なんでこいつエプロンつけてねえんだと顔をしかめた所で三橋がびくぅっと肩を跳ねさせた。
「ご、ご飯……」
「あ、ああ食うけど」
そっか、作り終わったからもう外しちまったってことか。
「オ、オレ、荷物部屋置いてくる、から……手、あ、洗ってきて」
「おおサンキュー」
エプロンしてないのにはがっかりだけどなんだよ意外に気がきくじゃん。
三橋も新しい生活に張り切ってんだなと思うとオレもオレで顔がにやつく。
ぱたぱた今度は小走りに駆けてく三橋の背中を見送り、靴を脱ぐ。
つい昨日越してきたばっかの部屋だからまだあちこちに荷解きできてない箱がある。
週末ぐらいにはなんとかしてーなと考えながら洗面所に向かって、真っ先に二本並んだ歯ブラシが目に入った。
一緒に暮らすって、こういうことなんだよな。
鏡を見たら締まりのない顔をした自分が映っていた。
やべー三橋にこの顔は見せらんねえだろ。
手を洗ってから鏡を見てぐっと眉間のあたりに力をいれているとふいに端のほうに三橋の姿がちらついた。
「あ、わりぃ、すぐ行くから」
「あ、あの、ち、ちがくて」
「なに?」
なにか言いたいことがある時、三橋はすんなりとそれを口には出せない。
出せないというより出さないっつーか、染み付いた性格みたいなもんだからなかなか変わるのも難しいんだろう。
で、オレがそれを待てるのかというと、いまだにそれも無理。
勝率が少しあがったくらいで、これもまあ結局は性格だからそうそう変えらんねえ。
「あ、あの」