**おやすみはし**
レンと連れ立って駅からテクテク歩いて行くと、正門が見えてくる。
俺はエコバッグ、レンは台車を背負うといった格好だ。
周りには俺達と同じ目的地に向かう人の群れ。今日は郊外にある崎玉農業専門学校の文化祭だ。
毎年行われるこのイベントでは肉や野菜と言った農作物や収穫物を使用しての醤油や味噌、酒等の発酵食品が格安で販売される。
安全でなおかつ旨い。それを狙って、俺とレンはここに来ている。
女の子達も来たがったが、連休時はお客が来る事も多いので、籤引きで買ったレン一人がお供だ。
門前には開場を今かと待ち構える敵が無数に集っている。
俺は何度も確認した会場後の予定を再度、レンに繰り返す。
「レン、まずは味噌だ。種類は何でも良い。頑張れ!」
「う、うん」
「11時になったら広場の牛の銅像の前に集合だぞ」
小銭入れとお使いメモを書き込んだ学内地図を握り締め、返事だけは良いレンに、俺は頼りないなあ、と不安がりながら、校舎の壁の時計を確認した。そろそろだ。
秒針が3回転する前に、学生達が門の内側に集まる。あちこち様子を見ながら、時間を見計らっている。
「それではー崎玉収穫祭、始まりまーす!」
掛け声と共に門が開かれていく。周りの人間が突撃を開始する。
「うおおおおおおおお!!!」
俺もレンを放って駆け出した。
目的の物は大体、手に入れられた。ホクホクとしながら俺は獲物を入れたバッグを振り回す。
今の俺ならフラメンコのステップだって軽やかに踏める筈!ってな位浮かれてた。レンだってきっと、色々手に入れられただろう。
これからしばらくの素敵な食卓を思い浮かべて俺はニタニタ笑っていた。
試飲した濁酒のせいもあったかもしれない。うん、まあ、全種類試飲しちゃったしね。
待ち合わせの銅像の前にレンはいた。挙動不審だったのですぐ判った。
「よう、レン!」
「う、あ、す、すずきっ!」
いきなり逃げ出そうとするレンの首根っこを掴む。
「どうしたんだーあ〜ん?」
ケフッと酒臭いゲップが出た。じたばたと暴れるレンを抱き締める。
「ご、ごめ、ごめなさっいっ」
半泣きで差し出された袋の中を覗くと、レンの成果はしょぼかった。でもまあギリギリ及第点か。
「うーん、まーうーん。他の人らも頑張ってたし、今日は、仕方ないか。じゃあまあこれから一緒に屋台を見て回ろう」