俺「み!は!し!の!しお!」

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33しょうが焼き・おかわり



四日目。

陽も落ちかけてきた頃。店から拝借したLサイズのセーラー服を三橋に渡す。紺のセーラー襟に白のライン、赤のスカーフの女子用セーラーだ。
飲食費、滞在費、衣装代もろもろ最低五万は欲しいと告げると、三橋はわかったと言って部屋を出て行った。少ししてオレも後を追う。
引き渡し先の決まった商品でもあるので、あまり無理をされても困る。その辺りを上手く見極めて残りの数日使ってやれば、楽して小銭が手に入るだろう。

繁華街の裏路地で三橋の足は止まる。どうやらここで商売を始めるつもりらしい。
トルコ風呂やヘルスといった風俗店が軒並揃ったまばらな通り。三橋は店から出てきたばかりの中年を狙って声を掛け、何やら交渉を始め出した。
関係無いと割り切ったつもりだったが、売春に慣れた様子の三橋を見てどこか寂しく感じてしまった。
本当に三橋は三橋でなくなっていたのだ。オレ以上に汚れた一面を持つようになるまで、三橋はどれだけの辛い目に遭ってきたのだろう。
思考を振り切るように頭を振った。中年に肩を抱かれた三橋が休憩所の入り口へと消える。変わってしまったものは仕方ない。
オレは三橋を利用すると決めたのだ。決めた以上はそれを貫く。迷っても遅い。もう光輝くホームには戻れない。


五日目。

四日目の日付けが変わる頃になっても、三橋は帰って来なかった。夜は戻れと言ったのだが、しつこい客にでも当たってしまったのだろうか。
いつになるかわからない帰りを待っているのもあれなので、玄関の鍵だけ外して布団に潜る。今日はあの悲しげな豚の鳴き声を聞かなくて済む。

夜中にふと目が覚めて起き上がる。携帯を見るとまだ四時前だ。寝直そうと思ったが、三橋が帰ってきていないことに気付く。いくらなんでもこの時間は遅すぎる。
仕方ないので探しに出掛ける。夕方訪れた路地、ホテル近辺、コンビニ……どこを回っても三橋の姿は見えない。一体どうしたのだろうか。
まさか逃げ出したのではと考えた時、明け方の住宅街にはふさわしくない賑やかな喧騒を聞いた。公園の方からであった。
いつもなら気にも留めないが、今日に限って足が声のする方に向かっていく。
そこでは十代後半と見られる不良グループが、何故か砂場を囲むようにしていた。罵声、哄笑、狂ったかのような叫び、まるで猿山にいるようだ。
帰ろう、そう思い踵を返した瞬間、男の一人がこう言った。

「男のくせにセーラー服とかキメえんだよ!」