俺ら「マイネームイズ ザーメン!!!」

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487君=花
「じゃあ、オレは帰るからさ。お前ももう帰れよ」
一刻も早くこの場を立ち去りたい。
「ま、待って。オレも…っ」
凍りついたままだった三橋が慌てて荷物を取りに戻ろうとする。阿部は返事をせずに、踵を返した。
「阿部く……っ」
悲痛な声に戻りたくなるのを堪えて、先へ進もうと足を運ぶ。
振り返るな、立ち止まるな。
「待って…っ!」
荷物を諦めて、とにかく阿部を引き留めようとしたのだろう。ガタガタと他の机にぶつかりながら三橋が走る。
扉を潜ろうとした阿部の肩をきつく掴んで引き留める。

「阿部君っ」
シャツごしの体温が甘く阿部を呪縛する。払いのけて、立ち去らなくてはいけないのに、動けない。
「………離せ」
じわりと広がる熱が、体の裡の熱と連動しそうだった。
掌に爪を立てて、抱き寄せたいと望む腕に歯止めをかける。
必死で堪える阿部の心を知らない三橋は、とうとう本格的に泣き出し始めていた。
「ど、して。どうして? オレ、なんかした?」
バカだから、言ってくれないと分からないよ。嗚咽混じりの声で、絞り出すように言う。
強ばった阿部の背中に顔を埋めるようにして、泣きじゃくる。
背中に感じる熱い雫と吐息が、どれだけ自分を煽っているかなんて気づいていないのだ。
「ばか。ホント、ばか」
三橋も、そして自分も。
阿部は鞄を乱暴に床に投げ落とすと、背中にしがみつく三橋の体を引き寄せた。体を捻って、正面から抱きしめる。
涙でぐちゃぐちゃの顔を見ても、好きで。
「これで最後にするから」