泣きそうになっている少年を見れば、胸が痛んだ。
自分の本意とは正反対の言葉が、口から出てくる。
「それに俺は、最初からお前のことなんかどうでもよかったんだよ」
そう。最初はただの興味からだった。
だが、今は違う。
なのに、青年はさも今もただの興味本位だと思わせるような言い方をした。
「ひ、どい……」
少年の瞳から、涙が零れ落ちる。
(そうだ。それで)
青年は、わざと足音を大きくして、少年に近付いた。
そのまま強く背中を押し、玄関まで連れていく。
そのままドアを開いて、転ばないようなように加減をして、外に突き飛ばした。
少年の体がよろめいて、バランスを取ろうと小さく右往左往した。
支えようと伸びそうになる手を抑えて、青年は少年の靴を外に放る。
何とか態勢を立て直して、少年が振り返った。
転倒しなかったことに安心する青年。だがそのことを悟られまいと下を向き、ドアを閉めた。
鍵をかける音が、嫌に耳に残る。
「嘘、だ。こんなのオレ、いや、だ……」
ドアのすぐそばで、声が聞こえる。
「オレの野球、見てもらいたかった、のに」
青年がハッとして、振り返る。
思わず掴んだドアノブ。しかし、捻ることはしなかった。