カコイイ職人「俺、叩かれてるが一番気持ちいいんだ」
蝉の声が幾重にも折り重なって部屋に響く。
俺と泉君はぼんやりと床に沈んでいる。俺達はナメクジのように涼しい場所を求めて床をはいず
った。
「…プールに行こうか、明日。」
泉君がいつもと違った覇気のない声を出した。俺は声を出そうと思ったが喉が渇ききっていたの
で頷くだけに留めた。
視線を合わせる。こっそりと笑いあった。
机の上には放置されたままの数学の宿題。上手く引けなかった平行線の上には雑に修正液がぶち
まけられている。麦茶の入ったコップが汗をかいてノートの端をふやかしている。
ノートは執拗に消しゴムを何度も掛けられてぐちゃぐちゃになっている。
俺はまったく手が付けられていない宿題に意識を向けようと思ったけれど、体に熱がこもった感
じがしてどうにもやる気が出そうになかった。明日やればいいや、あ、明日はプールだったっけ
。
「泉、君。明日も、プールのあと、教えてくれる?」
泉君は相変わらずけだるげにああ、とだけ答えた。
茹だるような暑い部屋の中、塩素の香りがしたような気がした。