稲III「足がない男の子がいたんですよー」

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791学校へ行こうか
※懐かしい番組が増えるほど年齢を感じて寂しくなったから書いた。エロなし鬱なし。

バラエティ番組の撮影が、西浦高校にやってきた。収録内容は、生徒が屋上から主張を叫ぶ人気コーナーだった。
あらかじめ出演者の3名が学校と番組スタッフによって選定されており、主張内容の概要も、もう決まっている。
部活動や生徒会活動のある生徒もこの日ばかりは校庭に群がり、2名の収録に笑ったり驚いたりしていた。
だが3人目の収録で、目玉でもある愛の告白に出番を予定されていた生徒が急に体調を崩し、病院へ運ばれてしまった。
告白はそれ自体が十分面白いため、脚本家がいじる必要もないだろうと、校庭の隅で一人の生徒が捕まった。
「ええっオレ!?す、好きな人なんか、い、いませ、…うぅ」
「ハイいるね、わー顔赤いね!ハイ確定。さぁ行こうか」
あまり気づかれないようにこっそりと引っ張られていく生徒を、ちょっと待ったぁ!と追いかける男子生徒がもう一人。
「コイツはダメです!告らせたらオレらの部が微妙な感じになるから、勘弁して下さい」
「えっ、そりゃ逆にいい機会じゃないか。スッキリしちゃおう!」
屋上までの道、途中までは揉めていたが、ふいにいきなりの代役に立てられた生徒が何かひらめいた表情をした。生徒二人がこそこそと打ち合わせる。
「泉、オレ思いついた。オレらの叫ぶことっていったら1個じゃんか。カットかもだけど、テレビで言ってやんよ」
「おぉ、そーか、そーだな。お前が思ったよりバカじゃなくてよかった、絶対篠岡に告んじゃねーぞ」
妙に落ち着いた表情で屋上に現れた水谷を見て、花井がその場に崩れ落ち、栄口がトイレに走った。

合図を受け、水谷が大きく息を吸う。泉はすっかり安心して、親孝行のために出演者Y6のサインをもらっていた。
しかし、水谷の第一声は「野球部」でも「甲子園」でもなかった。

「みっ、三橋!」

校庭と屋上のカメラスタッフが沸き立ち、ミハシという生徒をどこだどこだと追う。
「てめぇ何言ってんだ、三橋がどーしたよ!」
「うわ、だ、だって、三橋が人に押されてコケた、もろに右からコケたんだもん!」
「マジかよ…三橋っ、大丈夫かーー!」
地上では血相を変えて走り寄った阿部が、三橋を転ばせた生徒の群れを三橋ごと一喝した。
顧問の志賀が三橋の腕を診て最後に回させ、屋上に向かって手で大きく丸印を作る。
「ふわー、よかったぁ…。三橋ーー!オレ、お前に楽させるために頑張るからなぁーー!」
「う おっ!オ オレも、がん ばる!あっありが とう!水谷くん、いい人 だっ!」

一瞬の沈黙の後、校庭が揺れた。どこからかカーペンターズが流れてきた。Y6が走った。(終)