>>436 「阿部が豆腐の角に頭ぶつけて記憶喪失だって!?」
「マジで!?」
嘘のような本当の話。なぜなら豆腐は冷凍してあったのだ。
3階の音楽室からなぜ冷凍豆腐が降ってきたのかはわからない。誰かの陰謀だったのか。
だけど、オレはそんなことよりも今の阿部君のことが心配でたまらなかった。
***
誰もいない病室。
精密検査でも特に異常がなかった阿部君は、本日付で退院することになっていた。
身支度があるからとオレは早めにお見舞いへ行くと、珍しく阿部君は起きていてオレに久しぶりの笑顔を見せてくれた。
「よぅ!」
「アッ 阿部君・・・もう へーき な の?」
「ああ、まだあまり思いだせねーけどな」
「・・・うん」
「ただ、毎日来てくれるお前が誰なのかわからねぇのがな・・・申し訳ないっつーか」
「オッ オレは!」
バッテリーなんだ。その言葉が何故か出てこなかった。
そのとき、お見舞い品のなかに男前豆腐のパックがあるのが目に入った。
(これは・・・凶器だ!)
誰の仕業かしらないが、阿部君の目に触れさせるわけにはいかないとおもった。
「ん?今なにか隠したか?」
「あ いや・・・なんでも」
「なんだよ?隠しごとすんなよ!・・・よくわからねーけど、お前はオレの友達かなにかなんだろ?」
「ちっ ちがうよ!! トウフ・・・」
「夫婦?」
「え・・・」
「なんだよオレたち夫婦だったのか!それで合点がいった」
思いっきり誤解をしてしまった阿部君に、オレは敢えて本当のことを言おうとは思わなかった。
それで阿部君の心の傷が少しでも癒えるのなら・・・オレはトウフでもいいと思った。