彼はとても完璧な人だ。頭がよくって堂々としていて、球も速い。俺と違って友達もたくさんい
て、皆から好かれている。
そして彼は俺みたいなおどおどとしている嫌な奴にも優しくしてくれる。俺が落ち込んでいると
きはすぐに慰めてくれる。そしていろいろな面白いお話を聞かせてくれるんだ。
俺は彼が好きだった。初めは唯の好意にすぎなかった。でも、どんなときでも俺に優しくしてく
れて、いつだって俺だけの味方でいてくれた彼をいつしか恋愛感情を持っていた。
彼と俺の間はとても近くて、とても遠い。
彼が俺のことを恋愛感情で好きだというのは気づいていた。でも彼は何にも言ってくれない。
俺はこの生ぬるい一人遊びが好きで、彼を故意に振り回すのも、彼に感情を弄ばれるのも好きだ
った。
俺は彼に夢中だ。
辛い時は彼をドア越しに探す。すると彼はすぐに俺に気づいて微笑みかける。彼の部屋はマリー
の部屋に似ている。
そして彼に目いっぱい可愛がってもらう。俺も彼に思う存分甘える。
彼には何でも言った。うれしかったこと、悲しかったこと、辛かったこと。彼は俺の下手な話を
楽しそうに、時には気遣うように聞いてくれる。そして、俺の頭を撫でてくれるのだ。
俺と彼はとてもよく似ている。でも似ているのは本質だけだ。彼のほうが絶対的に優れているか
ら、俺は彼の出来の悪い泥人形のようだった。
俺はよく彼のようになって皆と野球して、友達とおしゃべりするのを夢想する。そのことを彼に
話すたびに、彼は穏やかに笑いながら君なら出来るよ、と甘やかしてくれる。
そして俺は一頻り甘えて満足したら、彼に別れを告げる。
そしてベッドに横になって、目覚ましを確認して目を閉じる。
明日も野球をするために。