阿部「ほーもほーもほもサカリの子♪」

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49偽りの螺旋・泉の場合 ◆Kxeo/gKK7Y
今日は少し早めの店仕舞いだ。
「夕飯は土手鍋ですよ」
エプロンを付けるチヨの言葉に俺は不満を漏らす。
「牡蠣の旨い食べ方は一番が牡蠣フライで二番が牡蠣ご飯だよ」
俺の主張を今日の夕飯係ははいはい、と軽くいなす。
まあいっか。今日は客が来るから皆で突付ける鍋が良い。それも俺個人の客だ。
日も落ちて暗くなった表に、一条の光が走る。来たようだ。
慌てて立ち上がってドアを開けた。軽トラエアックから降りた男が首だけでこっちを見た。
中肉中背、ニキビが目立つ泉。俺と同い年の腐れ縁。
「よっ久し振り」
「やっ元気そうだな」
俺はすぐ近寄り、荷物を出すのを手伝う。
「まあまあだな」
「こ、こんにちはっ」
レンが俺の後ろからモジモジと挨拶をする。
「よう」
泉がニキビ痕の多い顔面をくしゃっとさせて笑った。
「相変わらずニキビが多いな。イイ年して」
「若いんだよ」
フンッと鼻を鳴らしながら、泉は車に鍵を掛けて店の中に入ってくる。

泉は遺伝子操作系の専門学校の最初の授業で隣の席になって以来の友達だ。
俺は市街の中心から少し離れた場所にあるこの店に勤め、泉は郊外の農業用地域で家畜関係の遺伝子操作の工房に勤めている。
車輪で走る自動車でも小一時間、エアカーなら20分足らずと言うご近所っぷりで同業者。
遺伝子操作系の組合のの研修やそういう施設では時々顔を合わせるし、同業と言っても系統が違う。
お互いの足りない物を適当にやり繰りしあうのに最適で縁が続いている。

「ほら土産」
「オーサンキューミスタイズーミ!」
「オウ、アイキャントスピークイングリッシュ」
泉の土産はあっちの工房で遺伝子操作した野菜や家畜の肉だ。これがまた旨い。
「夕飯さあ鍋って言ってたろ。白菜、今年の新作なんだぜ」