叶「レン、お熱計ろうな〜」

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437玄関
叶が学校を休んだ。風邪らしい。クラスのと部活の伝令を頼まれたオレは放課後、叶の家に向かった。
インターフォンを鳴らすと少し掠れたような鼻声の叶の声で返答があり家の扉が開錠された。

「はいれよ」
「おー…、ウェッ…!」
「うぅっ、ヒグッ」

玄関に足を踏み入れて驚いた。叶が玄関先にパジャマ姿で立っている。これは別におかしくない。
中々あがろうとしないオレに叶は首を傾げ「あ、スリッパ出してなかったか。案外こまけーな、畠」などとポンと拳を手の平で打ち、廊下の傍らに置いてあるスリッパラックからスリッパを取り出した。無造作に足元に投げる。
足元にあるものがどう考えてもおかしい。
全裸の三橋が虎の毛皮よろしく両腕と両足を大きく広げてうつ伏せで床に転がっているのだった。
その上に平然と叶が立っている。生身の三橋の上は不安定そうで叶の身体が時折左右に傾いでいる。
叶の足元で泣き顔の三橋が「ヒグッ、ヒグッ…」と止めどなく嗚咽を漏らしている。

なんだ、どういうことなんだ。もしかして体幹を鍛えるトレーニングか何かなのだろうか。それにしたってこれはないだろう。

「それ、叶、足元のそれ」
「玄関マットがどうかしたか」
「げ、玄関マットじゃなくてそれ三橋じゃないのか」
「ハハハハッ、玄関マットが三橋のわけあるかよ! 変な畠!」
「…三橋だろ」
「シュゥ、ちゃん、も オレ…し、」
「ウワッ、玄関マットから汁がでてきたぞ! きったねー」
三橋の下から黄色い液体が垂れてきた。どうやら小便を漏らしたらしい。
「ごめ、ごめ なさい」
「洗濯機で洗えっかなー」
「とりあえず拭いとけばだいじょーぶだろ! オレやるから。叶は具合わりぃんだろ、寝てろって」
洗濯機の中でボキボキ骨が砕かれる三橋を想像したら寒気がした。で、全然ガラじゃないのに口を出していた。急いでスポーツバッグから汗拭き用のタオルを取り出し、玄関を拭いた。
「そうかーわりぃなー」
叶がニコッと猫みたいに目を細める。叶の笑顔はいつもとまるで変わらない、そこだけ日常に戻ったようでそれなのに足元の三橋の凄い様と全然違って、そのギャップが恐ろしくてしょうがなかった。

<おわります!>