三橋「こら、カツオ!」

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休みの日、俺は後輩の三橋をちょくちょく食い放題に連れて行ってやる。
三橋は文化部ASK/M部の俺とは違い、運動部、それも野球部のエースだ。聞いた話じゃ甲子園も目指してるらしい。
ちなみにASK/M部ってーのは、俺が一年の時立ち上げた「A アニメ S 総合 K 研究 /M(萌え)」の略。
部員は俺とダブリの3年の二人だけ。寂しいと言えなくもないが、虚しい気持ちのほうが強いのでまあ、寂しくない。
なんつっても、俺には何十人ものアニメっ娘ととっておきの三橋がいるからな!学校生活は順風満帆といって差し支えない。
・・・学業以外は。3年のダブり先輩(AS・・・省略 部としては俺のが先輩だけどま、一応な)はAS略 部もとい
アニメに熱中しすぎてダブっちまった過去があるわけで・・・。俺も気をつけねーと。ま、それはそれとしてだ。
「ム フフ〜〜フ〜〜」
何の歌かは知らないが、機嫌よさそうな三橋の声。今から俺の驕りで食い放題に行こうてんだから当たり前か。
「おーい、三橋ィ!今日は食いすぎんなよ〜」
俺は前回の失敗を思い出し、三橋にさりげなく釘を刺す。
「あっ、ま、前は ゴメンナサイ・・・俺」
「ったくよお。いくらスポーツマンだからってな、腹壊しちゃ意味ねーっぺ!
俺カンベンだかんなまたあの怖えーねーちゃん監督に怒られんの!!」
三橋は先々週の休みに回転寿司連れてってやったら、よしゃいいのに意地んなって食いまくってさ。
俺の胃袋はブラックホールだって知ってるくせに対抗意識なんか燃しやがって。まあ、そういうとこ好きだけど!
「ごめん ね 今日は 俺 気をつけます・・・ゲン ミツに」
(ゲンミツの使い方相変わらず直んねーなあ・・・)
俺は呆れながらも、約束だぞ!と言って、三橋の手をぎゅっとして揺すった。
「や くそく!」
返ってきた三橋の朗らかな顔を見ると、少しくらいならハメ外してもいいか・・・なんて甘いこと思っちまった。

俺君が店のドアを開けると、旨そうな肉の臭いがむわっと漂ってきた。勝手によだれが出ちゃう。これ、ハンシャ だ!
「ひゃー腹へったなあ・・・好きなだけ食えよ!三橋」
俺君がにっと笑う。俺君はいつも食べほーだいの時好きなだけ食えって言ってくれるんだ。今日は、前のこともあるし
さっきも怒られちゃったから、言ってくれないかなって思ってたけど、言ってくれた!嬉しくて、にやにやしてしまう。
でも、やっぱり今日は気をつけなくちゃ、だよね・・・。
「二名様ご案内いたしまーす」
店員のお姉さんについて案内されたのは、店の奥の席だった。今日のお店は、お昼時だからかお客がいっぱいいる。
「ステーキ長いこと食ってねえや!」
俺君は舌をじゅるっと言わせて、メニューを見てる。俺もさっきからメニューに釘付け。
メニューの写真はみんな旨そうに見えて、俺は勉強でもないのにうんうん唸ってしまう。
「お前な〜!頭使うのは勉強だけにしろよなぁ・・・あ、それと野球」
あんまり悩んでたら俺君に呆れられちゃった。俺君は何にするんだろう。
「俺?俺は、ビーフポークチキンミックスにする。あとビー・・・じゃないや、ドリンクバー。」
「オレ、オレは えっと 目玉焼き 乗ったの おいしそ でも エビフライ付の やつも・・・あとコロッケ・・・うう」
エビフライと、目玉焼きと、ハンバーグと、コロッケが頭んなかぐるぐるしてる。
「三橋は本当に欲張りだなあ。今度は全部いっぺんに食える店連れてってやる。エビフライも、目玉焼きも・・・」
ほ、ほんと!?オレは思わずメニューを放っぽりだして叫んでしまった。俺君は色んな店を知っててスゴイ!
一瞬次行く店に気持ちが飛んじゃったオレは、ぶんぶん首を振ってメニューを見直した。
「う・・・と、やっぱり目玉焼きのやつ」
ものすごい勇気を出して、残りのメニューを捨てた。マウンドで首振るのよりも勇気がいった。
「目玉焼きな。おっしゃ。すいませーん注文ーーーーーー」
俺君がおっきな声で呼ぶと、丁度料理を他のテーブルに運び終わったお姉さんがにっこり近づいてきた。
「ビーフポークチキンミックスにハンバーグステーキ目玉焼き乗せ、あとドリンクバー」
ああ、料理が決まっちゃう。コロッケ・・・エビフライ・・・
「と、エビフライにコロッケ、単品で」
ぎょっとして顔を上げると、俺君がパチリと目配せした。オレはもう感動して、お姉さんが注文を繰り返してるのに大きな声で
「あ あ りがとう!!!」って叫んじゃった。そのせいで、お姉さんは注文を二回繰り返すことになってしまった。
「あんな悩まなくても、単品OKってちゃんと書いてあるっての!」
そう言って俺君はぷっと吹き出した。「お前って、本当に飯には盲目だよなあ!」
モウモク?てどういう意味だったっけ。良く分からないけど、いいことなのかな。
「な!三橋。お前のと俺の、あとで訳あいっこしよーぜ」
「う、うん!」
嬉しい提案にオレの顔はにっこにこになる。それを見て俺君が「小学生みてえ!」とお腹を抱えた。
「三橋、喉渇いたろ。飲みもんとってきてやるよ。リクエストどーぞ」
「あ、オレ オレンジジュース」
「オレンジジュースな!ちっと待ってろよ!あ、俺が取りに言ってる間に肉来ても勝手に食うなよ」
「し ないよ!」
俺君が行ってしまうと、一人残されたオレはすることもないのでメニューを眺めて過ごした。

ここまで