カコイイ職人「俺、叩かれてるが一番気持ちいいんだ」
朝起きると爪の間に皮と乾いた血が詰まっててびっくりした。
だけどオレの見える範囲には痕が無い。
どうしよう、夜中に寝ぼけて誰か傷つけちゃってるとしたらいやだな。
そう思いながら洗面所で洗い流す。綺麗になった。大丈夫。
次の日も、その次の日も朝起きると皮と乾いた血が詰まってた。
妙に背中がひりひりする。夜中に壁にでもぶつけたのかな?
爪に詰まるようになって一週間位したころだったと思う。
部室で着替えてたら、修ちゃん・・・叶君がオレの背中に飛びついてなにか叫んだ。
直後、クラっとした。そういえば最近、ヒンケツ気味?っていうのかな。妙にくらくらしてたな。
その日はおばさんに迎えに来てもらって、練習を休んで帰った。
家に帰って背中を見せたらルリやリューもものすごく驚いていたのを覚えている。
ご飯の前におじいちゃんの知り合い?のお医者が来ていろいろ質問された。
難しいことを言ってたからよくわからなかった。
ただ、おばさんが泣きながら電話してたのは覚えている。
その日から、夜寝る前に手袋をすることになった。
爪の間に皮と血が詰まることはなくなったけど、しばらく背中が痛いのは治らなかった。
いつの間にか手袋の指先がほつれて、また皮と血が出た。
気にしないで放っておいたら、手袋がいつの間にか指先だけ真っ赤になってた。
ある日、リューがそれに気がついて大声で泣いた。
気がつくとベッドの上だった。
なにか思い出していたような気がするけど、思い出せない。
見渡すと花井君と阿部君と田島君と泉君がいた。
花井君がオレを見て慌てて出て行く。
阿部君と泉君がほっとしたような顔をしていたけど、田島君はほっとしたのかそうでないのか不思議な顔をしてた。
いつもの田島君じゃなくて、心配で、手を伸ばそうとして右手が動かなかった。
すぐに他の野球部のみんなもその部屋に入ってきた。
だけど、右手は動かなかった。うごかなかった。