阿部「三橋、湿布貼ってやる」

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79fusianasan
>>63

こげ茶色のまるいドーナツ。
へその部分からぎゅうぎゅうにあんを詰める。
作業台にはあんを詰め終わったドーナツを置く場所がないから、出来上がった端から
ころころりん、と転がり床に落ちていく。
ぽすん、ぽす、ぽす、ころん。
白砂糖を床に撒き散らしながら、できたてのあんドーナツは床にぽかりと開いた穴に吸い込まれてゆく。
面白いように同じコースをたどり、同じように跳ね、同じように落ちていく。
完成品はゼロで、つまり俺の報酬もゼロ。

それでもまあいいかと思えるのは、ドーナツが落ちるたびに床下から聞こえる歓声が
どこか三橋の声に似ているから……だろう。
最後のドーナツにあんを詰め、穴まで転がしてやると、吸い込まれずにぴたりと止まった。
穴の縁から小さな手がわらわらと覗き、続いて手の平サイズの三橋がえっちらおっちら這い出してきた。
『これは、俺さんの分 だ、よー』
奇妙にハモったちび三橋の声は、どもりの箇所だけきれいに揃っていて、
俺は礼を言うのも忘れてしばし腹を抱えて笑った。

こんな報酬もたまにはいい。