阿部「1000なら月刊ミハシヌーン発売! 」

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714怠惰の雨音
捻ったところで、ドアは開かない。
青年はそれが、歯痒くてしようがなかった。
「もうすぐ、夏の大会が始まる。オレの学校、桐青って、埼玉で一番強いとこと当たって」
弱々しくなっていく語尾に、負けることの辛さ、怖さが伝わってくる。
「でも、負けたくない。オレ、負けない!」
少年は、泣くことをやめて、力強く言ってみせた。
青年は心の中で、それでいいんだと、呟く。
やがて、声が聞こえなくなった。
少しして、靴を履いたのだろう、少年の足音が耳に入った。
その足音が、遠ざかっていく。
カンカンと階段を降りる音が聞こえて。
そして、音は消えた。
青年は、ドアに背中をつけて、そのままずるずると座り込んだ。
今更、溢れ出す涙。
青年は拭うこともせずに、ただ涙を流し続けた。
試合を見に来てほしい。応援に来てほしい。そう言いはしなかった。
だが、心の中では、そう思っていたに違いない。
言わなかったのは、言えば更に青年を苦しめると思ったからだろう。
そんな葛藤の中、少年はあのような言い方しかできなかった。
それがわかって、また涙が溢れる。
泣くことしかできない自分が、少年に対してあんなことしかできない自分が、情けない。