俺A「おはよう、三橋たんの…」

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90追悼
死にネタ、欝、エロ無し注意
保管なし


三橋が死んだ
知らせを受けたのはバイトから帰ってきてすぐ
高校を卒業し西浦の奴らは別々の道を歩んでいた
オレと三橋もそれは同じで
バッテリーを組んでいたが連絡は数える程しかしてなかった
三橋は何年か前から欝を患っていた
オレは何も力になれないと思った
だってあいつオレの機嫌ばっか伺うんだもん
欝のくせに人に気なんか遣うなよな
なので三橋の調子はいつも人づてで耳にしていた
田島や泉からがほとんど
あいつらは三年間同じクラスだったのもあってか仲がいい
悔しいがそれは認める
三橋は世界と一つになりたいといつも呟いていたそうだ
自分の生まれた世界と一つになりたい
何でそう思うのか
そもそも何で欝になったのか
オレには分からない
そんなもん誰にも分からない
結局オレらは三橋の回復を待つしか出来なくて
非力な自分を嘆いた
91追悼:2008/10/09(木) 11:15:52
>>90
話は冒頭に戻る
市内の大学に進学したオレは一人暮らしをしていた
生活費を稼ぐ為にはバイトをしなければならない
講義を受け深夜までバイトってのがほぼ日課だった
そんな中一つの着信
田島からだった
嫌な予感がした
着信履歴から電話をかける
田島の沈んだ声
そして予感の的中
三橋は
帰らぬ人となった

信じなかった
信じられなかった
知らせを受けても涙すら出ない
ただ茫然といつ亡くなったかや通夜葬式の日取りと時間だけを聞いた
頭が真っ白になるってのはこういうことか
その夜は目を瞑ることも部屋の電気を消すことも出来なかった
92fusianasan:2008/10/09(木) 11:16:52
>>91
翌日群馬で三橋の通夜が厳かに執り行われた
立て掛けた板に三橋の名前
坊さんの座った前には棺
その上段にはぶさいくに笑った三橋の遺影
これは夢でも冗談でもなく現実なんだと思った
沢山の奴が通夜に参列した
皆泣いていた
オレはまだ一度も涙を流していない
あんだけ一緒にいたのに
何て冷たい奴なんだとどこか客観的に自分を見つめていた

焼香も済みぞろぞろと集まった奴が席を外す
同窓会みたいだな
まさかこんな形で会うなんてな
三橋何で死んだんだろう
原因は誰も知らないって
そんな雑談を遠くで聞きながらオレはただ空を見ていた
澄んだ空だった
暫くして三橋のおばさんが奥から出てきた
最後に三橋の顔を見てやってくれないかって言いに
勿論そこに居た奴らは全員顔を見ようと再び列になる
ぼーっと欠けた月を見ながら列が消化されるのを待った
中から出てきた奴はこれでもかってくらい泣きながら出てきた
93追悼:2008/10/09(木) 11:17:44
>>92
集まった奴らが帰る頃オレも三橋の顔を見に中に入った
三橋のおばさんに来てくれてありがとうと言われた
心臓が
出そうだ
棺に入った三橋の顔を覗く

「――――――――――っ」
そこにいるのは紛れもなく三橋で
ただそこに眠っているだけにしか見えないのに
もう目を覚ますことはないんだと知ってしまったら
涙が溢れた
声もなくただボロボロと年甲斐もなく泣いた
何で皆を置いて死んだんだよこのアホって
罵ってやろうと思ったのに
三橋の顔を見たらありがとうとしか頭に浮かばなかった
ありがとう
ありがとう
ありがとう
今までありがとう
本当にありがとう
オレと出会ってくれてありがとう
オレはお前が好きだよ
ずっと好きだから
ありがとう
ありがとう
口には出さなかったけど伝わればいいと思った
94追悼:2008/10/09(木) 11:19:09
>>93
ひとしきり泣いて帰ろうとした時おばさんから古いノートを渡された
三橋の字で日記帳と書かれていた
阿部君には読む権利は有ると思うのでも読めとは言わないから
おばさんはそう言った
軽く頭を下げてノートを受け取る
通夜会場から出て備え付けの長椅子に腰を落とす
預かったノートをぱらぱらと捲る

今日も世界がキレイで嬉しい
色んな色が満ちている
こんな世界に生まれれて幸せだ
澄んだ空が優しい
オレも世界と一つになれれば優しくなれるだろうか
オレというちっぽけな存在
世界という存在に変われたら
生まれてきた意味を持てるのかな
オレはみんなが好きだ
守りたい

そんなことがずらずらと汚い字で羅列していた
三橋は
自分でこの道を辿ったんだ
ならオレがどうこう思う必要は
ない
ノートをおばさんに返して帰宅する
月と星の光が優しく感じた
95追悼:2008/10/09(木) 11:20:42
>>94
また翌日
三橋の葬式
葬式は身内だけで行われるみたいでオレはアパートでぼーっとしていた
今頃三橋の遺体は燃やされ灰になったんだろうか

春の香が漂う今日―五月十七日
三橋は世界となって生まれた

おめでとう三橋


おわり