三橋「阿部くんの ばかあ!」

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59花瓶
投下の波にのっちゃお!ビクンビクン
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今日の花係は叶だ。「とっておきの花瓶を持ってくる」叶は意気揚揚と随分前から張り切っていた。クールそうでいて時折激昂するパッションあふるる叶だが、そのテンションのあがりっぷりはただごとじゃなかった。
それに、叶の家は金持ちなのでさぞや素敵な花瓶を持ってくるのだろう。
オレは別に花器にも花にも詳しくないんだけど、当日を楽しみに待っていた。

そんなわけでいつもよりも早く学校に着いた。今日は朝練もないので多分オレが一番乗りだろう。

教室に到着すると既に登校してきたらしい人影が教室の扉の窓に映っているのが見えた。
はえぇなーと思いながら「おはよー」扉を開ける。
あまりの光景にたまがって持っていたスポーツバッグを落とした。

教卓の上に全裸の三橋が乗っている。大また開きで後ろ手にされ赤いロープでぐるぐるに固定されていた。驚くのはそればかりではない。三橋の肛門らしき箇所に何輪か花が刺さっている。
三橋の目と口はガムテープで覆われてその上を涙と鼻水らしい液体が流れていてどろどろに濡れている。
もしかして死んでいるのか!と心臓がびくりとはねるものの、三橋の頬は赤く生気に満ちて、必死で気道確保を試みているのかヒューヒューズビズビと鼻の穴から息が漏れて時折鼻ちょうちんができている。
こんなに犯罪チックなのに何だか間抜けで、力が抜ける。
その前に叶が立っていて思案顔で花を何輪か手にしていた。良く見ると教卓の上に紙を解いたらしい花が散らばっている。

「おー畠、おはようさん」
「おはっ、えっ、なに」
叶はオレを振り返りもせず挨拶を返すと、カメラのファインダーを覗くような感じで親指と人差し指をL字型にして、「難しいな…」などと呟いている。
「オイ! 叶! お前!」
「オレはさ、あえてのアシンメトリーもおもしろいと思ったんだけど素人がやるとまとまらないんだよな」
「だから…何やってんだよ!」
「どこ差したらいいと思う? 手伝ってくれよ」
「ンーッ フ、フグッ」
叶に花を渡された。三橋が苦しそうに首を振っている。オレは三橋のことなんか大嫌いで顔を見るだけでむかついて、どんな目にあおうがざまあみろ、としか思わない。だけど、いくらなんでもこれはないだろうと思った。
というよりもいつもは率先して三橋をかばう叶がこんなことをしているのが信じられなかった。
きっと、何かわけがあるはずだ。何か。

そういえば”とっておきの花瓶”を持ってくるといっていたのに、どうしたんだ。