BUストス様「キモティーーーー(ホームラン)!!」

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299fusianasan
舗装のされていない道は車道であっても革靴では歩きにくく、阿部はなぜ車をふもとに停めて歩こうという
気になったのか、自分の気まぐれに舌打ちをした。
「ったく、マジで運動不足だな」
学生時代は野球部のキャッチャーとして、毎日かなりの運動量をこなしていたが、サラリーマンとなった今では、
時折り社内の物好きが集まる草野球の試合に駆り出されるくらいだ。
軽く弾む息を整え、額ににじんだ汗をぬぐいながら空を見上げる。
木々の緑が車道を覆うように伸びているせいか、太陽は遠かった。
「空気が、濃いな」
都会と違い、深い森の中の空気はまるで咽るように胸をふさぐ。
ネクタイのノットに指を突っ込み、乱暴に引き下げて襟元をくつろげた。
「行く、か・・・三橋が、待ってる」
そう呟いて数歩進み、フト立ち止まる。
「三橋・・・?・・・オレは、三橋に逢いに来た、のか・・・?」

日々の生活では縁のないこの深山に、自分はいったい何をしに来たのか。
あたりを見回す視線は、濃い緑に酔ったかのようにかすみ、阿部は2〜3度大きく頭を振った。

「何、言ってんだ・・・当たり前、じゃないか」

彼が向かう先にあるのは、三橋家が所有している別荘。
もっとも、今は体を壊した三橋の療養先として使われているため、他の親せきなどが訪れることはない。
三橋のための家に、三橋がいるのは当然だ。

この山道の先に待つのは、三橋だけ・・・