阿部「なあ俺のこのスネ毛どう思う?」

このエントリーをはてなブックマークに追加
556君=花
三橋は何も悪くないのに、滅茶苦茶にしてやりたくなる。
あの女よりもずっと好きなんだと、分からせてやろうか。白い肌に歯を立てて、思うままにしてやろうか。
そんな凶暴な気持ちが身の裡を暴れ回る。
吐き気がしそうなほど醜悪で、貪欲な欲望。手負いの獣のような、追いつめられた光が阿部の目に宿った。

あと一歩、近づいたら。

押さえられなくなる。引き倒して、暴れてもねじ伏せて、三橋を壊してしまう。
だから、頼むから……近づかないでくれ。  
「くるな!」
空気がびりびりと震えた。腹の底から出した声は大きくて、三橋の足が止まった。
「あべく……?」
「それ以上、近づくな」
お前を壊したくないんだよ、とは言えないけれど。
「どうし……」
「もう、帰れ」

問いかけを無視して、吐き捨てる様に言うと、壊れた人形のように三橋が動きを止めた。信じられないと、大きく瞳が見開かれる。
「だって、べんきょ…」
「あと一日くらい、自分で出来るだろ」
「……う…ぅ…」
三橋は小さく呻いた。見ている間に大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ始めた。透明で大粒の涙は綺麗で、切ない。
「だ、だって…み、みてくれる、って、言った」
「……………こんだけ遅くなったら、帰るだろ。フツー」
「鞄、あった、し…」
戻ってくるって言ったから。

まっすぐな三橋の言葉に、胸が突かれる。顔を合わせたくないのなら、携帯でメールしておけば良かったのだ。失敗した、と顔を歪める。
「それでも!投手のくせに肩冷やしてどうすんだ。遅くなったときはメモでも残して帰っていいんだよ!」
自分でも無理なことを言っていると思う。そんな器用なことが出来る相手じゃないと、分かっている。