誰もいなくなった部室。ここに来るのも今日が最後。
めでたく西浦高校に受かったから、もうここに通わなくてもすむ。
転がり逃げていくこの部室に。
たいしてない荷物をまとめて足早に去ろうとすると、出入り口に人が立っていた。
「叶、君……?」
逆光で表情が見えないが、たぶん俺を見ている。でも何も言ってこない。居心地の悪さを感じた。
「三橋、ここでちんこしごけよ」
叶君はようやく声を出した。
なのにその意図が分からず、でもとにかくそんなことはできないのは確かなので混乱したままの頭をゆるく左右にふった。
「何言ってんの、三橋のくせに」
叶君は俺の目の前まで歩いてくると、俺の頭を掴んで上を向かせた。
怖かったけど叶君の方を見ると、叶君の顔がすぐ近くにあって、くっついた。
くっついた。
口がくっついている。
ようやく脳みそが動き出して、俺は叶君を引き剥がすように胸を強く押した。
「ん、むうー!」
離れない。
それどころか俺が腕に力を入れるほどに強く顔を押し付けられる。
口づけをしているというよりただ頭を押し付け合っているだけのようで、唇がひっくり返ってくっついて痛い。
頭が離れると、俺は袖で口を何度もぬぐった。
口に気を取られていたら、視界が回転した。
後ろにあったベンチに乗り上げ、天井がコンニチワと視界に現れる。
ズボンからシャツが抜き取られて、そこから手が入ってくる。
慌てて叶君の腕を掴んでも時すでに遅く、上半身を荒い手つきで触られた。
「い、やだっ、何するんだっ」
抵抗しても力以上に気迫で負けてしまい、ベルトをはずされズボンとパンツを抜き取られた。
今度は突然立たされたと思ったら押し離され、上は乱れたシャツ、下は裸で部室の奥へ押しやられた。
部室の奥には窓があり、南向きのため今の時間は微弱な光が照らしている。
弱い光の中を場違いに埃が舞う。
「しごけよ、三橋」
「な、なん、で、叶君」
しみついたいじめられる経験。でも叶君は声かけたりしてくれたのに。
やっぱり、俺のこと嫌いだったのか…?
当たり前だ。
頭は整理されたのに、体は動かない。裾を強く握りしめたまま俯いてしまう。
怖い。
叶君の足音が近づいてきて俺の右手をとりあげ、体を隠すには頼りないシャツの上から股に押し付けてきた。
それでも動けない。動かない。これは悪い夢であれと眠っているかもしれない自分にがむしゃらに念じる。
そんなことありもしないのに。
三橋は分かっていない。どうして俺がお前に同じチームで張り合っていてほしかったか、の理由。
競い合いたい。それだけじゃない。けど、もうどうでもいい。
だって三橋いなくなっちゃうんだもんな。この淡い気持ちは成就されることはない。
どうせ埼玉行って生活していくうちに俺のことなんて「そういうチームメイトがいた」で終わるものになるんだ。
なら最後に俺のわがまま全部ぶつけてやる。
いやもやめても聞き入れてやらねー。お前は俺を置いて行くんだ。
それくらいの代償は払えよ、俺に。