あべくん、阿部君、はどこだろう。
もしかしたら今入ってきたのがそうなんだろうか。
目も見えない、手も足も動かない。
ただ音だけが聞こえる中でオレはじっと誰かの気配を伺った。
自分がこんな状態になっていることに戸惑いや混乱、怯えはあったけど、なんとなく、まだ本当のところで、まだ大丈夫、なんて思ってた。
これはもしかしたら阿部君の悪ふざけで、今部屋に入ってきたのも阿部君で、そいで縄も目隠しもとってもらえる。
「……う、んぐ」
阿部君、と呼び掛けることもできない。
気配が近付いてくる。
一歩一歩、ゆっくりとした動き。
じわじわしたものを音と気配だけで感じながら、ふと気付いた。
みっともないカッコしたオレを見ても驚いた様子がない。
じゃあ、この人がオレ、を。
気配はもうすぐそこだった。
いやだ、こわい、にげたい。
ここまできてやっと本格的に、自分が危ない状態なんだってことがわかった。
なに、されるんだ、オレ。
誰、オレを縛って、今すぐそばにいる、のは。
「んぐぅっ」
見えないオレには感覚でしかわからなかった。
口を塞いでいたまるっこいなにかがぐっと掴まれて引き抜かれる。
唾液のぬるぬるした感触が唇から顎、首筋にまで垂れていく。