三橋「阿部くんの ばかあ!」

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249アンノウン ◆ZnBdLz/hEE
前回あらすじ:廃工場に閉じ込められてしまった三橋、阿部、栄口、水谷、西広。田島の誤算の
せいで毒ガスによって全員記憶をなくしてしまう。そこへ誰の物かも分らない携帯に電話が掛か
ってくる。スピーカー通話で全員に聞こえるようにして電話を取ると、田島の口から、阿部は殺
せたか?という質問が飛び出す。疑心暗鬼になる五人。栄口と西広イ`

(三行改行お願いします)
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張り詰めた空気の中、長め茶髪の男が口を開いた。
「…なんかさあ、変な事言ってた、よな。殺すって、なあ?」
上ずった声。目が血走っている。口調は軽いが、隠し切れない疑心と恐怖が伝わってきて、此方
まで引きずられそうになる。彼はなおも続ける。
「誰が誰だかわからないんだしさあ!電話の人の言うこと聞かなくても別にいいんじゃない!?
なっ、そうだろ!」
俺達は答えない。…答えられない。
「あんなワケわかんない奴よりさあ、今はここから出るのが先決じゃん!?争っててもいいこと
ないよ!」
黙っていた黒髪の男が口を開く。
「…ハッ、てめえは単に殺されたくないだけなんだろ?そこまでビビッてるってことはもしかし
てお前が「阿部」なんじゃねえの?本当は記憶もあって誰が誰だかもわかってんだろ!?」
まずい。俺は何とかこいつらを止めようして声を掛けるも、奴らは話を聞こうとしない。
二人はなおもヒートアップしていく。
「うっぜえな!俺はただ皆で協力し合ってここを出るほうがいいって言ってるだけだろ!大体俺
は記憶なんかないって言ってんだろ!?」
「じゃあなんでお前そんなさっきから必死なんだろうなあ?自分が「阿部」だってばれたら殺さ
れるからだろうが!」
「違うって言ってんだろが!!人の話聞け、このボケ!!!!」
茶髪のほうが置いてあった包丁に飛びつく。一泊遅れて黒髪のほうも包丁に飛びついた。
二人が包丁を取り合って乱闘を始めたせいで、話を聞いていただけの俺たち三人は完全に蚊帳の
外だった。止めるにも包丁を振り回していて止められないし、もう一方のほうを止めようとする
も振り向きざまに蚊を払うような雑っぽい仕草で殴られた。ふんわりした明るめの茶髪の男が涙
目で倒れこんだ俺を支えようとしたが、勢いがあったせいで俺達は二人で無様に床に沈んだ。