俺「うつだしのう」

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793偽りの螺旋・沖の場合 ◆Kxeo/gKK7Y
>448 明日は買出しに行くから来れないかもしれない。おやすみはし。
親方もそれだけ立派にセールストークが出来んだから、いつも店に出てくれたら良いのに、と俺は心の中だけで悪態を付く。
その間も、愛玩人達は自分のアピールを忘れない。
女の子の中に混じって、レンもしっかり頑張っている。って言うか、沖さんも男もいけるのか。

個室にも行かず、全員から一通りの洗礼を受けた沖さんが物憂げに溜め息を吐く。
「皆、可愛いなあ。俺には選べないよ、とっても」
「それでは」
親方が揉み手をする。
「愛玩人に対して、何かこれは外せないと言うポイントはございますか?」
言われて沖さんは、そうだなあと、顎に手を当て、しばし考え込む。
「俺は書道家だから、そういう面で手助けになると言うかそんな感じの子がいいんだ」
「お手伝いですか?事務的な事ですかね」
「あ、そう。勿論、家の事とか、マネージャー的な事もして欲しいんだけど。
えーっと、なんて言うか、書のイマジネーションを掻き立てる存在を期待してるんだ……けど?」
……まあ言うだけなら只だしな。
いや、家事や秘書の仕事は何の問題もないが、イマジネーションとかそういう感性はマスター自身の問題だろう。
笑顔は絶やさず無茶言うなよと思う。
親方も少しだけ困ったように首を傾げる。と。
「はいっ!」
いきなりレンが挙手をした。
「わっ!」
レンの大声に沖さんが胸に手を当ててビックリしている。肝の小さい人なのかな。
それを見て、いや見てなかったとしても客の前で騒がしくする物じゃない。俺はレンに注意する。
「ごめんなさいっ」
キョドキョドと俺の顔を見ながら、レンはぺこりと頭を下げる。
俺に謝るんじゃない、お客様に対して謝れ。後で注意しなければ。
と、渋面の俺には微妙に視線を合わせず、だがレンの瞳は素敵な思い付きで煌いている。
実際に役に立つ思い付きかどうかは別問題だが、訊いて見なければ話は始まらない。
俺は渋々、レンに話すよう促した。
「習字、すればいいと思う、思ぃますッ!」
はぁ?と、人間の男三人が揃って疑問の声を上げた。