栄口「三橋は三星時代、空気の様に扱われてたのか」

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944fusianasan
※コピペネタ、鬱注意

「おい、まだかよ?」
オレは、妻の背中に向かって言った。どうしてこいつは何時になっても支度に時間がかかるんだ?
そういう性格だけは本当、昔から変わらない。
「も、もうすぐ済む よ。そんなに急がないでっ」
それだけで妻は半ベソだが、せっかちは俺の性分だから仕方がない。 今年も残りわずか、世間は慌しさに包まれていた。
見慣れた背広のポケットからタバコを取り出し、100円ライターで火をつける。
「い、いきなりで お義父さんとお義母さんビックリ、しない かな?」
学生の頃と比べて、この喋り方にも大分慣れた。
「そんなの、さすがに子供じゃねえんだし」 オレは吸って吐いた白い煙をを眺めながら言った。
「お待たせ、いい よ。…あれ?」 「ん、どうした?」
「阿部くん、ここ、ここ」妻がオレの首元を指差すので、触ってみた。
「あー、忘れてた」
「せっかち なのにそそっかしい よね。あ、こっち向いて」笑いながら、妻が軽く小言を言う。
「そういうとこ、昔から変わらない ね」
同じことを考えたのかと思うと、何だか嬉しくなる。ふと、妻の瞳が揺れた。

「阿部くん、好きだ」妻はオレの首周りを整えながら、独り言のように呟いた。
「何だよ。いきなり」
「い、いいでしょ、夫婦なんだ から」
それきり下を向いたままだったが、照れているようで妻の耳は赤い。
「そうか。…俺もお前が好きだよ」
そういえばこんなにはっきり言ったのは何年ぶりだろう。
少し気恥ずかしかったが、気分は悪くない。オレは妻の手を握った。
うっすらとタコの残る、懐かしい投手の手のひら。
「じゃ、行くか」「うんっ」



オレは、足下の台を蹴った。