たゆたう
たゆたう
これは夢?
秋の晴れた日、ギシギシ荘を出た日
「廉、荷物積んじゃうまでその辺りで遊んでてね〜」
グローブとボールを持って駆け出す。
浜ちゃんに貰ったのだ。
先週、試合に出して貰った
嬉しかった
あんまり遠くに行っちゃダメよと言われた声を背中に受けて駆けた。
どこまで歩いたろう
今ならなんでも無い距離でも、8歳の自分には果てしなかった。
・
・
「お前、野球やるの?」
「うんっ」
久々のキャッチボール
キモチイイ
「明日も来いよな〜」
「う…うん」
この約束は守られない。
春休み
オレはギシギシ荘まで行った。
ギシギシ荘は無くなっていた。
自転車で駆ける、いつかの河川敷
時が戻ったように、二人でキャッチボールをした。
晴れた日が続いた春休み
毎日自転車で通って、
学校が始まる日に熱を出して1週間寝込んだ。
オレにとっての野球は
浜ちゃんとやった野球と
あの子とのキャッチボールだった。
ジリリリリリ カチッ
「ゆ…め…かぁ」
小さい頃の夢は久々に見る。
でも、あの春ずっとキャッチボールをした相手の顔が
どうしても思い出せない。