阿部「三橋君、ちょっとさ、履いてみない?」

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*死ネタやらグロやらがオブラートに包まれている可能性があります。苦手な人はご注意ください。

ぷかぷか
プールの中で力を抜いて空を見上げる。瞼を閉じると、強い光が血を透かして視界が赤く見える。
「三橋ー!!」
突然俺の真下から田島君が背中を押し上げてきた。急なことで溺れそうになったが、手足をばた
つかせる俺をハマちゃんがぐいっと腕を掴んで引き上げてくれた。横で田島君が泉君に怒られて
いる。
先生のホイッスルが響き、水泳の授業が終わる。体を拭いたのにシャツがベタベタ肌に張り付く
のが気持ち悪い。裸足のまま上履きを引っ掛けて、塩素の匂いをまとった俺達は途中自販機でジ
ュースを買いつつ教室に向かう。プールのあとの独特な気だるい雰囲気が教室に漂っている。
夏だなあと思う。
そろそろ甲子園が始まる時期だ。早く投げたい。皆と野球したい。そう思うとうずうずしてきて
、始まったばかりの授業が早く終わらないかとチラチラと時計を見た。
生物の授業は退屈だった。聞こえてくる先生の声はまるでどこか別の国の言葉か、もしくは子守
唄のようだった。
耳に流れ込んでくる言葉を脳が自動で翻訳する。脳は全て電気信号によって物事を判断している
らしい。目から入ってきた光は視神経を刺激して、脳へと電気信号が何とかかんとか。
テストに出ると言われても、野球で頭がいっぱいな俺の脳には野球以外を入れるスペースなんて
ない。
授業が終わると、俺達はいち早く教室から飛び出してグラウンドへ向かう。
今日も練習。阿部君に投げる。毎日が楽しくて仕方がない。三星に居たころはこんなにも日々が
楽しいなんて思わなかった。
優しい部活仲間と過ごす毎日。サインを出してくれる阿部君。そしてエースとして認められてい
る。まるで夢のような日々だ。
俺は幸せだ。
今日も部活が終わって家に帰り、ご飯を食べてお風呂に入る。
体の力を抜いて湯船に浮かぶ。
明日もまた「皆で」野球が出来る。
俺は幸せだ。

ぷかぷか