ぬるぬるが とれない。
パンツの内側、合わせ目、真ん中にボタンがいっこついてる。
布と布が重なって、厚くなったとこ。そこ、中心にしてよごれた。
お母さんに気付かれないようにおきだして、
お風呂場で洗面器に水はって、パンツをひっくり返す。
じゃぼん。
オレンジ色の光で明るく照らされたおふろ。大きく響いた音は、
オレの頭の中でじゃぼんじゃぼんじゃぼんじゃぼんじゃぼんって、
何かのドラマ、作り物、みたいに、くりかえして響いた。
指がしびれる。
頭もしびれる。
布から落ちたぬるぬるが、オレの指に、手のひらに、手首に、肘に、
二の腕に、肩に、首筋に、あごに、くちびるに、鼻の下のくぼんだとこに、
ほっぺたに、まぶたに、まゆげに、こめかみに、あたまの、てっぺんに、
はいあがってからみついて取れない。
洗面器の中で、千切れたボタンがぷかりと浮かんだ。
人差し指と親指でつまんで、パンツと一緒に洗面所のゴミ箱に捨てた。
***
生ぬるく体温の残ったベッドへ戻る。
シーツもタオルケットもぐちゃぐちゃだ。
キレイ好きじゃなくって、よかった。
もとから、オレ、ぐちゃぐちゃで、よかった。
誰にも気付かれたくない。
お母さん、には、とくに。