渡り鳥のように、俺と三橋はサハリンへ戻ってきた。
数多くの追っ手を、或いは撒き、或いは打ち倒し、俺たちは生き延びてきた。
そして、そんな生活に、俺たちは倦んでいた。
漁船「転覆丸」――タラバガニ漁に使われる、この小さな漁船を、俺は買い取った。
どんなへき地であれ、スイスフランの効果は絶大だ。
「この船で稚内へ行くんだ」
当面の旅費の入った鞄を受け取った三橋は、怪訝な表情を返す。
「オレさん、は?」
「俺は残る。奴らの狙いは俺だ。俺と離れてこの国を離れれば、お前に危険はない」
「い、いや だっ」
抱きついてくる三橋の体を優しく引き離し、俺はその小さな体を船へ押しやる。
「do svidanya,mihashi」
埠頭に急停車する三台の黒い車。追っ手だ。
俺は懐から拳銃を取り出すと、漁船の船長に行けと叫んだ。
「カリンカ!」
「モルダウ!」
「コサック!」
うるさい連中だ。俺は躊躇いなく引鉄を引いて、奴らを永遠に黙らせる。
そのとき、俺は足を滑らせて転倒した。転覆丸の前で転がるとはジョークにも程がある。
「ツンドラ!」
「ツンデレ!」
「スナオクール!」
二人ほどニセのロシア人がいるが、そんなことはいい。連中の銃口が俺を捉える。
これで終わりか――観念して目を閉じた時、連中が悲鳴をあげた。
「こ、硬球は、当たると痛いんだ、よ」
船から戻ってきた三橋が、何処に隠し持っていたのか硬球を投げつけて敵を打ち倒したのだった。
「オ、オレさんは、オレがいないと、ダメだよ、ね」
そういってお世辞にも可愛いとはいえない笑顔を向ける。
俺はその頭を撫でて、引き寄せる。
そして、俺――オレクセイ・ミハシノフは、三橋廉と共に極東の島国へ渡ったのだった。