阿部「ほーもほーもほもサカリの子♪」

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785偽りの螺旋・泉の場合 ◆Kxeo/gKK7Y
>322 おやすみはし。
「なんだよー」
親方がブー垂れるのを俺がからかう。
きゃっきゃ、きゃっきゃと戯れるのは、見目麗しい愛玩人がやれば眼福だろうが、おっさん同士でやっても当人達以外、楽しい物ではない。
いや、俺はおっさんって年ではないけどさ。
泉はそんな俺らを放置して、自分が持ってきた土産の林檎を愛玩人にウサギ型に剥かせてシャクシャク食べる。
遺伝子操作していない路地物の果物は貴重品だ。親方もウサギ型の林檎に手を伸ばす。
俺もレンにウサギ型に剥かせたが、フォーク付きで渡された物は、どう見ても剥き残りの皮があるようにしか見えない。ガッカリだ。
普段の料理じゃ皮剥き器使ってたから、こんなに果物ナイフの使い方が下手だとは思わなかった。
まあ家庭料理に小手先の技術を望むのは酷ってものか。って、ルリはちゃんと出来てるじゃないか。
他の二人がどんどんキレイなウサギを食べていくので、量産されたウサギもどきはなんとなく俺の係になってしまった。
「ほら、あーん」
悔しいのでレンの口にも押し込む。その間、レンの手がお留守になって量産はストップしている。ナイスだ、俺。
シャクシャクと食べたレンは目を煌かせて、俺に向かって口を開けた。
一つ口の中に放り込む。
俺が1切れの半分も食べないうちにすぐに飲み込んで、また口を開ける。
「調子に乗んなよ」
と言いつつも、雛に餌をやる親鳥のような気持ちでまた一つ食べさせた。
俺が一切れ食べ終わる前に、レンが口を開けるのは3回目だ。
自分でやりだした事とは言え、「あ〜ん」はせいぜい2往復がせいぜいだろ、全く。ていうか、往復してねえ。
林檎があらかた無くなり、レンはフォークを回収する。
「お、おいしーね」
にっこりと笑ったレンに、泉を指差してやる。
「泉に感謝しろよ」
「泉さん、ありがとうございます!」
んー、口の中をモゴモゴと動かしながら、泉が手を挙げる。
そうこうしてる内に、机の上に徳利が並べられる。
隣に寄り添ったマリアがお酌してくれた。
普段ならこれから酒盛りの始まりだが、今日はこれから本題だから、気持ち程度のアルコールだ。
「ところでさあ、今日はどんなの、持ってきたんだ?」
話を振られて、泉は杯を開ける。親方も嬉しそうな顔で柿ピーを口に放り込んだ。
遺伝子組換え工房の労働者と言うのは世を忍ぶ仮の姿、泉には同人作家と言う裏の顔がある。