三橋「あべくん おっきくなった!」

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535怠惰の雨音
 少年へ伸ばそうとしていていた手が、凍りついたように固まる。
 自分は、逃げてきた。
 人と関わるのを避け、誰かと接するのを拒絶してきた。
 少年にも、同じ思いをさせてはいけない。
 一緒にいれば、いずれは互いに依存しすぎて、共倒れになってしまう。
 少年の未来を壊す権利は、自分にはない。
 青年は、その手を戻す。
「…………もう、ここには来るな」
「う、え……?」
「こっ、ここには来るなって、言ってんだよ!」
 普段叫んだりしないせいか、声が震える。
 言ったらどうなるかも、わかっている。
 突然のことにきょとんとしていた少年も、次第に顔を曇らせていく。
「なんで……?」
「これまでは、お前は嫌なことがあったら、ここにくるだけだった」
 手が汗ばんでいる。
 急に声を荒げたせいか、体が熱くて仕方がない。
「なのに、今はそれもなしに来ちまってる」
「だって、それは……」
「こんなとこ来ちゃ駄目なんだよ。お前は、俺みたいになっちゃいけない」
「いや、だ! オレ、好きだから、もっといっぱい一緒にいた、い!!」
 少年が反論する。
 せっかく、思いが叶ったというのに。
 少年は、青年の変わりように、困惑していた。