」
「あとね、明日の晩、急なんだけど、ニックとパーシャが退院祝いのディナーを開いてくれるんだって。
来てくれる?お仕事忙しい?」
「いや、行けると思う」
「よかった!ダニー、大好きだよ!」
「おれも」
2人はキッチンで熱いキスを繰り返した。
ニックが撮影したジョージの顔のアップのポートレートは、
すぐにナイキのグラビア広告に採用された。
「Everybody is different, so what ?」
挑戦的なキャッチコピーに、正面を見据えるジョージの鋭いまなざしが、激しいインパクトを伝えている。
アイリスの話では、これまでのアスレティックなアメリカン・ブラックのイメージから敬遠していた、
ヨーロッパ、それもアントワープやベルリンの新進デザイナーたちからのオファーが殺到しているという。
力強さに加えて、時代を先取りするエッジーなルックスが、ジョージのイメージを塗り替えていた。
にわかにジョージの周辺があわただしくなり、ダニーとは会えない日が続いていた。
マーティンは、ジョージから連絡を受けているだろうに、
自分からダニーを誘おうとしなかった。
ダニーからのアプローチを待っていたのだ。
ダニーもそろそろ、本当は何が起きたのかをマーティンに伝えなければならないと実感していた。
オフィスで帰り仕度をしているマーティンに、ダニーが後ろから声をかけた。
「なあ、今日、久し振りに飯でも食わへんか?」
マーティンが顔を上げた。
「いいね、どこに行く?」
「おまえに任せる」
「わかった。じゃあ、そろそろ出ようよ」
2人は、まだ残務整理をしているサマンサとヴィヴィアンを置いて、先にオフィスを出た。
マーティンはすでに場所を決めたようで、タクシーを拾った。
「44丁目西をお願いします」
「ん?ミッドタウンか?」
「うん、新しくオープンしたバーガーの店があるんだ」
ダニーは苦笑した。
こいつ、NY中のバーガーの店を開拓してるんやないやろか。
店は「ファイブ・ナプキン・バーガー」といった。
風情は普通のバーのようで、アルコールも充実しているし、寿司メニューまである。
客層はこの近辺のビジネスマンがほとんどだ。
2人は、店の地ビールの生を頼み、前菜にほうれん草とアーティチョークのディップ、
ベトナム風生春巻きにワインビネガーのあっさりしたグリーンサラダを選び、
メインにマーティンは10オンスのトラディショナルバーガー、
ダニーはモッツアレラチーズのかかったターキーバーガーを頼んだ。
「今までのバーガーショップとちゃうな」
ダニーは少し薄暗い店内の雰囲気が気に入ったようだ。
ビールを飲み終わり、グラスワインにチェンジする。
チリやアルゼンチンのいいワインが格安でグラスで飲める。
前菜が届くころになり、ダニーは重い口を開いた。
「お前さ、俺にずっと聴きたいって思ってたやろ」
マーティンはダニーの茶色い瞳をじっと見つめた。
「でも、ダニーには詰問して聞きだすより、自分から話して欲しかったから、待ってたよ」
「ごめんな。俺な、ノックアウト強盗に遭うたやろ。あん時、ジョージも一緒やってん」
「そんな気はしてたんだ。あれ以来、音信不通が続いたから」
「それでな、あいつ、左目の視力がほとんど失われてしもうたんや」
「え?」
マーティンは、ショックを受けた。
「大丈夫なの?」
「全米一の眼科医の世話になって、リハビリして、少し見えるようになってるけど、
色がな、ブラウンのモノトーンなんだと」
「そんな・・・」
「お前にジョージ、言ってなかったんやね」
「うん、仕事でNY離れたけど、戻ってきて、めちゃくちゃ忙しいっていう連絡だけもらったよ」
「そか・・・」
「で、ダニー、ジョージのその状態に責任感じてるわけ?」
「ああ、ジョージは忘れろっていうけどな、俺には忘れられへんのや」
「・・そうだよね。もし僕がダニーの立場だったら、自分が許せなくなるかもしれない」
「俺の、けんかっ早い性格、治らへんのかな」
「それこそ、アランに聞いてみればいいじゃない。ダニーを一番よく理解している精神分析医だよ」
「・・そやな。訪ねてみようかな」
「何だかダニーらしくないよ。歯切れが悪い。気持ちの整理をつけるのは至難の業だけど、
今までだって、色々乗り越えてきたじゃない?お兄さんのラフィの件とか、自分のアルコール依存症とか」
「ああ、そやな・・・お前に話せてよかった」
「僕も話してくれるの待ってたから、ありがとう」
メインのバーガーが来たので、2人は食事に専念した。
食事が終わり、店を出た2人、なんとなく地下鉄の駅に向かって歩き出した。
「ねえ。僕の家に泊まらない?」
「ええ、ええの?」
「うん、まだ話足りない気がするし、本心を言うと、もっとダニーと一緒にいたいから」
「ほな、泊まらせてもらうわ」
マーティンはその返事を聞くやいなや、すぐに流しのタクシーを止めた。
「アッパーイーストサイドお願いします」
はきはきと応対しているマーティンに若干の違和感を感じながら、ダニーはタクシーに乗り込んだ。
マーティンのアパートのベッドルーム。肉体と肉体がぶつかり合う湿った音と
押し殺した声が部屋に充満しているようだった。
「なぁ・・マーティー・・・俺、もう無理や・・はぁあぁ、もう何も出ない・・」
マーティンの手に握られたダニーのペニスからは、もう透明の液体しか出てこない。
マーティンはダニーを弄んでいた手を放し、ダニーの薄い胸板に両手を置いた。
ダニーの両脚は高く持ち上げられ、マーティンの肩の上に乗っている。
無防備にさらされたダニーの秘部は、何度もマーティンを迎え入れ、
あたかも別の生き物のように開いては閉じる動きを繰り返していた。
「それじゃあ、僕ももう終わりにする」
そう言うと、マーティンはまだ力がみなぎっている自らのものをダニーの蕾に押し当て、
前後に強く腰を打ちつけた。
「ひぃ〜、あぁぁ、もう、許してくれ・・・」
マーティンは高くかすれたダニーの声を聞き、満足そうに熱い液体をダニーの中に放った。
2人はそのまま、少しの間、まどろんでいたようだ。
がばっと体を起こし、ダニーがバスルームに駆け込んだ。
あれだけマーティンが何度もダニーの中に精を放ったのだ。
シャワーを浴びるのは当然と言える。
マーティンは、どうして今夜の自分が、こうも加虐的にダニーをいたぶるように抱いてしまったのか、
分からないでいた。
ジョージの話を聞いて、動揺したのは確かだ。
心根が優しく、弱者を保護せずにはいられないダニーの性格をよく分かっている。
今まで、危なっかしい繋がりではあったが、それなりに上手くやってきた3人の関係の均衡に
変化が訪れるかもしれない恐怖が、自分を駆り立てたのか。
ダニーがバスタオルを巻きつけて、バスルームから現れた。
マーティンが自分を見つめているのに気がついて、照れた笑いを浮かべた。
「俺、明日、腰が立たへんかったら、仕事休むで」
「それは僕も同じだよ、ダニー、ごめんね」
「ん?何で?」
「ちょっとハードすぎたよね?」
「お前にしちゃあな、さ、早くシャワー浴びてき。俺、もう眠くてかなわん」
「先に寝てていいよ」
「言われなくても、そうするつもりやったわ」
ダニーはマーティンが用意したギンガムチェックのパジャマを着ると、
ベッドの中に滑り込んだ。
自分たちの情事の匂いが残っている。
出来れば新しいベッドで心地よく眠りたいが、仕方がない。
ダニーはふぅとため息をついて、目を閉じた。
マーティンがバスルームから出てくると、ダニーの規則正しい寝息が聞こえてきた。
ベッドの脇に立って、ダニーを見降ろす。
穏やかな寝顔が、どこか無防備で、愛おしかった。
こんなにこの男性を愛することになろうとは、シアトルから赴任した当時は考えもしなかった。
もう4年以上も前のことだ。
マーティンもふわぁとあくびをし、ダニーと同じ柄のパジャマを身につけると、
ダニーの傍らに身を横たえた。
「ダニー、おやすみ。愛してる」
「・・・・」
翌朝、2人は遅刻ギリギリにオフィスに滑り込んだ。
サマンサが眉を上げて、そんな男子チームを見ている。
「何、また、合コン?」
「そんなんやない」
「サム、それは誤解だよ。僕ら、合コンになんか参加しないって」
「どうだかね〜。シングルズ・バーに繰り出したりとかは?」
「違うってば」
反論はマーティンに任せて、ダニーはPCに電源を入れ、仕事のスタンバイに入った。
空腹でたまらないマーティンは、サムとの言い合いに終止符を打つと、
エレベーターに向かった。
キャンティーンで朝食を買ってくるだろう。
「はい、ダニー、朝ご飯」
「お、サンキュー、てか、お前、朝からバーガー?」
「ごめん、昨日もバーガーだったよね・・・」
「ほんまに、お前バーガー好きな。全米バーガー協会の理事に立候補し」
「え、そんな協会、本当にあるの?」
真面目な顔で聞き返すマーティンは、いつもの真面目で勤勉なフィッツジェラルド捜査官に顔に戻っていた。昨晩、自分を3度もイカせ、自らも3度果てた男には到底見えない。
こいつ、ジギルとハイドやな。というより淑女と娼婦か。
ダニーが思わずくすっと笑うと、マーティンが怪訝そうな顔をした。
「僕をだまそうたって、その手は食わないよ」
「信じるも信じないも、どうぞご勝手に」
MPUの一日が始まった。
仕事が終わり、帰り仕度をしていたダニーにマーティンが近寄って来た。
「ん?ボン、何か用か?」
「あのさ、グランド・セントラル駅、見に行かない?」
「何かやってんの?」
「うん、ちょっと興味があるんだ」
「お前、寿司奢るか?」
「ああ、いいよ」
「それなら行くわ」
2人が仲良く肩を並べて出ていく様子を見ながらサマンサがヴィヴィアンに言った。
「ケンカされても困るけど、あれだけ仲良しなのも、何だかね〜」
「いいじゃない。ケンカしてる時、本当に最悪な状態になるから、平和が一番よ」
「それもそうね」
ダニーとマーティンは、グランド・セントラル駅のメイン・コンコースにいた。
照明が暗く落とされ、それぞれの柱にイラストとメッセージが映し出されている。
幻想的な世界にダニーは驚いた。
「これ、何のイベントなん?」
「アース・ウィークだよ。ウォーホルやリキテンスタインの作品があるんだって」
ダニーはアートに特に関心があるわけではなかったが、それ位の名前は知っていた。
マーティンは柱から柱へ移動して、作品を熱心に鑑賞していた。
30分ほどかけて、すべての柱を見終えると、少し退屈そうな顔のダニーに、マーティンが話しかけた。
「ごめんね、退屈しちゃった?」
「いや、そんなことないけど」
「じゃあ、お約束通り、寿司食べに行こう」
2人は、駅からほど近い「花寿司」に出かけた。
2人がカウンター席に着くと、「ダニー!」という声がした。
声の方向を向くと、ジョージがニック、パーシャとカウンターの向こう側に座っていた。
「よう、元気か?」
「ご一緒になさいますか?」
おやじさんがカウンターの後ろから声をかける。
「そうだね、一緒でいいんじゃない?」
マーティンが珍しくすぐに答えたので、ダニーは席を立ち、ジョージの隣りに腰を下ろした。
ジョージがすかさずテーブルの下でダニーの手をぎゅっと握り、すぐに離した。
「ジョージ、元気にしてた?」
マーティンが話しかけた。
「うん、お陰様で、すごく忙しくなっちゃって。今日は、久し振りのオフだったから、
ラブラブカップルを誘ってやってきたんだ」
マーティンからはジョージの顔が良く見えないので、目の色の違いは確認できなかった。
パーシャがニックに魚の名前を聞きまくっていたが、ニックは丁寧にひとつずつ答えていた。
うまくいってんのやな。
ダニーは、そんな2人が微笑ましく、また羨ましくなった。
カミングアウトし、カップルになるなど、自分には出来ない事だが、
そんな人生も悪くないと思い始めていた。
寿司ネタは、旬のホタルイカやカツオなどバラエティーに溢れていて、
なおかつお好みで食べて飲んでも一人120ドル程度で収まるのがありがたい店だ。
「ダニー、遠慮しないでもっと食べなよ」
どんどん注文するマーティンがダニーを促した。
「俺の胃袋はお前とちゃうから、もうそろそろ打ち止めや」
「そうなんだ。じゃあ、僕、スパイダー・ロールください」
「あ、僕も!」
パーシャがまねをしてオーダーした。
「それ、何?」
ダニーが尋ねると、ソフトシェルクラブのフライを巻いたものだという。
ダニーは食指が動かなかったが、パーシャとマーティンはぺろりと食べ、
皆で吸い物をオーダーして〆にした。
マーティンがチェックをするので、ダニーは先に店の外に出た。
するとジョージも出てくる。
「ほんま、元気だったんか?」
「うん、ダニーは?」
「まあまあや。お前、オフなら連絡し」
「ごめん、何だかしそびれちゃった。ねえ、今日、家に寄れる?」
ダニーは逡巡した。
さすがに2日続きの外泊は厳しいものがある。
それにジョージに体を求められても、今晩は応えられそうにない。
「ごめん、明日、朝から張り込みの順番なんで早いから」
「そうか。残念!じゃ、次のオフの時には会えるかな」
「もちろん、電話しろよ」
「うん、分かった」
マーティンとニック、パーシャが出てきた。
「パーシャがクラブに行きたいんだと。お前らも来るか?」
マーティンとダニーは顔を見合わせた。
「俺らのダークスーツじゃ、手入れだと思われるから、今日は遠慮しとくわ」
「そうか、ジョージ、来るだろ?」
「じゃ。ちょっとだけ行く」
3人はリムジンでアッパーサイドの方に去って行った。
「ダニー、行かなくてよかったの?」
マーティンが少し心配そうな顔で尋ねた。
「ああ、俺も年やから、昨日の今日じゃ体がもたへん」
マーティンは恥ずかしそうに笑った。
「そうだね、僕も、一日、腰のあたりがずーんと重たかった」
「今度、あれくらいするなら、週末にしてくれよ」
「ごめん、わかりました」
「じゃ、地下鉄の駅まで歩こうか」
「うん暖かくなってきて歩くのも苦にならなくなったね」
2人はまた肩を並べて、近くの地下鉄の駅に向かって歩き出した。
ダニーが目ざましのけたたましいブザー音で目を覚まし、
歯磨きと髭剃りを済ませていると、電話が鳴った。
朝っぱらから事件やろか?
ダニーはすぐにバスルームを飛び出し、電話を取った。
「はい、テイラー」
「ごめん、僕」
「なんや、ジョージ、おはようさん。どないした?」
「昨日の今日ですごく申し訳ないんだけど、今晩、会えないかなと思って」
「ええよ、何かあったのか?クラブで嫌な目に遭うたとか?」
「厳密に言うとそうじゃないんだけど、相談したくて」
「よっしゃ、今、抱えてる事件ないから、今日事件が起きなければ、定時で仕事終われると思う。
どこで会う?お前の家?」
「・・・チェルシーに来てもらいたいの」
「はん?了解。じゃあ、飯の場所決めて、メールくれるか?」
「分かった、ダニー、ありがとう。ごめんね、朝から」
「気にすんな。お前はほんまに大丈夫なんやろ?」
「うん、僕は大丈夫」
「それじゃ、夜にな」
「うん、いってらっしゃい」
「ありがとな」
ジョージの声が心なしか沈んでいるのがダニーは気になった。
一体、何があったのだろう?
仕事はスムーズに流れ、今日も定時にオフィスを出ることが出来た。
本当なら、こういう時こそ残務整理や過去の事件ファイルの見直しをしておくと、
捜査に役立つし、ボスの人事考課にも効果的なのだが、それよりもジョージの方が大切だった。
待ち合わせの場所であるチェルシーの「ブケリア」というタパスバーに向かった。
店に入ると、目立たない隅の席にジョージが座っていた。
サングラスをかけている。
「ごめん、待たせたな」
「大丈夫、僕も今着いたところだから。お腹すいたでしょ?頼もうよ」
「おう」
2人は、豊富なタパスメニューから、しこ鰯のマリネや、砂肝のガーリック炒め、
ハモンセラーノとソーセージ、サラミの盛り合わせ、白アスパラガスのサラダ、
パンコントマテを頼み、カヴァを開けた。
「で、どないしたん?ニックとパーシャのことか?」
ジョージはふぅと深呼吸してから、話し始めた。
昨日の晩、チェルシーで一番人気のある高級ゲイクラブ「スプラッシュ」に出かけたのだという。
そこは「スプラッシュ・ボーイズ」といって、見目麗しく、逞しい男性ダンサーが煽情的なダンスを披露し、
客たちが100ドル札のチップを彼らのGストリングに刺していく趣向が人気で、
週日だというのに超満員の客で膨れ上がっていたという。
3人は2階にあるラウンジバーのVIP席で、ステージを見降ろす形で酒を飲んでいたところ、
ステージに上がったのが、ジョージのいとこのアレックスだったという。
「それ、見間違いやないの?」
「いとこの僕が間違えるはずないよ、絶対アレックスだった」
「で、どないしたん?」
「ニックやパーシャには言えないから、そのままステージを眺めたよ」
「なぁ、ヘンなこと聞くけど、そこってすっぽんぽんになるのか?」
「ううん、Gストリングはつけたまま。でもとにかくとってもセクシーなんだ。
アレックス、かなりチップもらっていたし」
「ふうん。あいつ、モデルやってるんじゃなかったのか?」
「うーん、それがね、アイリスに尋ねたら、ブッキング状況があまりよくなくて、苦労してるって」
「そうなん?でお前はどうしたい?」
「出来れば、辞めてもらいたい。初めて行ったからどんな店だか分からないけど、
そういう店って影で売春あっせんとかしてないのかなと思って」
ダニーもうーんと唸った。
「それに、ダニーがアレックスに会ってくれたら、あいつがまたドラッグ中毒に戻ってないか
判断してくれるんじゃないかと思ったんだ」
女性のストリップクラブの摘発の経験はあるが、ゲイクラブとなると話は別だ。
それにおとり捜査で拉致され、痛い目に遭った記憶が急に蘇り、ダニーは苦い顔をした。
「チェルシーで待ち合わせしたってことは、俺にそのクラブを見てほしいからか?」
「うん、迷惑?」
「いや、お前が俺を頼ったのは正解やと思う。食事が終わったら、早速行ってみようや」
ジョージは初めて安心したように少し笑って、パンコントマテをかじった。
ダニーとジョージはタパスバーでの食事を終えて、問題のゲイクラブ「スプラッシュ」に出かけた。
通りにまで行列が出来ている。かなり人気のクラブのようだ。
ジョージがサングラスを取ると、バウンサーがすぐに先に通してくれる。
こういう時セレブは何よりも強い顔パスになる。ダニーも一緒に中に入った。
ジョージはまたサングラスをかけた。
「2階だとよく見えないから、1階に座ろうよ」
ジョージに言われるままに、ダニーはステージ脇のテーブルに席を取った。
ウェイターも眉目秀麗なブロンド男性や筋骨隆々の美しい黒人やヒスパニックばかりだ。
「お飲物のご注文は?」
「ジントニック」
「僕はクラブソーダでいいです」
そうこうするうちに、ショータイムになった。
白人が5人登場して、お互いを見つめあいながら、体を絡ませ、
キスしそうになったり、顔をはたくまねをしたりと、コミックタッチのダンスで拍手が沸いた。
「これが前座みたい」
ジョージがダニーに耳打ちした。
次にヒスパニックの男性がソロで踊り、ステージ脇のテーブルの客が立ち上がって、
アンダーウェアにチップをはさんでいく。
そして次に現れたのは、見間違いようがない、アレックスだった。
ジョージより鍛え上げられた肉体にオイルを塗っているせいか一層精悍な印象だ。
体のバネを十二分に使ったダンスは、疑似セックスともいえるような熱いパフォーマンスで、
会場からは喝采の声が止まない。
ダンスを終えて、ステージの端を一周しながら、チップを集めている。
そして、ダニーとジョージのテーブルの前に来た時、アレックスは顔色を変え、
そそくさとステージ奥に入ってしまった。
「間違いないな・・楽屋に行ってみるか」
ダニーに連れられてジョージはステージの奥の扉の中に入って行った。
「お客さん、この先は困ります」
いかつい用心棒が中で待ち受けていた。
「俺はこういうもんやけど、今踊ったダンサーにちと聞きたいことがあってな」
ダニーがFBIのIDをちらつかせると、用心棒はすぐに道を開けた。
「楽屋は?」
「一番奥の右のドアです」
ノックをしてドアを開けると、アレックスが放心状態で、ミラーの前の椅子に腰かけていた。
ダニーがまたIDを取り出して、他のダンサーたちに見せると、皆、そそくさと外に出て行った。
「アレックス・・・」
「どうして、ここが分かったの?」
「お前こそ、どうして僕に相談してくれないんだよ?」
「相談できるわけないじゃん!僕がどうしてモデルの仕事が取れないか知ってる?
みんな口ぐちに「ジョージ・オルセンの劣化版には用がないんだ」
「ジョージは二人もいらない」って言うんだよ」
ジョージは思わず沈黙した。
「お前なぁ、だからといって、ゲイクラブのストリッパーっていうのは、ちょいと飛躍しすぎやないの?」
ダニーが話を続けた。
「だって、一晩で軽く2000ドル稼げるんだもん」
ヒュー。ダニーは思わず口笛を吹いた。
「なぁ、正直に言い。お前、体は売ってないやろな?」
アレックスは口を閉ざした。
「アレックス!お前、そんなことしてるのか!」
静かに聴いていたジョージが大声を発した。
「映画のプロデューサーの人の世話になってるんだ。映画に出させてくれるって」
ダニーはやれやれという顔をした。
「お前なぁ、そういう輩はNYにはうじゃうじゃいるんやで。具体的な話は出てるのか?」
「まだ・・」
「ほらな。それに、つきあってたエルナンはどないしてる?」
「僕が夜の仕事始めてから、会ってない」
「とにかく、僕はお前がここで働くのには反対だ。今日はそれを言いに来た。
それから、映画プロデューサーとはもう会うな」
「だって、ジョージ・・」
「だってもへちまもないんだよ。アレックス、僕だって芽が出るまで6年かかったんだ。
まだ諦めるには早すぎるだろ」
「ジョージがいる限り、僕がモデルで成功することはないんだ。もうほっておいて!」
アレックスは泣き出し、タオルで顔を覆った。
「僕の住んでるとこも連絡先も覚えてるよね。連絡待ってるから。ダニー、行こう」
2人は楽屋を出た。
ジョージは、明らかに立腹し、それと同時にアレックスの告白にショックを受けていた。
店を出て、ふぅと溜息をつくとやっと口を開けた。
「ダニー、アレックスの様子、どう思った?」
「薬には戻ってなさそうやから、ほっとしたわ。それにまだこの世界にどっぷりっちゅう感じでもない。引き返せると思うで」
「ありがとう。そう願いたいよ」
「な、この先の話はお前んちでせいへん?ここじゃ落ち着かないし」
「分かった、ごめんね、ダニー」
2人はタクシーを拾い、アッパーウェストサイドに向かった。
コンドミニアムに到着しても、ジョージはだまったままだった。
セキュリティーのボブに手を上げて挨拶するだけで、顔を見ようともしない。
重症やなとダニーは思った。
「ジョージがいる限り、僕が成功することはないんだ!」
というアレックスの悲痛な叫び声がまだ耳の中に響いている。
ダニーはエレベーターに乗ると、そっとジョージの肩に手を回して抱き寄せた。
ジョージは体重をダニーの体に預けて、じっとしていた。
部屋に入ると、ジョージがキッチンに行こうとするので、ダニーが止めた。
「気い使わんでもええねんで。お前、疲れてるやろ、もう休み」
「何だか、ずんと来ちゃった。僕がちゃんと面倒を見ていたら、アレックスはあんなことにならなかったんだ・・・」
ジョージは、どさっとソファーに腰を降ろすと、両手で顔を覆った。
「お前のせいやない。あいつかてもう成人なんやから、自分の人生は自分で組み立てんと。
お前の方は、色々あったんやから、自分を責めたらあかん」
ダニーは、キッチンに入り、冷蔵庫からエトス・ウォーターのボトルを2本取り出した。
リビングに戻ると、ジョージがまだ呆然としている。
ダニーは静かにジョージの隣りに腰掛け、ペットボトルをテーブルに置いた。
「ほら、顔あげ」
ダニーがジョージの顎を持ち、上に上げた。
ジョージの目に涙がたまっている。
「僕がモデルやめたら、あいつ、立ち直れるのかな・・・」
「おい、そんな風に考えるな。モデルはお前の天職やろ?アレックスの人生と切り離し」
「でも、このままじゃ、叔父さんや叔母さんに顔向け出来ないよ。自分が情けない」
「どうにかアレックスを救う手立てを考えよう。お前がモデルをやめるとかじゃなくて、
他の方向を探ろうや」
「そんなのあるのかな・・」
「アイリスともう一回、じっくり話してみるのはどや?
アレックスがオーディションで落とされてる理由を事務所が知らないはずないやろ?」
「うん・・でも、アイリス、今日、電話した時、一言も言わなかったよ」
「アイリスは、お前を気遣ってるんや。俺も立ち会うから、アイリスに会って話しよう」
「・・・それは、ダニーに悪いよ。僕、一人で会いに行ってくる」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
そう言うと、ジョージはペットボトルを持ち上げ、ごくりと飲んだ。
「ごめんね、なんだか、想像してた以上に落ち込んじゃった」
「気にすんな。俺、帰った方がええなら、帰るけど」
「ううん、泊まっていってくれる?何もしなくていいから」
「そか、分かった。お前も明日の朝、俺を気にするな。朝食とかええからな」
「ありがとう、ダニー」
ダニーはジョージを気遣って、シャワーを別にした。
ジョージに先に浴びさせて、ベッドに寝かしつけた。
ダニーがシャワーと歯磨きを済ませて、ベッドルームに入ると、
ジョージは、天井をじっとにらんでいた。
「眠られへんの?」
「何だか、だめそう・・」
ダニーはするりとジョージの隣りに体を滑らせた。
ジョージがダニーの胸に手を置いて、寄り添ってくる。
「そのまま寝てもええで」
「うん、ちょっとこうしててもいい?」
「ああ」
ダニーは片手を伸ばして、ベッドサイドのライトを落とした。
またジョージの多忙な日が続いているらしく、珍しく数日間、電話連絡がなかった。
ダニーは自分からかけようかと何度も迷ったが、アレックスの件の結果をせっついているようで、
それがジョージにとってプレッシャーになりそうだと考えなおし、
彼からの連絡を待つことにした。
事件の方は、夫婦喧嘩の末、家を飛び出した主婦や、
親が厳しすぎると言って家出したティーンなど、それほど深刻ではない失踪事件が続いていた。
それより心配なのは、風邪で病欠をしているマーティンの事だった。
ニューヨーク市内でも豚インフルエンザの発症が相次いでおり、
米国疾病予防管理センターCDCの発表では患者数は45人に上っているという。
しかし全員、症状は軽く、回復中であるとのブルームバーグ市長の声明が出されている。
ダニーは仕事を終えると、アッパー・イーストサイドに向かった。
マーティンのマンションの近くのデリで、マーティン用チキンスープとオレンジジュース、
自分の夕食用にパストラミサンドとラビオリサラダを買い、マンションに向かった。
ジョンに挨拶をすると
「フィッツジェラルド様に何かございましたか?」
という質問を受けた。
「ああ、風邪らしいんやけど」
「そうですか・・・今、物騒な病気が流行り始めておりますから、そうでなければよろしいですね」
「ほんまや。ほなまた後で」
ダニーがマーティンの部屋に合鍵で入ると、中はシーンと静まりかえっていた。
「マーティン、起きてる?ダニーやけど・・ベッドルーム入るで」
そう声をかけてベッドルームに入ると、マーティンはぐっすり眠っていた。
寝顔を確認する。
目の下にクマが黒々と出来ており、顔色も悪い。
ダニーが静かに出ていこうとすると、マーティンがベッドの中からくぐもった声を出した。
「ダニーなの?」
「ああ、そや。お前、大丈夫か?って愚問やな。どんな具合や?」
「熱が下がらないんだ。それから咳、鼻水、下痢、嘔吐、なんでもありだよ」
「お前、病院に行った?」
「行く前にこんな状態になったから行ってない・・」
「これから行くか?」
「何だかだるいな・・」
「でも、今、巷じゃ大変な騒ぎやで。疑わしいから診てもらう方がええように思う」
ダニーはタクシーを呼び、マーティンの着替えを手伝い、一番近いプレスビテリアン病院に向かった。
自分もマスクをつけ、マーティンにもつけさせた。
ドライバーは明らかに迷惑そうな顔をしているが、ダニーは無視した。
プレスビテリアン病院のERの待合室は、風邪の症状を訴える患者でごったがえしていた。
「ここにいる方が病気になりそうだね」
マーティンが力なく笑った。
2人でじりじり順番を待ち、2時間後にやっと診察をしてもらえた。
検体サンプルを取り、検査に回すという。
結果が出るのは翌日だと言われ、2人は意気消沈した。
普通のインフルエンザ用の処方箋をもらい、帰途につくと、
マーティンは、かなり消耗したようで、またベッドに逆戻りした。
「ごめんな、俺が無理して連れだしたから」
「いいんだよ、僕こそごめんね。仕事忙しいでしょう?」
「いやそれが、そうでもないねん。だから安心して休め。
俺、リビングで食事するから、何か欲しいもんあったら、呼べよ」
「じゃあ、水くれるかな?」
「了解」
ダニーがサンドウィッチとサラダを食べ終えて、ベッドルームを覗くと、
マーティンはブランケットにくるまって眠っているようだった。
今日は泊ろう。
ダニーはそう決心して、スーツを脱ぎ、部屋着に着替えた。
地元のFOXニュースやCNNをザッピングしながら、豚インフルエンザの情報を集めているうちに、
眠くなってきた。
だが、さすがにマーティンと同じベッドでは眠れない。
ダニーはゲストルームを借りることにし、シャワーを浴びて、ベッドに入った。
ベッドサイドに携帯電話を置き、いざライトを消そうとした時、携帯が震えた。
ジョージと表示が出ている。
「おう、久し振りやん、元気か?」
「ダニー、今、どこにいるの?マーティンのところ?」
「ああ、あいつ、風邪ひきおった。万が一を考えて病院に連れてったとこや。どうした?」
「それなら、いいんだ。マーティンにお大事にって伝えて」
「ほんまにええのんか?今からならお前んとこ行けるで。話しあるんやろ?」
「いいよ、マーティンの看病してあげて。じゃ、時間が出来たら、ダニーから電話もらってもいい?」
「ああ、分かった。電話するわ」
「それじゃあね、ダニーも風邪に気を付けてね」
「お前もな」
ダニーは気になりながらも、電話を切り、ベッドサイドのライトを消した。
マーティンは新型インフルエンザの検査で陰性が確認され、
処方薬のおかげで熱も引いて、体力も回復してきた様子だった。
ダニーは2日間、マーティンのアパートに泊まり、看病をしたが、
マーティンが居心地が悪そうな様子だったので、3日目には退散し、
自分のアパートに戻った。
そやそや、ジョージに電話せんと。
もう夜8時半を回っているが、今からでも会えない時間ではない。
「よう、俺。うん、家に戻ってきた。ん?お前の部屋にアレックスいてるのか?ほな、行くわ」
ダニーはマスタングに乗り込み、マンハッタンに戻った。
ジョージの部屋に入ると、アレックスがうつむいてソファーに座っていた。
周りにくしゃくしゃに丸められたティッシュペーパーが散乱している。
相当泣いた様子だった。
「ダニー、ごめんね。仕事終わって家に着いたとこなのに、また来てもらっちゃって」
ジョージが遠慮がちにダニーに礼を述べた。
「そんなん気にすんな。で、どないした、アレックス?」
「例の映画プロデューサーって言う人がね、アレックスに他の男性の相手をしろと強要するようになって、
彼のところから逃げてきたんだ、さっき」
ダニーはやれやれという顔をしながらも、アレックスの隣りに腰をかけた。
「な、お前に言うたやろ。そんなんで近付いてくる奴にロクなのはおらへんよ。
お前と仕事したいなら、エージェンシー通すやろ?」
「僕が世間知らずのバカだから、だまされちゃった。最悪だよね、僕」
「答えにくいかもしれへんけど、お前、それで、他の男の相手をさせられたのか?」
「ううん、指定されたホテルに行かないで、まっすぐにここに来た」
「賢明な判断や。もう泣くのよし」
「・・・ちょっと顔洗ってくる」
アレックスが席を立ち、バスルームに入るのを見届けて、ジョージが話し始めた。
「アイリスに聞いたらね、アレックスって、ショーのランウェイを歩く時のキャットウォークが
ちんぴらギャングみたいだっていう評価らしいんだ。
あいつがラップやヒップ・ホップが大好きなのは知ってたけど、
そんなノリでランウェイを歩かれたら、ドレスが持っている優美さや気品が損なわれるし、
ドレスよりアレックスが目立っちゃう」
「何かよう分からんけど、それって、上手くなるもんなん、その、何だ、キャットウォークって」
「ああ、僕だって死ぬほど練習したよ。だから、あいつにはレッスンを受けさせるつもり」
「ええアイディアやない?あいつも自分の劣っている点を認めているのか?」
「やっと、さっきね・・・先は長そうだけど」
「お前だって下積み長かったんやから、1年やそこらで芽が出ると思ってるのが、甘ちゃんなんや。
俺ならとっくの昔に放り出してそうやで」
「そんな事、僕には出来ないよ」
「そやな、お前は出来へんな」
アレックスが冷タオルを目に当てて出てきた。
「お前さ、今年何歳?」
「22歳」
「まだまだ、いくらでもやり直しできる年やで。がんばり。
それと、イージー・マネーはあかん。ああいう金はあっという間に自分を通り過ぎていくだけや。
何のこやしにもならへんからな」
「そうだよね、僕、明日「スプラッシュ」に辞めるって言ってくる」
「そか。よく決心したな」
ジョージも安堵のため息をついた。
アレックスは、メッセンジャーバッグを斜めがけすると、ソファーから立ち上がった。
「それじゃ、僕、帰る」
「え、アレックス、今日、泊まりなよ」
「だって、ダニーが泊まるんでしょ?」
ダニーとジョージが顔を見合わせた。
「俺は、仕事詰まってるから、今日はブルックリンに戻る。お前、ジョージと過ごし?」
「そうだよ、久し振りにじっくり話ししよう」
アレックスはしぶしぶ了承した。
「ほな、俺、帰るわ」
「ダニー。ありがと」
ジョージがダニーを強くハグした。
「ええっちゅうに!またゆっくり会おうや」
「そうだね、愛してるよ」
「俺もや。風邪には気をつけろ」
「あ、マーティンは?」
「ただの風邪やった」
「よかったね」
「まったくや。それじゃ親戚水入らずで過ごし。おやすみ」
ダニーは部屋を出た。どうにかアレックスの人生は軌道修正が出来そうだ。
ダニーはぽわっとあくびをして、地下の駐車場にエレベーターで降りて行った。
ダニーがアパートに戻ると、留守電が点滅していた。
「ん?誰やろ?」
ジョージとはさっき別れたばかりだ。
再生ボタンを押すと、マーティンの声が飛びだした。
「ダニー。留守なんだね。言い忘れたから、電話した。
看病してくれてありがとう。助かったよ。
一人暮らしで病気の時って、すごく不安だよね。
ダニーがいてくれたから、安心して眠れて回復が早くなったんだと思う。
明日からオフィスに出るから、何か奢るよ。じゃあね」
ダニーは、マーティンの職場復帰が嬉しかった。
プライベートで会えるとは言っても、職場のあの緊張感の中で、目線を絡ませたり、
暗号めいたメールのやりとりをするだけでも、
ともすれば退屈な予定調和の日々のスパイスになる。
そんな関係を続けて早4年になるが、女性との恋愛が全く長く続かなかったダニーにしては、
新記録かもしれない。
俺のせいやない。マーティンのおかげやな。明日はあいつの好きなとこで飯を食おう。
ダニーは、バスタブにお湯をためにバスルームに入った。
翌日、マーティンは元気そうに出勤してきた。
サマンサとヴィヴィアンに早速からかわれている。
「病気の間、彼女の手厚い看病があったのかしら?」
「そんなの、ないよ。一人で寝てただけさ」
「ありえなーい、マーティン・フィッツジェラルドを看病してくれる人間がいないなんて!」
サムの一言が大きかったので、他のチームの捜査官もマーティンに注目した。
「からかわないでよ。本当の話なんだから。ほら、心なしか、僕、痩せたよね?」
「あまり変わってないように見えるけどな」
「ダニーまで!もういいよ、僕は仕事に専念しますから」
「はい、じゃあ、この事件ファイルの整理をお願いね」
ヴィヴィアンが両手いっぱいのファイルの山をどさっとマーティンのデスクの上に置いた。
「はいはい、おおせのままにいたします」
「よろしい」
ヴィヴィアンは笑いながら、自分の席に戻って行った。
ダニーは元気そうなマーティンの様子にほっとした。
豚インフルエンザだったとしたら、隔離されるから、会えなくなってしまう。
彼の屈託のない笑顔にこんなに癒されるとは考えてもみなかった。
仕事も片付き、マーティンが帰り仕度を始めた。
「なぁ、マーティン、飯、行くやろ?」
「うん、もちろん。病人食ばっかりだから、ロクなもの食べてなかったし、嬉しいな」
ダニーは場所をすでに決めていた。
マディソン街と36丁目の角近くの「ウーチョン」。
コリアンBBQに定評のある店だった。
もしまだマーティンが食欲がなくても、韓国粥や麺があるし、一品料理も充実している。
2人は連れだって、タクシーに乗り、店の前に乗り付けた。
「わ、コリアンなんだ!もしかしてBBQ?すごく嬉しいよ。
だって、ビーフなんて何日も食べてないから」
マーティンは嬉しそうな笑顔を見せた。
そういう時に両頬に出来るエクボが彼を幼く見せる。
予約していたので、すぐにテーブルに案内され、2人はマッコリビールという
カクテルにチャレンジした。
ビールがクリーミーになったようで、なかなかいける。
マーティンはすぐにメニューから、BBQの肉を選び始めた。
「ダニーは、シーフードも食べるでしょ?」
「あ、そやね、ありがと」
注文を済ませ、ずらっと並べられた前菜を摘みながら、2人はBBQの食材を待った。
「お前、ほんま、少し、頬がこけたな」
「本当?このままの方がいいな。このところ、ちょっと気になってたんだよね」
「ふうん、そんなことでお前のルックスは損なわれないけどな」
「ダニー、どうしたの?何だか優しすぎて怖いな」
「そか?じゃあ、だまってようか?」
「話してよ。僕は口べたなんだから、知ってるでしょ?」
BBQの食材が到着した。
山のような肉の盛り合わせに、ダニーが思わず苦笑する。
「あ、笑ったね。ダニーには少ししかあげないよ」
「嘘や、俺もビーフ食いたい」
2人はBBQを平らげ、〆に冷麺をオーダーした。
「この酸っぱいのが、口の中をさっぱりさせるよね」
「ああ、もうこれを食う季節になったんやね」
「早いよね」
腹が裂けそうなくらい満腹になり、2人は外に出た。
約束通り、今晩はマーティンのおごりだった。
「次はおごってね」
「おう、何でも言い」
「わ、言ったね。録音しておけばよかったな」
マーティンは、この平和なひとときが永遠に続けばいいと思った。
2人だけの世界だ。ここにはジョージもドムも存在しない。
「ねぇ、僕の家、寄ってく?」
「・・・ていうか泊まりたい」
「本気?」
「ああ、都合悪いか?」
「そんなことないよ。今日、メイドのマリアも来てくれてるし、片付いてるから」
「ほな、タクシー拾おう」
2人は、マディソン・アヴェニューのタクシースタンドに向かった。
マーティンの部屋は、ダニーが看病で通っていた時とは見違えるように、整理整頓されていた。
「へぇ〜、今度のメイド、マリアっちゅうたっけ?どこの出身?」
「エルサルバドルだよ。まだ英語が達者じゃないから、僕にとってもスペイン語の勉強になる」
「お前のスペイン語、すげーからなぁ」
「あ、またバカにしてるよね。そりゃあダニーに比べたら、僕のなんて幼稚園児みたいだろうけど・・」
「そこまで言うてないやん。ほら、こっちに来」
ダニーはソファーに座り、マーティンに手まねきした。
「Ti amo tanto」
ダニーのかすれた声の囁きに、マーティンは笑いだした。
「それ位は分かるよ、ダニー」
「そか、じゃあ、これは?“Quiero aspirar tu martillo”」
「え、何それ?一度も聞いたことがない気がする」
ダニーは内心ほっとした。
最近はヒスパニックと浮気をしたことはなさそうだ。
「お前のあそこを咥えたいって言うた」
マーティンの頬がさっと紅くなる。
「シャワーしよか?」
「そうだね・・・」
2人はマーティンの広いシャワールームで体を重ねるようにお湯を浴びた。
お互いの局部を前も後ろも綺麗に洗っていると、すでにペニスが熱を帯びて立ち上がってくる。
「お前さ、もう平気なん?」
「大丈夫だよ、ね、早くベッドに行こう。ダニーまで風邪ひいちゃまずいからさ」
バスローブをまとい、2人はベッドにダイビングした。
お互いの唇をついばみながら、身から剥がすようにバスローブを脱がせていく。
「お前の腹筋、綺麗やな」
ダニーがマーティンの割れた腹筋に目を這わせる。
「照れるからやめてよ」
ダニーはマーティンの体を静かに後ろに倒し、上にのしかかった。
お互いのペニスが擦れて気持ちがいい。
すでに先走りの液が混じり合い、熱さを増している。
いつもならまっさきにマーティンがダニーにむしゃぶりつくのに、今日は違っていた。
ダニーが体を下にずらしていき、マーティンのいきり立ったペニスを口に含むと、前後に顔を動かした。
「あぁあ・・気持ちいい・・」
マーティンはダニーがフェラチオを好んでいないのを知っている。
すぐに解放しよう。
そして自分の体を反転させ、ダニーのペニスを咥えこんだ。
「あっ」
ダニーがびっくりしたように体をぴくっと動かした。
しばらく湿った音がベッドルームを占領した。
「ね、入れたいよね?」
マーティンがおずおずと尋ねた。
「お前は?」
「僕は入れて欲しいよ・・」
マーティンはサイドテーブルの引き出しから、蛇印のローションを出した。
今日はココナッツだ。まるでサンタンローションのような香りがする。
ダニーの心はしばし、マイアミ・ビーチに飛んだ。
「どうしたの?」
「何でもない、ほな、行くで」
「うん・・」
マーティンの瞳は期待で潤んでいるように見えた。
まず周囲にローションをなじませ、自分の指にもたっぷり取ると、ダニーは指を1本入れた。
すぐさま、マーティンが呻き始める。
指を2本、そして3本と増やし、中をぐるりとほじくるように触ると、マーティンが悲鳴に近い声を上げた。
「ええのんか?」
「もっとよくして。ダニーのが欲しい」
ダニーは自分のペニスにココナッツ・ローションをたっぷり塗り、マーティンの準備が出来た秘口にあてがった。
するりと中に引き込まれるようにペニスは入って行った。
「あぁ、熱い・・・お前の中、燃えてる・・」
「はぁぁ、んんん、当たり前だよ、久し振りだから」
「そうなん?ほな、こうしようか?」
ダニーがマーティンの両脚を肩に担ぎ、腰をさらに深く前に突き出した。
「あーーー、ダニー、すごいよ・・どんどん大きくなる・・」
ダニーはマーティンの目がだんだん焦点をなくしていくのを確認すると、おもむろに動き出した。
「ああぁん、はっ、も、もっと強く、僕を串刺しにして!」
マーティンの悲鳴混じりの懇願に、ダニーは腰をグラインドさせながらスピードを速めた。
「だめ、あ、あ、僕、イく・・出る・・ああああぁあ!!」
マーティンは自分の手も添えていないのに、ぴくぴくと体を震わせながら、
勢いよく精をダニーの胸に向かって放った。
その後もがくがくと体を揺らしているマーティンの様子に興奮したダニーは、
さらにスピードを速め、強く、腰をマーティンの尻に打ち付けた。
「俺も・・・あっ!」
ダニーのペニスがマーティンの中でうごめいている。
温かいものが流れていく感触をマーティンは楽しんだ。
ダニーはマーティンの両脚を降ろし、隣りに寝転がった。
「病み上がりなのに、ハードすぎたか?」
「そんなことないよ。僕・・溜まってたから・・・」
「俺もや・・・もうグラビアやネットの画像でマスかく年でもないしな」
2人は大笑いした。
「明日が土曜日でよかったね、事件もないしさ」
「ほんまや、じゃあ、もう一回やるか?」
ダニーのいたずらっ子のような表情に、マーティンは照れ笑いで答え、2人はまた絡み合った。
翌朝、2人は思い切り寝坊をした。
目覚まし時計を気にせずに眠りを貪ることが出来る数少ない休日なのだ。
それでもベッドサイドには携帯電話が2個並べられている。
いつ呼び出しがかかるかもしれない。
それに備えるのがFBI捜査官の責務でもあった。
ダニーが先に目を開けると、目の前にマーティンの寝顔があって驚いた。
こうやって見ると、こいつ、ほんまにあどけないな。
30過ぎの男に対する褒め言葉ではないのは百も承知だ。
しかし、オフィスで見せる時折尊大で、プライドの高いマーティンの、
こんな姿を見られるのは、役得としか言いようがない。
「んんん・・・」
視線を感じたのか、マーティンがゆっくり目を開けた。
「あ、ダニー、おはよう」
「おはよう、お前、疲れてへん?まだ寝ててもええんやで」
「そう・・・でもお腹すいたよね」
ダニーはくくくっと笑いだした。
マーティンの腹時計ほど時間が正確な時計はないのではないか。
「ほな、シャワー浴びて、ブランチ食いにいこか?」
ダニーは、マーティンの家の冷蔵庫に、ほとんど食糧の買い置きがないのをよく知っていた。
「あ、そうだ、今日って9番街でフード・フェスティバルやってるんだよ、
行ってみない?」
ダニーは正直、人ゴミが嫌いだ。
断ろうかと思ったが、マーティンがいかにも行きたい顔をしている。
「じゃ、支度しよう」
2人はタクシーで57丁目まで下りた。
すでに9番街の通りは黒山の人だかりで、どこが通りかも分からないほどだった。
「何か食えるかな・・・」
ダニーが不安げに言うと、「平気、平気、さあ行こうよ」とダニーのジャンパーの袖を持って
マーティンが人ゴミの中に入って行った。
早速タイ料理の屋台でパッタイと春巻きをゲットする。
歩道には自由に座れる簡易テーブルと椅子が用意されており、
2人はテーブルを確保し、そこを拠点にして、交代に屋台に出かけては、
ギリシャのチキン・ソブラキや、スパイシーガンボ、ビールを買い、食べ続けた。
「ブランチより楽しいな」
ダニーが言うと、マーティンが嬉しそうな顔をした。
「ね、正解だったよね」
マーティンがビールのおかわりを買いに行っている間、ダニーが周囲を見ていると、
ケバブの屋台を見ているジョージを見つけた。
声をかけようと思ったが、まとわりつくようにぴったりくっついている人物を見て、ためらった。
チャイヤだ。
ジョージも限りなく優しそうな顔をして、チャイヤが指をさす料理をオーダーしていた。
チャイヤの兄とジョージの過去を考えれば、ジョージが親代わりだし、親しくて当然だが、
3人で食事をしている時のチャイヤとずいぶん違う様子なのに、ダニーは驚いた。
すると、ジョージの方が、ダニーに気がつき、手を振っている。
ダニーも仕方なく手を振り返した。
ジャンバラヤとジャークチキンを持って、2人が近付いてきた。
「ダニー、来てたんだ。一人?」
「いや、マーティンと一緒や。今、あいつ、ビール買いに行ってる」
ジョージの顔が少し曇ったが、チャイヤの頭に手を載せて、なでるとこう言った。
「僕は、チャイヤのマーケットリサーチのお供なんだ、な、チャイヤ?」
「そうなんです。僕、料理の名前、分からないからジョージに教わったりしてて」
そうこうするうちにマーティンがビールのカップを両手に持って現れた。
「あれ、ジョージ!それにチャイヤじゃない?」
「こんにちは」
「このビール、飲む?僕ら、また買いにいくから」
「いや、いいですよ〜。まだ着たばかりだから、もうちょっとチャイヤの勉強に付き合わないと」
ジョージが固辞するので、マーティンはビールをダニーに渡した。
「それじゃ、またね」
「来週も、ランチ買いにいらしてくださいね!」
屈託のない笑顔で言われては、ダニーも笑顔で返すしかなかった。
マーティンが椅子に座る。
「何だか、すごく仲が良さそうだね」
「そやな」
「ダニー、大丈夫?」
見ると、マーティンの青い瞳が心配そうにダニーを見つめていた。
「大丈夫も何も、休みの日やもん。人それぞれ予定があるがな」
「これ飲み終ったら、家に戻ろうか」
「そやね、腹もふくれたし、昼寝でもしよ」
2人はソーセージとガーリックポテトの残りを食べ終えて、9番街を後にした。
ダニーは、マーティンのアパートで土日を過ごし、日曜日の夜に自宅に戻って、
月曜日に出勤した。
ランドリーもやっていなければ、グローサリーの買い物もしていないが仕方がない。
マーティンのインフルエンザが治ったのが嬉しかったのだから。
「ダニー、おはよう。よかったらこれ・・」
マーティンがダニーのデスクの上に、茶色い袋を載せた。
中を覗くと、ベーグルサンドが入っている。
「お、サンキューな」
「お礼だよ」
「ええのに」
「何なに、お2人さん、また週末、仲良ししてたわけ?」
サマンサがコーヒーをなみなみと注いだFBIマグを片手にやってきた。
「僕が病気の間、ダニーが買い物を届けてくれたから、そのお礼だよ」
「ふうーん、今度、私が寝込んだら、ダニー、よろしく」
「はいはい、おおせの通りにいたしますよって」
今日は久しぶりに事件が発生した。神学校に通っている学生が金曜日から行方不明だという。
「どうして捜索願が遅れたんですか?」
ヴィヴィアンの質問に、ボスが答えた。
「ジョナサン・ウイットマンが、寄宿舎に外泊申請を出していたからだ。
しかし、泊まるはずの両親の家には戻らなかった。
両親は外泊申請のことを全く知らなかったと言っている」
「ご両親に話を聞いてきます」
サムがすぐに反応すると、ボスがこう告げた。
「じゃあ、マーティンと言ってくれ。ヴィヴとダニーは学校の方を頼む」
ヴィヴィアンとダニーはコロンビア大学に併設されているユニオン神学校を訪れた。
名前が違うためあまり知られていないが、この神学校はアイビー・リーグのエリート校だ。
寄宿舎のルームメートの話では、ジョナサンの生活はとても規則正しかった。
朝4時に起床、試験が迫っているギリシャ語の勉強をした後、
6時にはジムに出かけトレーニング。
シャワーを浴び、朝の祈祷会に参加、その後午前2クラス、午後2クラスを受講し、
夜は図書館で図書の移動のバイトをする。
その毎日の繰り返しだったという。
「何か、悩んでるような様子は?」
ヴィヴィアンの質問にルームメートのカイルは、少し口ごもった。
「捜査の手がかりになるなら何でもお話頂きたいんですが」
ダニーに促され、カイルは口を開いた。
「ギリシャ語の試験にナーバスになっていました。前回も追試でしたし。
思いつきだと思いますが、「もう続けられないかもしれない」と漏らすこともあって」
「他に何か思い出したら、こちらに連絡してください」
名刺をもらい、カイルは「探してください。お願いします」と懇願した。
泣き腫らしたような赤い目とまぶたが気になったが、
ダニーは何も聞かずにヴィヴィアンとその場を去った。
2人は続けて図書館に出かけた。司書も牧師たちだった。
「ジョナサンですか。真面目ないい学生です。ただ・・」
「ただ、何です?」
「仕事が終わると、パソコンを使うんですが、閉館の時間になっても使い続けるので、
いつも帰らせるのが骨でした」
「そのパソコン、見せて頂けますか?」
「こちらへどうぞ」
AV室には5台のパソコンがあった。
「ジョナサンは必ず右端のを使っていました」
「これを押収させて頂いてよろしいですか?」
「わかりました。ジョナサンを見つけてください。よろしくお願いします」
ダニーはFBIのテック部門に電話し、パソコンを押収させた。
次はオフィスに一度戻り、両親の話を聴いているはずのサムとマーティンとの
情報交換だ。
見つかるとええんやけど、時間が経ちすぎてる。
ダニーは焦りを感じていた。
ダニーとヴィヴィアンがオフィスに戻ると、ボスがどちらかと言えば老年の夫婦と話をしていた。
どうやらジョナサンの両親らしい。
サムとマーティンはすでに戻っており、ホワイトボードのタイムラインを埋めているところだった。
「待ってたのよ。聞き込みどうだった?」
サマンサが黒のマーカーを片手にダニーに尋ねた。
「ルームメイトにこの先の不安を打ち明けていたわ。精神状態は不安定やったみたいやな」
「今、ご両親の了承を得て、彼の医療記録を取り寄せたんだけど、抗うつ剤を服用してたよ」
マーティンがファイルを見ながら薬の名前を読み上げた。
アッパー系とダウナー系の両方が処方されている。
その二つを組み合わせるのは、よくある処方とも言えるが、どちらも強力な薬ばかりで、
それほど深刻な精神状態だったのかと、聞いていた3人は驚かされた。
「ご両親からは何か手掛かり得られた?」
ヴィヴィアンが質問した。
「それが、電話で1週間に1度話すだけで、ここ2か月会っていなかったんですって。
同じニューヨーク市内にいるのに、それってありかしら?」
サムが憤慨するように言った。
「神学校の生活ってかなり特殊な感じがしたのよね。拘束感があるというのかしら。
それにうつ病だったら症状がひどい時には親でも会いたくないでしょう」
ヴィヴィアンの言葉にマーティンも同意した。
「ご両親はずっと不妊治療を受けておられて、やっと授かった一人息子だって言っていたから、
愛情が薄いとは思えないな。ジョナサン側に会いたくない問題があったと思う方が妥当だよ」
「ジョナサン、薬を持って失踪してるかな?」
突然ダニーが質問した。
「部屋には薬瓶はなかったわよね」
ヴィヴィアンが補足した。
サムがかたかたとPCで検索している。
「やだ、服用を急に中断すると、ちょっとしたことですぐ興奮しやすくなって、
v それに不安感が重なると、自殺行為に走る場合があるって・・・」
4人は顔を見合わせた。
そこにヴィヴィアンの携帯が震えた。
「はい、ジョンソンです。カイル?え?ジョナサンから電話があったの?
ええ、はい・・」
ヴィヴィアンは黒いメモ帳をすぐに取り出し、書き始めた。
「分かったわ。これからあなたのところに行くから、一人で出かけないでね」
3人がヴィヴィアンを見詰めた。
「ジョナサンがカイルにお金を普請する電話をかけてよこしたわ。
1時間後に大学の図書館で会うことになってるって」
「生きてるんや!」
ダニーの声に皆が同調した。
サムがボスに知らせに走った。
ガラス越しにご両親が抱き合っているのが見えた。
するとテックのマックがオフィスに入ってきた。
「ちょっとご覧に入れたいものが出てきました」
ダニーとマーティンがテックルームに入る。
ジョナサンの使っていたPCの画面にTwitterのページが出ている。
「ログを解析していて毎日同時刻にアクセスしているのがTwitterだったんですよ。
で、見ていたら、このリビングストン・シーガルっていうのがジョナサンだと思えてきて」
マーティンがはっと気がついた。
「「かもめのジョナサン」の主人公だね」
「はい、それで、頻繁にやりとりしているのが、こいつ。ジョン・ドゥー」
「何や、匿名やん。それって登録できるのか?」
「ええ、今や何でもありですからね。Twitterは」
「それで、何を話してるの?」
「もっぱらレストランの話なんですよ」
「はぁ?」
ダニーとマーティンは同時に声を上げた。
「それも高級レストランばかりです。で、最後のやりとりは、
今日の8時に「ル・ベルナーディン」で最高のテイスティング・メニューを食べようで終わっています」
「ル・ベルナーディンって?」
ダニーが尋ねると、マックの前にマーティンが説明を始めた。
「NYで数少ないミシュラン3つ星のフレンチ・レストランだよ。
ワインも頼めば、一人400ドルはかかると思う」
「ジョナサンって奨学金で神学校行ってるよな」
「ああ、父親は保険のセールスマンだから、経済的に余裕のある家ではなさそうだった」
「ほな、その金をカイルに頼んだんやないの?マック、ありがとな」
2人はテックルームを出た。
「お前、レストランに当たってくれるか?どっちかの名前で予約入れてないか?」
「ええ?2人客なんて大勢いそうだよ、ダニー」
「もしかして、レストランの前に会う約束あるかもしれへんやん。
相手が分かれば手がかりが増える。ものは試しや、頼む」
ダニーは出かける支度をしているヴィヴィアンに合流した。
「カイルに会いに行くんやろ?俺も」
「じゃあ、行きましょう」
2人はまたアッパーウェストサイドのユニオン神学校に戻った。
カイルとジョナサンの部屋に行くと、カイルの姿がない。
「図書館や!」
2人は走った。
「どこで会うって?」
「トマス・アクイナスの「神学大全」の本棚ですって」
ダニーは司書に「神学大全」の場所を尋ねた。
「3階のBの36やて!」
エレベーターがないので階段を駆け上る。
目当ての本棚のコーナーに行くと、カイルが床に倒れていた。
ダニーが駆け寄り、脈を調べる。
ヴィヴィアンが追い付いてきた。
「ヴィヴィアン、こいつを頼む。俺、ジョナサンを追いかけるわ」
ダニーは非常口があるのに気がついた。
だから階段でジョナサンとすれ違わなかったのだ。
非常階段を降りると、校門に向かってキャンパスを走って行く男子の後姿が見える。
遠目で分かりにくいが、ジョナサンと決め、ダニーは追いかけた。
校門まで走って行くと、外にFBIの車が停まっており、
サマンサとマーティンがジョナサンを取り押さえているところだった。
ダニーは思わず、膝に手をつき、荒い息を整えた。
「お疲れ様!」
サマンサに肩をポンと叩かれたが、まだ息苦しくて返事が出来ない。
ジョナサンはむっつりした顔で、車の後部座席に乗っている。
おそらくショック状態で感情がマヒしているのだろう。
「ダニー、レストランで調べてもらったら、それらしい人物がいたよ。
あそこの店、一見の客は予約が取れないみたいでさ、
定期的に不相応な若い男性と食事してるから、店の人も覚えてたんだ」
やっと話せるようになったダニーが尋ねた。
「もしかして、あれか?体狙いなのか?」
「ああ、未成年者との淫行で性犯罪者リストに載っている男だったよ」
「なんて奴や。だから偽名でジョナサンにアプローチしたんか?」
ヴィヴィアンが校門までやってきた。
「カイル、どないしてる?」
「今、大学の医務室で見てもらっているわ。脳震盪みたいだけど、一応病院に連れて行こうと思って」
「それじゃ、私も残ってヴィヴィアンと病院に付き添う。
ボーイスカウト2人は、ジョナサンをオフィスに送って」
サムに言われ、ダニーとマーティンは顔を見合わせたが、車に乗り込んだ。
ジョナサンが後部座席で泣いていた。
ダニーが尋ねた。
「お前さあ、何でカイルを殴ったりしたんや?」
「・・・あいつがお金の使い道をあれこれ尋ねるからついカッとなって・・・。
彼、大丈夫ですか?」
「これから病院で検査受けるわ。何、使って殴った?」
「ラテン語の辞書です。一番厚くて重いから・・・・」
マーティンは運転しながら、やれやれという顔をした。
「どうして、レストランで食事がしたかったの?」
「・・・僕たち、卒業するとそれぞれ教区に割り当てられて教会での修行が始まるんです。
牧師の制服を着てしまったら、もう高級レストランなんて贅沢は絶対にできません。
だから・・・その前に、一度だけでも味わいたかった。それだけなんです」
「何で、金曜日から姿隠した?」
「着ていく服を買うお金が足りないから、建設現場で働いてました。
それでも足りなくて・・・」
オフィスに着き、12階のMPUのオフィスにジョナサンを連れて行った。
両親が走り寄ってくる。
マーティンが自分の席に向かって歩き始めた時、ダニーが言った。
「まったく、俺が全速力で走った苦労も知らないで、お前が手柄をかっさらったよな。
スーツもシャツも汗でびしょびしょや。
この借りは、今晩の「ル・ベルナーディン」のディナーで帳消しにしたる」
「え?何で僕だけが?」
「ええやん、お前、その店知ってそうやったし、報告書上げたら、
性犯罪者野郎の予約席を使おうやないか」
マーティンは文句を言いながらも嬉しそうな表情になり、PCを立ち上げた。
あげ
保守
続きが読みたい人はいます?
どうぞ
読みたいですが、もうずいぶん前の話なので
読めないんでしょう。
保守
kuru
507 :
fusianasan:2011/07/11(月) 22:57:29.26
ダニ
508 :
fusianasan:2011/10/04(火) 00:05:34.64
あ
509 :
fusianasan:2011/10/04(火) 15:52:09.85
あ
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518 :
fusianasan:2012/01/25(水) 01:21:00.84
ダニー
519 :
fusianasan:2012/07/14(土) 02:21:13.94
ダニマ
このスレまだあったんだね
すごく嬉しい
こん^^
そういえば、変態校長みたいな人いたよね。
ハァアァニィードオォン…みたいな歌流れるやつ
ジャック萌えだろjk
野心的
創造力がある
自由を愛する
自己表現力
指導力がある
衝動的
優柔不断
支配的
感情表現に乏しい
反抗的
物質主義
理想主義
情緒不安定
こらえ性がない
怠惰
不実
才能
正直
率直
心が広い
疑い深い
自信が持てない
追従
神経質
情に動かされやすい
傷つきやすい
友好的
思いやり
復讐
茨の道
絶望
豆腐メンタル
暴言
奴隷
世界
不気味
精神
記憶
小悪魔
雰囲気
存在
既視感
忠義
宇宙
未知数
愛が憎しみに変わる瞬間
妖艶
魔性
深淵
ギャップ
仲良し
妖艶
破綻
結果
些細
願い
確信
なんでもあり
可能性
役得
同族嫌悪
完璧
リボン
表情
複雑
相棒
美しい
強気
魅力
対立関係
対立
焼肉
美徳
映画
画像
本筋
東京
コーヒー
不幸
教授
オーラ
高い
中華
特殊性癖
プレイ
俺得
予測
許せない
ハレンチ
例外
若年層
問題
情報
改革
基本
発展
転換
カメラ
ラスト
犯罪
ないない
展開
背中
信頼感
信号機
新情報
一番
趣味
音を聞く
寝息
ラップ
異様
チームワーク
BOX
一人暮ら
調合
短時間
矛盾
主張
不安定
ドM
孤独
正鵠
当然
会話して
巨大化
割愛
寂しい
言葉
地獄
新春
平和
うん知ってた
修羅場
不憫
惜しい
踏み台
代弁
正気
路線
筋肉
気のいい奴
大事
感度
短髪
未来を
王道
アイスクリーム
理由
庭
空気
純情
深夜
属性
色仕掛け
限定
ひとつの光
汎用
一人ぼっち
アクセス
ずっと一緒
補完
謎だらけ
惚れてしまう
勘違い
不遇
大盤振る舞い
チート
シーン
操作
放棄
感動
大将
豪快
不器用な子
穿った
ニュアンス
戦う理由
深層心理
横恋慕
頭字語
ツールチップ
処女
駄目な奴
光
会議
武器
この世の終わり
翼
詐欺
重火器
デスティニー
殺伐
設定
悪魔の娘
笑顔
禁断の果実
初心者
幸福
裏切り
初見
逸話
解釈
強引
調査
楽園
普通
解明
圧殺
最後の戦い
服
最初
不幸
予感
成立
塩
ツンデレ
気難しい
思考
平均
様式
衝撃
終焉
順位
仮想
セキュリティ
ジャストフィット
周辺
賛否両論
不思議
ルーレット
事事物物
都合
発言
疑問視
充分
宇宙
流行
勝利
はい
天使
華奢
念願
語り
小粒
無視
東京
発狂
写真
悪食
英語
名作
地味
史実
転生
ひと山
可愛い
脚本家
写真
スッキリ
対峙
神経
新宿
余り
爆発
初期
組織
因縁
勇者
渚
矢印
列車
懇願
無機物
大変
仕事
熱烈
普通
成功
大差ない
不満
命令
結構
物足りない
予感
位置
主役
尊大
明るい
美人
通常
投資
髪
曖昧
結果
恭順
虎視眈々
線路
ノリ
ロマネスク
最初
演出
静止
誕生
第二
ライブ
全身全霊
重鎮
関係
確定
宣言
同類
崩壊
ピザ
質感
空間
現実
状況
風呂
俺
夢中
鬱
海
未来
結論
群青
感性
天地
名前
最悪
滅
光
精神
疑問
逆転
会話
主役
主人公
天使
個別
泉
重要
高騰
爆破
楽勝
時間
機能
昼ドラ
修羅場
破滅
関係
デート
履歴
空間
恋
何度
進学
結論
感情
速報
微調整
権利
調整
無機質
完全
悪魔
挨拶
豪遊
耽美
連座
神話
星
闇
共犯者
候補
存在感
進化
戦争
豊富
衣装
職種
言葉
存在意義
大量
意識
握手
候補
宣言
恋人
後味
一悶着
追悼
通貨
ファッション
ご飯
修正
美貌
名前
文章
気楽
名作
一番
期限
大量
喧嘩
女性
実感
亜麻
虹
むらさき
半
潺
悟り
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