世の中に自分と同じ顔の人が三人はいるって聞いたことがある。
でも、あの時おれが見てしまったのは、紛れもなく自分だった。
そっくりとかそういうんじゃない。あれは確かに自分だった。
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阿部君とそういう関係になり始めてから、もう一ヶ月が経つ。
恋人同士って言っても、男同士だから何をすればいいのかまだよく分からない。
だからおれと阿部君は今まで通り、フツウのバッテリーの関係だ。
チューすらしたことなくて、おれはちょっとだけ物足りなかったけど、
何か余計な事をして嫌われたくなかったからずっと黙っていた。
そんなある日の事だった。
「ひあっ!阿部君っ、何?」
一緒に勉強している最中、阿部君が急にシャーペンを置き、おれの上にのしかかってきた。
それだけじゃない。シャツの裾から手を突っ込んで、お腹の辺りを撫で回し始めた。
びっくりして、思わず阿部君の腕を払いのけると、阿部君は怒って顔を顰めた。
「何だよ。今日しようって言ったのはお前だろ?」
「え?」
おれ達、まだチューもしてないのに。
そんなコト言うはずない。
「お おれ そんなこと言って ない よ。こんなコト いきなり…」
「いきなりって…もう5回目だろ?」
「5回!?阿部君 それってもしかして べ、別の人と?」
反射的にそう言うと、阿部君に頭をパシッと叩かれた。
「バカか。お前とだよ」