ナース「お注射はいりまーす」

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171はじおつ
一周年おめでとう俺!書き上げたよ!
※子三橋には優しくしたい派の俺向け

http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1211019898/

***

おつかい券を受け取ったおばさんはとても喜んだが、もちろん今まで通り使わずに大事にしまっておくつもりだった。
納得できないのは三橋だ。
決意の印に爪まで食い込ませた気合十分のおつかい券。
「つかって」
誕生日の朝、要するに今朝だが、三橋は朝食のトーストもハムエッグも無視してそう切り出したらしい。
「オレ、プレゼント、いい。ごちそうも、いい。」
妙なところで頑固一徹な三橋は、べそをかきながらおばさんに迫った。
――だから、お母さん。おつかい券、使って。

後は端折る。
三橋のガンコさにおばさんは折れて、夕飯用の鶏肉を頼んだ。
お使い先は近所の精肉店だがそれでも一人きりで行かせるのは心配らしい。
何より三橋は一人で買い物に行った経験がない。
「過保護かなあとも思うんだけど。まあホラ、いざとなったらバレてもいいから」
そうおじさんにまで頼まれて、俺は三橋の後を物陰からつけまわすという
半歩間違えれば人生墨色まっしぐらの役目を押し付けられた。

幸い精肉店までの道筋は通学路とほとんど重なっている。
三橋がひょこひょこと茶色い頭を揺らしながら、道順だけは間違えず進んでいく。
いつもの鼻歌がないってことは、それでも緊張してるんだろう。
赤信号で道を渡りかけて通りすがりのおばちゃんに止められたり、
縁側の網戸の内側でギャンギャン吠えるマルチーズにうひゃあと悲鳴を上げたりしながらも、なんとか精肉店の三軒隣までたどり着いた。
たかだか五分の道のりがちょっとした大冒険だ。
172はじおつ:2008/09/06(土) 23:02:02
>>171

……正直、この時点で俺はもう疲れ果ててた。
いつも通り一緒に歩くほうがマシだ。
後ろから距離とりながら歩いてると、三橋の歩き方はとても心臓に悪い。
前を見ろ。ビビりすぎだ。もっと道の端歩け。
心の中で叫びまくっていたら、何故か喉が渇いた。
肉買うとこまで見届けたら、偶然装って手つないで家まで送ろう。
ふう、とため息をついた瞬間三橋が急に振り向いた。
慌てて電柱の陰に身を隠す。
慎重に様子を伺うと、布製の手提げ袋からメモと財布を取り出して確認している姿が見えた。

「とり、ももにく、を、三本。お金、も、は いって、る」
何度も口に出して繰り返し、突然こぜに!と短く叫んで財布の小銭入れの部分を勢いよく開いた。
指を突っ込み硬貨の種類別に枚数をカウントしていく。
一円玉が四枚に五円玉と五百円玉が一枚、十円玉と百円玉も四枚ずつだ。
妙にすっきりとした配分で、おばさんはここまで見透かしてたのかな、
とふと頭をよぎると想像の中でおばさんがあの独特の照れ笑いをした。
小学生の子供がいるにしてはちょっと歳若いおばさんの笑顔は、三橋のそれとよく似ている。
親子だから当たり前なんだけど。

小銭の数まで調べてやっと納得いったのか、メモと財布を袋の奥に押し込み三橋は肉屋の店先に立った。
昔ながらの、カウンター式の店舗だ。
ガラスケースを様々な肉の塊が飾り、カウンターには電子秤と茶色い皮製のカルトンが置かれている。
店の奥にステンレス製のミンサーとスライサーも見えた。