金玉「いいこと思いついた。俺の中に酢飯詰めろ」

このエントリーをはてなブックマークに追加
352fusianasan
あれから何年か経って、オレらは別々の道を進んでいた。
阿部君との付き合いはまだ続いている。その日も近況報告もかね、飲みに行く約束があった。
待ち合わせの場所は地元からふたつみっつ離れた駅。オレは約束の時間より少し早く着いた。
それがまさかあんなことになるとは、この時はまだ夢にも思ってなかった。

結果から言うと、オレはこの日阿部君に会えなかった。約束の場所に現れた数人の男に連れて行かれたからだ。
彼らが言うに、阿部君は莫大な借金をし、そのまま返さず逃げ回っているらしい。だから困っているのだ、と。
阿部君は約束を取りつける時、「話したいことがある」と言っていた。このことだったのだろうか。
オレはなんだか悲しくなって、けれども阿部君を恨む気持ちは少しもわかなかった。
彼に頼られるのは純粋に嬉しい。けれど、話がややこしくなる前にどうして相談してくれなかったのか。それが少し引っ掛かって、胸の内側がもやもやしたのだ。
オレの気持ちは既に決まっている。阿部君の助けになるなら、保証人にでもなんでもなろう。阿部君は無茶してお金を使う人間ではないし、何か理由があったに違いない。
巻き舌で話す彼らの説明は、ちっとも耳に入ってこなかった。目で追ってしまうのは時計の針先。ここに来て、まだ阿部君に連絡を入れてないのが気掛かりだった。
オレは阿部君が一人で駅にいる姿を想像して申し訳なくなった。早く話を終りにして連絡しなければ。そう、気持ちばかり焦る。
出された書類にロクに目も通さずサインをした。ああいう、強気な口調に弱い自分はあの頃となんら変わってない。

阿部君はこの事を知ったら笑うだろうか。

オレが借金の担保になってしまったなんて――……知ったらきっと怒鳴り散らして、一番にオレを怒るのだろう。
それが誰の所為じゃなかったとしても。