俺ら「きっと三橋来ない…一人きりのクリスマスイヴOh〜♪」
ベツレヘムの星とやらは二千年前のこの日限定で輝いていたのだろうか。
そんなわけはない。
博学なる東方の三博士は占星術によってメシアの誕生を察知すると
来るべき12月24日の何ヶ月も前に城屋敷を出発し、砂漠荒野森山岳を抜け長旅の末、
今日この日このときに厩の戸口に降り立ったのだ。
それほど運命を確実視したわけでもなく、わたしがその日ナザレン派の教会の玄関を何の気なくくぐったのもひとつ、
星の導きと呼べる趣もあっただろう。
一時的なものではあったがガソリンの価格高騰の余波によって、排気ガスの排出量が減少し
このところ、星のまばたきがじつに強烈になった。
生粋の芸術家肌、うまれたての子羊よりもビンカンな作家肌のわたしであれば
その美しき光のハーモニーに日夜誘惑されないわけにもいかないのだ。
まあ確かに、このような首都圏の星空など、我が愛する地元にくらべれば
やる気のない清掃員が取り残した塵にも劣るレベルである。
しかしそのマジックで塗りつぶした段ボールに画鋲を差したようにまばらな白い穴であっても、
地上の粗野なイルミネーションに比べればいくらマシか知れないというものだ。
ああいうのは頭の軽いバカ女が「いやぁーん、見てダーリィン!きれぇいぃ〜!」
「キレイだろ?みぃーんなキミの為に用意したんだよぉお〜〜!!」と同列のバカ男と冷やかすための余剰装置にすぎない。
バカップルというやつらはどうにも街の景観を汚す存在であるが、
文武両道の博覧強記で超絶美男子なわたしも今日ばかりは多勢に無勢というもので
まあ好き勝手にやるがよいさと口の中で呟くばかりである。
そうしてオリオン座というか北斗七星の尾の先に銀色の槍が輝いているのを見つけた。
鋭いその外観にはなんとも言えぬ殺気が宿っていた。
その迫力のおかげで、わたしはそのアイコンが示す第一義を理解するのに手間取ってしまった。
槍は教会の三角屋根に突き刺さっている頑強なクロスだった。