阿部「ふんばれ三橋!」

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344fusianasan
具現化する三橋

「た だい まー」
「おう、おかえり。晩飯チャーハンな」
チャーハンを炒める手を止めずにバイトから帰ってきた三橋に返事する
ジャストタイミングだ。飯は出来たてが旨いもんな。
「阿部 くん、玄関が 靴だらけ だ」
狭い玄関は俺のスニーカー三足とサンダルで既に満員御礼状態、三橋は俺の靴を踏まないように
不自然なキメポーズみたいな格好で足を開きスニーカーとサンダルの隙間に足を滑り込ませている。
貧乏アパートには下駄箱が無い。あー、靴の収納どうすっかなー。とりあえずのダンボールも三橋の靴で満杯だ。
明日にでもホームセンターで収納箱買って来なきゃ駄目だな。
「わりー、ちょっと片付けといてくれ」
「このまま で、 い い よー」
三橋は自分の靴をダンボールに放り込んで、玄関を埋め尽くしている俺の靴を揃えると
フムーとご満悦な表情で眺めている。なんだそれ、お前は下足番か。
「ハァ? 邪魔くせぇだろ?いいからダンボールに放り込んどけよ」
「だっ て、阿部くんの靴 が たくさん、あると 阿部くんがたくさんいる みたいで 嬉しいん だ」

玄関に並んだ4足の俺の靴。フヒッと笑う嬉しそうな三橋。
つまり俺が四人だと嬉しいのか。三橋は相変わらず欲張りだ。

あ、これは、やべぇ。

ぬるん、と俺の後頭部から分裂が始まる。脱皮するサナギの背中が割れて中身が出るみたいに、
細胞が分裂増殖するみたいに、俺から俺が分裂する。痛みや不快感も無く何かに引っ張り出されるみたいに
俺から俺が出る。しかしこのトンデモな出来事に俺の言葉が出ない。
後ろ向きに俺から出てきた右足が俺から分裂し終わると俺は一瞬よろけて俺の肩につかまって
体勢を立て直し左足を俺から引き抜くようにして離れていく。離れる瞬間ぷるんとお互いに弾かれるような
反動がして俺と俺は完全分離した。ふう。と一息ついてから俺と顔を見合わせてしかめっ面になる俺。
なんだその面、眉間の皺にメモ用紙でも挟めそうじゃねぇか。俺だって嫌だよ、っつーか、
また俺の後ろ頭から俺が分裂し始めてるんですけど!!三橋!!どーすんだよ、つか、俺をどうする気だ!