http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1221566283/684 /沖
夜中の12時を過ぎた頃、やっと三橋にかけた携帯からアナウンスじゃなくて呼び出し音が聞こえた。
車がどこへ行ったか知らないオレは家に帰るしかなかったけど、それから今まで何度も繋がらない電話をかけて、自分がストーカーのような気分になった。
「遅くにごめん、三橋、今どこ?大丈夫?」
大丈夫か聞くのはもしかするとあの男に失礼かもしれない。だって三橋は自分で車に乗ったんだ。
でもオレはいやだ。三橋にあんな風に抱きついていいのは、決勝戦に勝った時のオレらやあいつの親だけだと思う。
サヨナラじゃなくて抑えて勝った時だと阿部や田島には負けそうだけど…一塁だってピッチャーに近いからオレも外野の奴らよりは先!
「ごめん、寝てた?」
「ごめ ね、電話…おき、くん…出れ なかった」
「いっ、いーよ!寝てたんなら全然いいんだ。ごめん、また…」
「あ、…」
三橋が何か言いかけたところで、急に電話が切れた。寝ぼけて切るボタンを押したのかもしれない。
とりあえず話せたことで、少しだけ安心した。電話に出て話せる状態だってことだ。
顔を見たわけでもないのに、あの男から学校の先生やそこらのサラリーマンとは違う雰囲気を感じて、オレは不安になり過ぎてたのかな。
オレは三橋のことをなんにも知らないんだと思った。
そういえば親が駆け落ちしたって聞いたことがある。それに中学の時は親と離れて住んでたんだっけ。
離婚で一緒に住めなくなった方の親に隠れて会うみたいに、おばさんに嘘つかなきゃ会えない親戚…もしかして産みの親が別にいたりとか、そんなんだったら見なかったことにしなきゃ。
家庭の事情なんて人それぞれなんだ。母ちゃんのいない栄口なんか、何にも言わないけどアイツ、どんだけ大変なんだろ。
ご飯や洗濯した服が当たり前に出てこない状況を想像して栄口を尊敬してたら、メールが来た。
「三橋?うわ、やっぱり起こしちゃったか」
申し訳なくなりながら携帯を開く。
件名も本文もなかった。そのメールには、ただ画像だけが添付されていた。
「なに、これ…」
足を曲げて座っている人物が、前から自分の股に手を伸ばしている。
下を向いてたってわかる。写ってるのは三橋で、持ってるのはエロいおもちゃで、それで…三橋はほとんど裸だった。
頭が真っ白になった。
無意識に三橋にかけた電話は、もう通じなかった。
オレは家を飛び出した。
>>414 /三橋
沖君との電話は、途中で切られてしまった。また取り上げられた携帯にオレが手を伸ばすたび、おじさんはオレの顔を足で突いて倒した。
転んでもベッドだからそんなに痛くない。でも悔しい。
オレの体はまだおかしかった。力が出ないし動きはのろのろして、おじさんのつま先を避けることもできない。
「よし、完了」
携帯を顔の前に突き出された。やっと返してもらえる、オレは画面を見た。送信しました、そう書いてあった。
「さて、誰に何を送ったでしょーか」
クイズ番組みたいにおじさんが言う。心臓が止まったような気がした。
送信済みフォルダを見せられたオレは暴れて、ベッドに乗ってたものを全部投げた。
「あはは、もうしないって。ホラ電源切った!」
おじさんは小さい頃見たアニメの悪魔みたいに笑った。
「廉君のそういう顔、大好きだよ。もっと絶望の顔しろ」
オレは体がぐったりして、ぜつぼう、という言葉がどんな意味だったか思い出せなかった。
「そろそろ行くね。その前にいいこと教えてあげる」
おじさんはオレのあごを持って、耳に近いところでよく聞こえるように言った。
「偶然はひとつだけ。テレビで廉君を見て会いたくなったんだ、野球賭博なんて嘘だよ。秋の、しかも県大会で、そんなのしないから」
「…う、そ?」
「そう、誰も怪我なんかしない。廉君は何でも信じてかわいいね、バカだね」
うりうりとあごを回された。バカでも何でもいい、みんな、秋大で勝てるんだ!オレは安心して、ちょっと元気になった。
「でもさ、こんな写真バラ撒かれちゃったら、今回の試合出場辞退どころじゃないかもね。ほんとバカだなぁ!」
「ぁ、…あ」
「また連絡するからおいで。こんなやらしい選手がいるなんて高野連にバラされたいなら、別にいいけど」
「や、めて!おねがい、け 消してよぉお!」
「じゃあね。沖君だっけ、あんなの見せられちゃったお友達にもよろしく」
パタンとドアが閉まる。お札が2枚、床に落ちていた。
オレは急に気持ち悪くなって、そばにあった灰皿の中に吐いた。
「沖、く…」
電源を切られてしまった携帯を探した。目が全然見えなかった。