三橋「も、もしもーし・・・もしも、し?」

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610しょうが焼き・おかわり


一日目。

依頼人から三橋を引き取ると、早速近くのラブホテルに駆け込んだ。
久しぶりに見る旧友の姿は、以前にも増して頼りなかった。やつれた頬、力のない双眸、筋肉の削げた身体に残る凌辱の痕跡。脅えたように震える指先、肩も、全てが痛々しい。
三橋の近くにいると酷い臭いがする。豚小屋に監禁されていたから仕方ないのだが、隣にいると思わず鼻を摘んでしまう程のものだ。
シャワールームに押し込め、こびりついた汚れや臭いを落とす作業に費やすこと一時間半。擦りすぎて真っ赤になった腕を労りつつ、三橋は小さく頭を下げた。

チェックアウトを済ませると一度マンションに帰って三橋を残し、報告に店へ向かう。
ペットの処理を内密に請け負う店も、表沙汰では一応健全な風俗店。裏で何を働こうが、揉み消せるだけの権威を持った人物が統括をしている。
その人物こそ上司であり、この世界に生きるオレが敬いを忘れてはならない存在だ。
いつものように端金をピンハネする事もなく、依頼人から受け取った金額全てを献上した。口座間での遣り取りだと、銀行側に不審がられる事があるらしく、この手の支払いは基本キャッシュになる。
男は紙束を数えながら、ペットについて尋ねてきた。常ならこの場でペットの身柄を男に引き渡すことになる。しかし、今回はあの三橋だ。
腐った商売に足を突っ込んだとは言え、昔の仲間を売るほど落ちぶれてはない。ちゃんと逃がしてやるつもりだ。
何故か男のお気に入りでもあるオレは、今までに何度か女を逃がしてきている。勿論、身に降りかかった災難を、他言無用にすると約束を取り付けた上で。
だからこそ、今回も楽に逃がせると思っていた。万が一何か言われたって、成人した男の“ペット”に値段がつく筈が無い。
確信し、包み隠さず正直に話した。今考えるとそれが間違いだったのだろう。

「豚小屋の男、ねえ……。気に入った、連れて来い」

まさか聞き間違えたかと思ったが、達しは変わらなかった。是が非でも連れて来い、来なければお前の処分も有り得ると。
無い脳味噌をフル稼働し、あの手この手の言い訳をした。
豚糞の悪臭がする、トカゲの皮をひん剥いて出来た顔をしている。
けれど、男の考えは変わらない。まさかゲデモノ好きのケがあったとは迂濶だった。

結局、オレに出来たのは期日を一週間引き伸ばすことだけ。
それまでに“ペット”の身なりを整え連れて来なければ、我が身の安全の保証出来なくなる。