俺「三橋にそっくりなエイリアンを見た!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
826スレタイ再現2つ目
宇宙を行く船の中、小さな新しい命を囲み、我々は歓喜した。
「ひとまず成功だ!実験体と同じ形で、欠陥もない」
「あとは成長後の繁殖能力の有無か…。まだわからない、だが大きな一歩だ」

我々の星の民は、地球の生命体の言い方にすれば無性生殖の「出芽」に近い方法で繁殖する。
時期が来ると親の体内で育まれた次の個体が自然に分離するため、分裂のように半分の大きさのものが2つできるわけではない。
親とそっくり同じ形の、サイズだけ小さな個体が新しい命となり、一定の大きさまで育つのだ。
繁殖の回数には限度がある。もう新しい個体を分離させられなくなった者は、しばらくして生涯を終える。
しかし今、我々の星では繁殖能力を持たない者の生まれる率が極端に高くなるという、原因不明の事態が起きている。
手をこまねいているうちに民の数はどんどん減ってゆき、深刻な滅亡の危機にあった。
そして我々は決心した。姿の似た他の星の生命体の力を借り、種を存続させることを。
今回は若いホモサピエンスという生命体に私達の細胞を密かに注入し、それを核として新しい個体を作る初めての実験だった。

* * * * * * *

「三橋にそっくりなエイリアンを見た!」
夜明けの少し前、俺は合宿中の野球部の部屋に乗り込んだ。自分のバレー部も、少し離れた場所で校内合宿している。
起床時間には多分まだ早いから、悪いなと思う気持ちもあった。でも、言わずにいられなかった。
意外なことに、寝てると思った野球部の奴らは、何故か全員起きて布団の上に座っていた。中央に三橋がいる。
「げ、バレー部の合宿、幻覚見るほどキツいんだ…」
絶対、そういう反応だと思った。わかってる、俺だって信じられず何度も顔洗って、何十分かウロウロするぐらい混乱した。
さっき目が覚めて外の空気を吸いに出た時、俺は確かに見たんだ。エイリアンというか、一番近い表現をするなら三橋の姿そのまんまの「小人」。
20〜30センチぐらいの小さい三橋が、空から伸びてきた光の線に引っ張られて消えた。ちなみに素っ裸で。
やっぱり俺がどれだけ事細かに説明しても、バカウケか苦笑いか、同情の目しかない。ただ、三橋だけはぼんやりしている。
「そんなことよりさ、オレらついさっき全員起きちゃって…三橋がヘンなんだよ」
俺の怪奇体験を「そんなこと」扱いして、水谷が三橋を指差した。他の奴らも三橋に視線を戻す。
三橋はキョトンとして、俺に目を合わせた。女みたいにペタンと座って首を傾げ、独特の高い声でしゃべる。
「俺くん・・・あなた疲れてるん だよ」
なんだこいつ、この雰囲気。女言葉…、女?いや、もっとこう、エロい感じ。しかも男ばっか詰め込まれてる部屋だってのに、三橋の方からなんかいい匂いがする。
野球部の奴らは、ほらな、と溜め息をついた。笑ってる奴はもういなかった。

* * * * * * *