見知らぬその男について行ったのは、僅かながらの希望にも縋りつきたいという一心だった。
卒業して以来、探しても探しても見つからなかった三橋の手がかりが3年ぶりに掴めた。
それだけでついて行くには十分な理由だ。
週末の夜の繁華街。雨が黒い線のようにコンクリートへと落ちる。
雨は数日前から降ったり止んだりを繰り返し、地面にいくつも水溜りを作っていた。
水がズボンの裾に染みを作る。重い足を引きずって家路を急ぐオレにその男は迷いのない足取りで近づいてきた。
キャッチの一種かと煩わしく思った瞬間、男はオレの名を確認し、すぐさま三橋の名を出した。
意表をつかれ、オレは暫し男が言ったことが理解できなかった。
足を止める。透明のビニール傘越しに横目でしか見なかった男を今一度見る。
男は上品に口元を上げ、笑った。オレの心を見透かした。
オレは誘われるまま男の車に乗り込んだ。
三橋は、卒業式の日に失踪していた。
理由はわからない。
進学先も、そのための新居も決まってた。
それなのに、卒業の式の後、これから野球部で打ち上げをしようとする前に一旦家に戻ろうとした道すがら、忽然と姿を消した。
三橋のおじさんもおばさんも探した。オレら野球部も探した。警察も動いた。
けれど、結局なにも掴めずに無情に月日だけが流れ、三橋の存在だけがそれに乗れずにオレの中にあり続けた。
車が長い間走ることはなかった。
繁華街から少し外れた薄汚いビルの中へと案内される。オレは男の後を無言でついて行った。
裏口のような所から入り込み、黴臭い階段を下りた。
ここに来るまでに土砂降りになった雨音が聞こえないほど地下へともぐる。
「どうぞ。お入りください」
男が、ゆっくりと扉を開いた。