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711黒い犬
※アベチヨではない。グロ注意。暴力注意。精神異常注意。

蝉が耳障りだと感じるようになったのは、あの二人の話を立ち聞きしてしまってからか。

 ***

大型で非常に強い台風19号は、相模湾から上陸し東北東へと向かっていた。
昼過ぎに発令された暴風警報によって午後の部活動は中止され、部員達は自宅待機を命じられた。
「まったく、秋大前だってのについてないよなー」
「ああ」
肩を落としてぼやく花井に、オレは気のない返事をした。
秋大とか、甲子園とか、そんなものはもうどうでもよかった。


PM 4:10

鞄を傘代わりにしてオレは部室へと向かった。
暴風に混じって降り出した雨は小雨だったが、ビニール傘の一本でもあれば幾分かマシだと思ったからだ。
ドアを開いて無作法に上がり込み、共有の傘立てを漁っていると、後からもう一人やってきた。
「三橋も傘借りにきたの?」
「う おっ 水谷・・・君?」
「違う? 知ってるとは思うけど、今日は部活休みだよ」
「でで でも、オッ オレ 阿部君と・・・待ち合わせ」
その名前を聞くだけで、肌に乾いた電流が走るのがわかった。
一瞬で自分の中の良心がどす黒いものに変わっていく。妬ましくて憎らしくてたまらない。
あの日、偶然あの二人の会話に立ち会わなければ、こんな感情を抱くこともなかったのかと思うと自分の間の悪さも腹立たしい。
「阿部ならもう帰ったんじゃない? 篠岡と」
「・・・えっ」
微かに三橋の顔色が変わるのがわかった。自分以外にもこういう感情を持つ奴がいたなんて少し嬉しい。
もっともっと黒く染まってくれと思う。
「待ってろって言われたの? 担がれたんだ? 可哀想に」